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サー・ネヴィル・マリナー指揮NHK交響楽団
ドヴォルザーク:交響曲第7番
ドヴォルザーク:交響曲第8番
※2014年2月15日渋谷、NHKホール(ライヴ)

先週に引き続き、関東地方を大寒波と低気圧が襲い、金曜日から土曜日にかけて大変な週末となってしまいましたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?お風邪等召されませんよう。

私も当日(金曜日及び土曜日)の直前まで行くかどうか迷ったのですが、金曜日は私は仕事がお休みでしたので、行くとしたら渋谷にわざわざ出掛けなければならなかったので、さすがに無理と判断しました。幸いにも金曜日の夜から雪が雨に変わり、お昼前には雨も上がって私の住まい近辺では雪が解けてなくなっていたので、意を決してNHKホールまで足を運ぶことに致しました。もしかしたら、ネヴィル・マリナー先生の指揮でなければ無理して聞きに行くことはなかったかも知れませんが…
案の定、明治神宮前の駅からNHKホールまでの道程はシャーベット状の雪で依然として覆われていたため、歩くのに一苦労。。。通常10分もかからないで行けるのですが、20分を要してようやく到着。しかもシャーベットがかなりの深さだったので足を取られ、靴の中はビチョビチョに濡れてしまい、散々な目に遭いました。苦笑

私と同世代か少し上の世代の方々は、恐らくネヴィル・マリナー先生の演奏をディスク等で一度は耳にされたことがあるのではないかと思いますが(特にモーツアルト等)、先生のヨーロッパでの高い評価(イギリスではナイトの叙勲を受けていますからね)に反して我が国での評判は必ずしも良いものではないように思います。これはアンチ・カラヤンの見方であるとか、ドヴォルザークはノイマンやクーべリックに限るというような『本場物志向』等と共通しているのではないかと思います。確かに音楽には色々な聞き方があってしかるべきですし、個人の楽しみ方でありますから、それを否定するつもりはサラサラないのですが、そもそも西洋音楽をルーツとしていない日本人の、一体どれだけの人が、何の前提もなくブラインドでそれを『本物』であると聞き分けることが出来るのでしょうか?これは日本人の演奏家に対する評価にも共通して言えることでありますが。佐村河内何某&新垣何某の問題で、少し前までマスコミ報道が連日持ち切りでしたけれども、その報道に対する我々の行動や心情も根本的には同義のものであると言えるのではないでしょうか。日本人の悪い癖ですね。『本物、本物』とばかり唱える方々を見ると、正直ヘドが出ます。苦笑

話が横道に逸れてしまいましたが、マリナー先生の評価が必ずしも日本では高くないように見受けられるのは、今回のN響定期公演の聴衆の心構えにも少なからず影響を与えているのではないかと思ったからであります。1924年生まれのマリナー先生は、この4月に御年90歳を迎えられる現役指揮者界の最長老の一人でありながらも、N響でのマタチッチ、シュタイン先生、ヴァント先生や朝比奈先生、サヴァリッシュ先生等と異なる捉え方をされているのが実情と言えましょう。モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンに始まり、チャイコフスキーまでをも交響曲全集として完成させているのは、私の知る限りカラヤンくらいしか思い浮かばないのですが(ああ、カラヤンもモーツアルトは全集ではないですね)、これだけの偉業を成し遂げているにも拘らず、『熱狂的マリナー・ファン』に未だにお目にかかったことがないのは、恐らくブルックナーやマーラー、ワーグナー、R.シュトラウスといったいわゆる『ドイツ音楽のメイン・ストリーム』と無縁であることと必ずしも無関係ではないのではないかと思います。おまけに、先生のレパートリーは数知れず、バッハやヘンデルを初めとするバロック音楽から、ブリテン等の近現代物に至るまで、極めて広範囲に渡っており、何かと便利な『一言レッテル』を張るのが好きな日本人にとって、これほど評価の定めにくい焦点の定まらない指揮者も珍しいのではないかと思われるからです。膨大な録音の数々がシンフォニー・オーケストラとではなく、アカデミー室内管弦楽団をパートナーとして残されたというのも、見逃すことが出来ない重要なファクターでしょう(せっかくベートーヴェンを入れているのに、殆ど話題にならなかったですしね。年齢的なタイミングも悪かったか)。事実、今回の先生の来日はもしかしたら年齢的にも最後になる可能性もあるので、先生がブルックナーとかマーラーのスペシャリストで、それこそブルックナーの5番とか8番なんかをプログラムに持ってきた日にゃ、スタンディングオベーション間違いなしの一大イベントになっていたこと必至。しかし、そうならなかったのは上記のような評価の難しさと、今回持ってきたプログラムの中身に拠るところが大きいと推測しています。

