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現状、毎日のライヴ放送予定をチェック出来ないため、当面はネット音源のご紹介にフォーカスします。

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皆さんからの反響が少ないからというわけではありませんが(笑)、今年は急遽シリーズ化して取り上げたいと思います。その『名匠チャールズ・マッケラスの名演を聞く』シリーズ第三弾は、ロイヤル・フィルとの共演でベルリオーズの幻想交響曲です。ベートーヴェンの7番の記事でもチラッと触れましたが、この演奏はマニアの間で極めて高評価の名盤であり、今もまだ発売元を変えて現役盤のようですから、是非今までご存知なかった方々にも触れて頂きたいと思いまして、今回ご紹介致します。これほどの名盤が非常にもったいない話ですけれども、初出時はロイヤル・フィルの自主製作レーベルとも呼ぶべきTRINGという(今は存在しない?)超マイナーレーベルからのリリースでこれも廉価盤レーベルのような扱いでしたから、今に至るまでズッと廉価盤として発売され続けています。HMVの『マルチバイ』のお供に是非!(笑)

余談ですがこのロイヤル・フィルの廉価盤シリーズ、大変な名盤が隠れている大注目のシリーズであります。今回ご紹介するマッケラスの演奏には、シベリウスの2番とショスタコーヴィチの5番がありますが、その他にも例えば、無名の頃のパーヴォ・ヤルヴィの『新世界より』。あるいは、ユーリ・シモノフの『巨人』やチャイコフスキーのバレエ組曲集。メニューインのドヴォルザークの8番なんていうのもありましたね。そんな中でも特に個人的に素晴らしい名演だと思っているのが、イギリス室内管との関係を想起する方もいらっしゃるかも知れませんが、意外にもレイモンド・レッパードの第九!私の少なからぬ第九のライブラリーの中でも特異な位置付けではありますが、スケールの大きな名演です。このように、何でこんなに充実したライブラリーなのか全く意味が分からないんですけど、ホントに凄い演奏が目白押しです。そして、このシリーズの最大の売りは驚異的な優秀録音にあります。まるで指揮台の高さのちょうどホール中央の辺りで聞いているかのような自然な前後左右への広がり感と、各パート間の驚くべき分離の良さ。このアルバムでもマッケラス先生は、ロイヤル・フィルのヴァイオリンセクションを左右に分けた両翼配置を採用しており、今でこそ珍しくないですが早い時期から取り入れていて、その先見の明には驚くばかり。その効果が見事に捉えられていて、この録音を堪能するだけでも手に入れる価値は十二分にあると言えるでしょう(今出ているプレスは未聴のため、断言は出来ませんが…)。

ロイヤル・フィルによる演奏は以前、一度ガッティの指揮によるマーラーの4番の名演をご紹介したことがありましたが、このオーケストラは多くの指揮者との共演からか非常にレパートリーが広いため、ともすれば個性がなく『何でも屋』的な見方をされる場合があり、彼等の正当な評価の妨げになってきたような気がします。確かに、『やっつけ仕事』的な感が拭えない『駄盤』も中にはありますけれども、やはり指揮者に人を得た場合は大変な名演を成し遂げる器を充分に持っている、極めて優れたオーケストラの一つであると言えましょう。マッケラスに限らず、ビーチャムやボールト、プレヴィンの名盤しかり。『ロイヤル・フィルだから買わない』なんていうのはもったいないですよ。そのマッケラスとロイヤル・フィルとの関係は、1993年から首席客演指揮者に就任したことからも分かるように、完全な手兵ではありませんでしたが、非常に良好な関係を生涯に渡って保っていたようですね。

ベルリオーズの『幻想交響曲』は言わずと知れたオーケストラレパートリーの最重要曲の一つであり、私も以前ロンバールの演奏を取り上げたことがありましたが、今回のマッケラス先生の演奏はその中でも最右翼の演奏の一つと言って良い名盤であります。上に述べたように優秀な録音であることは言うまでもありませんが、それ以上にマッケラス先生の解釈の理想的なことが一番大きな要因です。確かに、この演奏は表面上華美できらびやかな表現や、ドロドロした魑魅魍魎が跋扈するような演奏とはベクトルが異なりますけれども、マッケラス先生お得意の『両翼配置』が採用されているのと、シベリウスの世界にも通じるような透明度の高い響き、精緻なアンサンブルが極めて高い次元で実現されており、そのベクトルの演奏としては最高の表現が達成されていると考えられるためであります。透明度の高さ故に見えてくるドキッとするような瞬間が多い演奏、と申し上げたら分かりやすいでしょうか。同じような傾向の演奏としてはミンコフスキとマーラー室内管&ル・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(ルーヴル宮音楽隊)やノリントン等の演奏が挙げられるでしょうね。


