ここから本文です
現状、毎日のライヴ放送予定をチェック出来ないため、当面はネット音源のご紹介にフォーカスします。

書庫全体表示

イメージ 1 イメージ 2 イメージ 3

イメージ 3

さて、今回は引退直前の10年程度、特に日本でも絶大な人気を誇った指揮者、クルト・ザンデルリンクの最後の演奏会の模様が収められたディスクを聞いてみたいと思います。この音源、ハルモニア・ムンディから5枚組のセットボックスとしてリリースされた中の1枚であり、このボックスは確か限定だったはずなので、既に入手困難な状況にありますが、万が一中古ショップ等でお見かけになられましたら、見逃すことのなきよう。

この5枚組にはザンデルリンクが得意としたロシア物、特にショスタコーヴィチやプロコフィエフ等のライヴ音源が含まれており、オイストラフとのヴァイオリン協奏曲も聞きものでありますが、今回ご紹介致しますのは『尊敬して止まない』と自ら公言されていた内田光子さんをソリストに迎えて催された、ラストコンサートの模様です。他に前プロのブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』が収められていますが、CD5はその内田さんがソロを務めたモーツアルトのピアノ協奏曲第24番、そしてシューマンの4番の交響曲が収められました。

ザンデルリンクといいますと、何年か前に発売されたシュトゥットガルト放送響とのブルックナー7番や、バイエルン放送響との同じく4番、長らくベストセラーに君臨していたベルリン響とのブラームスの交響曲全集(シュターツカペレ・ドレスデンとの全集は、私は残念ながら未聴)が、いずれも決定盤の呼び声が高い名演ですけれども、実は私はこのクルト・ザンデルリンクよりもご子息のトーマスさんの方が先に名前も演奏も知った次第です。昔定期会員だった名フィルに客演されたのが初めてだったと記憶しています。お父上を知るきっかけとなったのが、テルデックから出たラフマニノフの交響曲第2番(同曲の決定盤との呼び声高し)。それから非常に大きな感銘を受けたのが、上記のブラームス全集(カプリッチョ)でありました。これは宇野大先生が絶賛されて一躍有名になりましたね。上に挙げたブルックナーの2枚は言うに及ばず、あとは、内田さんとのベートーヴェン全集であったり、マーラーの9&10番であったり、ベートーヴェン9番(フィルハーモニアとの全集のもの)や6番だったり(バイエルン放送響)、非常に数は少ない(=私が所有しているものでは、という意味)ものの、そのいずれもが名人芸と呼ぶに相応しい、まさしく『職人的な』という言葉がピッタリの巨匠でありました。そう言えば、ゲヴァントハウス管とのブルックナー3番のとてつもない名演もありましたね。TDKの来日公演のライヴであるとか。

現時点で一番新しいのは、確かベルリン響との第九のライヴだったと思いますが、私はこのヴァイトブリックというレーベルの音が好きになれずに、未だに買わずにいます。プレートルの第九とマーラー5番、ベルティーニのマーラー5番、シュタインのエロイカで懲りました(苦笑)この第九もザンデルリンクの真価を半分も伝えていないんじゃないかと思いますけどね。もし名盤だと思っておられる方がいらしたらごめんなさい(苦笑)かなり偏見です…

そんなザンデルリンクですが、ハルモニア・ムンディのこの『ラスト・コンサート』は実に味わい深い名演!終演後の拍手は収録されていませんが、暖かい歓声に包まれたであろうことは容易に想像出来ます。ややマイクに近い録音ではありますが、比較的聞きやすい音質です。そして、やはりオーケストラが長年交流のあったベルリン響というのも大きいでしょう。ここでの2曲は、この録音以外ザンデルリンクの正規録音はなかったはずですから、その点でも貴重な存在ですね。