さて、肝心の演奏ですが、まず驚嘆させられたのが、現在御年89歳という年齢を全く感じさせない音楽の若々しさと瑞々しさ。今回も先生は椅子を用意することなく全曲立ってお振りになられ、舞台への出入りも独力で歩かれる大変な精力ぶり。老いとは全く無縁のその矍鑠たるお姿に相応しく、颯爽と堂々たる音楽が展開していきました。先生がヴァイオリニストとしてオケのメンバーからキャリアをスタートされたというのは皆さん周知の事実で、その芸風も弦楽器を主体として比較的厚みのある響きを引き出し、シンフォニックなハーモニーを構築する手腕には確かなものがあります。特にヴィオラと第2ヴァイオリンのいわゆる内声部の扱いにも刮目すべき特徴をお持ちですね。今回も指揮台のかなり前の方に出られて、第2、ヴィオラ、チェロに対して大きなアクションで指示を出されていらしたのがとても印象的でした。前回のルイージのカルミナ・ブラーナのときにも申し上げましたが、N響の弦楽セクションの近年の目を見張る充実振りが、先生の弦楽器主体の音楽作りとピッタリマッチして素晴らしい名演となりました(今回のコンサートマスターは篠崎さん。セカンドには永峰さん、チェロに向山さん、ヴィオラは小野さん。篠崎さんの脇には私のイチオシの大宮さん)。今回のドヴォルザークの2曲はいずれも第3&4楽章を代表として、とかく民族舞曲的なカラーに焦点が当てられがちですけれども、先生は引き締まったテンポ設定でキリッと曲のフォルムを明確に提示した上で、リズムの面白さやメロディの美しさの強調にのみ堕することなく、様々な声部が絡み合う色彩の面白さを我々の眼前に示してみせてくださいました。ドヴォルザークの有名2曲でこのようなアプローチをした演奏は今まで殆ど耳にしたことがありませんでしたので、非常に強烈なインパクトとして私の耳にも残っております。そして、細部に耳を傾けると意外にも細かなテンポの揺らぎが感じられたこと。特に第8のフィナーレ冒頭でチェロによって提示される美しい変奏主題を、これほどまでに慈しむように、ゆったりとしたテンポで提示するのがマリナー先生の棒から生まれ出ると誰が予想出来たでしょうか?また、会場やラジオでお聞きになられた方はお感じになられたかも知れませんが、先生のイメージからは意外にも緩徐楽章のテンポが比較的ゆったり取られて存分に歌われていて、上記のフィナーレの主題と併せて叙情的なメロディラインをかなり際立たせていたのが大変印象に残りました。近年精度が飛躍的に向上したと感じられるN響のアンサンブルの中では、弦楽器に比べると幾分不満のあった木管も金管も今回は文句のつけようがありませんでしたね。特にフルートの甲斐さん、オーボエの茂木さんとイングリッシュホルンの池田さん、クラリネットの松本さん等のソロが添えた彩りの鮮やかなこと!また、要所を引き締めるティンパニの強打も非常に効果的で、両曲ともにフィナーレに向けてエネルギーが爆発し、コーダの派手ではないけれど絶妙なアッチェレランドを加えた高揚感も大変見事なクライマックスでした。

曲が曲だけに『一般参賀』とはいきませんでしたが、個人的にはルイージのカルミナという奇跡の驚異的な名演を除けば、かなりのレベルで十分な満足感を得られた演奏であったことを、強くお伝えする次第です。なかなかこれほどの演奏にお目にかかるのは難しいでしょう。先生はミネソタ管弦楽団の音楽監督時代に、ドヴォルザークの7〜9番を録音されているのですが、残念ながら私は未聴なのですけれども、恐らくこのディスクと比較しても格段に聞き応えのある演奏に仕上がっていたのではないかと推測します。

それにしてもN響は、実に魅力的なオーケストラになりました。これからも大いに期待しましょう!
ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団
ソプラノ(*及び**):モイツァ・エルトマン
テノール(*):ヘルベルト・リッペルト
テノール(**):ティモシー・オリヴァー
バス(**):マルクス・マルクヴァルト
合唱(*):東京混成合唱団
合唱(**):東京混成合唱団、東京藝術大学合唱団、東京少年少女合唱隊
オルフ(*):カトゥリ・カルミナ
オルフ(**):カルミナ・プラーナ
※2014年1月25日渋谷、NHKホール(ライヴ)

あまりにも素晴らしく鮮烈な印象を与えられたコンサートでしたので、久し振りに感想を書かせていただきます。
諸事情により、コンサートのライヴ・パフォーマンスに足を運ぶ機会はここのところ殆どなかったのですが、昨年の10月くらいから再びN響の定期演奏会を中心に極力足を運ぶようにしています。今年は1月11日のヴェデルニコフ指揮によるチャイコフスキー・プログラムに続いて二度目。

元々このコンサートに行くつもりはなかったのですが、昨年から耳にするN響は特に弦楽器の充実振りが、私が5〜6年前を最後に聞いたときから比べると、凄まじいばかりの変貌を遂げていて、堀さん、篠崎さんのどちらがコンサートマスターの日であっても、コンスタントに魅力的な音色が出てくるようになっていることを実感していましたので、指揮がルイージ、ソリストも旬の方々が一堂に会するということで、これは間違いなく素晴らしい演奏になるであろうことは想像に難くなかったため、急遽足を運ぶことにした演奏会でありました。

結果はこちらの期待を遥かに上回る、私のコンサート人生の中でも5指に屈すべき驚異的な名演であったことをまずは皆様にお伝えしたいと思います。本日も同プログラムでの公演が15:00から予定されていますが、もし予定が合う方は是非足をお運びいただきたいのと、お運びになれない方も数ヶ月先になるかと思いますが、Eテレでの放映の際は是非ともその放送を視聴されることをお勧め致します。

私もいくつかブログでの記事を拝見させていただきましたが、お書きになられている方が大勢いらっしゃいましたので、曲目その他出演者のプロフィール等の経緯N響のホームページや他の方のブログ記事を参照いただくこととして、ここでは現地でこの感動を享受した者の一人として、私が感じたことをいくつか記載させていただきたいと思います。

