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早いもので、2年半のうちに5万アクセスを突破してしまいました。ブログを始めた当初はまさか自分のブログがこんなにもアクセスされるとは思ってもおりませんでした。毎度の謝辞で恐縮ですが、ありがとうございます。そして、10万、20万アクセスを目指してこれからも頑張りますので、応援宜しくお願い申し上げます。
さて、区切りの良い記念の回に何を取り上げようかと迷いましたが、やはりここは歴史的な名演を取り上げるのが相応しいだろうと思いまして、カルロス・クライバー指揮するバイエルン国立管弦楽団が1982年5月3日にミュンヘンで行ったベーム追悼演奏会でのベートーヴェンの交響曲第7番のライヴ録音を取り上げます。この日の前プロは同じくクライバーが得意中の得意としていたベートーヴェンの4番であり、こちらはリリースされてから常に世界中に衝撃を与え続けている名盤中の名盤。従って、メインの7番も世界中から発売が待望されていました。なお、4番の方は『プリンツレゲンテン劇場改修基金』のためのチャリティー目的であったため、慎重なクライバーもOKを出したとされています。7番はSACDフォーマットでありながらCDフォーマットの4番に比べるとノイズが多く聞きづらい部分があるように私には感じられますけれども、逆に言うともしかしたら音質が良過ぎて会場のノイズを満遍なく拾っているからかも知れません。 極端にレパートリーを限定してきたクライバーにとって、この曲と4番ほど自らの表現したいものが100%出し尽くせた曲は他になかったのではないかと思えるほどに、正に『クライバーのための音楽』であると断言して良いでしょう。フルトヴェングラーの戦時中のライヴ録音と、以前ご紹介差し上げたバレンボイムの『ベルリンの壁ライヴ』以外に、私はクライバーのこの曲の一連の演奏に太刀打ち出来る演奏を思い付きません。そのクライバーの『限定レパートリー』を眺めてみますと、ベートーヴェンでは4〜7番、モーツアルトでは33番と36番、シューベルトでは3番と8番、ブラームスでは2番と4番、(どういうわけか)ボロディンの2番が交響曲のメインレパートリーになっていました。その他、(これもどういうわけか)リヒテルとのドヴォルザークのピアノ協奏曲、一連のウインナワルツ・ポルカ、オペラでは魔弾の射手、椿姫、トリスタンとイゾルデ、カルメン、こうもり、ばらの騎士、辺りが正式に録音として残されていますね。録音が正式にリリースされていないものには、驚愕、英雄の生涯、オテロ、ボエーム等があります。これらの曲には共通項が全くありませんので、完全に『自分の共感出来るもの』と言う以外に説明がつかないものばかりです。その中でも十八番中の十八番であるベートーヴェンの4番と7番をベームの追悼公演で取り上げたクライバーの意気込み、やはり納得せざるを得ないですね。 先週今週とBSでクライバーの特集をやっていたのでご覧になられた方も多いかと思いますが、こちらは1986年の同じオケとの昭和女子大人見記念講堂での伝説の来日ライヴの模様が放映されていました。映像が古いのは今から25年も前の話ですから仕方ないですが、演奏はホントに素晴らしかったですね。長い腕から繰り出される、決して一所に留まらない、常に変化し続けるしなやかな右手の棒捌き。