早速、内田さんがソリストを務めたモーツアルトのピアノ協奏曲第24番から聞いてみましょう。これを聞いてまず全般的に感じたのが、内田さんの『慈しむように』奏でられる美しい音色。そして、そんな内田さんを暖かく包み込むザンデルリンク&ベルリン響の極上のサウンド。以前ご紹介したヴラダーの溌剌とした名演とは対極の演奏です。まず、第一楽章の第一主題、ザンデルリンクは中庸やや遅めのテンポを設定し、幾分大きめの音量で提示します。トゥッティにおける弦楽器の速いパッセージの緊迫感、そして木管動機の悲しみの中に感じさせるチャーミングな音色、全てのパートがブレンドされたときのシンフォニックな響き。何もしていないはずですがこれほどの音楽を作り出すのですから、やはりザンデルリンクの感性とそれをオーケストラに伝え切るスキルは、群を抜いていたでしょうね。そしていよいよ2分25秒内田さんの登場ですが、この深い悲しみの表情を湛えた音色を何と表現すれば良いのか。ジェフリー・テイトのバックで入れた全集よりも、明らかに一歩も二歩も踏み込んだ音色。モーツアルトの作品の枠を優にはみ出し、シューベルトの世界に通じるものがあります。ピアノが内田さんの体の一部となり、『表現』という言葉が感じさせる、何かこう『人の手をワンクッション介した』ようなものではなくて、ダイレクトに感じたままのものが、次から次へと湧き出てくる、そんな印象を強く抱かせます。3分31秒からの第二主題や、5分12秒からの内田さんのアルペッジョに乗ってフルートが第一主題を吹くところ、あるいは6分39秒からの内田さんのソロと木管の掛け合い等、『極上の美しさ』という言葉以外に見つかりませんね。ベルリン響の歌心溢れる木管セクションが実に素晴らしい。そして、この演奏における内田さんの特徴が最も良く現れているのが、やはり11分28秒からのカデンツァの部分でしょうか。消え入るような弱音から、入魂のフォルテまでダイナミックの幅が実に広い。また、直前のトゥッティのリタルダンドからフェルマータのザンデルリンクの見事な処理が、大きな効果を上げていることも付け加えておきましょう。

第二楽章。これも内田さんが作品に没入し、一体化した極めて感動的な名演。冒頭、第一主題の非常にゆったりしたテンポから、耳を引き付けて止まない。クラリネット、ファゴット、オーボエ、フルートにまで内田さんの気持ちが伝播し、大変美しい演奏に仕上がりました。24番はモーツアルトのピアノ協奏曲の中でも比較的地味な作品ですが、これだけ魅惑的な旋律とハーモニーが散りばめられているのですから、大変な名作です。これを聞いて感動しない人が果たしているのでしょうか?内田さんのソロはチャーミングな装飾音を含めて言わずもがな、この楽章では3分46秒からの、ファゴットとホルンをバックに歌われるクラリネットのデュエット(第二主題)の、楽園を思わせる美しいハーモニーを代表として特筆しておきます。

第三楽章。変奏曲の形式が取られた、ピアノ協奏曲では極めて珍しい音楽ですが、ザンデルリンクはそのスコアから室内楽的な響きにスポットを当てるアプローチ。変奏の切れ目を感じさせない、統一した表情を持つ滑らかな演奏、とでも言えましょうか。もちろん、トゥッティの部分の厚みのある響きは比類がありませんが、まるで室内オーケストラを聞くような精緻な響きが印象に残ります。内田さんの弱音の魅力ともども、この内向的な魅力もった演奏、名演ですね。