まず第1に、東京混成合唱団を中心とするコーラスの素晴らしさ。幾分ハーモニーに荒さを感じる箇所が散見されましたけれども、ラテン語の発音が困難であること、特にNHKホールという音響的には極めて特殊な環境と言わざるを得ない環境下での大管弦楽を大向こうに立ち回らなければならない難しさを考慮すれば、国内団体でこのパフォーマンスの高さは驚異的でありました。また、オルフのスコアに込められた独特のリズム感と変拍子、臨場感溢れるテンポ・ルバートというライヴならではの即興性も相俟って、それでも非常に明解な指示が飛んでいたように思いますが、ルイージが次から次へと繰り出す色々な指示に良くもまぁここまで応えられたものだと感心しています。これは非常に良くトレーニングされた賜物ですね。年末の第九公演も国立音大に拘らずに、東京混成合唱団等の実力派団体の起用を是非とも検討していただきたいところ。
第2に、N響の大健闘を称えたいと思います。特に打楽器陣は一曲目のカトゥリ・カルミナから技巧の限りを尽くしてルイージの的確な指示に応え、実演が大変貴重なこの隠れた名曲の真価を存分に我々の耳に届けてくれました。弦楽器と管楽器についても、今回のプロはコンサートマスターに堀さん、次席に大宮臨太郎さん、チェロの藤森さん、ヴィオラの佐々木さん、フルートの神田さん、オーボエの茂木さんはじめほぼベストと言えるメンバーが顔を揃え、『渾身の名演』と呼ぶに相応しい、パワー漲る圧倒的な力演を繰り広げていたと言えるでしょう。今朝になってまたいくつかCDをかけているのですけれども、やはりコンサート・ホールの臨場感は全く味わえないですね…余談ですが、大宮臨太郎さんが次席に座る際は、コンマスが堀さんのときも篠崎さんのときも、ほぼ100%私が満足する音がしています。彼とヴィオラの佐々木さんの入団は、指揮者のネームバリューやそのトレーニング力ばかりが取り沙汰される昨今ですけれども、確かにそれも重要な要素ではありますけれども、こういった内部的な変化も着実に良い方向にN響を向けているのではないかと思いますね。弦楽器が2〜4名で奏する箇所がいくつか出てきましたけれども、アンサンブルの精度は万全、色気や遊び心、緻密さも存分に感じさせる見事なものでした。他の国内オケではちょっとこういう箇所に不満が残るんですけどね、最近のN響は間違いなく違います。
第3に、そしてこの名演最大の功労者は、何と言っても指揮者ファビオ・ルイージの圧倒的な棒!ルイージは私がHMVで働いていたときに出始めたマーラーやブルックナーのディスクがいくつかと、その後SKDと関係を持った後にSONYから出たシュトラウスとブルックナーのディスクを私も今でも耳にすることのある名盤でありますが、やはりドレスデン(今はチューリッヒ)とMETとの結びつきが強いので彼の本職は現在はオペラの比重が高いせいもあろうかと思いますけれども、必ずしも我々ファンに彼の真価がなかなか届いていないのではないかと思います。ウィーン響との関係ももう切れてしまいましたからね。そういう意味では短中期的はやはり録音で彼の名演に接するのは難しいかも知れませんけれども、MET等で更に劇場での実務経験を重ねて今世紀を代表するマエストロのトップの座に上り詰めて欲しいと思います。話が横に逸れてしまいましたが、弦楽器や声の歌わせ方、テンポ感覚、曲と曲の間の絶妙な間合いといったようなところに、ルイージの劇場での実務経験が随所に出ていましたね。私がルイージの実演に接したのは今回が初めての経験でしたけれども、勝手ながら『知的である程度冷静』な指揮をする人だというイメージを持っていたのですが、実際は全く正反対。指揮台から落ちてしまうのではないかと心配になるほどに、小さな指揮台を目一杯に使って全てのパートに情熱的かつ的確に指示を出し、先ほども軽く触れましたけれども、テンポの揺らし方にも独特の感性と個性が感じられました(ウィーン響とのOrfeoのシューマン全集が未聴なので早く聞いてみたい…)。特に1曲目と終曲の圧倒的な音圧、随所に見られる変拍子の切替とリズムのノリの良さ、後半にいくつか出てくる甘美な箇所での弦楽器の美しいハーモニー。短期間のトレーニングだけで成し遂げられたとは到底思えないオーケストラ、合唱、ソリストとの信頼関係なくしてはここまで完成度の高さを誇ることはなかったと思います。

