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現状、毎日のライヴ放送予定をチェック出来ないため、当面はネット音源のご紹介にフォーカスします。

書庫殿堂入りの名盤(ベートーヴェン)

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早いもので、2年半のうちに5万アクセスを突破してしまいました。ブログを始めた当初はまさか自分のブログがこんなにもアクセスされるとは思ってもおりませんでした。毎度の謝辞で恐縮ですが、ありがとうございます。そして、10万、20万アクセスを目指してこれからも頑張りますので、応援宜しくお願い申し上げます。

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さて、区切りの良い記念の回に何を取り上げようかと迷いましたが、やはりここは歴史的な名演を取り上げるのが相応しいだろうと思いまして、カルロス・クライバー指揮するバイエルン国立管弦楽団が1982年5月3日にミュンヘンで行ったベーム追悼演奏会でのベートーヴェン交響曲第7番のライヴ録音を取り上げます。この日の前プロは同じくクライバーが得意中の得意としていたベートーヴェンの4番であり、こちらはリリースされてから常に世界中に衝撃を与え続けている名盤中の名盤。従って、メインの7番も世界中から発売が待望されていました。なお、4番の方は『プリンツレゲンテン劇場改修基金』のためのチャリティー目的であったため、慎重なクライバーもOKを出したとされています。7番はSACDフォーマットでありながらCDフォーマットの4番に比べるとノイズが多く聞きづらい部分があるように私には感じられますけれども、逆に言うともしかしたら音質が良過ぎて会場のノイズを満遍なく拾っているからかも知れません。

極端にレパートリーを限定してきたクライバーにとって、この曲と4番ほど自らの表現したいものが100%出し尽くせた曲は他になかったのではないかと思えるほどに、正に『クライバーのための音楽』であると断言して良いでしょう。フルトヴェングラーの戦時中のライヴ録音と、以前ご紹介差し上げたバレンボイムの『ベルリンの壁ライヴ』以外に、私はクライバーのこの曲の一連の演奏に太刀打ち出来る演奏を思い付きません。そのクライバーの『限定レパートリー』を眺めてみますと、ベートーヴェンでは4〜7番、モーツアルトでは33番と36番、シューベルトでは3番と8番、ブラームスでは2番と4番、(どういうわけか)ボロディンの2番が交響曲のメインレパートリーになっていました。その他、(これもどういうわけか)リヒテルとのドヴォルザークのピアノ協奏曲、一連のウインナワルツ・ポルカ、オペラでは魔弾の射手、椿姫、トリスタンとイゾルデ、カルメン、こうもり、ばらの騎士、辺りが正式に録音として残されていますね。録音が正式にリリースされていないものには、驚愕、英雄の生涯、オテロ、ボエーム等があります。これらの曲には共通項が全くありませんので、完全に『自分の共感出来るもの』と言う以外に説明がつかないものばかりです。その中でも十八番中の十八番であるベートーヴェンの4番と7番をベームの追悼公演で取り上げたクライバーの意気込み、やはり納得せざるを得ないですね。

先週今週とBSでクライバーの特集をやっていたのでご覧になられた方も多いかと思いますが、こちらは1986年の同じオケとの昭和女子大人見記念講堂での伝説の来日ライヴの模様が放映されていました。映像が古いのは今から25年も前の話ですから仕方ないですが、演奏はホントに素晴らしかったですね。長い腕から繰り出される、決して一所に留まらない、常に変化し続けるしなやかな右手の棒捌き。アンサンブルを極限まで引き出してみせる左手の『煽り』。それでいて、崩壊する直前で踏み止まり、優雅さセクシーさを漂わせる男の色香。いずれもクライバー独自の世界であり、レパートリーの拡張を許さない独特の極めて狭い『クライバー・ワールド』の真骨頂でした。クライバーの同曲の録音は私が知る限り、DGへのデビュー録音(ウィーン・フィル)、当盤、フィリップスの映像(コンセルトヘボウ管)、エクスクルーシヴ盤(ウィーン・フィル。海賊盤)の4種がありますが、いずれをお聞きになられても、非常に高いレベルでの感銘が得られるのは必至ですが、やはりライヴならではの即興性の強さと、ライヴ音源の中でも一般的に最も入手しやすいであろうと思われるため、当盤を取り上げるに至った次第です。エクスクルーシヴ盤は1983年のウィーン・フィルとのライヴということで、本来はこちらを取り上げてDGのスタジオ録音と聞き比べてみたかったのですが…


第1楽章

演奏前に拍手が収められていますが、クライバー登場すると大きな歓声があちこちから聞こえます。前プロの4番の名演の後ですから、これからどんな凄い演奏になるのか全く分からない、ということへの期待の表れでしょう。その第1楽章『ポーコ・ソステヌート〜ヴィヴァーチェ』における冒頭、トゥッティによる和音強奏から幾分速めにオーボエ、クラリネット、ホルン、フルートへと受け継がれていく部分のしなやかさからして、独特の音楽が積み上げられていきます。特に弦楽器の強靭な合奏はお見事で、普段は少し硬めであまり耳が行くことのないバイエルン国立管の弦楽セクションが、これほどまでに魅力的に聞こえるのは稀有なことと思います。一つ一つの楽句に匂い立つ雰囲気が漂い、あの見る者全てを魅了するスマイルと究極のバトンテクニックがオーケストラに魔法をかけて、天上の楽園に舞い踊る妖精のよう。序奏終盤、2分前後からの一時的な盛り上がりの箇所がまた独特で、通常は『矯めて』作られる弾力と推進力がクライバーの場合は特に何もしていないかのように生み出されていくため、主部の『歓喜の爆発』に向けての大きなうねりが作り出されていきます。何もしていないのではなくて、ダイナミックレンジの巧みな操作でそれを可能にしてしまうのですから、恐るべし!3分8秒の全合奏による頂点の和音から鋭いリズムが叩き込まれながら一気に静寂の世界へと移行し、3分49秒からの主部開始における木管のアンサンブルが実にしなやかで軽やかなのはもちろんですけれども、キリっと引き締まった弦楽器が加わってからは明らかに空気が一変、一気に盛り上がって4分14秒からのトゥッティによる第一主題へと雪崩れ込みます。この箇所はいつ聞いても鳥肌が立ちますね。やはりバイエルン国立管の弦楽セクションの、ウィーン・フィルやコンセルトヘボウほどには甘口になり過ぎない、しかしながら極限にまで引き出された魅力的な音色に依るところが大きいでしょう。その後も繊細なピアニッシモと生命感に溢れるフォルティッシモとの間の巧みな音量操作と天性のリズム感によって畳み掛けるようなインテンポを貫き、あたかも『火の玉』の如く終結まで一気に持っていく手腕は、正にこの指揮者の偉大な才能を示して余すところがありません。10分ちょうどから始まるコーダの圧倒的な高揚感はクライバーの真骨頂である『煽り』が見事に決まり、主部のトゥッティ同様、一流オーケストラが本気かつ一丸となった結果として極めて強い感銘が与えられること必至!

