ここから本文です
現状、毎日のライヴ放送予定をチェック出来ないため、当面はネット音源のご紹介にフォーカスします。

書庫殿堂入りの名盤(ショパン)

記事検索
検索

全1ページ

[1]

今日は久しぶりに、アニバーサリーイヤーを迎えるショパンの音楽を取り上げてみたいと思います。特定の作品というよりは作品集と申し上げた方が良いアイテムですけれども、先日ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの演奏会にも来日致しました韓国の期待の若手ピアニスト、イム・ドンヒョクのピアノによる、ピアノ・ソナタ第3番を中心としたプログラムになります。

早速、彼のプロフィールからご紹介致しますが、1984年ソウル生まれの今年26歳を迎えるピアニスト。まだ20代ですから、これからいかようにもピアニズムが変化しそうな予感はありますが、このデビュー2作目のショパン・アルバムを聞くにつけ、彼の確固たる信念を貫いている演奏姿勢に大いなる感嘆の念を禁じ得ません。若くしてこういった演奏が出来るのはごく一握りの『本物の』アーティストのみであり、同じアジア地域の世界的なピアニストとして我々ももっと誇るべき存在であると言わねばなりますまい。コンクールでの成績は、2001年のロン・ティボー国際コンクールでのグランプリが何をおいても彼の評価を決定づけるものですが、96年の『モスクワ若いピアニストのためのショパン国際コンクール』での2位入賞、2000年のブゾーニ国際コンクール入賞、同年浜松国際コンクール2位入賞という、既に充分な実績があります。そして、何よりもかのマルタ・アルゲリッチが彼を大変高く評価しているという点も、この才能溢れるピアニストの将来が約束されたと言え、このアルバムも彼女のお墨付きを戴いてのリリースとなったものです。

…とは言いながら、実は私はこのアルバム以外に彼の演奏に触れたことがありません。特に、今年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでの演奏をお聞きになられた方がいらっしゃいましたら、是非その感想をお聞かせ頂けると幸いです。このアルバムには、ショパンのピアノ・ソナタ第3番、作品59のマズルカ3曲(36〜38番)、ノクターン第2番、幻想即興曲、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ作品22の、全7曲が収められています。初めてのショパン録音に大作のピアノ・ソナタ第3番を持ってくる辺り、並々ならぬ意欲と度胸、センスの良さを感じるのは私だけでしょうか?ジャケット写真を拝見しますとイム・ドンヒョクの横顔が写っていますが、耳にピアスをしていたり、ヘアスタイルや服装等もいかにもオシャレな、現代風のソウルっ子のイメージですけれども、実は演奏のイメージはそんなことはなくて、もちろん、きらびやかで力強く華麗なタッチは一番の魅力ですが、ガラス細工のように壊れてしまいそうなくらい非常に繊細な部分があったり、少しテンポを緩めてジックリと歌い込む部分があったりして、自在な表現のパレットを駆使しているのが印象に残りました。後半の曲目も単なるアンコールピース的なアプローチではなく、丁寧な表情がつけられているのが素晴らしいのですが、起伏の大きなピアノ・ソナタ第3番が殊の外素晴らしい名演。はち切れんばかりに瑞々しい果実のような若さを湛え、以前ご紹介致しましたザラフィアンツの名演とはまた違った感触を与えますが、充分に肉薄し得る素晴らしい演奏だと思います。

