|
学生の頃 何度か 軽井沢に行った。
あの別荘郡に 別荘があったわけではなく
避暑のために訪れていたわけではない。
堀 辰雄 というひとりの作家が 好きだった。
堀 辰雄が過ごした軽井沢…彼の作品で「美しい村」がこの軽井沢であった。
そして その小説の中で、彼は軽井沢の事を K村と呼んでいた。
「風立ちぬ」「麦藁帽子」「菜穂子」などで知られているように
小説家であった彼が 残した数少ない詩の中に こんな一節がある。
「西洋人は 向日葵より 背が高い」
私はこの一節に妙に惹かれて 彼に興味を持つべく この一節を生み出した
軽井沢を何度も訪れたのである。この一節のような目を持っていたい、そんな
詩を書いてみたい…という思いが心の中で燃え始めたようなそんな感じがしたからである。
軽井沢の森の中を歩いていると いつももやがかかっていて 高い高い樹々の果てに
空があることすら信じられないくらい、薄暗くどこか違う世界に入り込んでしまった
気分になってくる。
あちこちに点在するしゃれたつくりの家々…庭に置いてある庭いじりの道具さえ
西洋風のにおいがしていて、とても日本の長野県とは思えない。
向日葵の花が たくさん立ち並ぶように生えて 空に向かって咲いている。
向日葵は こんなに背が高くなるものであろうか と思う。
おそらく 堀 辰雄もそう思ったに違いない。
その、背の高い向日葵…よりも そこでバカンスを楽しむ西洋人たちは
背が高かった。
彼にとっては 脅威であり、かつ憧れるような西洋人かぶれを 自分の生活の中に
取り込んでは楽しんでいたのだろう。
この季節が来ると K村が懐かしい。
今の時期は 人でいっぱいの軽井沢。
もう少し…8月の終わり頃には すっかり冷え込むようになり
旧軽銀座と呼ばれるところは 閑散としてくるのだ。
ひさしぶりに K村を偲んで 昨年訪れたときに買って来た葡萄酒を
今日はあけてみようかと想う。
( 写真 上から 堀 辰雄 直筆の詩の一節…実際詩集のなかでは 「西洋人」と「向日葵」は
反対に書かれている。
三番目は 追分 白糸の滝 )
|