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 7日間の調査結果によって、対象の“死”が「可」か「見送り」か判断する。あくまでも感情を交えず、職業として死を司る者――死神。
 千葉という名前を与えられた、ある一人の死神の仕事風景を描いた6編の短編集。クレームに悩む女性や、仁義を尊ぶ任侠者、雪山に旅行にやってきた婦人、片思い中のブティック店員、人を刺してしまった少年、美容師の老女。それとは知らずに死に直面した人々の、それぞれの7日間が、千葉の視点で描き出されている。



 本書を語るときに外すことができない、そして最大のポイントは“千葉の視点”という部分だろう。彼はとてもクールな死神である。死はあくまでも仕事上で扱っているものに過ぎず、そこに感情を挟むことはない。
 しかしどういうわけか、彼ら死神は人間に疎い。ちょっとしたレトリックや一般的な感情など、知らなければ仕事に支障をきたしてしまうのでは、と思うようなことも知らなかったりする。なにしろ「雨男」も「雪男」も同じようなものだと思っているのだ。
 そうでなければ必要以上の感情移入をしてしまって、むしろ仕事が滞ってしまうからなのかもしれない。多少の浮世離れがあったとしても関わりがあるのは短期間なので問題はないということだろうか。
 いずれにしろ、この千葉のキャラクターがあるからこそ“死”を扱うストーリーが少しだけコミカルになっている。この味付けがなく、千葉が神の名にふさわしい万能ぶりを発揮していたら、まったく違う印象になっていただろう。
 それも含めて、今回も伊坂幸太郎の何気ない巧さを堪能できた。どうしてこの人はこんなにも何気なく見事な世界を作り上げるのだろう。



 死ぬということを考える――ことを、僕は数年前にやめた。
 初めてそれを意識したのは小学生のとき、経験のある方もいるかもしれないが、夜中に突然不安に襲われ、飛び起きたのが始まり。しかもその後、姉に「そういう風になったら、人間は人生の半分を過ぎてるんだって」などと恐ろしいことを言われてしまい、余計に怖くなった。『DRAGONQUEST ―ダイの大冒険―』の名脇役・ポップは「だから人間は閃光のように生きるのよ」とお母さんに優しく慰めてもらっていたというのに……
 どうにか当時の倍以上の年月を生き永らえ、もうすぐめでたく30歳を迎えるわけだが、その日々が有意義であったかどうかは……
 閑話休題。
 小学生だったその日以来、時折夜中にその闇に捕われることが増えた。それはなぜ訪れるのか、いつやって来るのか、その後どうなってしまうのか。ただ、いなくなってしまうだけのことに、どうしてこれほどの恐怖を感じてしまうのか。何もかもが、あまりにも未知で、とてつもなく怖かった。
 作中のある人物は言う。死ぬのは当たり前だけど、大切なことなのだと。
 そうだと思う。
 ネガティブに捕らえることしか、今の僕には到底できはしないし、何年生きても受け入れることなど決してできはしないだろうけど、それはいずれやって来る。
 当たり前のことなのだ。
 深く考えて、死という事実に感情が混じり始めると危険なので、これくらいにしておく。
 ただ、この作品を読んで思い出したのは、ふと目覚めたときの深い深い闇と息の詰まるような不安感だったということ。だから、千葉のキャラクターに救われたということ。あれくらいあっけらかんとしてくれている方が、気楽なんだろうなと思う。



 一番のお気に入りは、ひょっとしたらお気づきの方もおられるかもしれないが、『恋愛で死神』。淡々と描かれる中に、穏やかに咲く笑顔。それが輝けば輝くほど、切ない。今回はカフェ読書だったので、どうにか持ちこたえたが、家だったら泣いていた。危ない。
 『死神対老女』の見事な仕掛けにも感動した。この何気なさがニクいのだ。
 死ぬのは当たり前なのだけど、やはり人はやはり生きるものなのだ。その何でもない事実こそが、生きていく力になる。

 全編雨に包まれた話だったが、実際の世界で雨が降り始めたのは、読了して店を出ようとしたときだった。惜しい。
 映画公開の日、雨になったら映画ライターのみなさんのペンは滑らかに走ることだろう。

閉じる コメント(10)

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雨はあまり好きではないけれど、この映画が封切られる時は雨でもオツかな〜♪なんて思いますね^^好きな作品です。

2008/3/10(月) 午後 11:42 ang*1jp 返信する

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いやいや、いいお姉さんではないですか^^
喫茶店で読むのに向いている本ですよね^^

2008/3/11(火) 午前 2:14 ゆきあや 返信する

>あんごさん 読み終わったら雨になったんで、映画も雨の日に観に行く予定です。雨好きとしては。

2008/3/11(火) 午後 8:28 かとちん 返信する

>ゆきあやさん ……そのいい姉は笑ってました。
静かな作品だったので没頭するのに最適でした。

2008/3/11(火) 午後 8:29 かとちん 返信する

短編ですけど、伊坂さんらしくリンクしててよかったですね〜。

2008/3/11(火) 午後 9:12 silly 返信する

>SILLYさん そうですね。ぼんやり読んでいたので嬉しい驚きでした。

2008/3/14(金) 午後 9:19 かとちん 返信する

もの凄く完成度の高い作品だと思いました^^読んでいて、映像として頭に入ってくる作品は、そんなにあるものではありませんが、本書は素敵です♪「死」ではなく「生」をあつかった作品かと…トラバさせて下さいね♪

2008/3/19(水) 午後 1:47 たけたけ 返信する

>たけたけさん ただの短編集かと思っていたら、見事に閉じてられていたので驚きました。
なるほど、「生」を扱った作品……確かにそうかもしれませんね。映画が今から楽しみです。

2008/3/20(木) 午後 8:17 かとちん 返信する

綺麗にまとまっているのですが、あまりにも時代感がないのが気になってしまいました。それがレトリックとして生きているのではありますが。個人的には『吹雪の山荘』という本格ミステリの舞台だけを使用したヤツが好きですね。

2008/4/5(土) 午前 2:01 古本蒐集者 返信する

>iizukaさん なるほど、確かにそうかもしれません。時間などを超越して、ただ淡々と人の死を扱うだけ、という感じでしたね。『吹雪の山荘』は単純に楽しめました。死神ならでは、という感じで。

2008/4/5(土) 午後 10:40 かとちん 返信する

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