ピアノ・ソナタ第3番

それではまず、ピアノ・ソナタ第3番から早速細部を見てみることにしましょう。第1楽章冒頭、いきなり強奏で現れる第一主題、若さ溢れる非常に力強い打鍵が印象的ですが、2小節目の2拍目の付点音符からの上昇音型を幾分レガート気味に弾いたり、フレーズ間の間合いをそれと分からないくらいに大きめに取っていたり、強弱を自在に現出させたりと、従来の演奏に比してかなり大胆なフレージングが印象に残ります。そして、ドンヒョクのピアノの素晴らしさを決定づけるのは、やはり1分29秒から現れる憧憬に満ちた第二主題でしょう。特に高音や細かい音符でのタッチの美しさは秀逸で、これほどまでに主観的に感情を込め抜き、ショパンのロマンティズムを際立たせた演奏も近年では多くないように思われ、美しくロマンティックなことこの上ありません(ちなみに、ザラフィアンツの演奏に比べるとこの箇所で既に30秒ほどの違いがあることが分かります)。泣ける美しさというよりも甘美でとろけるような美しさとでも言えましょうか。そして、4分過ぎに突然現れる第一主題の回帰。この部分の低音の力強さも特筆すべきでしょう。尋常ならざる迫力で迫ってきます。続く第2楽章は、この曲の本題とも言える第3楽章への序奏と捉えることが出来るとザラフィアンツ盤ご紹介時に書きましたが、この楽章の細かい音符の軽快なテクニックは正にドンヒョクの独壇場と言えるもので唖然とするほどに素晴らしく、後半の緩やかな第二主題との見事な対比を成し、再び軽快な第一主題が回帰する部分のテクニックも圧巻の一言。第3楽章の深い瞑想と慰め、憧れに満ちた世界を、正直、私はこの若いピアニストがここまで正攻法の素晴らしい表現で昇華し得るとは、予想だにしませんでした。冒頭和音でのペダルの使い方も重過ぎず軽過ぎず、的確の一語に尽き、その後中庸のテンポで導入されるメインテーマにおけるタッチの繊細さ、溜息が漏れるような様をものの見事に弾きこなしていきます。時折差し挟まれるルバートがまた絶妙の限りでセンス抜群、フレーズの端々が生きているように呼吸していく…この表面的でない内面の充実に、私はこのピアニストの将来に確かな手応えを感じた次第です。そして、ドンヒョクのテクニックがこれでもかと炸裂する、第4楽章のフィナーレ。冒頭和音の連打から凄絶な強奏に驚かされますが、主部のメインテーマでは頭のアクセントを押し込むように弾く弾き方が独特であり、右手と左手のバランスは他の演奏に比べると幾分左手に比重が置かれているように思いますが、それが重厚感とシンフォニックさの印象を強めている要因と言えるでしょう。これによって、高音部分の煌めくような軽やかで、目の回るような速さで完璧に弾きこなされるテクニックが際立って聞こえます。後半の高揚感がまた実に見事で、ラストは白鍵、黒鍵入り乱れての饗宴に圧倒されるでしょう。

マズルカ作品59

次の作品59のマズルカ3曲ですが、これらはいずれもショパンの死の3年前に書かれたものだそうで、より自由な曲調・構成とロマンティックな旋律、転調が際立って特徴的な作品です。中でも変ホ長調のワルツ調で書かれている37番が特に有名でしょうか。まずはその第37番ですが、ドンヒョクはテーマを比較的落ち着いたテンポで導入し、徐々にクレッシェンドとアッチェレランドをかけて盛り上げていく辺り、この曲に対する共感の深さが伺えますね。3拍目のアクセントも自然に決まっていて、少し『縺れそうな』リズム感を絶妙に引き出しています。そして、ラストの静寂へと収束していく曲の組み立て方も素晴らしい。次に有名なのは38番でしょうか。これは少し重たい曲調が強調されやすい曲でありますが、ドンヒョクの解釈は少しゆったりめのテンポの中を和音等が重厚になり過ぎることなく、特に弱音にスポットを当ててじっくりと歌っていくのが印象に残ります。そして、3曲の中で一番初めに弾かれた36番。これは比較的温和な表情を持つ曲でもあり、ドンヒョクの解釈もオーソドックスなものですが、フレーズの間合いや揺れのようなものに独特のセンスが感じられ、平板になりがちなこの曲に陰影を与えた好演です。

ノクターン作品9の2

ノクターン第2番変ホ長調、作品9の2。そのロマンティック極まりない旋律の美しさから、ショパンのノクターン全曲のみならず、ショパンが書いた全ての作品群の中でも極めて良く知られた作品の一つであり、恐らくこの曲が一番好きだという方も多くいらっしゃるでしょう。それこそ、ノクターンを全曲録音しているピアニストも多いですし、ショパンの名曲集でも必ずと言って良いほど収められる曲ですので、それこそ演奏は無数にありますためキリがなく、私もとてもではないですが全ての演奏を聞いたことはありません。が、このドンヒョクの演奏は間違いなく心に迫るものを孕んだ第一級の名演であると確信を持って言えます。彼は比較的ゆったりとしたテンポを設定し、繊細なタッチでじっくりと歌っていますが、これが泣けるくらいに美しく絶品!マイナーコードに傾く際の哀感や、各フレーズ後半に向かってフッと緩められるルバート、高音の芯のある輝かしいタッチ、右手左手のバランス感覚等、天性の感覚としか言いようがないものを備えており、これだけの演奏に最早余計な言葉は不要でしょう。