対してソリストですけれども、4名ともに水準以上の高い実力を見せてくれたものの、曲が曲だけにそれほどソリストのパートが多くないため、必ずしも彼らの実力が遺憾なく発揮されたとは言い難かったのも事実。裏を返すとダメだったというのではなくて、もっと聞いてみたい4名であることは間違いありません。噂のエルトマン、噂に違わぬ美貌と透明感のある美声は、どこかナタリー・ドゥセやパトリシア・プティボンを思わせる可憐な歌唱。余談ですが、私が愛聴するプラッソンの指揮によるカルミナでソプラノ・パートを歌うドゥセの歌唱にかなり似ています。パミーナとか生で聞いてみたいですね。オリヴァーの登場シーンでは、ジャンプしながら両足で立つ、いわゆる『ノリントンのドヤ顔』スタイル(笑)での登場に思わず笑みがこぼれてしまいましたが、彼の歌唱も大変印象的でした。個人的に大変素晴らしいと感じたのが、やはり登場パートが一番多かったマルクヴァルトのバス。他のブログでは『聞こえにくかった』という評が書かれていたのも目にしましたが、これは恐らくNHKホールの特性でしょう。私は3階正面の自由席に座って聞いていましたけど、十分にその美声は届いていましたので。年齢的にも40を過ぎた私とほぼ同世代の歌手なので、まだまだ深みを感じさせて老け込む年齢ではないのでここ10年が勝負だと思いますけれども、これからの活躍を期待したい素晴らしい人材だと思います。そもそも曲自体はくだらない内容なので、深みも何もないのですが(笑)

いずれにしても、一曲目のカトゥリ・カルミナからコケていたら、恐らくメインのカルミナ・プラーナではここまでの名演にはならなかったでしょう。カトゥリ・カルミナの真価を再認識させるだけでも十分に素晴らしい価値のあるコンサートでしたけれども(私も何度もブラーヴォをかけさせていただきました)、このカルミナ・プラーナは早くも私の今年のベスト・コンサート確定です(笑)まず変わることはないでしょう!今後予定されている14年前半のコンサートでここまでのものが期待出来ないのと(ヤノフスキのブルックナーと、アシュケナージのラフマニ&シュトラウスくらい?あとは広上さんのマラ4、デスピノーサ&ゲルネのワーグナー・アーベント辺り)、14年後半のプログラムがまだ発表されていないので何とも言えませんが…

終演後に真っ先に席を立ってスタンディング・オベーションをしてしまったのは私ですが(後の方見えなくてスミマセンでした…)、今回は会場全体が素晴らしい反応を示していたのも特筆すべき点。N響定期では珍しい、しかも老境の巨匠指揮者ではなくまだ現役バリバリの中堅指揮者が、オーケストラ、コーラスのメンバーが立ち去った後、一人ステージに呼び戻されることは滅多にないので、皆さんそれだけ感動されたのでしょうね。ルイージに浴びせられた圧倒的な『ブラーヴォ!』に、昨日の聴衆の皆さんの見識の高さを感じました。
実は昨日、東京は渋谷にございますオーチャード・ホールに、家内を伴ってオペラを見に行って参りました。今年初のコンサートでございましたが、家内がどうしても見てみたいと申しておりましたので、チケットは昨年から買い求めておりましたため、私も家内も昨年からとっても楽しみにしていた公演でございました。

プッチーニ:歌劇『トゥーランドット』
トゥーランドット:マリア・グレギーナ
カラフ:オレグ・クリコ
リュー:アーラ・ミシャコワ
ティムール:セルゲイ・ザムィツキー
アルトゥム:イェヴゲニー・ガヴリシ
ピン:アレクサンドル・ラーピン
パン:ヴィクトル・チェルヴォニューク
ポン:イーゴリ・コルナトフスキー
役人:アレクサンドル・ブラゴダールヌイ
合唱:ウクライナ国立オデッサ歌劇場合唱団
管弦楽:ウクライナ国立オデッサ歌劇場管弦楽団
指揮:ユーリィ・ヤコヴェンコ
2012年1月22日渋谷、オーチャード・ホール


このオペラ・カンパニー、いわゆるロシア・東欧にあるローカル劇場の一つであり、私も今回初めてその名前を知ることになったくらいでしたので、それ自体にあまり興味はなかったのですが、そうです、あの国際的に活躍し、既に揺るぎない名声を得ているあのマリア・グレギーナが出演し、トゥーランドットを歌うというではありませんか。そして、カラフ役にもビッグネーム、オレグ・クリコの名が。これは家内にねだられた件は別として、オペラ・ファンとしては聞いておかずばなりますまい、ということで、慌ててチケットを買い求めた次第。とは言え、昨日会場を見渡したら、悪天候も災いしたのだと思いますが、マリアが出演するというにも関わらず、客席は約7割方の入りでしたでしょうか。非常にもったいなかったですね…

このトゥーランドットというオペラ、プッチーニの最後の作品であり、荒川静香さんの件で一躍有名曲の仲間入りを果たしましたけれども、確かに管弦楽法等にはプッチーニにしか書けない、しかもそれまでのプッチーニ作品と比べても素晴らしく重厚な作品に仕上がっていて聞くべきところが少なくない作品ではありますが、ストーリーがあまりにも奇想天外であり、トスカや蝶々夫人等に比べると、全体的にアリアとして楽しめるナンバーが少なく、曲の前後の切れ目が曖昧で正直申し上げて初めてプッチーニに親しまれる方にとっては、これほど難しい作品もないのではないか?と疑問を抱いています。それにしても、金メダル効果、あまりにも有名になり過ぎましたからねぇ・・・

先にローカル・オペラ・カンパニーと申し上げましたが、このウクライナに数ある劇場の一つであるオデッサ劇場のあるオデッサという町は、グレギーナの故郷ということもあってこのプロダクションへの出演が決定した模様です。お恥ずかしい話、流石に家内の分も併せてS席のチケットを買うわけには参りませんでしたが、3階C席が1枚1万1000円であったのは、海外のオペラハウスとしてはやはり破格のプライス設定と言えるでしょう。何と言っても、グレギーナとクリコが出演する夢のような舞台が実現するのですから。これだから、ロシア・東欧のオペラ・ハウスはたまりませんね(笑)