第2楽章

そうかと言えば、クライバーの特質は陽性の音楽にのみあるわけではありません。次の第2楽章『アレグレット』の叙情性も魅力的。他の演奏に比べると中庸かやや速めのテンポ設定ではありますが、十二分に歌い、繊細で丁寧な音楽作りが印象的。この楽章でもやはり主役は弦楽器であり、特に伴奏音型を含めた低弦の豊かな歌い回しには傾注すべき点が多々見受けられます。第一主題が少しずつ全体に派生していき、2分過ぎでヴァイオリンによって目一杯歌われる箇所に向けて、音量の高まりと共に若干テンポを速めて感情の昂りを表現するのはクライバーのロマンティストとしての面目躍如でしょう。2分47秒からの明るい第二主題に入る直前でのテンポの緩め方が絶妙と言う以外になく、思い切った場面転換を図るのも流石と思わせますね(コンセルトヘボウとのライヴではここまでテンポを緩めていない)。ここでのクラリネットの音色がまた優雅の極み、ウィーン・フィルもかくやと思わせるほど美しいの一語に尽きます。そして、ラストは逆に余韻を残すように静かに消え入る表現ではなく、テンポを緩めることなくピッツィカートも大きめのボリュームで奏させているのが印象的。

第3楽章

『プレスト』の表記が与えられた第3楽章はスケルツォは、前のめりに畳み掛けるリズム感が見事に曲想にマッチ。特に1拍目に付されたアクセントが強烈で、中間部のトリオと鮮明な対比を成しています。テンポ設定も極限に近く、特に弦楽器を中心にアンサンブルが崩壊寸前まで行っている箇所も散見され、完璧な演奏とは言いませんが全体から見れば些細なもので、この演奏の価値をいささかも減じることはないでしょう。むしろ、ライヴでここまでのパフォーマンスを見せるのは驚異的と言う以外にありません。ともかく、第1楽章同様にオーケストラのメンバーが必死になってカルロスの棒に食らいついていく様が感動的です。2分12秒からのトリオはグッとテンポを落として対照的にゆったりとスケール豊かに歌われており、トゥッティにおける音量の凄まじさ、ティンパニの轟音、どこまでも遠くへ行ってしまいそうな弦楽器の伸びやかさは、今回のために聞き比べた他の演奏と比しても最上級です。

第4楽章

さて、この超絶的な名演の中でもフィナーレの『アレグロ・コン・ブリオ』は音楽が持つ無限の力を知らしめる特別な音楽と言えるのではないでしょうか。恐らく、クライバー自身仮にこの楽章だけをコンサートで取り上げたとして、これほどの熱い音楽が奏でられたかどうか。1から積み上げられた結果としての高揚感と言う以外に説明がつきますまい。やはり音楽の流れというのはとても重要ですね。それを嫌というほど思い知らされます。スケルツォからほぼ間を置かずに導入される冒頭の和音から気合いが漲り、全体が終結部に向けての大きなクレッシェンドのように高揚していくのですから、その集中力たるや想像するに余りあります。ヴァイオリンに頻発する細かいフレーズは、クライバーのあの象徴的な左手の『旋回』によってこれ以上ないほどの生命が吹き込まれており、恐らく終演後のメンバーは左手がつってしまった方もおられたのてはないでしょうか。ともかく、全編に渡ってクレッシェンドに向けて速度が速められるために、興奮がいやが上にも高められることは間違いありません。51秒からの特徴的な『階段を上るような』フレーズも引き締まったリズムが印象的。また、第二主題の後にトゥッティで奏される第一主題の派生音型の箇所(1分30秒前後)は、圧倒的なスピード感と迫力に毎回目眩を覚えるほど。3分前後でフルートに出てくる第一主題のメロディが付点音型ではなくて3連符になっているのは有名で、明らかにフルート奏者のミスでしょうね。5分15秒辺りからラストに至るまでは更に圧巻で、『黙って聞いてなさい』と申し上げる以外にないのですが、テンポは速まる、金管を含めた各パートは凄まじい音量で空間一杯に広がるはで、ノリノリのクライバーの指揮姿が眼前に浮かぶかのよう。ラストの和音がビシッと決まった瞬間、呆然とした聴衆のパラパラとした拍手が一気にブラーヴォの大歓声に包まれるこの異様な光景にこそ、この演奏が『世紀の名演』たる所以が凝集されていると言えましょう。


総括

HMVのレビュー等を見ると音質面、解釈の深み不足、オーケストラのコンディション等で賛否両論あるようですが、私は一期一会の記録としての当盤の価値を高く評価しています。ウィーン・フィルとのエクスクルーシヴ盤と並んで、クライバーの芸術を語る上で決して欠くことの出来ない超絶的な名演として、長く語り継がれることでしょう。


詳細タイミング

ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調作品92
第1楽章:11分29秒
第2楽章:8分29秒
第3楽章:8分23秒
第4楽章:7分42秒(うち拍手1分15秒)
合計:約34分

オススメ度

解釈:★★★★★
オーケストラの技量:★★★★☆
アンサンブル:★★★☆☆
ライヴ度:★★★★★
総合:★★★★★

録音データ

カルロス・クライバー指揮バイエルン国立管弦楽団
1982年5月3日ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場(ライヴ)


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さて、2周年の誕生日を迎えた当ブログでございますが、かつ3万アクセス突破&300本目の記念記事ということで最近続けて参りましたオーケストラのプログラムレビューは一時中断して、久し振りにCDレビューを書こうと思います。と申しますのも、実は書かずにはいられないある一枚の『超弩級の』名盤が、最近発売されたばかりだからでございます。今回ご紹介致しますのはイヴァン・フィッシャー指揮するブダペスト祝祭管弦楽団によるベートーヴェンの交響曲第4番と第6番『田園』です。素晴らしい名盤です。特に6番の方は『歴史的名盤』と呼んでも差し支えないでしょう。初めてこのディスクを耳にしたとき、得も言われぬ深い感銘を受けました。ここまでお読みになられてご興味を持たれた方、私のレビューは決して読まずに今からHMVのサイトに飛んで下さい(笑)
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というわけで、ここから先の文章をお読みになられているそこのあなた、『歴史的名盤』と書いたことに対して半信半疑でいらっしゃいますね?(笑)では、フィッシャーと彼の手兵ブダペスト祝祭管の簡単なプロフィール等を書いてみましょうか。フィッシャーは1951年ブダペスト生まれと紹介されておりますので、今年もう59歳を迎えます。ウィーン音楽院でハンス・スワロフスキーに指揮を学んだそうで、実兄のアダム、父シャーンドル、従兄弟ジェルジも指揮者という音楽一家です。83年にはブダペスト祝祭管を設立していますから、四半世紀以上もの間、このオーケストラのレベルアップに全てを尽力してきました。現在の指揮界にあっては極めて珍しい存在です。各地への客演も今までレビューしてきた中では名前殆ど見掛けず、このオーケストラへの比重がいかに高いかがお分かり頂けるでしょう。

