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絵画コレクターの家から、名画『壁抜け男』が盗まれた。逃走するためには、庭に造られた迷路を通らねばならず、それは住み慣れた人間でも簡単には抜け出せない。犯人は本当に壁を抜けたとでも言うのか……(表題作)

非常にオーソドックスな表題作を初め、様々な媒体に様々なテーマで書き連ねた16の短編集。

犯人当てになっている『ガラスの檻の殺人』や『壁抜け男の謎』、先行ミステリのオマージュの形式を取っている『下り「はつかり」』や『ミタテサツジン』などはミステリ要素が強いけれど、あくまで主題は他にある感じで、読む前に期待していたものは読めなかった印象。
とはいえ、この人はミステリ以外の文章も几帳面で丁寧。正直、ぼんやり読んでいると誰の本を読んでいるのか分からなくなるくらいテーマに即して仕上げているので、どんなものでも楽しめる。こういうバラエティに富んだ作品集を読むと、裏側にある多岐に渡る知識や資料の存在が垣間見えて、なんだか世の中には色んな世界があるものだなあと言う気分がしてくる。読むべき本や、触れるべき世界はあちこちにありそうで、そういうのもひっくるめて面白い。

短い作品を書くにしても、下敷きにするべきものは広く深く確かにあって、そういうのをおろそかにしてしまうと、どんなに低い木であっても真っ直ぐには育たない。
それにしても、SFやファンタジーならともかく、アリスの官能小説(風)まで読めるとは思わなかった。なんというかアレだ、『月光ゲーム』や『孤島パズル』を始めとして、それ以降の文章からもひしひしと感じ取れるけど、アリスのDTっぽいとこ好きだなあ。

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