幻想即興曲

次の幻想即興曲も極めて有名な作品ですが、嬰ハ短調という調性もあってベートーヴェンの『月光』ソナタとの類似性が指摘されることもあるようで、確かに曲想は全く異なりますが、幻想的な雰囲気はどことなく似ていますね。激しいアレグロ・アジタート(A)、ラルゴ・モデラート・カンタービレ(B)、プレスト(A′)、コーダ(C)という大きく4つの部分から構成されるこの曲、特に最初のテーマが再現する最後の部分で速度指示がプレストに速められているのは注目に値します。ドンヒョクの演奏では全体的に比較的速めのテンポが採られ、特にAとA′の部分での超絶技巧を際立たせているように感じます。A′部終盤の細かいフレーズ等はホントに余裕綽々、唖然とするほどに上手い。そして、1分11秒から始まるロマンティックなBの部分ももちろん相対的にグッとテンポを落として充分に歌っていながら全体の流れを損なわず、耽溺するような主観を排して不思議と爽やかな印象を感じさせるのが印象的。コーダでの落ち着いた雰囲気との対比も実に素晴らしいですね。そのようなテンポ設定の中でも微妙なルバートがかけられたりして、かなり新鮮な解釈と言えるのではないでしょうか。

アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ

最後の『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』作品22ですが、従来は管弦楽を伴う協奏曲形式で出版されていますが、ピアノ独奏で演奏されることの方が多いようで、ここでも独奏バージョンが演奏されています。この曲がプログラムの最後に置かれたことに大喝采を送りたくなるような、大変素晴らしい演奏が繰り広げられています。正にイム・ドンヒョクの独壇場、低音高音の区別なく磨き抜かれた美音、あるときは力強く、あるときは繊細に繰り出される自在なタッチ、独特の間合いと絶妙なルバート…これだけやりたい放題やっているのに気品や高貴さを感じさせるピアニストも、現代では大変珍しい存在であると言わねばなりますまい。前奏の役割を果たす『アンダンテ・スピアナート』部分全般での、澄み切った青空を感じさせる繊細な高音、包み込むようなおおらかさを感じさせる優しい雰囲気。あるいは、ポロネーズ部分での気高く輝かしい、神々しさすら感じる高速のパッセージや、見事に表出され切っているポロネーズ独特のリズム感・ルバート感等、聞き所満載であり、この1曲の演奏をもってしてこのピアニストの大成を確信するに充分な、大変な名演と言えます。


総括

これから本格的にベートーヴェンやモーツアルト等の古典派、リストやシューマン、ブラームス、チャイコフスキー、ラフマニノフといった王道のレパートリーを開拓していくでしょうから、そのときに真価を問われることになるでしょうが、その期待に充分に応える器であると確信し、殿堂入りして頂きましょう。何せフランソワ、チッコリーニ、フェルツマン、ブーニン、清水和音というそうそうたる覇者の系譜に連なる資格を、彼は既に与えられているのですから…
イメージ 1

イメージ 1

※冒頭にいきなり恐縮ですが、先日ご紹介したフォスター指揮サ・チェンのピアノによるショパンのコンチェルト(http://blogs.yahoo.co.jp/hirokazu_ishii_2007/5721398.html)が、少し前にレコード芸術の海外盤試聴記にも取り上げられており絶賛されていましたので、もしご興味がある方はバックナンバーを是非ご覧になってみて下さい。

さて、今回はその同じショパンの曲から私の大好きなピアノ・ソナタ第3番を、エフゲーニ・ザラフィアンツのピアノで取り上げてみたいと思います。ライナー・ノーツに記載されている彼のプロフィールを、まずはご紹介致しましょう。


【プロフィール】
1959年6月24日、ロシア共和国ノヴォシビルスクの音楽一家に生まれる。
6歳からピアノを父に学び、8歳でモスクワ音楽院付属中央音楽学校に入学、エレナ・ホヴェンに師事。1975年、モスクワのグネシン音楽学校に進むが、音楽の勉強の一方、政治にも関心を示すようになり、学校内でブレジネフの肖像に落書きをしたことから、ついにモスクワから追放される。ザラフィアンツはキャリアを重ねるに相応しい、モスクワ音楽院への道を閉ざされ、オルスクに移る。