このコンビでフィリップスに残されたバルトークの管弦楽曲全集は、コチシュによる同じバルトークのピアノ曲全集の偉業とともに歴史的な快挙と言えますが、この録音を例外とすれば、彼等はレパートリーを極めて慎重に厳選し、ゆっくりと歩みを進めているように見えます。特にチャンネル・クラシック移籍後は年に1枚出るか出ないかのゆっくりとしたペースでリリースが進められていて、ディスクの質も非常に高いレベルになっています。マーラー『復活』、『悲劇的』、4番、チャイコフスキー4番、ラフマニノフ2番、ベートーヴェン7番、ブラームス1番等。フィッシャーは手兵設立時のポリシーとして、オリジナルなオーケストラで世界トップの評価を得ることが目標、ということを語っていたとされていますが、グラモフォンの『世界のオーケストラランキング』でも上位に食い込む等、念願が達成されました。ちなみに、この『スーパー・オーケストラ』は2年に1回楽団員との契約更改があり、その高いレベルが保たれているとのこと。


前置きが長くなってしまいましたが、細部に入る前にこのディスク全般の特徴を書いてみたいと思います。まず、タイミング的には平均的なテンポと言えるのですが、全体的にズッシリとした手応えを感じさせること、ヴィヴラートを抑制することなくまた楽器編成も刈り込まれていないため、最近のピリオド奏法を取り入れた流行的な手法からは一線を画したアプローチであることが大きな特徴と言えるでしょう。ヴァイオリンは両翼配置です。彼のポリシーである『吟味して弾き込んだレパートリーしか録音しない』というこだわりが細部に至るまで徹底されていて、ただでさえ優秀なオーケストラが徹底的に磨き上げられた印象があり、フィッシャーの楽譜の読みも丁寧かつ深いもので、腕利きのパティシエが最高の食材と技術を使って、極上のスイーツを暖かいもてなしの心を込めて作り上げた、そんな印象を受ける演奏です。このオーケストラ久々に聞きましたけど、舌を巻くほどの腕達者ばかりでソリスティックな箇所でも全く危なげないばかりか、常に余裕と一歩踏み込んだ表現の深みを感じます。アンサンブルの精度は二大オーケストラと比べても遜色なく、腰の落ち着いたアプローチでありながらも響きの透明度が高いのも大きな特徴であり、『1回の演奏に全力を傾ける』的な真摯で熱い情熱が込められているという点では、二大オーケストラの演奏をも凌駕していると言えます。そして、このディスクを決定的な名盤とする最大の要因は、オーソドックスな解釈の中に時折織り込まれる大胆なフレージング、アーティキュレーションの素晴らしさにあります。既に読み尽くされた感のある名曲に新たな生命を吹き込んでいます。


では、簡単に細部の特徴を見てみましょう。

交響曲第4番:第1楽章


アダージョ』の序奏部分から集中力の高さが尋常ではなく、滲み渡るような弱音は非常に繊細で、ジックリと歌い上げられていきます。弦楽器が溶け合うハーモニーの透明度が抜群で、いわゆる『霧が晴れるような』といった表現とは対極にあります。2分30秒過ぎから音量を増し、2分55秒からの『アレグロ・ヴィヴァーチェ』の主部に至るブリッジの部分においても響きに濁りはなく、トゥッティによるフォルティッシモやティンパニの強打すら気品が感じられます。ヴィヴラートがたっぷりかけられレガートで流麗に歌われる第1ヴァイオリンの音色が美しく、対向配置された第2ヴァイオリンとの掛け合いを見事に捉えた録音が素晴らしい成果を上げています。弦楽器だけではなく、木管の技術や表情、しっとり艶やかな音色もまた魅力で、随所でハッと息を飲む素晴らしい瞬間が待ち受けています。

交響曲第4番:第2楽章


アダージョ』はより一層優雅に歌わせているのが最大の特徴であり、しかし歌謡性にのみフォーカスせずに、根底を流れるリズム感をとても大切にしているのが好ましく感じられます。この楽章の魅力的な第一主題が良く歌うのはもちろんですが、木管に主導権が移る箇所、例えば2分6秒からの第二主題を奏でるクラリネットは凜とした表情が言語を絶する美しさであり、それをサポートする弦楽器のリズム音型すら丁寧に歌われていく様は見事の一語。

交響曲第4番:第3楽章


次の『アレグロ・ヴィヴァーチェ』は平均より若干遅いテンポ設定によってリズム音型が更に明確に浮かび上がり、特に1分52秒から始まる実質的なスケルツォに対するトリオの部分では微妙にテンポを落として対比を際立たせ、メロディを歌う木管楽器のカンタービレと弦楽器の飛翔するかのようなリズム音型が鮮やかなコントラストを描き出しています。

交響曲第4番:第4楽章


アレグロ・マ・ノン・トロッポ』のフィナーレはヴァイオリンによる躍動感溢れる第一主題の乱れぬアンサンブルの素晴らしさ、オーボエの柔らかい音色で奏でられる第二主題までも生命感に満ち溢れ、このシンフォニーの革新的な側面にスポットライトが当てられています。この楽章においてもリズム音型がベースになっていて、良く歌う中に推進力が確保されているのがこのコンビらしいところです。ただし、圧倒的なスピード感とは無縁で終始アンサンブルに乱れはなく、常にテクニカルな余裕を感じさせるため、クライバーの名演を持ち出すと少し物足りないかも知れませんが…このスタイルによる演奏としては比類ない究極の姿と申し上げて良いでしょう。


交響曲第6番:第1楽章


『田園』の第1楽章は現代の演奏では平均的なテンポ設定であり、フィッシャーも特に変わったことはしてませんが、4番でも申し上げたように、冒頭から柔らかい音色にグッと引き込まれる弦楽器のアンサンブルは目を見張る美しさで、この楽章をより一層魅力的なものにしています。4番と少し違うのは、金管楽器が前面に出てきていることでしょうか。金管はある意味荘厳な印象を与えるために必要なパーツですが、これを浮かび上がらせるというのは、フィッシャーにこの曲から神々しさを引き出したいという意志の現れとも感じました。終盤に入っても特に目立ったテンポ変化はなく、曲の素晴らしさに全てを語らせるかの如くインテンポで曲を閉じるのがかえって新鮮な印象を与えますね。

交響曲第6番:第2楽章


第2楽章を聞いて、これほどまでに『小川のせせらぎ』の表情を美しく描き出した演奏が今まであっただろうか?という感想を持ちました。各パート、フレージング間の強弱バランスが絶妙で、弦楽器のトリルから木管のメロディに至るまで、この楽章の理想的な姿と言えるほどです。終盤の12分11秒に出てくるクラリネット、フルート、オーボエによる鳥達の語らいを模した掛け合いが、たっぷり取られた間合い、芳醇な音色ともに究極と言える美しさであることも特筆すべきでしょう。

交響曲第6番:第3楽章


第3楽章の舞曲調の音楽は、ハンガリーの風土に脈々と流れる民族音楽が彼等の音楽言語に染み込んでいるせいか、独特のテンポ感、リズム感、フレージング、アクセントの付け方等に存分な魅力を湛えています。ここでも弦楽器の伴奏音型が雄弁に語りかけてきますね。