前置きはこれくらいにして、前回オペラを見に行ったのがキエフ・オペラの『マノン・レスコー』でしたけれども、結論から申し上げると昨晩のプロダクションは、普段は辛口で、何でも人が負担したチケットだからといって容赦なくぶった切る家内にしては大変珍しく(笑)、大絶賛の出来映えでした。私も大変感動しました。本当に素晴らしかったと思います。何が素晴らしかったかと申しますと、まずはそのシンプルでありながら非常にゴージャスな演出の見事なこと。ナジェジダ・シュヴェッツという演出家の手掛けた舞台は、一切の衒いないオーソドックスなもの。登場人物達の衣装も実にシンプルなデザインでありながら、決して手を抜いたような安っぽい物でなく、非常に格調高い良い舞台であったと思います。原色と中間色を絶妙なバランスでブレンドさせ、光のコントロールも過不足なかったと思います。もちろん、もっとゴージャスにとリクエストすればいくらでもキリがありませんけど(苦笑)そういうのがお好きな方は、そもそもオーチャード・ホールにオペラを見に来るという時点で間違っています。ヴェローナの野外劇場ででもご覧になる以外にはないでしょう。

まず第1幕で重要なアリア、『お聞き下さい、王子様』を歌うリュー役のミシャコワの可憐な歌声に、会場は瞬く間に魅了されたと思われます。このソプラノ、恐らくこの劇場専属の歌手だと思いますけれども、彼女の相当にレベルの高い歌唱を聞くにつけ、ヨーロッパにまだまだ知らないけれども多くの優れた人やグループが存在しているのだな、という底力を改めて見せつけられた次第。と申しますよりも、いわゆる『西側』で活躍している、しかもほんの一握りの人達しか我々の耳には届かないことを痛感させられました。このミシャコワ、第3幕のラスト手前、プッチーニが記した最後のシーンにおいても素晴らしいアリア、『氷のような姫君の心も』で我々を魅了。年齢が分からないので何とも言えませんが(プロフィールによれば2004年に大学を卒業しているとのことですから、恐らく現在は30前後なのではないかと思います)、これでもう少し病的な一途さが表現されていれば…という願いも、些細な無い物ねだりに過ぎないくらい、歌としては充分過ぎるほどに合格点でありました。彼女はひょっとしたら、これから檜舞台に立つような予感もあります。

このリューのレベルの高さはピン・パン・ポンの三役、ティムール、アルトゥムといった脇役歌手のレベルの高さにそのまま直結し、普通はこの辺りにもかなりのビッグネームが割り当てられるところですが、これらの役を見事に勤め上げた彼等の歌唱もバックのオーケストラ共々、昨晩の大きな功労者と言えるのではないかと思います。そのヤコヴェン率いた劇場のオーケストラですが、やはりこちらも非常にレベルが高い、かなりのパワーとテクニックを備えた、非常にロシア・東欧『らしい』オーケストラ、と言えるのではないかと思います。このトゥーランドットでは分厚い響きを聞かせる部分と、室内楽的な精緻かつ静謐なアンサンブルの幅広いレンジが求められると思いますが、ヤコヴェンコのキリッと引き締まったテンポによるスリムな棒に、オーケストラも見事に応えていたように感じました。ここは家内も絶賛していた部分。特に金管とティンパニの咆哮はかなりの迫力があり、我々が聞いていた3階席でもその響きを存分に堪能させて頂きましたからね。

カラフを歌ったクリコですが、幾分声量が不足していたかな?と思える場面もなきにしもあらずでしたが、それでも流石にチャイコフスキー3位の実力者だけあり、『泣くな、リューよ』『誰も寝てはならぬ』の2つのアリアを感動的に歌ってくれましたので、会場の多くの方々、特に後者に大きな期待をかけてこられた方にとっては、大多数の方が満足されたのではないかと思います。特に後者は舞台裏から聞こえてくる極めて美しい女声合唱との『デュエット』もさり気なく、見事に決まっていて美しい歌声を堪能させてくれました。しかしながら、私が感心したのはこの2つのアリアだけではありません。トゥーランドットとのデュエットで謎を解くシーンと、ラストのトゥーランドットの心が徐々に融解していくシーンの素晴らしさにおいてでありました。当然のことながら、多くの方が期待されていたように、この公演が始まる前までは『グレギーナのトゥーランドット』であったことは間違いありませんけれども、クリコの実力が確かなものであると同時に、グレギーナの相手役を見事に勤め上げた彼のパートナーとしての見事な適性にも目を向けずにはいられないでしょうね。これからも益々の活躍を期待しています。