1979年、オルスク音楽院を首席で卒業。1980年、ゴーリキーのグリンカ音楽院に入学、イリヤ・フリートマンに師事。1985年に首席で卒業後、1988〜1990年にかけて、同音楽院の研究科で研鑽を重ねる。1985年、全ロシア・コンクールで第3位に入賞。

ザラフィアンツの名前が知られるようになったのは、彼が1993年にカリフォルニア州バサデナで開かれたイーヴォ・ポゴレリチ国際ピアノコンクールで第2位に入賞を果たしてからである。現在、クロアチアのイノ・ミルコヴィッチ音楽院で後進の指導に当たる一方、ドイツや日本を中心に音楽活動を行っている。日本へは1997年秋に初来日。


以上が、ザラフィアンツの簡単なプロフィールのご紹介です。政治的な関係で、本格的なピアニストの正統派王道を閉ざされてしまったのですが、別ルートから這い上がってきた典型的な成功例と言えるでしょうね。さて、次にこのライナー・ノーツを執筆されている、諸石幸生先生の紹介文を一部、以下に引用致します。


【諸石幸生先生によるCD紹介文】
今、静かにではあるが、エフゲニ・ザラフィアンツに対する関心がさざ波のように聴き手の間で巻きおこっている。我が国では全く無名であったザラフィアンツの初来日が実現したのが1997年のことであったが、ザラフィアンツは小さなコンサート・ホールでの演奏会に全身全霊をもって打ち込み、深い感銘で聴き手を虜にしてきた。決して大向こうを唸らせるような派手な存在感を誇る演奏家ではないが、ザラフィアンツは、繊細な感受性とひたむきな表現意欲、内面的憩いへと誘う独特の音色と卓越したテクニック、無垢なる音楽性と洗練された知的構成力といった特質を併せ持つ演奏家であり、彼のそうした特質はたちまち聴き手を魅了、詩的幻想の空間に誘惑、陶酔させてきたのである。

(中略)
自己を装うことなど微塵もなく、また妥協のない厳しさを背景に自身の音楽性を掘り下げてきたザラフィアンツの生き方は、柔軟性が尊ばれ、変わり身の速さが重宝される現代にあっては一見時代遅れのように映ることもあるが、40代を迎えた今(※)、ようやく大輪の花を咲かせつつあるように思われる。

(中略)
コンクールでは二位の栄冠が与えられたが、不思議にそれ以後の活躍は決して華々しいものとはならなかった。祖国やドイツで演奏活動は行われてきたが、それは限られたものであり、ザラフィアンツの音楽活動は次第に教育活動に傾きがちであった。しかしそんなザラフィアンツの演奏を是非聴いてみたいという日本の有志の熱意により、1997年に来日が実現、その一回の出会いがザラフィアンツも日本も変えたのである。

(中略)
短調の憂いに満ちた作品への傾斜は相変わらずだが、そこで私たちが手にする感動は何としなやかな流れと深い息づかいに満ち溢れていることだろうか。年齢を重ね、経験を積み、名声を得てもザラフィアンツの本質はピアノを前にした心の詩人なのであり、その魅力は変わっていない。今回のアルバムはザラフィアンツの原点と飛躍の過程とを同時に堪能させる実りの豊かさを誇っていると確信される。


この文章は、評論家諸氏の文章に最近はあまり感心しない私が、近年珍しく感銘を受けた素晴らしく熱の篭った名文だと思います。特に諸石先生を贔屓にしているわけではないのですが(笑)『ピアノを前にした心の詩人』なんて、憎いばかりの名文句ですね。実に素晴らしい文章です。こういうのを読むと、私も『聞きたい!』と思わせられるんですよ。

と、諸石先生はザラフィアンツの知名度が俄かに上がってきていると書いていらっしゃるのですが、このディスクは確か2002年だったか2003年だかにリリースされているので、今から約7〜8年前になりますけれども、それでもザラフィアンツの日本における知名度はまだまだ低いのではないかと思いますね。つい先日、ベートーヴェンのソナタを何曲かまとめて録音したのが、レコード芸術で特選盤に選ばれていたのは印象にありますが…