交響曲第6番:第4楽章〜第5楽章


第4楽章の嵐の音楽は描写音楽の主観性は最大限排され、舞曲のようにも感じられるのが非常に新鮮です。フォルティッシモによる強奏での純度の高さは尋常ではなく、弦楽器のアンサンブル、ティンパニの強打ともに恐怖感や凄絶な印象を与えることがありません。そして、グッとテンポを落として歌われるブリッジ部分を経て、この演奏の最大の『仕掛け』が待つフィナーレへと移行します。『仕掛け』というのは冒頭部分、フルートからクラリネット、ホルンへと主題動機が引き継がれ、ヴァイオリンによる『自然への感謝の歌』とされる第一主題が歌われる場面。ここでフィッシャーは何と、これをヴァイオリンソロに担わせているのです!これには意表を突かれますし、楽譜の改変と言えなくもありませんが、あたかもスポットライトを浴びる名優の独白の如きソロヴァイオリンが静かに歌い出す感謝の歌は、言葉を失うほどに感動的。今後このスタイルによる演奏が主流となるのではないかと思えるほど。そして、気品を湛えた絶妙な音色と呼吸で随所に現れる金管楽器のフレーズが、この演奏の方向性を決定的なものとしています。聞き終えた後に溢れ出る感動は厳かなことこの上ありません。何という気品に満ち溢れた音楽なのでしょうか。


総括


ご覧頂きましたように、ただでさえ素晴らしい4番の名演に輪をかけて『田園』の演奏が素晴らしく、この名盤が後世に語り継がれるべき演奏であることを確信します。個人的にはワルター、モントゥ、ベーム、ジュリーニ等の名盤に比肩し得る名演として、強力に推薦致します。


詳細タイミング

ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調作品60
第1楽章:11分51秒
第2楽章:8分52秒
第3楽章:5分50秒
第4楽章:6分46秒
合計:約33分

ベートーヴェン:交響曲第6番へ長調作品68『田園』
第1楽章:11分52秒
第2楽章:13分38秒
第3楽章:5分
第4楽章:3分47秒
第5楽章:10分58秒
 合計:約45分

オススメ度

交響曲第4番
−解釈:★★★★☆
−オーケストラの技量:★★★★★
−アンサンブル:★★★★★
−ライヴ度:★★★★☆
−総合:★★★★☆

交響曲第6番
−解釈:★★★★★
−オーケストラの技量:★★★★★
−アンサンブル:★★★★★
−ライヴ度:★★★★☆
−総合:★★★★★★(敢えて6つ星を進呈!)


録音データ

イヴァン・フィッシャー指揮ブダペスト祝祭管弦楽団
2010年2月ブダペスト、芸術宮殿


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今回は恐らく初めてだったと思いますが、珍しく室内楽作品を取り上げてみたいと思います。初めての室内楽に何を取り上げようか迷ったんですが、大学生の頃に毎日のように親しんだアルバムがありまして、それが東京クヮルテットによるベートーヴェンの弦楽四重奏曲第12番でしたので、それを取り上げてみます。今はSONYに統合されてしまいましたが、以前RCAという玄人好みのアーティストがキラ星の如く揃っていた名レーベルがあり、そこの原盤になります。来月だったか再来月に彼等の最初のベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集がSONYから再発売される予定ですので、ご興味がある方は是非。

日本が世界に誇る名クヮルテットである東京クヮルテットは、正に今、フランスのハルモニア・ムンディに新しいベートーヴェン全集に取り組んでいる最中だったと思います。確か11番までリリース済みで、残すはいわゆる後期の傑作群。この新しい全集では若干メンバーが入れ代わりましたが、非常に味わい深い名演ばかりであり傾聴に値しますけれども、個人的には瑞々しさと若々しさ弾ける80年代後半に録音された旧全集も捨て難い魅力があると思ってます。

上でこの第12番の演奏に深い思い入れがあると書きましたが、実は私、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に親しみ始めたのは比較的遅い方でして、大学に入ってから手に入れた東京クヮルテットによる後期四重奏曲集が初めてでした。そのアルバムの一番最初に収録されていたのがこの第12番でして、大変お恥ずかしい話、『目覚まし時計』の代わりにコンポにタイマーを仕掛けて毎朝の目覚めの音楽にしていた次第です(苦笑)楽聖には大変失礼な話ですが、裏を返せば日常生活に密着させても全く違和感のない音楽、と言うことが出来ましょう。13番以降の作品は今でこそ愛聴曲になっていますが、当時はどうにも敷居が高く、いずれも目覚めの音楽には適さなかったのでありました。かようなわけで、この曲は私の体の中の一部と言っても良いくらいに、染み込んでいます(笑)もし、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲になかなか親しむことが出来ないという方がいらしたら、私みたいに12番を毎朝目覚まし代わりに流してみると良いでしょう。きっと身近なものに感じられるようになると思いますよ(笑)それはさておき、このベートーヴェンの12番目の弦楽四重奏曲は127という作品番号が与えられており、第九よりも後に出版されています。11番から14年の空白を経て1825年に完成されました。従って、この作品以降のベートーヴェンの深遠な精神世界を表出する最初の作品ということで、後期弦楽四重奏曲群の『入口』と見なされています。『マエストーソ〜アレグロ』、『アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ』、『スケルツァンド・ヴィヴァーチェ〜プレスト』、『速度指定なし(通常はプレストまたはアレグロで演奏される)』の4楽章から成り、第2楽章ではこの時期の作品に顕著な変奏曲形式で書かれています。そして、ベートーヴェンに象徴的な変ホ長調で書かれていることも大きな特徴の一つ。

東京クヮルテットは1969年、ジュリアード音楽院において結成され、創設当初のメンバーである原田幸一郎さん、名倉淑子さん、磯村和英さん、原田禎夫さんは桐朋学園の斎藤秀雄先生の門下生だったそうです。コールマン・コンクール、ミュンヘン国際音楽コンクール等で優勝。94年の世界ツアー中に設立25周年を記念してベートーヴェンの全曲演奏に挑み、並行して録音されたのがこの全集というわけです。2003年には活動の拠点をニューヨークに移し、現在はマーティン・ビーヴァー、池田菊衛さん、磯村和英さん、クライヴ・グリーンスミスの4名によって活動中のようで、日本音楽財団によって無償貸与されたストラディヴァリウス、『パガニーニ・カルテット』を使用しているとのこと。


第1楽章

それでは細部を見てみることにしましょう。第1楽章は『マエストーソ』による和音提示から、それと分からないほどにさりげなくスッと、主部の『アレグロ』に移行する箇所が非常に魅力的。普通は変ホ長調の和音が威厳を湛えて堂々たる『マエストーソ』で演奏されるものが多いですが、この演奏では続く第一主題に記載された『優しく、美しく』という指示に大きなウエイトを置き、決して鋭いアクセントを置かずに、ここに書かれた重音の持つ意味を表面的ではなく実に深い部分で捉えていて、何とも言えない優しさと暖かさに満ちた和音であるのが堪らない魅力。録音当時第1ヴァイオリンを務めていたピーター・ウンジャンの柔らかいトリルが速まり、25秒からの第一主題に流れていく箇所の噛んで含めるような『語りかけ』の表情は近年のこの曲の演奏でも出色の出来栄えと言えるでしょう。43秒からのトゥッティでは軽やかな付点音符の処理が見事な躍動感と推進力を生み出し、まるでモーツアルトを聞いているような愉悦感を引き出していますね。1分6秒からのト短調による第二主題においても重々しさは皆無で、4人の美しいヴィヴラートから繰り出される美音が実に優雅で柔らかい気品を漂わせています。後半でクローズアップすべきは2箇所、まずは4分25秒からヴィオラに現れる第一主題が力強いチェロと第2ヴァイオリンの伴奏に乗って第1ヴァイオリンに受け継がれ発展する部分。そして5分25秒と5分30秒で二度、変ホの和音が『英雄』のように鳴り響く部分。両者のシンフォニックな響きは正にこれぞベートーヴェンと言いたくなるような充実感に溢れています。ラストにかけての第1ヴァイオリンのどこまでも飛翔するような伸びやかな美音にも注目です。