さて、最後の最後になりますが、マリア・グレギーナの素晴らしさについても書いておかなければなりませんね。現代随一のトゥーランドット歌いにして、世界が認めるディーヴァである彼女の舞台に接したのはこれが初めてでしたが、全く声を発することのない第1幕の登場のシーンからそのオーラは際立っていて、思わず鳥肌が立ってしまったほど。このような経験はオーケストラコンサート含めて、そんなに数は多くありません。そんな彼女に明確に与えられたアリアはたった一つ、第2幕の『この宮殿の中で』でありましたが、彼女が世界中で絶賛を受けている理由を知るには第一声のみで充分なほどで、我々の3階席にまで決して100%の力で全力を尽くすのではなく、常に余裕を持ったパワー・レンジの中で余裕で声を届けてしまうそのテクニックと声量、天性の声質、女優としての圧倒的な表現力、カラフとのデュエットで見せた見事なバランス感覚と間合いの取り方、そして、年齢を重ねてしまいましたが未だ衰えを知らぬその美貌。。。トゥーランドットに求められる資質の全てを、やはり見事に兼ね備えている彼女だからこそ、現代最高の称号を恣にしているのは当然であると、改めて実感させられた次第です。もう、ブラーヴォ!という以外にありませぬ。

とにもかくにも、これほど素晴らしい舞台を経験させて頂いたこのオデッサ劇場に、この場をお借りして心から感謝を申し上げたいと共に、これを機に来日を重ねて頂いてロシア・東欧からレベルの高いソリストを発信する場として頂ければと思っております。我々もそのような逸材を発掘するのを楽しみにしていますので…マリア、また是非お会いしましょう!


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昨年(リリング指揮の回)は聞きに行くことが出来なかったため、一昨年のマズア先生指揮する公演以来2年ぶりとなりますが、本日、渋谷のNHKホールまで行ってまいりました(明日が最終日ですね)。今年指揮台に登壇しましたのは皆さんもご存知の通り『ミスターS』こと、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ大先生。プログラムに記載されている情報によれば、先生とN響との共演は前回の2006年以来とのことで、今回が七度目ということでありますが、第9公演を指揮するのは2000年以来二度目。1923年生まれという年齢も年齢ですので、恐らくこれが最後の先生とN響の第9演奏会になってしまうのではないかと思うと、聞く前から感慨深いものがありました。結果から申しますと、全くの贔屓目を抜きにして近10年のN響第9史上トップクラスの名演であったのではないかと思われることを、まずは最初にご報告させて頂きます。

イメージ 1


ソプラノ:安藤赴美子さん
アルト:加納悦子さん
テノール:福井敬さん
バリトン:福島明也さん
合唱:国立音楽大学
管弦楽:NHK交響楽団
指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
ベートーヴェン:交響曲第9番『合唱つき』
第1楽章:約16分
第2楽章:約13分30秒
第3楽章:約17分
第4楽章:約25分30秒
合計:約72分
2011年12月25日渋谷、NHKホール(ライヴ)
※大晦日に教育テレビで放映がありますが、恐らくFMで生放送された12月22日の模様が放送になるかと思います

マエストロは御年88ということで、サヴァリッシュ先生や今年他界した私の祖母と同い年なんですが、舞台袖からの出入りの部分こそさすがに随分とお年を感じさせたものの(非常にお元気なときのお姿が鮮明に焼き付いているので仕方ないですが、お年を考えれば当然のこと)、その他は指揮台の補助棒にたまにもたれ掛かられる以外は補助椅子等も一切用意されず、この75分の長丁場を暗譜で誠に矍鑠たるお姿で棒を振られていたのには深い感銘を受けました。しかし、もうN響との共演はマエストロの健康を考えるならば現実的には難しいかも知れませんね…少しでも長生きして頂きたいので。

スクロヴァチェフスキ大先生には既に名盤の誉れ高い、旧ザールブリュッケン放送交響楽団との録音がありそれとの比較にもなりますが、別掲の通り全体的にややテンポが遅くなっていることもありますが、タイミング的にはかなり遅い部類の演奏と言えるでしょう。しかしながら、聞いていた感覚では第3楽章はさすがに『アダージョだな』という感覚でしたが、他の楽章はあまり遅い感じを受けなかったのがさすがに『ミスターS』だなと感服させられた部分です(録音とはほぼ同タイミング)。そして録音でも感じられたことですが、各パートの分離がかなり明瞭であるのはこのマエストロの特徴の一つでありますが、今回の演奏を視覚的に見てもマエストロのトレードマークである『極短タクト』が健在、そして相変わらずかなり派手なアクションで全身を使って棒を振られるので、決してその実年齢を感じさせず実に音楽が若々しい。また、どこがどうと具体的には指摘は出来ませんが、今回はヴァイオリンを中心に弦楽器のボウイングがかなり従来のものと異なっていたような気がします。特にダウンボウの多用により、元々先生は短めのフレージングをされる人ですが、今日の演奏は更に力強さが加わっていたような気がします。あと、先生の最晩年の第9として将来語り継がれるであろうと思われるのが、第3楽章の崇高な美しさです。先生はブルックナーの大家として自他共に認められていますが、このアダージョの名演奏はブルックナーの名盤として名を馳せる読響、及びN響との特に7番の第1楽章冒頭や第2楽章のアダージョに通ずるような美しさが獲得されていました。これは弦楽器を中心としたハーモニーやアンサンブルの美しさの獲得と同義であり、本日のコンサートマスターを務めた『マロ』こと篠崎史紀先生の素晴らしいリードと、マエストロへの的確なサポートなくしては成し得なかったことは間違いありません。