ショパンの第3番のピアノ・ソナタですが、私はこの曲の第一楽章第二主題の絶美の美しさゆえに、ショパン最高傑作の一つと考えている作品であります。ショパンのソナタは第2番が『葬送』というタイトルがついているということもあってか、群を抜いて有名になっていますが、私にとっては間違いなく、旋律美に溢れたこちらの第3番の方が『名曲』です。アルゲリッチ、リパッティ等、意外と名盤に事欠かないショパンのソナタですが、やはり2番と同時に録音されることが多いせいか、2番の延長線上として解釈され、描かれることが多いみたいで、少し踏み込みが足りないな…という不満が無きにしも非ずだったんですが、私には今はこのザラフィアンツ盤が1枚あれば、取り敢えずはいいかな、という状態です。

まず第一楽章ですが、アレグロ・マエストーソという速度指定がありますけれども、極めて幻想的な曲想によって書かれており、私はアレグロという指定にはあまり拘らなくても良いんじゃないかな、とは思います。この楽章はロ短調によって始まりますが、力強い和音によって組み立てられた悲劇的で勇壮な第一主題と、憧憬に満ちた極めてロマンティックな第二主題との対比が大変素晴らしく、このソナタの中でも群を抜いて出来栄えが良いと感じられますね。その第一主題、これは力任せに鍵盤を叩き付けるように、また、疾風のように導入するピアニストが多い中、ザラフィアンツは非常に落ち着いた音量とテンポによって導入しており、この音楽を表面的ではない深いところで捉えていることが良く分かる演奏になっています。上昇音型の部分で徐々にクレッシェンドしていく感じですね。そしてこの曲最大のクライマックスと言っても過言ではない、2分ちょうどからの第二主題、これがまた言葉にならないくらい、極めて美しい!泣けます。。。ごめんなさい、私は単に『美しい』という言葉しか思いつかないです。テンポは絶妙、これ以上ないくらいに微妙に音符の『揺れ』を再現しており、これは恐らくショパンの演奏ももしかしたらこうだったのではないか?と思うくらいに、ロマンティックな音楽が展開されていきます。また、ザラフィアンツのピアノの音色が、非常に『色が濃い』という表現が適切かどうか分からんのですが、とにかく瞑想の世界に我々を誘うというか、単に美しいだけではないんですよ。全ての音符が我々の眼前に現れて、意味を語りかけながら消えていくというような…

第二楽章は『スケルツォ・モルト・ヴィヴァーチェ』、変ホ長調。非常に軽やかな第一主題の上下動が気持ち良い音楽ですね。ザラフィアンツの打鍵はそれに相応しいものですが、対照的に第二主題の深く沈み込むようにゆったりと奏される旋律美が際立っており、この第三楽章への『序奏』とも言える軽快な音楽に、深い意味と必然性を与えています。

さて、その第三楽章。この楽章をショパンの音楽の中でも高く評価している、あるいは大好きだという方々も多くいると思いますが、私もこのような音楽はピアノ協奏曲やソナタというジャンルでなければ、ショパンは書き得なかったのではないか?と思うくらいに、大変ロマンティックな音楽が展開されていると思います。冒頭の和音からしてラフマニノフを先取りしたような重々しさ、そして過去を回想するかのような趣に溢れた、非常にロマンティックなテーマ。ザラフィアンツはその暖かくも憂いを帯びた悲しさを感じさせる音色で感情移入し、テンポも微妙に揺らしながらショパンの心情を歌い上げていきます。ショパンの名旋律とザラフィアンツとの、実に幸福な出会い。素晴らしい名演です。

第四楽章のフィナーレはショパンの激しい情熱が噴出する、大変エキサイティングな音楽。そのショパンが書いた音楽も凄いですが、このザラフィアンツの奏でる演奏はそれを遥かに上回る巨大さ!冒頭の嵐のような楽想は、ザラフィアンツは敢えてゆったりとしたテンポをとり、ペダルを多用、非常にスケールの大きな和音の塊に驚かれることでしょう。ベートーヴェンの『ハンマークラヴィーア』の冒頭和音を思い起こさせるような、大変重量感のある解釈にまず拍手を送りたいと思います。そして、主部に入っても遅めのテンポを一貫させ、音量を少し控え目にして快速エキサイティングな演奏に陥ることをよしとせず、また随所に見せる後拍に重心を置いたテンポルバートが、嫌みなく絶品!高音部のフレーズはキラキラと輝きに満ち溢れ、左手の和音はペダルとともに深く沈み込む…圧倒的な6分半があっという間に終わってしまいました(涙)