第2楽章

続く変奏曲形式の第2楽章は約15分を要し、全曲でも突出して長い音楽。ベートーヴェンが言いたかったことの全てがこの楽章に凝縮されていると言っても過言ではない充実した音楽ですね。ベートーヴェンは第九の第3楽章、英雄の第4楽章、運命の第2楽章、ディアベッリ変奏曲、ピアノ・ソナタ第30&32番等の例を持ち出すまでもなく変奏曲の達人。この楽章の主題も『カンタービレ』という指示に込められた意図が、ベートーヴェンの作品の中でも取り分け美しいメロディを書かせました。強弱の起伏は少なく、しかしながら流麗な曲線に彩られた静謐な祈りの音楽。恐らくこれがコーラスで書かれていたなら、ベートーヴェン晩年の屈指の傑作として讃えられていたのではないかと思われるほどに、宗教的な色合いの濃さをも感じさせる名曲です。第1楽章同様、ここでも東京カルテットのメンバー個々の歌心とテクニックが高い次元で融合しており、たっぷりとかけられたヴィヴラートが織り成す柔らかい層が、しなやかで滑らかな曲線美を描いていきます。主題提示と長大な第一変奏の後、5分1秒から『アンダンテ・コン・モート』の第二変奏に入りますが、ここでのヴァイオリンのチャーミングな表情と、チェロを含めたトゥッティでの力強い強奏との対比が見事。6分44秒からは『アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォ』となり、その後の8分52秒からの『アダージョ』の第4変奏とともに変奏としては主題からかなり離れた姿となっていますが、この楽章での白眉と言える箇所。緩やかな流れの中にも最も感情の起伏に富む音楽が書かれていて、その曲調に沿ったスケールの大きな表情が抜群!緩やかに奏される部分での豊かなカンタービレ、フォルティッシモで弾かれる部分は圧倒的な音圧であり、その内面から沸き上がる『叫び』のようなハーモニーが強く胸を打ちます。11分39秒からは最後の第5変奏に入り、再び静謐で厳かな瞑想の音楽へと入っていきます。ここでも全体が溶け合うハーモニーの充実と、やはりウンジャンの第1ヴァイオリンパートが秀逸であり、その柔らかく透き通っていながらも瑞々しさを失わないの音色が強く心に染み渡る感動的な名演です。

第3楽章

第3楽章は『スケルツァンド・ヴィヴァーチェ〜プレスト』のスケルツォ楽章ですが、他の曲で設けられたスケルツォのように短くて軽いウエイトではありません。第2楽章に次いで演奏時間を要し、付点のリズムや前打音の多用、各声部の絡みも非常に複雑であり、地味ですがとても難しいアンサンブルが求められると思います。特に短い音符と長い音符が交互に入り乱れる箇所は、当時の曲としては異例の雰囲気を醸し出しており、初演での評判が芳しくなかったのは単に演奏団体の練習不足だけでなく、やはり時代を超越した難しさにあったのだと思います。曲は冒頭からいきなりピッツィカートが4音勢い良く弾かれて始まり、チェロが付点音符で作られた第一主題を奏でます。このテーマを提示するチェロが素晴らしく力の抜けた演奏であり、リズム処理をベースとしたこの楽章全体の性格を決定づけることに成功していますね。この楽章でずば抜けて面白いのが1分17秒からの第二主題。この、各パートが断片的なフレーズを順番に弾いて掛け合いながら構成されるベートーヴェンの意欲的な作風が反映された個性的な主題ですが、RCAの優秀な録音も手伝って東京クヮルテットの息の合った緊密なアンサンブルが、息もつかせぬ見事な演奏を聞かせてくれます。そして、時折リタルダンドしたり大きな間が置かれていたりと、第二主題同様ベートーヴェンのかなり複雑で実験的な技法を、極めて明快に解き明かした名演と言えます。

第4楽章

そして、速度指定はありませんが速めのテンポで演奏されるフィナーレにおいて、東京クヮルテットの面々が設定したテンポは正に理想的と言えるもの。冒頭の力強いユニゾンの後に提示される、春の爽やかな青空の下吹き抜けていくそよ風のような第一主題。この、非常にシンプルでありながら躍動感と鮮やかな色彩を感じさせる見事な第一主題は、やはりこのクヮルテットをリードするウンジャンの素晴らしい第1ヴァイオリンによって克明に再現されていると言えます。どこまでも飛翔するかのような伸びやかな音色。こんな音でヴァイオリンが弾けたらさぞかし気持ち良いでしょうね。対照的に59秒からの第二主題はマーチ調あるいはジプシー音楽を思わせるような民謡調のリズムがベースとなっており、ヴァイオリンの鋭い前打音も素晴らしいリズム感を示していますが、チェロが繰り出す力強い『ジャンジャン、ジャーン』というリズム音型が、見事にアンサンブルを支えています。1分49秒からの展開部はベートーヴェンの主題展開技法の粋が結集されたかのような、短いですが大変密度の濃い音楽が展開されていきます。特にトゥッティで聞かれる、弦楽器4挺のみで弾いているとは思えない、充実した宇宙的な広がりを見せるスケールの大きな響きの厚みが素晴らしい。彩りを変えて再現されるテーマを経て、4分40秒からのコーダに入ります。コーダ直前で一度テンポが落とされ、ヴァイオリンのトリルをはじめとして徐々に断片が速度を速めながら各パートに現れ、大きく高揚して力強く全曲を締め括ります。


総括

半分くらい曲の解説になってしまいましたが(笑)、再三申し上げているようにベートーヴェン晩年の中身の濃い作品群の入口として書かれたこの第12番のクヮルテット、他のタイトルつきの作品に比べて地味ではありますが、広く皆さんに知って頂きたい名曲であります。東京クヮルテットの旧全集がお得な価格で再発売されるようですので、これを機に彼等の見事なアンサンブルに耳を傾けてみるのも良いでしょう。聞けば聞くほどベートーヴェンの深い精神世界にハマっていくことを、私が保証致します(笑)
知らないうちにこのブログも20000アクセスを超えました(ただし、半数は業者のアクセスと思いますが(苦笑))。昨年、10000アクセスを超えたときには2周年を迎える前に20000アクセスを超えるとは思っておりませんでしたので、皆さんの多大なるご支援に深く感謝申し上げます。これからも引き続き暖かいご支援を、何卒宜しくお願い申し上げます。

