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フランスのシンフォニック・ロック・グループ、アトールのファーストアルバム。
オリジナルはコーティング見開きジャケット。レーベルデザインは緑地に「POP」のロゴの入ったEurodisc初期のもの。よく出回っているシングルジャケット(アナログ国内盤も同じ)はセカンドプレス。
セカンドアルバムのオリジナルプレスが最もレアなのではないかと思うが、本作もオリジナルは昔からかなりのレア盤とされている。
セカンドアルバムであり最高傑作とされる「組曲夢魔」の記事は下記をご参照ください。
http://blogs.yahoo.co.jp/hiro_eurasia/56608006.html
フランス盤特有のプレスの悪さはあるものの、この盤は音質的にも素晴らしい。マスターの音の若さが感じられるし、音色やエコー成分の深さが際だっている。ベースやドラムなどの低域もどっしりしていて、かつ柔らかさがある所も好ましい。
アトールはセカンドアルバム「組曲夢魔」が過去K社のユーロピアンロックシリーズで発売され、廉価盤シリーズとしては異例の売上を記録、来日したこともある日本でも多くのファンを持つグループだ。
続くサードアルバム「Tertio」も名作の呼び声高く、その2作に比べればこのファーストアルバムの評価は地味なものだった。音だけなら国内盤やデジタルリマスターで再発されたCDで聴く機会はいくらでもあったのに「後回し」にしてきたアルバムだ。
さて、このたび初めて手にして思ったことは・・・
後の中心メンバー、早弾き偏重ギタリストChristian Beyaは本作ではまだいない。
Alain Gozzoの少しジャズよりの硬質なセッティングのドラムに対し、Jean-Luc Thillotのプレシジョン系の音と思われる柔らかめのベースラインはうまくマッチングしている。次作で強烈なインタープレイを聴かせるChristian Beya(ギター)Richard Aubert(ヴァイオリン)がまだいないので、地味な印象を与えているのかもしれないが、むしろシンフォニック・ロック・バンドとしてのバランスがとれているように思える。
ギターやヴァイオリンがソロプレイを延々演奏するパートが少なく、代わりに私の数少ない好みのフランス語ヴォーカリスト、Andre Balzer の比重が高くなっている。これは私にとっては好ましい展開だ。
次作、「組曲夢魔」で際だってくるダークでどこか悪魔的な曲調から夢見るような美しさへと移行するギャップの素晴らしさの萌芽と思われるヨーロッパ風土から生まれたどこか暗く、ミステリアスな部分が全編に占められていて、これはこれで大変好ましいアルバムだと思う。
本作を聴いてから次作、次々作と聴き進んでいくとバンドがグレードアップしていく様が聞き取れてとても興味深い。
やはりバンドというのはアトールのように各メンバーがある程度テクニックを備えていても、やはり(悪い意味ではなく)エゴがあって、テクニックのある主張するプレイヤーに引っ張られて変容していくものなのだ。雰囲気を重んじたどこか危うく妖しいパートは、徐々にハッキリとしたパートに駆逐されていく。
音楽や歌詞を書く強烈なコンセプトメーカーがいなかったのだろう。やはりレコーディングを経てライブやツアーをしていくと曖昧な部分は淘汰され、音楽はより多くの人に届くようにはっきりとした輪郭を持つようになっていくものなのだろう。
アトールは「組曲夢魔」の国内盤発売時に「フランスのイエス」として紹介され、実際音楽を聴いた人たちは一様に「イエスとは違うじゃないか」と文句(?)を言ったものだが、バンドの成り立ちという点から考えると「フランスのイエス」という表現はある意味当たっているような気がしてきた。
イエスも絶対的なリーダーのいない集団指導型のグループだ。たとえばキング・クリムゾンのロバート・フリップのように「彼こそがイエスだ」といえるような強烈な個性で引っ張るリーダーが不在で、メンバーが多少入れ替わっても「みんなが集まってイエスになる」というグループだ。
フランスで言えば、マグマのクリスチャン・ヴァンデやアンジュのクリスチャン・デカンのようなワンマン・グループに比べて当時のアトールはイエス型の集団指導型のグループだったのだろう。(再結成後のアトールは明らかにChristian Beyaのグループになってしまったが・・・)
そうした見方をすると、本作、そして次作のジャケットを担当しているYves Uro(他ではとんと見たことがないが・・・)のデザインはちょっとミステリアスでファンタジックで昔の真鍋博っぽいもので、初期2作のアトールが持つ独特の魅力を表現しているし、三作目「Tertio」でがらりとジャケットの雰囲気が変わりハッキリとしたものなっている点も象徴的に思えてくる。
ソロではなくバンドの魅力は、やはり1+1が2ではなく3だったり4だったり、時には1.5や1、0.5だったりする点だと思う。
そういう意味ではこのアトールのファーストアルバムは1+1が2以下なのかもしれないが、これはこれで特定のリーダーに引っ張れていたわけではないのに、グループが独特のコンセプトを共有して後の作品からみればやや小規模かもしれないが、バランスのとれた音世界を構築している点が本作の最大の魅力であると思う。そう言えば、作曲者クレジットも本作では「Atoll」となっているが、次作では各メンバー名になっている。これは別の問題なのだろうが、なにかバンドの成長過程を暗示しているような気がしてならない。
アトールは4作目以降インターナショナルな飛躍を狙って元キング・クリムゾンのジョン・ウェットンを加入させるのだが、同時にオリジナルメンバーのAndre Balzer(ヴォーカル)、Jean-Luc Thillot(ベース)が去っていく。未聴だがこの時の録音がCDのボーナストラックに収録されているが、どうやらこの時期のアイデアが後のウェットンのエイジアへと繋がっていくものだそうだ。
かくてアトールは解散する。なんとも悲しい末路だ。
B面3曲目「LE BERGER」は秘教的な雰囲気を持つ演奏、コーラス、ヴォーカル、楽曲構成、音色などすべてのバランスがとれた名曲で、後の二作に引けをとらない素晴らしい曲だと思う。
とにかく「愛すべきアルバム」というと失礼かもしれないくらいしっかりとした作品だが、それでも後の2作品にない魅力を持ったアルバムであることは間違いない。
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