アンサンブルを極限まで引き出してみせる左手の『煽り』。それでいて、崩壊する直前で踏み止まり、優雅さとセクシーさを漂わせる男の色香。いずれもクライバー独自の世界であり、レパートリーの拡張を許さない独特の極めて狭い『クライバー・ワールド』の真骨頂でした。クライバーの同曲の録音は私が知る限り、DGへのデビュー録音(ウィーン・フィル)、当盤、フィリップスの映像(コンセルトヘボウ管)、エクスクルーシヴ盤(ウィーン・フィル。海賊盤)の4種がありますが、いずれをお聞きになられても、非常に高いレベルでの感銘が得られるのは必至ですが、やはりライヴならではの即興性の強さと、ライヴ音源の中でも一般的に最も入手しやすいであろうと思われるため、当盤を取り上げるに至った次第です。エクスクルーシヴ盤は1983年のウィーン・フィルとのライヴということで、本来はこちらを取り上げてDGのスタジオ録音と聞き比べてみたかったのですが… 第1楽章演奏前に拍手が収められていますが、クライバー登場すると大きな歓声があちこちから聞こえます。前プロの4番の名演の後ですから、これからどんな凄い演奏になるのか全く分からない、ということへの期待の表れでしょう。その第1楽章『ポーコ・ソステヌート〜ヴィヴァーチェ』における冒頭、トゥッティによる和音強奏から幾分速めにオーボエ、クラリネット、ホルン、フルートへと受け継がれていく部分のしなやかさからして、独特の音楽が積み上げられていきます。特に弦楽器の強靭な合奏はお見事で、普段は少し硬めであまり耳が行くことのないバイエルン国立管の弦楽セクションが、これほどまでに魅力的に聞こえるのは稀有なことと思います。一つ一つの楽句に匂い立つ雰囲気が漂い、あの見る者全てを魅了するスマイルと究極のバトンテクニックがオーケストラに魔法をかけて、天上の楽園に舞い踊る妖精のよう。序奏終盤、2分前後からの一時的な盛り上がりの箇所がまた独特で、通常は『矯めて』作られる弾力と推進力がクライバーの場合は特に何もしていないかのように生み出されていくため、主部の『歓喜の爆発』に向けての大きなうねりが作り出されていきます。何もしていないのではなくて、ダイナミックレンジの巧みな操作でそれを可能にしてしまうのですから、恐るべし!3分8秒の全合奏による頂点の和音から鋭いリズムが叩き込まれながら一気に静寂の世界へと移行し、3分49秒からの主部開始における木管のアンサンブルが実にしなやかで軽やかなのはもちろんですけれども、キリっと引き締まった弦楽器が加わってからは明らかに空気が一変、一気に盛り上がって4分14秒からのトゥッティによる第一主題へと雪崩れ込みます。この箇所はいつ聞いても鳥肌が立ちますね。やはりバイエルン国立管の弦楽セクションの、ウィーン・フィルやコンセルトヘボウほどには甘口になり過ぎない、しかしながら極限にまで引き出された魅力的な音色に依るところが大きいでしょう。その後も繊細なピアニッシモと生命感に溢れるフォルティッシモとの間の巧みな音量操作と天性のリズム感によって畳み掛けるようなインテンポを貫き、あたかも『火の玉』の如く終結まで一気に持っていく手腕は、正にこの指揮者の偉大な才能を示して余すところがありません。10分ちょうどから始まるコーダの圧倒的な高揚感はクライバーの真骨頂である『煽り』が見事に決まり、主部のトゥッティ同様、一流オーケストラが本気かつ一丸となった結果として極めて強い感銘が与えられること必至!