アルゲリッチ、内田光子、ダン・タイソンと名盤は数多くあれど、私が今まで耳にしたどの演奏と比べても、極めて異質なアプローチであることは間違いありませんが、同時にこれだけ巨大なスケール感とシンフォニックな響きをピアノから引き出してみせた演奏は、そうそう多くありません。ちなみに、私は最近のピリスの演奏は未聴。是非聞いてみたいのですが…近年では、ネルソン・フレイレのものとともに、極めて高く評価したい名盤。カップリングのハイドンのソナタもじっくり腰を落ち着けた佳演ですが、メトネルのソナタがまた素晴らしい!これについてはまたの機会に…

【詳細タイミング】
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調
第一楽章:12分31秒
第二楽章:3分41秒
第三楽章:10分11秒
第四楽章:6分24秒
合計:約33分
【オススメ度】
解釈:★★★★★
演奏テクニック:★★★★★
録音:★★★★☆
総合:★★★★★

エフゲーニ・ザラフィアンツ(ピアノ)
2001年11月5日〜6日府中の森劇場、ウィーン・ホール

イメージ 1

イメージ 1

さて、先週買ったディスクの中から1枚、どうしても初めに触れておきたいものがあります。4連続で同じレーベルのもので大変恐縮なんですが、それだけペンタトーンというレーベルの質が高いとご理解下さい。

サ・チェンは既に注目されている方もいらっしゃると思いますが、中国のピアニストですね。あのユンディ・リと同じお師匠さん、だそうです。ジャケット写真をご覧頂くと彼女のあどけないチャーミングな微笑と大きな瞳がとても印象的ですが、1979年生まれとありますから既にベテランになろうかという芸歴。というか、2000のショパンコンクールにおいて、ユンディ・リが優勝した年ですけど、そのときに彼女も4位に入賞&最優秀マズルカ賞を受賞(ユンディ・リとともに)していたのを最近になって知りました(苦笑)

このショパンは2008年、ついこの間の最新ライヴ。バックは私が絶賛したローレンス・フォスターが手兵のリスボン・グルベンキアン財団管弦楽団を率いています。オケは1962年に設立され、クラウディオ・シモーネやムハイ・タンが音楽監督を務め、ミシェル・コルボ等の演奏で知られています。この演奏、結論から言うと近年のショパンのコンチェルト録音の中でも、かなりの名演と申せましょう。もちろん、伴奏と録音の素晴らしさを全て加味して。演奏内容から言えば、アルゲリッチほどのパッションではありませんが、繊細なタッチと意外と大胆なフレージング、確かなテクニックに支えられ曲調に合わせて揺れるテンポ等、かなり自由に演じられています。個人的には、このまま色々な経験を積んで、より思索的・深い瞑想の世界を究めて、ピレシュ(ピリス)のような存在になって欲しいと期待しています。

早速ですが第一番の第一楽章。この楽章の速度表記にはアレグロ・マエストーソと書かれていますが、フォスターはスコアのオーケストラパートの弱さを少しでも補うかのように、比較的たっぷりとシンフォニックに鳴らしているため、この音楽のマエストーソな部分により焦点が当てられた演奏と言えるでしょう。ツィンマーマン(ツィメルマン)&ポーランド祝祭管の演奏まではいかないですが、割とたっぷりしたテンポで強弱の幅も豊かなので、これから始まるドラマに期待を抱かせます。1分45秒から始まる第二テーマの弦楽合奏、ピツィカートに乗って奏されるフルートがとても美しいのが印象に残ります。さて、第一テーマを導入するチェンのピアノ、どうでしょうか?(4分2秒)これもフォスターのタクトに触発されてか、とても詩情豊かで繊細なタッチ。彼女の美点が最大限に発揮されており、下品にならない程度にテンポを微妙に揺らしたフレージングも素晴らしい!私は一気に引き込まれましたね。6分51秒から第二テーマですが、こちらはホルンやクラリネットとの重奏が特に美しいです。8分38秒からのアルペッジョもクリスタルのような煌めきと輝き。9分58秒からのオーケストラだけのトゥッティの部分でも、冒頭同様たっぷりと歌いますけれども、11分5秒から11分22秒にかけて、すなわち再びピアノが第二テーマを弾き始める直前ですが、ここの低弦の息の長い旋律は絶品ですね。美し過ぎてため息が出ます。その後のクリスタルな第二テーマを経て、細かく上下に動くスケール風のパッセージがありますが、ここはでチェンの音色一辺倒ではないテクニックが十二分に発揮されます。そして再び14分13秒から冒頭のテーマに戻り、ピアノが静かにそのテーマの発展形を奏する部分と、トゥッティの迫力との対比が泣かせます。切なくなりますね…そうこうしていると、追い討ちをかけるように17分3秒から、本当に静かで穏やかな表情で第二テーマが導かれます。こういう感性とフレージングの見事な一致は、やはり女性ならではでしょう。男性ではこうはいかない。実に感じ切った見事な部分です。18分45秒からは、私が個人的に第一楽章におけるこの演奏のハイライトと感じた部分なんですが、チェンのテクニックは見事なのはもちろん、ピツィカート含めた弦楽パートがとても良く鳴るので、掛け合いというか対話というか、そういうものが非常に良く聞き取れるでしょう。ああ、こうなってたんだ、と感心しました。そしてラスト、20分14秒からの弦楽合奏の静寂と、最後の二つの和音とのコントラスト。

