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泥棒を生業とする<俺>は屋根から転落して気を失ってしまう。そんな<俺>を助けたのは、両親が同時に別々の相手と駆け落ちをしてしまうという冗談のような不幸に見舞われた双子の中学生男子だった。<俺>の弱みを握った彼らは言う――僕たちのお父さんになって生活費を稼いでよ。
こうして<俺>と双子の擬似家族生活が始まった。 今さらの再読は、もちろんテレビドラマの影響。こっちのドラマ化も充分に今さら感があるけれど。上川隆也演じる<俺>の雰囲気がよいので欠かさずに観ている。あのイメージで原作に戻ってきたら、意外とこっちの<俺>はやんわりとしていて驚いた。めんどくせえとか言わないし。 近年は様々な方向へと作風を広げている宮部さんだが、割りと初期ということもあってミステリだ。それでも主眼は<俺>と双子の関係性だと思う。双子から体温を感じなかったのは意外な思いがしたけど、その分<俺>が非常に人間っぽくてよかった。 初めて読んだのは学生時代だったので、どちらかと言えば双子に年齢が近かったのだが、今となっては<俺>とほとんど同じくらいだ。しかも独り身。職業が全然違うけど、何となくどこまで行っても独りかなっていう境遇も似通っている。 そんなところに、自分を頼りにしてくれる存在が現れる。その戸惑い、喜び、そして失うことへの恐怖。理解できるなんてもんじゃないくらい、みにつまされる。特に、恐怖の部分が。 年齢を重ねれば、色んなものを失う。その時の寂しさや悲しみは側にあったときの楽しさや充足と反比例する。楽しければ楽しいほど、夏の強い日差しが影を色濃くするように、悲しみもまた深くなる。その経験は体に刻み込まれてしまう。手にした瞬間に引き出されてしまうほど。 <俺>と双子の関係は終わりかたちの可能性が始めから提示されている。でも、それが訪れるかどうかは分からない。可能性はゼロでも100でもない。何しろ子どもを捨てて出て行った両親の帰還が条件なのだから、どうなるか全く分からない。<俺>にとっては双子がどの結末を望んでいるかも分からない。ひょっとしたら双子自身も分からなくなっているかも知れない。 ここが面白いところだ。 結末を迎えたとき、自分がどうなるか。<俺>はそれがよく分かっているから、双子との距離感に頭を悩ませる。 こういう心理描写は、例えば彼氏とケンカして一時的に自分の元に身を寄せている女性、みたいな関係性でも描くことはできるんだろうけど、それだとあまりにも陳腐だし結末が自分たち次第になってしまってつまらない。単なる自己陶酔で終わりそうだし。 そうではなくて、保護者と被保護者という関係性にしているのがいい。<俺>の書類上の雇用者である柳瀬の言う「親はなくとも子は育つが、親は子がいないと育たない」という言葉がピタリとはまっていて、結局面倒を見ている方が、そのことによって生かされている状態になっている。依存とまでは言わないけど、頼られることで立っていられるという状態になる。 最終的に<俺>の導いた結論にも親近感を覚える。それでいいと思う。幸せな時間を大切にして何が悪いのか、世界に向かって声を大にして言ってやればいいのだ。終わりが来るのが分かっているからこそ、そこまでの一瞬ごとを大事にする。それだって、素直な大人の生き方に違いないのだから。 それにしても、いかにもシリーズになりそうな設定で続きそうな終わり方なんだけど、結局続編って出てないんだよなあ。ドラマ終わりくらいで出てきたりしないのかな。 |
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ドラマ版、なかなか手が込んでいて面白そうですよね^^原作も読んでみたくなりました。実は宮部さんってデビュー作がいまいちピンと来なかったので今まで読む気がしなかったのですが…^^;最近「ぼんくら」シリーズを読んでハマりかけています♪『ステップ・ファザー・ステップ』もしっかり読んでみたいです!
2012/3/11(日) 午後 11:22
>あんごさま
案外、ドラマの方がミステリ要素が強いくらいかもしれません。学生時代は単にいい話という感じだったのですが、今になって読んでみると「失う」ということが身につまされるようでした。こちらも宮部さんはずいぶんご無沙汰です。
2012/3/12(月) 午後 11:11