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登美彦氏による初めての書簡体小説である。
京都の大学生として青春らしきものを謳歌していた守田一郎は、力強い愛情によって千尋の谷よりも厳しい能登の実験所へと修行に出される。上手くいかない実験と学業、そして襲い来る将来への不安を和らげるため、守田青年は文通修行を志す。いずれは自由自在に乙女を篭絡する恋文の技術を得ることを夢見て……
拝啓、みなさま。
大変ご無沙汰しております。もうお忘れでしょうか。himaです。覚えていてくださった方、記憶の深みの隙間から掬い(救い)上げてくださった方、本当に本当にご無沙汰しておりました。忘れてしまっている方、もしくはそもそも知らないよという方、初めましてhimaです。
しばらくなりを潜めていましたが、ちょっと寂しくなってきた……もとい、再び文章を書くという高尚な欲求がグツグツと沸き起こってきて、迸る才能が抑えきれなくなってきて……もう一度みなさんにかまってもらいたくなったので頑張って読んだ本の感想を書こうと思います。
というわけで、復帰第一弾は敬愛する登美彦氏です。
携帯電話やメールが全盛のこの時代に、あえて手紙を書くという時代への逆行ぶりがいかにも氏らしいこの作品。読み始める前は往復書簡形式になっているかと思いきや、並べられるのはヘタレ大学院生、守田一郎からの手紙のみ。彼が能登へとぶっ飛ばされた春から京都への期間が許される秋までの間、文通相手に送り続けた手紙から、読者は彼の身の上に何が起こったのかを知ることになる。
文通相手は京都にいる友人、頭の上がらない女性の先輩、家庭教師として教えていた小学生、知り合いの小説家・森見登美彦氏、しっかりものの実の妹と多岐に渡る。劇中の出来事についてはこの文通相手の書簡に一郎が返事をすることによって読者に知らされる。当事者には当事者なりの、たまたま居合わせてしまった人にはそれなりの、まったく知らない人には大幅な脚色を加えた形で、多角的かつ尊大に描かれるプリズム感にモリミ節がモリモリ躍動している。
そして何より僕の好きな登美彦氏だなあと思ったのは“出せない手紙”の章があるということ。秘めて偲んであたためた思いが向かう先を求めて迷走するのはいつものことだが、今回はそれがどうしても書けない、出せない手紙と言うかたちで登場する。
その失敗書簡集の何が切ないか。出せないままに積み重なっていく月日と、時候の挨拶の移り変わりだ。モラトリアムを求めて大学院へと進学した一郎と違い、就職して社会に羽ばたいた彼女に向けた「就職して〜ヶ月が経ちましたね」という言葉。春から秋へと巡っていく季節と変わり行く景色。
これらを描くときの一郎の気持ちは想像するに難くない。この前はこんな風に書いたなあ、あれからこれだけ時間が過ぎたのか、どうして未だに出せずにいるんだろう、一体いつになったら募る思いを正しく書き綴ることができるのだろう。
いつまでも書けない不安、書き上げたときの高揚、遠く思う切なさ、などなどがただそこにあるだけの手紙に凝縮しているのだ。この感覚は“出せなかった手紙”からでなければ醸し出されなかったに違いない。
想いを文字に託して相手に届けるというのは、フォローもできないし細かなニュアンスが伝わり切らないから、直接伝えるよりも難しいだろう。それでも、精一杯の誠意は伝わるものではないだろうか。一字一句に想いを込めて、届け届けと祈りを込めて、ひたすらにペンを進めて行く。ただし、気持ちばかりが先走っても怖くなってしまうし、恋心を秘めすぎても伝わらない。
そんな中で一郎が得た恋文の技術。それはなるほど、確かに一理あるものだった。
恋は、思いは、しのぶれど文字に出にけり……というものなのだろう。
当たり前にしていれば、ただ好きでいることをしていれば、自ずと気持ちはふわふわと空を舞って伝わってしまうものなのかもしれない。
……ふむ、気をつけなきゃ……ではなくて、その思いに胸を張って受け入れて生きること、それが一番大切なことなのだろう。
登美彦氏は言う。教訓を求めるな、と。
ならばhimaは言おうと思う。共感するのは勝手であろう、と。いいこと言った!
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お待ちしておりました^^やったー!復活おめでとうございます♪
森見氏の書簡小説、面白そうですね^^出せなかった手紙の時候の挨拶のくだりなんて(もし自分だったら)と考えると、無力感と焦燥感にじりじりしてしまいます(><)
♪待てど暮らせど来ぬ人を宵待ち草のやるせなさ…で、待ち焦がれたhimaさんからの記事(書簡)たんのうさせて頂きました!
2011/5/1(日) 午前 9:38
>あんごさん
ありがとうございます。なんというか、戻ってこられたのもあんごさんのおかげですので、もう足を向けて寝られませんね。
そう、日付を書くときに「ああ、あれから一ヶ月か……」なんて思うわけですよ。その切なさと言ったらもう、という感じです。
これからは皆様へ向けた恋文のつもりで感想を書いていきたいと思います。もちろん、きちんと出しますので、よろしくお願いいたします。
2011/5/2(月) 午後 10:56
>内緒さま
ゲスブへ伺います!
2011/5/2(月) 午後 10:56
オカエリナサイ^^忘れてるわけはないのに、はじめましてと言われると寂しいですな(笑)。こういう書簡小説を読むと、何か書きたくなるかもしれませんね^^
2011/5/8(日) 午前 8:48
>ゆきあやさん ただいまです。そういう嬉しい言葉を言ってもらいたいがために卑屈になってみました(笑)なんだか色々とタイミングが重なって、拝啓皆様となりました。もう何度目の言葉か分かりませんが、またよろしくお願いします。
2011/5/10(火) 午前 11:34