フィナーレの前半、第1〜3楽章の回想が終わって歓喜の主題が立ち現れる部分のパウゼが全くなく、あまりにも唐突に突入していくあたりはパウゼを明確にながめ取って欲しかったという嫌いはあるものの、全般的には声楽部を含めて非常に満足度の高い名演ではなかったかと思います。私がマズア先生指揮の際にも絶賛致しました福井敬さんや広上淳一先生&N響と『大地の歌』で圧倒的な『告別』の名唱を聞かせた加納悦子さんを中心に、ソリスト陣が万全でいずれも感動的な名唱であったことは疑いありませんが、本日の主役は間違いなく国立音大の素晴らしいコーラスにあったことは疑いようもありますまい。一番最初にコーラスが入場してきたところから、『今日はコーラスの数が多いな』と直感的に思ったほど人数が多く、そのボリュームの大きさはやはりトゥッティにおいてオーケストラの大音量と対等に渡り合っていたことに大きく寄与していたように感じました。そして、かなり自然なレベルにまで歌詞のドイツ語の発音が綺麗で、歌詞が良く聞き取れたというのもこのNHKホールの響きのデッドさを思うと驚異的ですらあります。特に我々が陣取った場所は、普段で言うところのE席、いわゆる『自由席』(今日はもちろん自由席ではありませんよ)の左側でしたから、ここはもう音響的にはかなり最悪な場所なんですが、ここでもあまり大きな不満を抱かずに聞けたのは嬉しい誤算でしたね。やはりスクロヴァチェフスキ先生特有の、響きが綺麗に分離して明瞭に各パートが聞き取れるという特徴が、このようなところでも大きな力を発揮していました。終結のプレスティッシモの部分は徐々にクレッシェンドしながらアッチェレランドをかけて我々の興奮を煽るのに効果的でありましたし、ラストのオーケストラはもう少し入れ込んで崩壊してしまっても良かったのではないかと思えましたが、十二分に熱気を孕んでいて素晴らしいエンディングを見せてくれたのが印象に残りました。スクロヴァチェフスキ先生の充実した笑顔が、この演奏の出来映えを十二分に物語っていたと言えましょう。解釈上は、スクロヴァチェフスキの面目躍如たる楽器バランスの妙を聞かせる箇所がかなりあり、我々の耳を楽しませるアイデアにも事欠きませんでしたが、全般的にはオーソドックスなもので2005年の録音ともあまり変わりがなかったように思いますが、N響との良好な関係を思わせるコミュニケーションのスムーズさや、ティンパニの強打や金管の強調等にも柔らかさを感じさせる等、全体に穏和な表情を見せていたのが深く印象に残りました。今後何年にも渡って繰り広げられるN響の第9公演において、真っ先に比較対象の筆頭に挙げられるであろう、素晴らしい名演でありました。

最後に外見上気づいた点をいくつか。弦楽器は左から第一ヴァイオリン(16)−チェロ(10)−ヴィオラ(12)−第二ヴァイオリン(14)という両翼配置で、コントラバス(8梃)はチェロの斜め後ろ、左奥に配置。コーラスは後列に男声、前列に女声。四人のソリストはコントラバスの後ろ、左手斜め奥に配置され、第4楽章の最初のバスのレチタティーヴォが始まる直前に着席。この方法だと聴衆が拍手をすることがないので、演奏の集中力が途切れませんし、ソリスト陣にも精神的な負担を軽減する効果があるのではないでしょうか?このソリストの登場部分に関しては、この手法は今回のこのスクロヴァチェフスキ先生の演奏で初めて見ましたけど、物凄く良いアイデアではないかと思います。秀逸!

誰だ?スクロヴァチェフスキ先生のことを『職人』だなんて揶揄している輩は?今日の第9しかり、私が今まで生で見たN響とのブルックナーの7番や、ザールブリュッケンとの8番等、紛れもない名指揮者、大家の棒そのものでしたよ。声を大にして、それだけは否定させて頂きます。


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何という神々しさ、堂々たる颯爽としたステージマナー、曲に対峙する真摯な姿勢、煌めく高音と分厚い低音との見事な対比。それだけでなく、ユリアンナ・アヴデーエワというピアニストには無限の可能性が秘められていて、今日見せてくれたのはそのごく一部の片鱗に過ぎないことを、今日のリサイタルを聞いて私は確信しました。

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オペラシティ・コンサートホール、タケミツ・メモリアル

2011年11月5日土曜日、14時〜16時。私はこの日を決して忘れることはないでしょう。生涯において、これほど素晴らしい演奏会に巡り会えることは滅多にありますまい。場所は東京・初台にあるオペラシティ・コンサートホール、タケミツ・メモリアル。実にヴァント先生のフェアウェルコンサート以来、私はこの『聖地』に足を踏み入れました。この日本における『ムジーク・フェライン・ザール』と同等か、それ以上の素晴らしい音響効果を誇るホールにおいて、私は二度目でありながらヴァント先生のコンサートと同種の雰囲気を開演前から感じ取っていました。

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ユリアンナ・アヴデーエワ(Yulianna Avudeeva)。クラシック音楽にご興味をお持ちの方は、もしかしたらその名前をご存知かも知れませんが、昨年度第16回ショパン・コンクールの覇者であり、アルゲリッチ以来、45年ぶりの女流チャンピオンということで様々なところで話題になっております。インゴルフ・ヴンダーや、ダニール・トリフォノフといった既に実績のある若者を抑えての栄冠ですから、非常に高い価値がありますね。見映えのする大きな瞳と屈託のないキュートな笑みを湛えた唇、ヨーロッパ人らしいスッと通った鼻筋。それらの大柄なパーツを収めるに足りないほどに小さな顔立ち。トレードマークのブロンズの髪を後に束ね、長い手足が存分に映える黒のパンツルックスーツに身を包んだ彼女は、今日もさながらミューズの如き佇まいを強烈にアピールしていました。私は三階のR2列16番というシートに家内と共に陣取りましたが、どうもこの場所は前にある転落防止用のバーが邪魔で、普通の姿勢での鑑賞を妨げます。ミューズの恍惚とした表情を一瞬たりとも見逃すまいと、私はバーの近くにまで身を乗り出し、とにかく食らい付くように拝見させて頂きました。