続きましてシューマンの4番ですが、こちらもザンデルリンクがこの名曲の魅力を余すところなく引き出しており、単なる記念演奏会のライヴ録音という以上に、この曲屈指の名演と言えるでしょう。第一楽章の冒頭和音の、何と柔らかい導入!私はここまでの柔らかさを感じたのは、もしかしたらチェリビダッケ以外に私は知らないかも知れませんね。序奏の部分にかけて、一貫して美しく優しい柔らかいハーモニーが我々を包み込みます。1分50秒くらいから徐々に加速して、意外にもかなり速めのテンポで提示される第一主題。この加速加減がまた絶妙!後拍の力強さとともに、下から低弦の分厚い響きに支えられて非常に重心の低いシンフォニックな音楽が展開されていきますが、テンポや付点の処理を含めて推進力が非常に強いので、決して重たい演奏ではありません。2分23秒からの第二主題は、力強く優しい低弦の暖かい音色が印象的。5分9秒からの展開部冒頭和音も、金管を中心に大変シンフォニックで厚みがあり、5分34秒からは第一ヴァイオリンとチェロが掛け合いながら徐々に音量を増してクライマックスを築きますが(6分4秒)、一音一音に重たい意味が込められているように感じられます。途中、全休止に至る過程でのリタルダンドとフェルマータの絶妙な間合い。8分48秒からのヴァイオリンの音色の美しさが、力強さとの対比でより一層際立ちますね。コーダでのトゥッティによる最強奏が圧倒的な迫力で胸に迫ります。ラストの『溜め』も非常に効果的。

さて、第二楽章から第三楽章にかけては字数の関係で軽く触れる程度に留めますが、第二楽章はやや遅めのテンポにより導入。冒頭オーボエとチェロによるアンサンブル、ヴァイオリンソロが登場するまでの弦楽器の重奏のハーモニーの美しさ。そのヴァイオリンソロは暖かく優しい表情で軽やかに歌います。チェロによる美しい伴奏も印象的。第三楽章は冒頭から、とにかくシンフォニックな響きと前へ進む推進力に圧倒されること請け合い。意外にも速めのテンポでグイグイ引っ張りますから、チェリビダッケのようなシューマンが苦手な方にも抵抗なく受け入れられるでしょう。逆にトリオではグッとテンポを落として、一転して優しい表情で歌い上げられます。

アタッカによって続く第四楽章、私はこの第三〜第四楽章にかけての『ブリッジ』の部分を非常に重視しておりまして、この部分の出来如何によっては他がどんなに素晴らしくても評価を下げざるを得ない、というくらいに重要な部分なんですが(笑)、ザンデルリンクにはそんな心配は全く無用。ジワジワと沸き上がる歓喜の爆発の雰囲気が大変良くこめられていて、静寂を司る弦楽器とそれを打ち破る金管楽器、そして徐々にテンポアップして第四楽章主部になだれ込む様は、圧巻の一言。しかしながら、情熱一辺倒であったり、『前のめり』であることは一切なく、ザンデルリンクの余裕の至芸が堪能頂けるでしょう。随所に散りばめられた休止部分の間合いが相変わらず素晴らしく、弦楽器の力強い付点のリズムと所々に聞かせるカンタービレ、そして木管の暖かな音色、金管の力強い響き、いずれをとっても第一級の超名演奏です。特に最後の和音に至るまでの、まるで別れを惜しむかのように奏されたコーダでは、エキサイティングさよりも私は不覚にも涙を流しそうになりました…

モーツアルト、シューマン通じてやはり全般的に印象に残るのは、『響きの厚み』『力強さ』というキーワード。とてもではありませんが、この演奏が既にリタイアを決めた老巨匠の『さよならコンサート』の模様であるとは、夢にも思えないでしょう。弱音ではなく、悲しみの表情でもなく、シンフォニックな分厚い響きの中にこそ『泣かせ所』がある演奏、ザンデルリンクの特徴はそこに尽きると思いますね。『黙して語らずとも背中で範を見せる職人芸』。ボールト、ヴァント、朝比奈先生、ノイマン、クーベリックに連なるタイプの巨匠。惜しい方がまた一人、ステージから姿を消してしまいました。ザンデルリンク先生、素敵な音楽の数々をありがとうございました。