第1楽章

それでは早速、細部を見てみることにしましょう。第1楽章の『夢、情熱』は『ラルゴ』による序奏と『アレグロ・アジタート・エ・アパッショナート・アッサイ』の指定を受けた主部により構成されていますが明確な部分の区別がなく、正しく『幻想曲』のカテゴリに属するもの。楽器編成の前代未聞の大きさと言い、これがベートーヴェンの時代直後に書かれた曲であることに、改めてベルリオーズの驚異的な天才を感じざるを得ません。さて、この演奏では冒頭からマッケラス節が全開で、冒頭の木管による序奏のテーマからステンドグラスのような美しい響きが続出します。このテーマの幻想的な雰囲気を醸し出すために必須のリタルダンドとディミヌエンド、フェルマータは確かにロンバールの演奏ほどではありませんが充分に取られていて、マッケラス先生の単なる『オーセンティックな』側面にのみ目を向けている人にとっては、そのロマンティックかつ美しい表情に度肝を抜かれること請け合い。1分30秒からの主部は、いきなり『両翼配置』が最大の威力を発揮し、ヴァイオリン同士の掛け合いという真の曲の姿に初めて接する方も多いのではないでしょうか。そして、ロンバール盤と対極にあるような小気味良い『身軽さ』のようなものもこの演奏の特徴の一つで、『恋人のテーマ』が現れる直前のトゥッティによる2つの和音(4分48秒と同50秒)は非常にスッキリとした響きになっているのがお分かり頂けると思います。『恋人のテーマ』の裏の低弦が刻む伴奏音型も過剰なほどに抑えられています。11分57秒からのシンコペーションによる恋人のテーマの回帰からラストに至る過程では、相変わらずの透明な響きの中でのスピード感と躍動感が、今までとは全く異なる幻想の世界を繰り広げています。

第2楽章

第2楽章の『舞踏会〜ワルツ、アレグロ・ノン・トロッポ』では、第3・5楽章共々、マッケラス先生のアプローチが最も大きな効果を発揮していると言えます。弦楽器の響きがロイヤル・フィルとは思えぬ充実した音色であるのはもちろんのこと、特に大活躍するハープと木管の魅力的な響きは秀逸です。そして、要所でハッとする瞬間が待ち構えているのも聞き所の一つで、例えば舞踏会のテーマが出る直前のトランペットのフレーズや、これがここまで強調されている演奏も珍しいですね。いや、強調されていると言いますか、全体のバランスがスッキリして混濁しないために、逆に浮かび上がっていると言うのが正解かも知れません。いずれにしても、今までに耳にしたことがない響きが続出します。4分25秒以降、クラリネットとフルートによる恋人のテーマが突如現れる部分ではハープの絡みが非常に浮かび上がっており、またラストに至る部分ではまたもや金管の突出が、聞き手の不思議な高揚感を煽ります。

第3楽章

続く第3楽章『野の風景〜アダージョ』も、この演奏での大きな聞き所の一つ。マッケラスが作り出した室内楽的とも言える精緻な響きが、この楽章の異様な雰囲気をより一層高めていますね。テンポも曲想にマッチした理想的と言えるもので、『ねちっこく』歌われる冒頭のイングリッシュ・ホルンの独奏からその後の弦楽合奏に至るまで実に丁寧に、ロマンティックな表情で描き込まれているのが分かります。5分52秒から低弦に現れる美しいテーマ、そこに絡んでくる木管楽器の合いの手、そして第1ヴァイオリンとの掛け合いが取り分け見事なアンサンブルであり、ロイヤル・フィルの侮れぬ技術の高さを明確に示していると言えましょう。また『室内楽的』と申し上げましたが、ただ静かな演奏というわけではなくて、例えば7分9秒辺りで低弦に出てくる『恋人のテーマ』の変型のズッシリとした力感であるとか、そこからクレシェンドしてトゥッティに至る部分の迫力等も見事。そして、この楽章の眉とも言えるのが、弦楽器のピッツィカートに乗って9分11秒に出てくるクラリネットのソロの詩情溢れる美しさ!