続く第二楽章は、私が個人的にショパンの作品の中でもピアノ・ソナタの3番、第一楽章の第二テーマと同じく大好きな音楽です。この楽章は弱音器をつけた弦楽器の、甘く切ないメロディが静かに導入されますが、フォスターの棒のロマンティックなこと。1分ちょうどからのホルンのサインに重なるように、チェンの夢のように揺れるテーマが、噛み締めるように歌われます。この瞬間も間違いなく泣けます。それだけに、4分59秒からの短調に移行する部分の、内に秘めた激しい感情が際立ちますね。7分39秒のピアノの独白は、一瞬ラヴェルやドビュッシーのようでもあり、ドキッとさせられます。
さて、ヴィヴァーチェの指定を受けたフィナーレですが、冒頭の弦によるフォルティシモの3音が非常に決然たる表情で、短かく切った固めの音で厚めに奏され、続くチェンの華麗なロンドのテーマと対比されて非常に強く印象に残るでしょう。2分12秒からはピアノが細かい上下動を繰り返し、オーケストラの各パートと絡み合いながら発展していきますが、ここでのチェンのテクニックも実に見事。軽々と弾き切ってしまいます。3分8秒からの第二テーマが奏される直前の絶妙なリタルダンド、第二テーマの理想的なテンポ設定!5分10秒からの、転調した第一テーマを導入する際の天才的なまでのセンスの良さ!ショパンのピアノコンチェルトはこうでなくては。7分12秒からのピアノの力強いパッセージも決して痩せることはありません。このチェンというピアニストは充分なパワーも兼ね備えているようですね。9分16秒からのアルペッジョも見事に決まります。9分33秒からのコーダも素晴らしいの一言!ブラーヴォ!