既に来日経験もあり、昨年はデュトワ&N響との共演、同じくオペラシティでのショパン作品リサイタルを開催しています。その彼女が日本の惨事に心を痛め、音楽家としていち早く支援の意思を表明、前述の昨年12月8日のショパンリサイタルの模様を完全ノーギャラで、カジモトさんからリリースされたというのは瞠目に値する事実ですね。何かとその美しい外見と女流ピアニストであることが前面に出てしまい、手放しで称賛されてしまうことの多いアヴデーエワ嬢。1985年ロシアはモスクワの生まれということですから今年26歳ですけれども、決して周りに流されることなく、確固たる信念を持っており、実に見事な心構えと行動力に感じ入りました。

ピアノ:ユリアンナ・アヴデーエワ
ショパン:舟歌 作品60
ラヴェル:ソナチネ
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第2番

(休憩)
リスト:悲しみのゴンドラ?
リスト:灰色の雲
リスト:調性のないバガデル
リスト:ハンガリー狂詩曲第17番
ワーグナー(リスト編):歌劇『タンホイザー』序曲

〜〜以下、アンコール〜〜
チャイコフスキー:瞑想曲
ショパン:マズルカ ニ長調作品33の2
ショパン:ノクターン ホ長調作品62の2


前半はショパンからラヴェル、プロコフィエフへと至る多彩な流れを、後半は生誕200年を記念してのリストの作品を並べるという、二度目の来日でかなり凝ったプログラムを組んできました。そして、良く見ると前半はプロコフィエフの2番、後半は『タンホイザー』序曲という、どちらもがメインとなってもおかしくないくらいに、華麗な技巧と馬力が要求される難曲でもありますから、恐らく昨年沸き起こった『ショパン・コンクール・フィーバー』のようなものを払拭したかったためなのかも知れません。事実、『ダブルメイン』とも言えるそのプロコフィエフのソナタと『タンホイザー』は圧倒的な感銘を与える素晴らしい名演奏であり、私がピアノのリサイタルでこれほどまでに感銘を受けたのは内田光子先生のとき以来と申し上げておきましょう。冒頭に述べましたような彼女の美点が見事なまでに凝縮されていて、あの彼女の華奢と言っても良いほどに細い体の果たしてどこに、あんなパワーを秘めているのか、本気で疑問が沸き起こります。『タンホイザー』等はオーケストラ版の方が良いに決まっている、というこちらの『アホな』勘繰りをいとも簡単に打ち砕き、あの『タンホイザー』の奥深く様々な楽器が入り乱れて創出される華麗なる世界を、ある意味オーケストラ以上の雄弁さでピアノを自在に操っていたのがとにもかくにも強烈に私の胸に刻み込まれました。リストの編曲が見事であるのは言わずもがなですが、そのテクニックを惜しげもなく披露してくれたアヴデーエワの名演、正に鳥肌ものでしたね。

後半の『タンホイザー』前の三曲は曲調がどちらかというとリストの作品の中でも調性が曖昧で無調の世界を暗示しているかのような非常に深い内容の名作ばかりが並びましたが、アヴデーエワの見事な集中力と間合いによって、我々も完全に彼女の世界に引き込まれてしまい、三曲の間で拍手が起きることなく続けて演奏されたのも印象的なシーンでしたね。こんなところにも彼女の見事なカリスマ性、我々が気付かないうちに引き込ませる魅力を持っているという点も、彼女が無限の可能性を秘めていると確信している大きな要素の一つであります。良く彼女の演奏を評して、彼女を『完成度が高い』と仰る方を多く見かけますが、私はそうは思わない。彼女はまだまだ成長し、無限に羽ばたく可能性を持っています。完成度が高いのは26歳で本格的にデビューしているのですから、そう感じるのは当然のこと。私はそれ以上に、彼女にはまだまだ『延びしろ』があると思っています。すなわち、単純に言えば『器が大きい』ということでしょう。26歳でこれほどですから、これから年齢を重ねてどれほどの円熟を見せてくれるのか、今から考えると非常に末恐ろしくさえあります。

なお、この演奏会の模様はNHKのFMと衛星で放映されるとのことですので(放映日未定)、是非多くの方にこの前途洋々たる名ピアニストの演奏をご堪能頂ければと思います。

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CD購入者対象のサイン会。1時間近く並んでようやく…(写真は私とは関係ありませんので悪しからず…)

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待望のアヴデーエワ嬢のサイン!生涯の家宝にします。。。

それから余談ですけど、右手の薬指に指輪が光っていましたが、恐らくそれも彼女の現在の充実に大きな影響を与えていることは間違いないでしょう。下世話で申し訳ありませんが(苦笑)そして、彼女の手が予想に反して大きかったこと(握手をさせて頂いた感触では、私と同じくらいだったか?!)、これには驚きました。


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