さて、やはり記念の記事にはベートーヴェン、しかも第九ということで、今回はクラウディオ・アバド(アッバード)指揮によるウィーン・フィルの、80年代後半に収録されたベートーヴェンの交響曲全集の中からご紹介させて頂きます。確か、今は全集の形ではなく単売で入手可能だったと思います。このアバド盤、実は私の盤歴の中でもごく初期のアイテムでして第九の『コレクター』となるきっかけになったものです。第九の録音を初めて買ったのは、忘れもしない『名古屋は栄のど真ん中』にあるトップカメラというところで(名古屋以外の方、ごめんなさい(笑))手に入れた、フルトヴェングラーのCDでした。しかも、バイロイトの第九ではなくて、1951年にウィーンで録音されたもの。イタリアのチェトラから発売されていたものをキングレコードが国内仕様にプレスしたものでした。この録音についてはまた機会を改めますが、フルトヴェングラー信者の方には大変申し訳ないんですが、この音源はモノラル録音であることを差し引いてもその貧弱な音質は褒められたものではなく、当時は『これのどこが凄い演奏なんだろうか?ホントに第九は名曲なのか?』というのが、率直な感想でした。そこで、同じ時期(確か高校1年のときだったんじゃないかと思います)に全集のツィクルスが始まったアバドの演奏がレコ芸で次々と『特選』を獲得するのを見て、『これを集めてみようかな』と思ったのが本盤との運命的な出会いであります。

アバドにとってもベートーヴェンはライフワークと言って良く、このウィーン・フィルとの録音を含め既に3度の全集を全てライヴ収録しています。その他正規録音としては、ウィーン・フィルとのデビュー盤となった、若かりし頃の颯爽たる名盤である7&8番、ベーレンライター版を採用して物議を醸し出したベルリン・フィルとの第九がありましたね。いずれもベートーヴェンの演奏史上決して無視出来ない名演ばかりですが、年を経て解釈は大きく変化し、後年になるほどオーセンティックな演奏となり、物理的な演奏時間も速くキリッと引き締まった演奏になっています。従って、一番古いこの80年代のものと一番新しい2000年代のものとを比べると全くの別物と言えるほどですね。『どっちが本当のアバドなの?』と思われた方も多いと思いますが、答えは『どっちも本当のアバドです』が正解でしょう(笑)。オーケストラも世界最高峰の『二強』との共演ですから悪かろうはずがなく、どちらがより皆さんにフィットするかは好みの問題でしかありません。

ベルリン・フィルとの新しい2つの全集ですが(第九のみ同一音源)、最初に聞いたときは今ひとつピンと来ませんでした。しかし、ローマのライヴを映像収録したDVD、私はごく最近ようやく手に入れたのですが、これを見ると物凄く白熱した大変な名演奏であることが分かり、再びCDを聞き込んでみると…やはり素晴らしい名演でありました。演奏活動という芸術は視覚的な要素も疎かにしてはならないという、非常に考えさせられる経験をした次第。私は自分の耳しか信じていませんが、聞かずしてNGを出すのは極力控えるように自分を戒めるようにしています。そして、これだけは強調しておきたいんですが、過去ウィーンとベルリンの両フィルハーモニーとベートーヴェンの全集を録音した指揮者は、私が知る限り皆無だと思います。アバドについては巷間様々な評価がありますが、過去の巨匠達が成し得なかったこの一事をもってしても、彼が歴史に名を刻むにいかに相応しい存在であるかがお分かり頂けるでしょう。


第1楽章

それではまず第1楽章『アレグロ・ノン・トロッポ・ウン・ポーコ・マエストーソ』ですけれども、冒頭の空虚5度の和音と弦楽器による下降音型からこの上なく柔らかいハーモニーに、正しく『これぞウィーン・フィル!』としか言いようがない魅惑的な響きが聞こえてきます。33秒で姿を現す第一主題も、金管が良く鳴っていて極めて力強い中にも独特のカンタービレが込められて暖かさすら感じられるほど。アバドが設定したテンポはこの楽章に約17分をかけており、ゆったりしたテンポから繰り出されるスケールの大きな表現が曲の巨大な姿を見事に表していて感動的です。脈々と築き上げられた伝統に則った『正統派の』解釈にカンタービレを注ぎ込む独自の解釈を試みていると思われ、この『聖典』と真正面から対峙する並々ならぬ決意と真摯な姿勢が感じられましょう。この独特の歌謡性と伝統との見事な融合の一例が、2分21秒から始めにフルートによって導入され展開されていく第二主題部と言えるのではないでしょうか。クラリネットから弦楽器に受け継がれていく箇所等は、鳥肌ものの美しさであります。展開部においては、木管のアンサンブルによる第一主題の動機が歌われてリタルダンドした後、6分19秒から弦楽器によって同じフレーズが歌われる部分において、切ないまでの悲しみの表情が感じられるのを聞き逃してはなりません。9分23秒、トゥッティによる巨大な第一主題の再現部分でティンパニの強奏をはじめとする重量感溢れる響きの厚みと直後の柔らかい第二主題の回帰との対比も、実に見事なものです。木管のフレーズの大きなリタルダンドが印象的なブリッジ部分を経て、15分53秒からのコーダがまた素晴らしく、ジワジワと沸き上がるような弱音からのクレッシェンドと、どこまでも伸びやかに突き抜けるようなフォルティッシモが鮮やかなクライマックスを描きます。

第2楽章

第2楽章の『モルト・ヴィヴァーチェ』のスケルツォにおいてもアバドの解釈は一貫しており、カンタービレを注入するに相応しいウィーン・フィルの美音を生かし切っていると言えます。比較的ゆったりしたテンポが採られ、特に弦楽器に顕著な(この楽章の演奏では稀な)美しいとさえ言えるレガートとカンタービレが全体の流れを幾分妨げる印象を与えますが、軽やかでしなやかな弦楽合奏が見せる得も言われぬ美しさは他に代え難い魅力。要所を締めるティンパニの強打はインパクト抜群、流麗な弦楽合奏を中心にトゥッティでも常にしなやかさを失わないため、決して重たい印象にはなりません。この流麗な美しさは、特に7分30秒からのトリオの部分において最大限の効果を発揮しており、速めのテンポで実に良く歌われ各パートのフレーズが次から次へと流れていくのが大変心地良く感じられます。このトリオを聞いた後にスケルツォが回帰して初めて、アバドが言いたかったことが分かるでしょう。

第3楽章

アバドの歌心とウィーン・フィルの共同作業による最大の成果は、次の第3楽章『アダージョ・モルト・エ・カンタービレ』に凝縮されています。冒頭のファゴット→クラリネットのアンサンブル、そこにレガートを駆使した最強の弦楽セクションが重なりジワジワと広がって作り出される『瞑想の湖』は、私が今まで聞いたこの楽章の演奏中、最も美しい演奏であると断言します。自然と涙が滲む演奏は今のところこのアバドとムーティの演奏しかありません。同じウィーン・フィルの演奏でも、バーンスタインやラトルはもちろん、フルトヴェングラーの演奏ですら、このような感覚を味わうことが出来ませんでした。ただ歌に溢れているというだけでなく、誰もいない静かな湖畔に佇み、ただその美しい景色を眺めているだけで自然の美しさのみが持ち得るパワーによって満たされていく…そんな幸福な瞬間のみによって、この演奏は成り立っているのです。そういう意味では、正に瞑想の音楽と言えるのではないでしょうか。後半のホルンのファンファーレ以降も『黄金の』ムジークフェラインザールが一段と光り輝くような神々しさの限りを尽くし、全てが素晴らしく特筆すべき箇所はありません。超名演です。