2番は1番よりも先に作曲されたということもあり、もしかしたら2番はつまらんと思っている方もいらっしゃるかも知れませんけど、そういう方にこそこの演奏は聞いてみて頂きたいですね。何より、相変わらずフォスターの棒が絶品です。ショパンのオーケストレーションがつまらん?いや、そんなことないですよ。やっぱりこの曲はこうであるべきです。協奏曲というよりは、オーケストラ伴奏つきのピアノ・ソナタ。2番は特にそういう色合いが強いですが。思い切りピアノの美しさとショパンの詩情を味わえば良いんです。さて、そうこう書いているうちに、チェンのピアノが来ました(2分39秒)。これは!ショパンのバラードか何かを聞いているような、激しさを内に秘めた芯の強い音に微妙に揺れ動くフレーズ。静かで優美な、しかもグッとテンポを落としてじっくり歌われる第二テーマ(5分4秒)との美しいコントラスト。7分44秒や10分56秒からのオーケストラのトゥッティによるフォルティシモの部分は、うわーっと荒波が押し寄せるような感覚。こういうところは実にフォスターらしいですね。11分18秒から再びピアノで第一テーマが回帰する部分のリタルダンドも絶妙ですし、続く11分53秒でピツィカートに乗ったピアノの美しいこと!2番もメロディとロマン、ピアノテクニックの宝庫ですね。とても魅力的なコンチェルトです。というか、チェンとフォスターがそれを思い知らせてくれますよ。
この曲の第二楽章も1番のそれに劣らずに大変美しい、この世のものとは思えない美の極致。ショパンには珍しく『ラルゲット』という速度表記がつけられていますが、冒頭から引き込まれます。チェンの音色の何と魅惑的なこと!これは恐らく、フォスターが導入するテンポ設定と無縁ではないでしょう。ラルゴまではいかないですけど、心持ち遅め。弦楽器の絨毯の上を純白のドレスを着た花嫁が厳かに歩いてくるような雰囲気。これはこの曲の中でも特筆すべき白眉と言えるでしょう。この楽章を聞くだけでもこのCDを手にする価値はあります。とにかく全てを全身で受け止めたいですね。4分18秒から、弦楽器が波を打つようにクレシェンドして、フォルティシモから一気にピアニッシモまで落としたトレモロの上で細かく揺れ動くピアノ。ここもチェンのテクニックの聞き所。7分ちょうどからのチェンのテーマは、そういった不安な心情を経ての救済の世界のようで、この曲の中でも極めて美しい箇所に仕上がっています。
夢のような美しい時間が過ぎ、フィナーレは1番同様舞曲。この楽章ではもう少し荒々しくテーマが弾かれることもありますが、チェンは持ち前の音色美を生かして、実に着実に歩みを進めていきます。1分20秒からの木管とのアンサンブルも弾けるような色彩がとても綺麗です。2分17秒からの弦のコルレーニョの上で舞う第二テーマなんかも本当にいい感じですね。発展して技巧的なフレーズを弾く際も全くブレることがないので安心して聞いていられます。オーケストラも5分9秒からのクラリネットの重奏が美しさの極み。5分33秒からの冒頭第一テーマが回帰する部分も、チェンは細かい装飾音をとても大切に弾いており、繰り返しとしての効果を高めています。6分56秒からはホルンの強奏をサインにガラッと雰囲気が変わるコーダ。ここはショパンの作品の中でも技巧的にとても難しいと思いますが、いかにもショパン!という充実感があります。素晴らしい演奏を聞かせて頂きました。

このディスク、ツィンマーマン(wポーランド祝祭管)のような個性的な演奏にはないスタンダードな魅力を持っていますが、上記のように聞き所が満載であり、曲を聞き込まれた方々にも充分にアピールする濃い内容を備えています。静と動、剛と柔、いずれも表現の幅が広く(しかしながら、静&柔がより素晴らしい!)、サ・チェンというピアニストの引き出しがとても多いことが実感出来るもの。後は彼女が20代でしか表現し得ないものを内包しているような気もします。グリーグやシューマン、ラフマニノフなんかを是非聞いてみたいところです。アルゲリッチ&デュトワ、ピリスの新盤(wクリヴィヌ、プレヴィン)とともに強く推奨致します。

【詳細タイミング】
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11
第一楽章:20分38秒
第二楽章:9分56秒
第三楽章:10分8秒
合計:約41分
ショパン:ピアノ協奏曲第2番ヘ短調作品21
第一楽章:14分51秒
第二楽章:9分36秒
第三楽章:8分52秒
合計:約33分
【オススメ度】
ピアノ協奏曲第1番
解釈:★★★★★
ソリストの技量:★★★★★
オーケストラの技量:★★★★☆
アンサンブル:★★★★☆
ライヴ度:★★★☆☆
総合:★★★★★
ピアノ協奏曲第2番
解釈:★★★★☆
ソリストの技量:★★★★★
オーケストラの技量:★★★★☆
アンサンブル:★★★★☆
ライヴ度:★★★☆☆
総合:★★★★☆

サ・チェン(ピアノ)
ローレンス・フォスター指揮リスボン・グルベンキアン財団管弦楽団
2008年7月リスボン、グルベンキアン財団大講堂

全1ページ

[1]

検索 検索
サヴァリッシュ
サヴァリッシュ
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
友だち(11)
  • 恵
  • ドルチェ・ピアノ
  • たか改め「みんなのまーちゃん」
  • HIDE
  • JH
  • テレーゼ
友だち一覧

最新のコメント最新のコメント

すべて表示

よしもとブログランキング

もっと見る
本文はここまでですこのページの先頭へ

[PR]お得情報

お肉、魚介、お米、おせちまで
おすすめ特産品がランキングで選べる
ふるさと納税サイト『さとふる』
コンタクトレンズで遠近両用?
「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」
無料モニター募集中!
話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン

みんなの更新記事