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厚い雲に覆われて 朝陽が静かに登る あたりがやがてうっすらとしてきて 夜半中灯っていた街の明かりが そこに溶け込むようにして消えていく 街は せわしく動き出す ・・が 太陽はいまだ雲の中に閉じ込められていて 姿を現す気配はない 船着場ではさまざまな言語が飛び交い 観光客がひしめき合いながら ガイドブックを片手にあわただしく 二階建ての船に乗り込んでいく 船はチャオプラヤ(メナム河)を滑り始める 観光客である私も しばらく河の両側にある派手な色の寺院や バンコクの中心部らしいビルの群れと 船がこの河に描いていく灰色の水の流れを 交互に見つめていた 肌に当たる滑らかな風は 湿気の含んだ気温の高さを しばし忘れさせてくれていた そのうち 少し眠たさを感じ始め デッキにある背もたれ椅子に横たわり目を閉じた イヤホンから流れるボサノヴァは 旅に出て味わうことのできる 素敵な開放感と豊かさをさらに広げてくれる ひとつの曲が途絶え 次の曲に移り変わる少しの間に聴こえる 異国の人々の言葉は 私をはるか遠い国に漂わせ続けてくれるようで それもまた旅でしか浸れない独特の雰囲気だ ・・ふと目醒めた時 河の両岸はまた違う様相をしていた 小さな船着場を抱える家が河に出っ張るようにいくつも並び 河岸では お母さんと子供が沐浴をしている チャオプラヤでの人々の生活が パノラマのようにくるくると 映し出されていた あいかわらず 太陽は その姿を見せてくれてはいない 私はまた目を閉じて浅い眠りについた うとうとしながら 何となく考えていたことは 河の流れ・・は私をどこに運んでくれるのだろうということ それは場所ではなくて こころの行き場のこと シャッフルされて流れてきた曲は<You need a man>というもの <あなたには 彼が必要>・・・ 何だか意味深げな曲名だが 歌詞は逆説的な内容のもの これは最近覚えたカントリーダンスのひとつで ダンスの名前は<Kill the Spider> <蜘蛛を殺す>という意味である つまり 蜘蛛を殺すことができるのなら 彼はいらない 蜘蛛を一人で殺せないのなら 彼が必要というわけ 私は果たして 自立しているのかしら・・? ふたたび 私はうつらうつらし始めた 河は流れて 流れて 観光客を乗せて滑っていく やがて船はアユタヤに着く 3時間半たっただけで およそ700年前の遺跡の町に私は来た ふと見上げると いつの間にか太陽が少し顔を出していた 悠久の時を超えて 照らし続けてきた太陽のひかり そっか・・ 太陽は 太陽なのだ たとえ雲に隠れていても 太陽が通る道は変わらない こころの行き場は 私の行き場 私は私であり 私の人生を歩んでいくのも 他ならぬ私なのだという当たり前のことを 太陽が教えてくれた アユタヤの有名な菩提樹の樹に絡みつく仏頭
これは200年前 空洞になっている仏像の中にかくされた 宝物を盗賊が略奪するため仏像の頭だけ取られて捨てられたのが そこに生えていた菩提樹の根が絡んでこのようになったものです 菩提樹は 釈迦が説法を説き 涅槃に入る時の場所に生えていた樹で 仏教ではとても尊い樹とされています その根に絡みついた釈迦の仏頭は 多くの人々に拝まれ続けられているのです .
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