第4楽章

アバドの歌心に満ちたカンタービレがオペラをベースとしていることを改めて感じさせるのが、続く第4楽章であることは言うまでもありませんね。ウィーン・フィルも国立歌劇場での数限りない場数を踏んだ伴奏経験が威力を発揮しているのは疑いなく、アバドのそのドラマティックな構成の素晴らしさが見事に音として結実しています。この辺が実際のオペラハウスでの実績に劣るラトルとの決定的な違いと言えるでしょう。冒頭のレチタティーヴォから、木管・金管・ティンパニの凄まじい迫力と、圧倒的な音圧で迫る低弦の重量感は抜群。特に鉈のように切れ込んでくるチェロ・バスのザクザクとした音色はカンタービレを身上とするアバドのしなやかさからは一変、我々の心にヅカヅカと入り込んでくるような真実味溢れる表現に驚かされます。そして、満を持して登場する2分50秒からの『歓喜の主題』。アバドはボリュームを上げないと聞こえないほどのピアニッシモで、繊細さと抜群の集中力によって導入。これが絶妙なクレッシェンドとデクレッシェンドによって自然な呼吸を繰り返して、ヴィオラ→ヴァイオリンへと受け継がれていき、壮麗なトゥッティに至ります。特にヴァイオリンが滑り込んでくる部分の、低弦との絡みの美しさには唖然とさせられますね…このトゥッティに至っての壮麗な祝祭の雰囲気の盛り上げ方にも、アバドの類い稀な才能を感じさせられます。6分29秒からのバリトン独唱では、あのヘルマン・プライの名唱が刻み込まれています。確かプライが第九を歌った正規音源は他になかったように記憶していますが、あの独特の明るさと甘さ、男性のセクシーな魅力漂う美声には文句のつけようがありません。この演奏ではプライの他に、ガブリエラ・ベニャチコヴァー、マリャーナ・リポヴシェク、イェスタ・ヴィンベルイという名手が参加していますが、いずれ劣らぬ名唱を聞かせてくれており、特に四重唱での美しさは誰かが突出して崩れるということが決してありません。そして、もう一方の主役であるコーラスはウィーン国立歌劇場合唱団が担当していますが、プライのソロの後に登場する部分から安定感溢れるコーラスを披露。若干、発音が聞き取りにくい箇所もあるんですが、全体に溶け込むようなその柔らかい発声がアバドの志向するベクトルを見事に体現していますね。解釈は全体的にオーソドックスと言えるもので、特に大きなテンポの揺れや突出した表現があるわけではありませんが、最後まで高い集中力とアンサンブルの精度を維持して、ライヴならではの高らかに高揚していく様がとても感動的な名演です。


総括

字数制限により最後は駆け足になってしまいましたが、少しでもこの演奏の魅力が伝われば幸いです。アバドは『カメレオン』等と揶揄されますが巨匠達の時代は過ぎ去り、こういった『みんなで音楽を作ろう』というタイプの指揮者が必要とされる時代なんだと思います。いいじゃないですか、曲や共演相手に自分を変えるのも。カメレオン、大いに結構!(笑)イタリア系指揮者最良の特質が如何なく発揮された名解釈であり、それが当時蜜月関係にあったウィーン・フィルによって美しく再現されているという点に極めて高い存在価値があると言えましょう。20世紀最高の演奏の1つであり、新しい時代とを繋ぐ懸け橋となった歴史的な名全集、是非皆さんも要らぬ先入観は捨ててお聞きになって下さい。
今回は初めてのベートーヴェンのピアノ作品を、本格的に取り上げます(ペライアのベートーヴェン・アルバムを取り上げたことはありましたが…)。ピアノ・ソナタ第17番『テンペスト』を、ゲリット・ツィッターバルトが弾いたとっておきの名演奏をご紹介致します。このアルバムは、TACETという確かイギリスかどこかのレーベルから90年代前半に発売されたもの。従って、間違いなく廃盤だろうなと思ってHMVを調べてみたら…何と、まだカタログでは生きてますね(苦笑)そして、TACETのウェブサイトを見ていたら、オンラインショップのカタログにもまだ掲載されておりましたので、ご興味をお持ちの方はダイレクトインポートでも購入出来るかと思います。ちなみに、このTACETというレーベルは、もしかしたらクラシックファンよりもオーディオファンにお馴染みのメーカーかも知れませんね。大変評価の高いレビューをかなり目にしたことが何度かあります。
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このアルバムでピアノを弾いているツィッターバルトというピアニストをご存知の方は、恐らく殆どいらっしゃらないでしょうね(苦笑)このアルバム以外には、辛うじてヘンスラーからのトーマス・ファイとのモーツアルトのコンチェルトが知られている程度でしょう(こちらは聞いたことがないのですが…)。彼のこの『テンペスト』については、恐らくこれよりもテクニックが優れた演奏や、ロマンティックな演奏、ライヴならではの感興の強い演奏、力強い打鍵で分厚く弾き切った演奏等は、それこそごまんと存在すると思います。しかし、私がこの演奏をオススメするのには理由があります。このアルバムには他に『ワルトシュタイン』と7番のソナタが収められていますが、そのいずれもが驚異的な緊張感によって一貫されており、各曲の幻想的な雰囲気をあますところなく伝えているためであります。その点においてはベストの演奏と言っても差し支えなく、私が好んで聞いているバックハウスやアラウ、ハイドシェック、ベルナール・ポミエ等の全集盤、あるいはハイドシェックの『宇和島ライヴ』のような名盤でさえ霞んでしまうほど。この3曲を聞く場合は、このツィッターバルト盤を手にすることが最も多いと言えましょう。

…というわけで、ツィッターバルトのプロフィールについて触れておきたいんですが、何分にも情報が少ないため、ライナーノーツに書かれている情報を記載するに留めます(彼のバイオグラフィー等を紹介したホームページもあります)。非常に簡単なプロフィールで申し訳ありませんが…ゲリット・ツィッターバルトは1952年、ドイツ中部にあるメルヘン街道沿いの街、ゲッティンゲン生まれの今年58歳を迎える大ベテランのピアニスト。ハノーヴァー音楽演劇大学において、エリカ・ハーゼ(アンドレアス・シュタイアーの師匠)、カール・エンゲルに学び、ハンス・レイグラーフ(ライグラフ)、ステファン・アスケナーゼ(マルタ・アルゲリッチ、内田光子らの師匠)、カール・ゼーマンらの指導を受けました。アベック・トリオのピアニストとしても活躍。そして、83年から母校の教授の地位にあるそうです。レパートリーはスカルラッティからシュトックハウゼンに至るまで幅広く、既にアベック・トリオでのものも含めて30に上るレコーディングをリリースしているそうで、ヨーロッパではかなり高い評価を得ているようですね。こうして見てみると、派手なコンクール実績こそないものの、かなり素晴らしい指導者に恵まれており、自らも後進の指導に当たっているようですから、音楽性の素晴らしさはまず間違いないと言えましょう。