第4楽章

第4楽章の『断頭台への行進〜アレグロ・ノン・トロッポ』では、冒頭のミュートをつけた金管とファゴットの音色から雰囲気満点、強靭な低弦によるテーマとの対比が不気味な世界を演出します。打楽器の強打も一切の妥協がありません。1分30秒辺りからクレッシェンドして突入する第一主題、ここでも主役である金管の扱いが絶妙であり、全体と決してまろやかにブレンドしない、ギラギラした強烈な個性と重量感を主張しています。ここでのロイヤル・フィルのブラスセクションは、他の一流オーケストラにも決して負けておらず、技術的な破綻もなく大変迫力あるアンサンブルを聞かせており大健闘!マッケラス先生はここでも力尽くで押し切るだけでなく、やはり各パートの分離効果を目一杯高めることによって全体がスッキリと見渡せる響きを指向しており、それによってかえって金管やティンパニの不気味な音色を浮かび上がらせることに成功しています。後半からラストに向けての迫力や突如現れるクラリネットの『恋人のテーマ』も情感に溢れ、十二分に素晴らしいもの。

第5楽章

初めて聞くような響きが続出する『異様な音楽』という意味においてだけでなく次のフィナーレは、もしかしたらマッケラス先生が残した最高の名演と言って良いかも知れません。奇怪な『ワルプルギスの夜』の世界をこれほどまでに分かりやすく聞かせてくれる演奏は稀であり、これを聞いてもこの曲の良さが分からないという方は、恐らく一生幻想交響曲とは縁がないかも(苦笑)決して音響効果のみに堕することなく、情報量の多さと溢れ出るインスピレーションには比類ありません。曲に対する没入ぶりも特筆もの。冒頭の序奏部分から抑えられた弱音で導入され、木管、金管、大太鼓やティンパニが入り乱れる辺りから、弦楽器の中に埋没しないその突出した音響バランスが曲の特異な世界を見事に描き切っています。そして、この演奏で特筆大書しておかなければならないのは『鐘』の存在。一発目、2分49秒で向かって右側からカーン、カーン…と鳴り出すと全体の温度が一気に下がり、その後のテューバの太い音色による『怒りの日』の旋律を、正しく『戦慄のメロディ』として際立たせることに、最大限成功しているためです。通常よりも低い鐘が使用されているのも異様なまでにリアリティがあり、曲調にマッチしていて大成功!こんな鐘の音を他に聞いたことがありません。4分50秒過ぎ辺りから一気にクレッシェンドして『魔女のロンド』の饗宴に突入。ここから先の、特にトゥッティにおける鼓膜を破らんばかりの音響空間は圧倒的であり、マッケラス先生には極めて珍しい『我を忘れた』没入感とともに、壮麗なクライマックスを築きます。


総括

この『マッケラスの最高傑作』と言える一世一代の名演に比べると正直、一時話題に上ったラトルやゲルギエフの演奏は赤子の手を捻るも同然。『芸格』が違い過ぎます。

この記事に

  • ほほう〜・・鐘の音が、どうやら俺の好みな低い音系ですねえ。
    なかなか鐘の音って侮れず、色々聞き比べをしています。
    やっぱりマッケラスも、この曲をしていたんだと思うと嬉しくなりますね。

    ティート

    2010/7/28(水) 午前 7:51

    返信する
  • 顔アイコン

    ティートさん>
    コメントありがとうございました。多分、またマッケラスの話題なので、コメントつかないだろうなぁと思って諦めてましたが^^;

    ええ、この演奏の鐘の音は低音のものが使われています。
    ティートさんもその方がお好きなようなので、是非聞いてみて頂きたいですね^^

    [ サヴァリッシュ ]

    2010/7/28(水) 午後 0:39

    返信する
  • 先日、シモノフの「巨人」買いました^^
    演奏も録音も、素晴らしかったです!
    マッケラスの話じゃなくて、すみません^^;
    でも、この幻想速攻購入です。

