|
こういう仕事をしていると、夜も寝ていないのですか?休日もないのですか?と質問されることがある。確かに休日に出ることもあるし、夜呼び出されることも少なくない。しかしそこは結構要領よくすごしている。夜の会合などがなければ夕方7時ごろには帰宅して、一人で本を読みながらビールを飲んでいることが多い。そして10時ごろには寝てしまう。結構寝ているし、休んでもいるのだ。いつも出動待ちで、待機しているわけではなく、普通の中年親父生活をしているわけだ。ただし、途中で起こされることがなければだが・・・
医師会当直事務から、深夜の12時過ぎに電話が入った。開業医の先生から直接の往診依頼だ。
まだビールが残っていて寝ぼけている私が、寝ぼけた声で開業医の先生と直接電話する。
「今、僕は法事で東京を離れてしまっているのです。どうしても僕のほうで行けないので、往診してあげてください。」と開業医の医師が理由を説明する。
89歳の認知症の患者さんが肺炎症状で吸引を必要とする状況だという。早速医師会の夜間当直医に連絡する。
その晩の当直医はまだ若い医師だが、これまで何度も往診出動をしてきてくれており、そのつど対応の適切さに私も舌を巻くぐらいしっかり者だった。
痰が絡み苦しがっている。どれだけ重症なのか気になる。痰を取る処置をしてあげてどこまで楽になるかが問題なのだ。しかし往診対応でもっとも重要なことは、病状よりも、実はもともとの療養希望がどうであるかであることが多い。またいくら優秀な当直医といっても適切に自宅で医療対応ができるのは、バックアップ体制がしっかりしているときだけなのだ。
つまりもともと自宅での治療や療養を強く希望している方なのか?家族もそれを望んでいるのか?主治医が同意しているのか?さらには翌日以降の自宅での医療継続が保障されているのか?がとても重要になるのだ。
「まず診察していただいて、その結果を主治医とご相談ください。そしてその後の判断を仰いでください。」と私は当直医を電話で送り出した。
当直医から電話があったのは、午前1時を過ぎていた。
「かなり状態は悪くて、酸素飽和度は70%程度しかありません。しかし本人も強く自宅での療養を希望していたということです。主治医と相談したところ、家で治療することとしました。明日以降の対応をお願いしてよろしいでしょうか?」もちろん私に異論はない。「明日の朝に私が往診しますので、初期治療を開始してください。」と私は返事した。
当直医のカルテには、
「・ご本人の強いご希望もあり、なるべくご自宅での介護を継続させていただくことといたしました。ご自身で痰を排泄する力が低下しているため、今後は吸引機をご自宅内に導入していただく必要が出てくると思われます。
・今夜は飲水・食事はせずに、口腔内をガーゼなどで湿らせてあげる程度としてください。
・解熱していますので、体を冷やしすぎないよう注意してください。
・ 明日以降も主治医の先生と連携して新宿区医師会のほうでもサポートさせていただきます。今夜ももしまた苦しくなるようでしたら、いつでもご連絡いただければと思います。」と決め細やかな指導内容が記載されていた。
・
さらに、主治医に対して「〜先生 御侍史
平素より大変お世話になっております。本日拝見いたしました。低栄養および脱水ありご自身での喀痰排泄が困難な様子で、誤嚥性肺炎による低酸素血症が疑われました。ご家族と相談いたしましたところ、ご本人の強い希望があり、再入院はできるだけ避けたいとのことであり、これまでも誤嚥性肺炎などをご自宅で乗り越えてこられたということで、本日は頻回吸引でどうにか酸素化が改善したため、点滴(維持液)と抗生剤(ロセフィン1g)を投与しご自宅で様子をみる方針とさせていただきました。
今後とも外来ご加療のほど、宜しくお願い申し上げます。」ときめ細やかに申し送りがされていた。
優秀な当直医であれば、夜の突発往診でもいろいろな医療的対応を行うことは可能である。しかし患者や家族の療養希望、主治医や仲間の医師のバックアップがあって初めて決め細やかな対応が可能になる。それが往診代行の理なのかもしれない。
|