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図書部。それはあまりにも働かない図書委員に業を煮やした本好きたちが、自分たちが図書館を活用するために設立された。高校三年生の望美は偉大なる先輩たちに感謝しながら、時々そんなことも忘れながら、のんびりとした高校生活を送っている。
ドラマもない。 事件ももちろん起こらない。 ただ、図書館とベニヤ板で区切られただけの狭い部室に集まって、笑ったり泣いたり怒られたりするだけの毎日。 活き活きと、というには少しのんびりふわふわ……というかダラダラと覇気のない高校生活。それだけに、やたらとリアルに浮き上がっている。物語は望美に視点をおいた3人称で描かれるが、まるで誰かの日記を覗き見しているような感覚すらある。 小さな世界での流行り文句や、ちょっとしたトピックや、彼らの中でしか通じない手柄などなど、その時計に沿う時間の中だからこそ輝くものがたくさん散りばめられている。 自分にも確かにこういう時間はあった。だけどその記憶を喚起するものは、本当に些細なことだったりする。 その“些細”の加減が実にいいのだ。 もちろん、小説である以上、作り物である(作者の経験もある程度は入ってだろうけど、当世の高校生を描く以上、時代性も盛り込む必要がある)。 だけど、あまりにもつまらないこと過ぎて(いい意味で)、ほとんど作為を感じない。どうせ小説なら、もっと大げさなことにして、そこからどんどん話を広げていけばいいのに、と思うほど。 それくらいに語られることは小さなことばかりで、それらは登場人物たちにほんの少し思い出を残しながら、ほとんど使い捨てのように忘れられていく。当たり前に明日が来れば、場面はもう次のことに移っている。目玉になりそうな文化祭なんて「3日前に終わった」とあっさりと切り捨てられる。 でも、日常はそういうものなんだと思う。 移り気で落ち着きがなくて、だけど変なことにこだわって。 高校生だった僕も、多分そうやって生きていた。 そうではなかったかも知れないけど、この小説のおかげでそうだったことになってしまった。 ぼんやりとした小説ではあるけど、それくらいに力のある物語。 『ジャージの二人』の時にも思ったけど、本当にこの人はグダグダした話を書くのが上手いなあ。 ちなみにこれ、僕にしては珍しくハードカバーである。 タイトルとか装丁とか作者とか、諸々で気になっていたので文庫待ちの姿勢だったのだけど、ある日の仕事中、届いた本の中のあと1冊がどうしても棚に入らない、ということがあった(よくある)。普段ならそこで何かを返品してしまうのだけど、この日は一念発起。えいやと買ってしまったという次第。 書店員になって、それまで付き合っていた本の新しい顔や違った距離感に遭遇することが毎日のようにあるけど、仕事が進まないから買ってしまえということまであるとは思わなかった。 それが約1年半くらい前。それ以降、時々そういうことをしている。買おうかどうしような迷ったときの最後の一押し。レジに差し出すときは複雑です(楽しいけど)。 |
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うわぁ、凄い理由ですね。思いつきもしませんでした。もしかして並べている途中にかっさらっていくのは知らないうちに書店員さんを助けていることがあるのかもしれないですねえ。
2010/9/3(金) 午後 9:30
おお!著者の作品は『猛スピードで母は』しか読んでないんですが、面白かったのでもう一冊いってみようと思ってたところでした。どれにしようかな〜と迷ってましたが、これにしますね^^
私もこの人のぐだぐだ感、けっこう好きです。読むには急転直下のストーリーもいいけど、実際には何かしたいのになかなか一歩を踏み出せない、合間に葛藤、ってのが日常ですよね(笑)。この人の書くお話って、すぐそこにある次の孤島までのイカダのような感じがします^^。
2010/9/3(金) 午後 9:47
>冴さま
そうなんです。仕事を一つでも減らしてもらえると助かりますね^^
まあ、あんまりやられると困っちゃうかもしれませんが。。。
2010/9/5(日) 午後 8:26
>Cuttyさま
『猛スピード〜』もいいですね。日々の中、ふとひっかかったはずなのに忘れてしまっているたくさんのエッセンスを、ふとすくい上げるのが上手な人だと思います。しかもそのどれもが取るに足らない。
毎日って、こういうのの積み重ねだよなと素直に思わせてくれます。
記事の中でも触れていますが『ジャージの二人』も是非。映画も面白いです。
2010/9/5(日) 午後 8:31