そして、今回ご紹介する『テンペスト』ソナタについても軽く触れておきましょう。作品31という番号が振られた曲は3曲あり、それぞれ16番から18番という通し番号が振られています。いずれも1802年に作曲された作品で、中でもこの第17番ニ短調が突出して有名ですね。そればかりか、3楽章のフィナーレによりベートーヴェンの全ピアノ作品の中でも最も有名な作品の一つと言えるでしょう。1802年という年は例の『ハイリゲンシュタットの遺書』が書かれた年であり、ベートーヴェンが自殺を考えるまで聴覚が悪化し、絶望し、それを克服した年でありました。作品で言いますと交響曲第2番が同じ年に書かれ、ピアノ協奏曲では3番と4番が書かれた中間の時期に、弦楽四重奏曲では6番と7番が書かれた中間の時期に当たります。なお、『テンペスト』という呼び名は、弟子のアントン・シンドラーがこの17番と後の23番の解釈についてベートーヴェンに尋ねたとき、シェイクスピアの『テンペスト』を読みなさい、と言ったことに由来するとされています。じゃあ、何で23番じゃなくて17番の方が『テンペスト』と呼ばれるようになったのか?という疑問が残りますが(苦笑)まぁ、第3楽章の雰囲気からすると、このタイトルが大変マッチしていることは言うまでもありませんが。曲は『ラルゴ〜アレグロ』、『アダージョ』、『アレグレット』の3つの楽章からなり、いずれも幻想的な雰囲気漂う素晴らしい名作。第1楽章は目まぐるしく曲調が変化するドラマティックな音楽、第2楽章はゆったりした楽想の中にも細かい音符の動きがあり、フィナーレでは冒頭の短い動機が細切れに現れて全体を支配し、交響曲第5番との類似性が指摘されたり、また3楽章全てがソナタ形式で書かれている等、ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも大変意欲的な作品であると言えるでしょう。


第1楽章

それでは曲の細部を見ていくことにしますが、まず第1楽章の『ラルゴ〜アレグロ』。『ラルゴ』と申しましても、序奏→主部という構成ではなく、全体が3つの部分から成り立っています。ゆったりしたラルゴのテンポで分散和音風のフレーズが静かに提示された後に突如、悲痛な雰囲気を持つフレーズがアレグロで飛び込んできて静謐な雰囲気をぶち壊す、という流れが2度繰り返された後、激しいテーマが提示される部分へと雪崩れ込んでいきます。ツィッターバルトの演奏はこの静と動のコントラストが実に見事であり、恐らく彼のタッチにその特徴があるんだと思いますが、特に弱音部分におけるガラスのように透明で冷たい不気味さの表出には、戦慄すら覚えるほど。これほどまでに綺麗事ではない真実味溢れる、身震いするような感情をこの『テンペスト』で抱いたのは、私はこの演奏が初めてであります。本当に彼のタッチは大変美しく、この演奏では48秒からのたうち回るような感情剥き出しのテーマが提示されますが、細かいパッセージが出てきても技術的な破綻は微塵もなく、粒立ちのハッキリしたタッチと見事なテクニックで弾き切るのは素晴らしいの一言。低音を奏でる左手が充実した音量と力強さに不足しないのに、柔らかさを感じさせるのも彼のタッチの特徴でしょうか。しかも、テクニックを決してひけらかすことなく、必要以上にテンポを速めたりせずに、比較的ゆったりめのインテンポの中で全てが余裕を持って再現されていくため、知らず知らずのうちに戦慄の感情は消え、何か大きなものに抱かれるような安心感に包まれていきますから不思議なものです。圧巻と申しますか、この楽章のクライマックスは4分58秒からの3度目のテーマ提示の部分。TACETの、スタジオの空気感までをも見事に捉えた優秀な録音の効果もありましょうが、この部分における迫力ある低音を聞いて震撼を覚えない人は、まずおりますまい。そして、そのテーマ再現直前の4分10秒前後からの幻想的な箇所との見事なコントラストも特筆しておかねばならないでしょう。

第2楽章

第2楽章の『アダージョ』がまた冒頭から終始飛び切りの美しさで、上述のように幻想的な雰囲気を見事に再現しています。第1楽章前半で怜悧と感じられたタッチが一転、微妙に揺れ動く必要にして充分な強弱の変化とともに、暖かみを感じさせる音色が最大限の効果を発揮しており、大変美しい演奏になりました。まず、第1楽章終結部分において消え入るように終わるピアニッシモの美しさそのままに、非常にスムーズな移行を示しているのが印象的。速過ぎず遅過ぎず中庸のテンポで慈しむように、丁寧に音符が置かれていく第一主題は主観的な感情が抑制されながらも、さながらショパンのノクターンを聞いているかのような、非常にロマンティックな詩情に溢れています。柔らかい低音のハーモニーと、煌めくような高音との対比が大変味わい深い世界(敢えてノクターン的な『夜の世界』と言ってもいい)を作り出していきますね。特徴的なのは第一主題後半部分で、右手の高音がトリルのような音を出す音型がありますが、何気ないこの音型に込められた美しい表情。2分17秒からの第二主題は、次第に美しいタッチが明るさを帯びてきて(曲中に音色が変化するというのも良く考えると稀ですが…)、陰影とグラデーションに深みを与えているのが何とも言えず見事。

第3楽章

さて、続く第3楽章『アレグレット』のフィナーレは有名な音楽ですけれども、上述の通り実験的な要素も強く単純なメロディとリズムの繰り返しや、ともすれば曲芸的な弾き方に頼ってしまい、退屈な演奏が無きにしもあらずと認識しています。従って、私個人的には第1楽章や第2楽章ほどに深遠な世界と思われず、ベートーヴェンの音楽ならもう少し深く踏み込んだ音楽が書けたのではないかと思っているのですが、ツィッターバルトの演奏においてはそのような弱点を見事にカバーしています。まず、テンポがアレグレットに相応しい、理想的な設定になっていること。そして、無闇やたらとゴリゴリ力尽くの演奏になっていないこと。この2点が演奏に与える影響は非常に大きく、繰り返し現れる『タラララン』の音型が、短めに切るような独特のフレージングとともに、美しいタッチで女性的とも言える非常に柔らかい表情を湛えているのが印象に残ります。それが付点のリズムと融合して、落ち着いたテンポながらも推進力の強さが維持されています。もちろん、頻繁に現れる低音の伴奏音型の厚いハーモニーは押し込むようにズッシリした打鍵で力強く、シンフォニックとさえ言えるほどで、どこまでも無限に広がっていくような不思議な印象を与えるのも特筆しておくべきでしょうね。5分40秒からの、テーマが2つの声部に分かれて強奏されるところからコーダに入っていきますが、ここでもその美しい音色は決して濁らずに感動的なラストを演出しています。


総括

一般的には無名でありながら、先頃日本のトリトンから再録音を開始し、バッハやシューマン、ショパン等の名演で再び脚光を浴び始めているセルゲイ・エデルマンや、ベートーヴェンのソナタ全曲録音を日本のコンサートでのライヴ録音に着手したペーター・レーゼル等とともに、私個人的にはこれからも注目していきたいピアニストの一人、ゲリット・ツィッターバルト教授。一人でも多くの方が彼の演奏に触れ、この感動を味わって頂けることを願って止みません。私にとっては今回のアルバム、『無人島の一枚』の候補に余裕で入る、大変味わい深い名演の一つです。カップリングの『ワルトシュタイン』がまた格別、極上の名演なんですが、これはまたの機会に…殿堂入り、星6つを進呈しましょう。

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