【詳細タイミング】
モーツアルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
第一楽章:14分41秒
第二楽章:8分7秒
第三楽章:9分25秒
合計:約32分
シューマン:交響曲第4番ニ短調作品120
第一楽章:12分3秒
第二楽章:4分39秒
第三楽章:5分47秒
第四楽章:10分21秒
合計:約33分
【オススメ度】
解釈:★★★★★
ソリストの技量:★★★★★
オーケストラの技量:★★★★☆
アンサンブル:★★★★☆
ライヴ度:★★★★★
総合:★★★★★

内田光子(ピアノ)
クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団
2002年5月19日ベルリン、コンツェルトハウス

「殿堂入り!の名盤」書庫の記事一覧

  • 顔アイコン

    好意的で、厚みのある解説有難うございます。
    僕にもっと文学的(&音楽的)才能があったら、と残念です。
    でも、僕の愛聴版を、この様に書いて頂、本当に嬉しいです。

    次の殿堂入り!の名盤を楽しみにしています。

    hs9655

    2009/6/13(土) 午前 10:59

  • 顔アイコン

    HS9655さん>
    どうも、お久し振りです。コメントありがとうございました^^
    いえいえ、私の記事なんかはまだ全然拙い文章で申し訳ないです(苦笑)ただ、少しでも素晴らしい演奏であることをお伝えしたいと思ってますから、その気持ちが皆さんに少しでも伝わってくれれば嬉しいのですが・・・

    [ サヴァリッシュ ]

    2009/6/14(日) 午前 11:23

  • サヴァリッシュさんの何がすごいかって、内田光子さんの叙勲を予想してたのでしょうか?
    ポチです☆

    Hiroko♯

    2009/6/15(月) 午前 10:13

  • 顔アイコン

    Hirokoさん>
    内田さんの叙勲は全く予期していませんでしたよ^^;あまりの偶然に驚きましたが…最近は内田さんの演奏もあまり耳にすることがなかったので、またこれをきっかけに少し聞いてみたいと思いますがね^^

    [ サヴァリッシュ ]

    2009/6/15(月) 午後 0:32

  • 顔アイコン

    内田さんの演奏会が日本で今年の11月に予定されています。
    僕は聴きに行く予定ですが、是非時間が有れば、お出かけ下さい。

    hs9655

    2009/6/21(日) 午後 3:01

  • 顔アイコン

    HS9655さん>
    素晴らしい情報をありがとうございます!
    まだ詳細は発表されてないのでしょうか・・・ただ、サントリーホールのところには確かに載ってますね。何を弾かれるのでしょうか。非常に気になります。スケジュールさえ合えば行きたいんですけどね。
    私は内田さんのリサイタルは、一度だけ行ったことがあって、そのときはベルクのソナタとシューベルトのニ長調のソナタだったんですが、大変深い世界に踏み込まれていて感銘のあまり、すぐには帰れなかった記憶があります。

    [ サヴァリッシュ ]

    2009/6/21(日) 午後 3:10

  • 顔アイコン

    アクロス福岡で2009年11月19日(木) 19:00からの
    内田光子ピアノリサイタルに
    僕は行く予定です。
    曲目は僕には未だ分かりません。
    やっと初めて、内田さんの生演奏がは聴けそうです!!。

    福岡で演奏するからには東京でも当然演奏すると思います。

    hs9655

    2009/6/21(日) 午後 7:56

  • HS9655さん>
    11月19日くらいですね。曲目によるところもありますが、何とかスケジュール空けて行きたいですね。HS9655さんははじめてでいらっしゃいますか。素晴らしい体験になると良いですね(^O^)

    [ サヴァリッシュ ]

    2009/6/22(月) 午前 7:14

開くトラックバック(1)

検索 検索
サヴァリッシュ
サヴァリッシュ
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
友だち(11)
  • そら
  • juncoop
  • いしりん@神戸
  • ドルチェ・ピアノ
  • JH
  • テレーゼ
友だち一覧

最新のコメント最新のコメント

すべて表示

よしもとブログランキング

もっと見る
本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事