|
古道具屋を営む穏やかな父、以前は才女だった優しい母、厳格な祖母、お豆さんとしてかわいがられる末の妹、そして才気、器量何もかもが自分より上の一つ違いの妹。
そんな家族に囲まれて始まった津川麻子の人生は、中学、高校、大学、就職、そしてその先へと進んでいく。自分の居場所も、愛するものも見つけられない麻子が、流れを止めない時間の中で必死に生きていく姿を丁寧に描いた物語。
スコーレとは、スクールの語源にもなったギリシャ語らしく、そもそもの意味は真理探究のための空間的場所のことだそうだ。哲学の学問スタイルとしてのスコラ学も仲間だ。
スクールと聞けば、場所もカリキュラムも固定された学校のことだが、スコーレは空間的場所という柔軟な言葉からも分かるとおり、もっと自由なイメージ。明確な言葉で近いものを探すならば、放課後、だろうか。
決め事を与えられるだけでなく、それぞれの思いを持つ人と触れ合い、思いもかけない言葉に翻弄され、自分の立ち位置を心のあり方を学び、自らで決めていく。そういう時間で、それは環境が変わるたび、取り巻く顔ぶれが変わるたび、一生続いていく。
この物語では、麻子が身を置くことになった4つのスコーレが語られる。
麻子は一つ年下の妹、七葉を心から信頼し、誰よりも深い部分で結びついていると感じていた。周囲の人の言う「仲の良い姉妹ね」という言葉では語りきれないつながりを心強く思っていた。しかしその一方で、物怖じしない性格や可愛らしい容姿を羨み、コンプレックスを抱いていた。自信に満ちた妹の姿は、秀でた容姿に裏打ちされていると信じていた彼女は、そうではない自分には自信など芽生えるはずがないと信じた。その時点で、彼女の生き方は決まったと言っていいだろう。
日々が波打ち、日常が揺らぐことを怖れるようになった。ともかく平穏に時間が過ぎればいいと思うようになった。つまりは、臆病になったのだ。
最高の理解者である七葉を求める心、コンプレックスの源である七葉と共にありたくないと感じる思い、その狭間で麻子は打ちのめされる。
やがて彼女の中には、すべてを諦めることが自然な流れとなり、その流れは何も愛することができないという苦悩を生んだ。
恋は彼女に何も残さず去っていき、恋人とも深く愛し合うことができない。就職に際して自分の愛するべきものを見つけることもできない。ようやく手にした職場でも、仕事を愛することができない。
そのために、ただただ後ろめたさを抱えて生きていく麻子だが、3番目の舞台となる就職先での仕事をきっかけに、少しずつ変化していく。
劇的な変化があったわけでもなく、華々しく成功を収めたわけではない。ちょっとしたきっかけで、自信を持ってもいいということを知ったのだ。それは生きていても構わないと許されたに等しい力を持っていたに違いない。
地道にやってきたこと、そして備わっていた力が認められる。誰もがそうであることを望んでいる。しかし、自らの人生が報われることなど、そうそうあることではない。
麻子は確かに幸運だっただろう。彼女が仕事で力を発揮できたのは、古道具屋の娘として生まれ、父親に商品を見る目を鍛えられていたからだ。才能もあったかもしれない、それを磨いてくれる環境が与えられていたのは、幸運であったに違いない。
しかし、彼女自身が世をすねてしまわず、心を閉ざしてしまわなかったからこそ、その瞬間を導くことができたのだと思う。期待すること、願うことが、暗くて思い時間をもたらすことを何度も学習し、思い知らされた。いつもそれを警戒し、自分の手には入らないもののほうが多いと言い聞かせて生きていながら、いつか日の当たる道へと進むために、苦しくても風雨にさらされても心を闇に沈めてしまうことはしなかった。
外の世界とうまく折り合えず、時には内なる独りの時間にも違和感を覚えていたが、どうして自分ばかりがと嘆くことはしなかった。無意識なのか、それほどに余裕がなかったのか、厳格な祖母の教育によるものなのか、その根本は分からないが、安易な自己憐憫の繰り言に陥ることはなかった。
彼女は控えめに、とても静かに世界と戦っていた。その結果として晴れやかな朝を迎えることができたのだ。
どんよりとした下り坂を嫌い、どうにかして平坦な道を選ぶようになり、徐々に太陽に向かう坂道を登り始める――
何となく気になって手に取った作品だった。読み始めは文章も甘ったるく、少女の独白が続く感じだったので合わないかも知れないと思った。
しかしいつからか、彼女の人生の進む先を知りたいと思うようになった。複雑な謎があるわけでも、大きな起伏があるわけでもないが、1人の女性の時間を真摯に追っている描写に引き込まれたのだ。
大団円と呼べるほどの結末ではない。それにまだまだ彼女の人生は続いていく。何も終わってはいないから、クライマックスやハッピーエンドなどという言葉は当てはまらない。だから読了後の印象は、安心、だった。
麻子のこれからは、きっと大丈夫だ。そう思わせてくれる幕引き。なかなか得られない心地よさに、自分の本への勘に改めて自信を深めた。
|
全体表示
[ リスト ]




劇的ではないけれど静かで力づよいストーリーみたいですね^^
記事を読んでいてけっこう身につまされる部分がありました^^;アイタタタ…。「心閉閉ざさない」って大切ですよね…。逆にどんなにつらくても心を閉ざしてしまうことがなければ、時間が掛かっても完全に自分が望んだ結果でなくても…何となく道は開けるんじゃないかなぁ…と思います。(実感も含めて)
これからの彼女の長い人生に幸あれ!
2010/6/5(土) 午後 7:33
>あんごさん まさにそのとおりです。一段ずつ階段を踏みしめる感じでした。
時にはうつむいてもいいし、振り返ってもいいけど、太陽は上にあるということを忘れないのは大切なことなんだと改めて思いました。どうにかこうにか、道っていうはつながっていくものなのだ、と。
麻子は多分、大丈夫です……って、僕が言うことじゃないですけど(笑)
2010/6/6(日) 午後 1:49