    アルコ

    2010/7/28(水) 午後 4:47

    返信する
  • アルコさん>
    コメントありがとうございました。

    おお、シモノフの『巨人』買いましたか!それはそれは素晴らしいでしょう(^O^)

    このマッケラス先生の『幻想』も抜群ですよ!是非聞いて下さい(^O^)


    ※私的には、ヤノフスキという本命盤が控えていますがf^_^;これは近日中に買います(^O^)

    [ サヴァリッシュ ]

    2010/7/28(水) 午後 6:01

    返信する
  • 顔アイコン

    ロイヤルフィルの盤をヤフオクで大量購入しました。おおむね素晴らしいですね。(中には箸にも棒にもがある。いえ並みで、ダメではありません。)英オケの自主制作と言うと、LPO/テンシュテットが素晴らしいですが、こっちも名前地味ながらすごくいいのがそろってますね。

    録音もDGGやRCA赤盤なんか真っ青。シャンドスとか当シリーズとかナクソスとか、本当に素晴らしい。

    幻想はまだ聴いていません。こないだ聞いたハイドン(子ザンデルリンク)がクレンペラーやセルにも張りあうかというほどの出来栄えで仰天しています。

    シモノフはどれも独特ですねえ。

    [ gkrsnama ]

    2010/10/26(火) 午後 4:10

    返信する
  • gkrsnamaさん>
    コメントありがとうございました。

    ヤフオクで大量に購入されたんですか?!それはまた凄いですねf^_^;

    私も、このシリーズは中には『?』な演奏もありそうな気がしたので、一番最初に発売されたときも、自分の興味をそそられるものしか買ってません。ただ、全部聞かないとダメかどうかは分からないですけどねf^_^;

    恐らく、大量に買い込まれたということは、私も聞いてないようなやつが沢山ありそうですから、またお聞きになられて『これは!』というものがあれば教えて下さい。

    シュテファン・ザンデルリンクのハイドンは方々で隠れ名盤として絶賛されてますね(^O^)私も名演だと思います。

    そうそう、私も、おっしゃる通り録音の素晴らしさを特記しておきたいと思います。この年代でこの技術、当時の最高峰だと思いますね。

    [ サヴァリッシュ ]

    2010/10/26(火) 午後 6:12

    返信する
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    サヴァリッシュの音楽館さま
    一年も前の記事へのコメントご容赦下さい。
    マッケラスのファンが日本にもいたんだ、と正直とても嬉しく思いました。マッケラス日本では本当に知名度が低いですね。素晴らしい演奏が多々あるのに、本当に残念です

    かくいう私も10年前までは、マッケラスの存在すら知りませんでした。10年前にマッケラスとブレンデルのモーツアルトのピアノ協奏曲(多分25番だったと思いますが、10年前のことなのでいまいち覚えていません)を聞いて気になり始めました。その後、サヴァリッシュの音楽館さまもご紹介されておりますベートーベンの交響曲(ただし7番ではなく3番)を聞いて非常に気に入り、最近はどっぷりとはまっております。

    幻想はこの記事を見て購入しました。いい演奏ですね。マッケラスといえばモーツアルトやベートーベンに代表されるように快速で推進力が売りかと思っていましたが、これはどちらかというと遅めで、こんな演奏もするんだーと思いました。

    マッケラスはまだまだ名演がありますので今後も取り上げて下さい。楽しみにしています。 削除

    [ torque_may ]

    2011/8/7(日) 午後 11:06

    返信する
  • torque_mayさん>
    コメント及びご訪問、誠にありがとうございました。
    マッケラス先生がお好きとのこと、良いですね(^^)
    しかも、私のこの記事を参照されて『幻想』をお聞きになられたとは、また恐縮の極みです…滅多なこと書けないな、こりゃ(^^;

    それはそうと、この演奏は本当に素晴らしいですね。私はこの演奏のお陰で今の自分の『幻想感』が出来上がったと言っても過言ではないくらい、大きな影響を受けた演奏です。

    他の記事が忙しくて最近はまたレビューが疎かになり、また、マッケラス先生の財産にもなかなか触れられなくて申し訳ありませんが、是非また取り上げますのでこれに懲りず、またいらして下さい。

    [ サヴァリッシュ ]

    2011/8/9(火) 午前 6:41

    返信する

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