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サー・ネヴィル・マリナー指揮NHK交響楽団
ドヴォルザーク:交響曲第7番 ドヴォルザーク:交響曲第8番 ※2014年2月15日渋谷、NHKホール(ライヴ) 先週に引き続き、関東地方を大寒波と低気圧が襲い、金曜日から土曜日にかけて大変な週末となってしまいましたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?お風邪等召されませんよう。 私も当日(金曜日及び土曜日)の直前まで行くかどうか迷ったのですが、金曜日は私は仕事がお休みでしたので、行くとしたら渋谷にわざわざ出掛けなければならなかったので、さすがに無理と判断しました。幸いにも金曜日の夜から雪が雨に変わり、お昼前には雨も上がって私の住まい近辺では雪が解けてなくなっていたので、意を決してNHKホールまで足を運ぶことに致しました。もしかしたら、ネヴィル・マリナー先生の指揮でなければ無理して聞きに行くことはなかったかも知れませんが… 案の定、明治神宮前の駅からNHKホールまでの道程はシャーベット状の雪で依然として覆われていたため、歩くのに一苦労。。。通常10分もかからないで行けるのですが、20分を要してようやく到着。しかもシャーベットがかなりの深さだったので足を取られ、靴の中はビチョビチョに濡れてしまい、散々な目に遭いました。苦笑 私と同世代か少し上の世代の方々は、恐らくネヴィル・マリナー先生の演奏をディスク等で一度は耳にされたことがあるのではないかと思いますが(特にモーツアルト等)、先生のヨーロッパでの高い評価(イギリスではナイトの叙勲を受けていますからね)に反して我が国での評判は必ずしも良いものではないように思います。これはアンチ・カラヤンの見方であるとか、ドヴォルザークはノイマンやクーべリックに限るというような『本場物志向』等と共通しているのではないかと思います。確かに音楽には色々な聞き方があってしかるべきですし、個人の楽しみ方でありますから、それを否定するつもりはサラサラないのですが、そもそも西洋音楽をルーツとしていない日本人の、一体どれだけの人が、何の前提もなくブラインドでそれを『本物』であると聞き分けることが出来るのでしょうか?これは日本人の演奏家に対する評価にも共通して言えることでありますが。佐村河内何某&新垣何某の問題で、少し前までマスコミ報道が連日持ち切りでしたけれども、その報道に対する我々の行動や心情も根本的には同義のものであると言えるのではないでしょうか。日本人の悪い癖ですね。『本物、本物』とばかり唱える方々を見ると、正直ヘドが出ます。苦笑 話が横道に逸れてしまいましたが、マリナー先生の評価が必ずしも日本では高くないように見受けられるのは、今回のN響定期公演の聴衆の心構えにも少なからず影響を与えているのではないかと思ったからであります。1924年生まれのマリナー先生は、この4月に御年90歳を迎えられる現役指揮者界の最長老の一人でありながらも、N響でのマタチッチ、シュタイン先生、ヴァント先生や朝比奈先生、サヴァリッシュ先生等と異なる捉え方をされているのが実情と言えましょう。モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンに始まり、チャイコフスキーまでをも交響曲全集として完成させているのは、私の知る限りカラヤンくらいしか思い浮かばないのですが(ああ、カラヤンもモーツアルトは全集ではないですね)、これだけの偉業を成し遂げているにも拘らず、『熱狂的マリナー・ファン』に未だにお目にかかったことがないのは、恐らくブルックナーやマーラー、ワーグナー、R.シュトラウスといったいわゆる『ドイツ音楽のメイン・ストリーム』と無縁であることと必ずしも無関係ではないのではないかと思います。おまけに、先生のレパートリーは数知れず、バッハやヘンデルを初めとするバロック音楽から、ブリテン等の近現代物に至るまで、極めて広範囲に渡っており、何かと便利な『一言レッテル』を張るのが好きな日本人にとって、これほど評価の定めにくい焦点の定まらない指揮者も珍しいのではないかと思われるからです。膨大な録音の数々がシンフォニー・オーケストラとではなく、アカデミー室内管弦楽団をパートナーとして残されたというのも、見逃すことが出来ない重要なファクターでしょう(せっかくベートーヴェンを入れているのに、殆ど話題にならなかったですしね。