第2楽章
そうかと言えば、クライバーの特質は陽性の音楽にのみあるわけではありません。次の第2楽章『アレグレット』の叙情性も魅力的。他の演奏に比べると中庸かやや速めのテンポ設定ではありますが、十二分に歌い、繊細で丁寧な音楽作りが印象的。この楽章でもやはり主役は弦楽器であり、特に伴奏音型を含めた低弦の豊かな歌い回しには傾注すべき点が多々見受けられます。第一主題が少しずつ全体に派生していき、2分過ぎでヴァイオリンによって目一杯歌われる箇所に向けて、音量の高まりと共に若干テンポを速めて感情の昂りを表現するのはクライバーのロマンティストとしての面目躍如でしょう。2分47秒からの明るい第二主題に入る直前でのテンポの緩め方が絶妙と言う以外になく、思い切った場面転換を図るのも流石と思わせますね(コンセルトヘボウとのライヴではここまでテンポを緩めていない)。ここでのクラリネットの音色がまた優雅の極み、ウィーン・フィルもかくやと思わせるほど美しいの一語に尽きます。そして、ラストは逆に余韻を残すように静かに消え入る表現ではなく、テンポを緩めることなくピッツィカートも大きめのボリュームで奏させているのが印象的。
第3楽章
『プレスト』の表記が与えられた第3楽章はスケルツォは、前のめりに畳み掛けるリズム感が見事に曲想にマッチ。特に1拍目に付されたアクセントが強烈で、中間部のトリオと鮮明な対比を成しています。テンポ設定も極限に近く、特に弦楽器を中心にアンサンブルが崩壊寸前まで行っている箇所も散見され、完璧な演奏とは言いませんが全体から見れば些細なもので、この演奏の価値をいささかも減じることはないでしょう。むしろ、ライヴでここまでのパフォーマンスを見せるのは驚異的と言う以外にありません。ともかく、第1楽章同様にオーケストラのメンバーが必死になってカルロスの棒に食らいついていく様が感動的です。2分12秒からのトリオはグッとテンポを落として対照的にゆったりとスケール豊かに歌われており、トゥッティにおける音量の凄まじさ、ティンパニの轟音、どこまでも遠くへ行ってしまいそうな弦楽器の伸びやかさは、今回のために聞き比べた他の演奏と比しても最上級です。
第4楽章
さて、この超絶的な名演の中でもフィナーレの『アレグロ・コン・ブリオ』は音楽が持つ無限の力を知らしめる特別な音楽と言えるのではないでしょうか。恐らく、クライバー自身仮にこの楽章だけをコンサートで取り上げたとして、これほどの熱い音楽が奏でられたかどうか。1から積み上げられた結果としての高揚感と言う以外に説明がつきますまい。やはり音楽の流れというのはとても重要ですね。それを嫌というほど思い知らされます。スケルツォからほぼ間を置かずに導入される冒頭の和音から気合いが漲り、全体が終結部に向けての大きなクレッシェンドのように高揚していくのですから、その集中力たるや想像するに余りあります。ヴァイオリンに頻発する細かいフレーズは、クライバーのあの象徴的な左手の『旋回』によってこれ以上ないほどの生命が吹き込まれており、恐らく終演後のメンバーは左手がつってしまった方もおられたのてはないでしょうか。ともかく、全編に渡ってクレッシェンドに向けて速度が速められるために、興奮がいやが上にも高められることは間違いありません。51秒からの特徴的な『階段を上るような』フレーズも引き締まったリズムが印象的。また、第二主題の後にトゥッティで奏される第一主題の派生音型の箇所(1分30秒前後)は、圧倒的なスピード感と迫力に毎回目眩を覚えるほど。3分前後でフルートに出てくる第一主題のメロディが付点音型ではなくて3連符になっているのは有名で、明らかにフルート奏者のミスでしょうね。5分15秒辺りからラストに至るまでは更に圧巻で、『黙って聞いてなさい』と申し上げる以外にないのですが、テンポは速まる、金管を含めた各パートは凄まじい音量で空間一杯に広がるはで、ノリノリのクライバーの指揮姿が眼前に浮かぶかのよう。ラストの和音がビシッと決まった瞬間、呆然とした聴衆のパラパラとした拍手が一気にブラーヴォの大歓声に包まれるこの異様な光景にこそ、この演奏が『世紀の名演』たる所以が凝集されていると言えましょう。 総括
HMVのレビュー等を見ると音質面、解釈の深み不足、オーケストラのコンディション等で賛否両論あるようですが、私は一期一会の記録としての当盤の価値を高く評価しています。ウィーン・フィルとのエクスクルーシヴ盤と並んで、クライバーの芸術を語る上で決して欠くことの出来ない超絶的な名演として、長く語り継がれることでしょう。
詳細タイミングベートーヴェン:交響曲第7番イ長調作品92
オススメ度解釈:★★★★★
オーケストラの技量:★★★★☆ アンサンブル:★★★☆☆ ライヴ度:★★★★★ 総合:★★★★★ 録音データ
カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団1982年5月3日ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場(ライヴ)
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