年齢的なタイミングも悪かったか)。事実、今回の先生の来日はもしかしたら年齢的にも最後になる可能性もあるので、先生がブルックナーとかマーラーのスペシャリストで、それこそブルックナーの5番とか8番なんかをプログラムに持ってきた日にゃ、スタンディングオベーション間違いなしの一大イベントになっていたこと必至。しかし、そうならなかったのは上記のような評価の難しさと、今回持ってきたプログラムの中身に拠るところが大きいと推測しています。 さて、肝心の演奏ですが、まず驚嘆させられたのが、現在御年89歳という年齢を全く感じさせない音楽の若々しさと瑞々しさ。今回も先生は椅子を用意することなく全曲立ってお振りになられ、舞台への出入りも独力で歩かれる大変な精力ぶり。老いとは全く無縁のその矍鑠たるお姿に相応しく、颯爽と堂々たる音楽が展開していきました。先生がヴァイオリニストとしてオケのメンバーからキャリアをスタートされたというのは皆さん周知の事実で、その芸風も弦楽器を主体として比較的厚みのある響きを引き出し、シンフォニックなハーモニーを構築する手腕には確かなものがあります。特にヴィオラと第2ヴァイオリンのいわゆる内声部の扱いにも刮目すべき特徴をお持ちですね。今回も指揮台のかなり前の方に出られて、第2、ヴィオラ、チェロに対して大きなアクションで指示を出されていらしたのがとても印象的でした。前回のルイージのカルミナ・ブラーナのときにも申し上げましたが、N響の弦楽セクションの近年の目を見張る充実振りが、先生の弦楽器主体の音楽作りとピッタリマッチして素晴らしい名演となりました(今回のコンサートマスターは篠崎さん。セカンドには永峰さん、チェロに向山さん、ヴィオラは小野さん。篠崎さんの脇には私のイチオシの大宮さん)。今回のドヴォルザークの2曲はいずれも第3&4楽章を代表として、とかく民族舞曲的なカラーに焦点が当てられがちですけれども、先生は引き締まったテンポ設定でキリッと曲のフォルムを明確に提示した上で、リズムの面白さやメロディの美しさの強調にのみ堕することなく、様々な声部が絡み合う色彩の面白さを我々の眼前に示してみせてくださいました。ドヴォルザークの有名2曲でこのようなアプローチをした演奏は今まで殆ど耳にしたことがありませんでしたので、非常に強烈なインパクトとして私の耳にも残っております。そして、細部に耳を傾けると意外にも細かなテンポの揺らぎが感じられたこと。特に第8のフィナーレ冒頭でチェロによって提示される美しい変奏主題を、これほどまでに慈しむように、ゆったりとしたテンポで提示するのがマリナー先生の棒から生まれ出ると誰が予想出来たでしょうか?また、会場やラジオでお聞きになられた方はお感じになられたかも知れませんが、先生のイメージからは意外にも緩徐楽章のテンポが比較的ゆったり取られて存分に歌われていて、上記のフィナーレの主題と併せて叙情的なメロディラインをかなり際立たせていたのが大変印象に残りました。近年精度が飛躍的に向上したと感じられるN響のアンサンブルの中では、弦楽器に比べると幾分不満のあった木管も金管も今回は文句のつけようがありませんでしたね。特にフルートの甲斐さん、オーボエの茂木さんとイングリッシュホルンの池田さん、クラリネットの松本さん等のソロが添えた彩りの鮮やかなこと!また、要所を引き締めるティンパニの強打も非常に効果的で、両曲ともにフィナーレに向けてエネルギーが爆発し、コーダの派手ではないけれど絶妙なアッチェレランドを加えた高揚感も大変見事なクライマックスでした。 曲が曲だけに『一般参賀』とはいきませんでしたが、個人的にはルイージのカルミナという奇跡の驚異的な名演を除けば、かなりのレベルで十分な満足感を得られた演奏であったことを、強くお伝えする次第です。なかなかこれほどの演奏にお目にかかるのは難しいでしょう。先生はミネソタ管弦楽団の音楽監督時代に、ドヴォルザークの7〜9番を録音されているのですが、残念ながら私は未聴なのですけれども、恐らくこのディスクと比較しても格段に聞き応えのある演奏に仕上がっていたのではないかと推測します。 それにしてもN響は、実に魅力的なオーケストラになりました。これからも大いに期待しましょう! |

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