お待たせして申し訳ありませんでしたが、今回は音楽祭のプログラムレビューの続き、オーケストラコンサート以外のものを見てみたいと思います。
1.注目のピアニストによる演奏会
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マウリツィオ・ポリーニ
まずはピアノ界の重鎮、マウリツィオ・ポリーニがルツェルン音楽祭に登場。全部で3回登場するうちの1回はプログラム未定でしたが、残りの2回で何と、
ベートーヴェンのソナタを2
1番から27番まで集中して一気に取り上げます!ベートーヴェンに関していうと2000年代に入ってからは1〜3番、5〜8番、22〜24番、27番を録音していますが、評論家筋の評価が軒並み高い反面、一般のリスナー、それも玄人筋の聞き手にはあまり評価の芳しくないポリーニ。録音があまり良くない、という評価も数多く目にしておりますから、なかなか正当にその演奏が評価されているとは言い難い一面もあります。しかし、一連の録音がベートーヴェンらしいか(我々が『勝手に』ベートーヴェンの音楽はかくあるべし、と期待してしまうものに近いか?と同義)どうかは横に置いておき、私は氏のピアノはやはり凄いと思いますね。20世紀後半を代表する偉大なるピアニストの一人だと思います。現役ではもちろん筆頭グループに挙げたい。こんなことを書いたら、また叩かれるかも知れませんが(苦笑)『ワルトシュタイン』や『熱情』といったタイトル曲はもちろん、その他の曲についても隅々まで神経の行き届いた、近年の氏の芸風を反映した名演奏を期待したいところ。なお、ポリーニはザルツブルクでも21番〜24番を取り上げますが、ルツェルンとザルツブルクでの会場の雰囲気等の違いがどのような形で演奏に反映されるか、非常に興味深いところ。
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クリスティアン・ベザイデンオート
このブログでも何度かその名前が登場しているピアノ界のホープ、クリスティアン・ベザイデンオート。N響への客演や、ハルモニア・ムンディへのモーツアルトのピアノ作品集、ムローヴァとのベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ等の録音で注目を集めている、この若きヴィルトゥオーゾですが、ルツェルンで得意の
モーツアルトの
5番と9番のソナタを中心としたピアノ作品を取り上げます。録音でもフォルテピアノを自在に操る素晴らしいテクニックと、その独特の音色を生かした充実した解釈によって名演を繰り広げておりますので、ここでも大きな期待がかかることは必至ですね。一方、ザルツブルクでは
ムローヴァとのベートーヴェンを披露する予定で、特に『クロイツェル』は素晴らしい名演となることが期待されます(申し訳ないのですが、私は上述のディスクは未聴です)。
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リーズ・ドゥ・ラ・サール
『美し過ぎる』ピアニストとしても(と申しますか、以前まではその類稀なる美貌のみが話題先行していた感のある)有名な若手女流ピアニスト、リーズ・ドゥ・ラ・サール。近年リリースされたショパンのコンチェルトやリスト作品集、ショスタコーヴィチ&プロコフィエフ&リストのコンチェルト集の録音により、その折り紙つきの実力の高さがようやく正当に評価され始めたと思いますけれども、彼女の
リストのプログラムはルツェルン音楽祭の、いや、今夏屈指の話題の演奏会となることは間違いないでしょう。ルツェルンでのただ一度だけの登場というのが残念ですが、それだけに期待度が凝縮されることは間違いありません。レコーディングと全く同一のプログラムを持ち込んだ辺りにも彼女のポリシーと自信のほどが窺え、何とも頼もしいピアニストに急成長したものだと感心します。欲を言えばロ短調ソナタを取り上げて欲しかったところですが、それはまた今後のお楽しみということで。
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エレーヌ・グリモー
グリモーが既に大家の領域に入ったことは近年の録音の更なる素晴らしさによって証明済みですけれども、彼女のピアニズムの大きな特徴である『繊細さと大胆さ、しなやかさの絶妙なバランスによる同居』に、更に磨きがかかってきたような気がします。特に瞑想に耽るかの如きピアニッシモと、男性も顔負けの力強いタッチによるフォルティッシモとの見事な対比。ドイツ・グラモフォンへの大変興味深い選曲によるコンセプトアルバム等、やはりグリモーにして初めて様になるというか、初めて成し得た内容だと思いますね。そのグリモー、ルツェルン音楽祭への客演ではまずアバドとルツェルン祝祭管との共演による
ブラームスの1番ということで大きな注目を集めそうですが、私が驚いたのが、そのアバドの手兵の弦楽セクションを弾き振りしての
モーツアルト・プログラム!
19番と22番といういずれもチャーミングで楽しい名作コンチェルト!また、特にオーケストラパートでの彼女のリードに大きな興味を抱いています。果たして、ピリオド・アプローチを採用するのでしょうか?
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ユジャ・ワン
ドイツ・グラモフォンへショパン&スクリャービン&リストの作品集による鮮烈なデビュー以来、急速かつ確実な進化を遂げ、今や注目の女流ピアニストの中でも筆頭格とも言える存在。来日も度々果たしていますね。彼女が単独で開くリサイタルはルツェルンでの一回のみ、しかも曲目は未定ですが、リストやプロコフィエフなんかをプログラムに入れてくれたら、最高にエキサイティングな演奏会になりそうですね。そして、プロムスではリットンとの共演により、難曲
バルトークの
コンチェルト2番を披露します。
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内田光子さん
内田光子さんのザルツブルク音楽祭への登場も、我々にとっては大変喜ばしいことではないでしょうか。しかも、
シューベルトの
後期三大ソナタを一夜で取り上げるとは…とんでもない長丁場ですね。私は以前、一度だけ氏のリサイタルをサントリーホールで聞いたことがありますが、このときに演奏されたシューベルトの18番のソナタが、また絶品の美しさでした。モーツアルトやベートーヴェンを得意とする内田さんですが、ディスクでも大変評価の高いシューベルトです。確かあの名盤の登場から既に10年前後の歳月が流れていると思いますが、更なる孤高の世界の表出に期待が膨らみます。そして、氏はまたもう一つ興味深いプログラムを同じザルツブルクで披露予定。ボストリッジをサポートする
シューマンの『
詩人の恋』他です。
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ファジル・サイ&
マルク・アンドレ・アムラン
最後に、超絶技巧で人気の高いサイとアムランについても触れておかなければならないでしょうね。まずルツェルンに一度だけ登場するサイのプログラムですが、『
展覧会の絵』と『
春の祭典』という超重量級のロシアン・プロ!本編にも書きましたが、特にそのディスクが一世を風靡し、極めて高いセールスを記録した後者は何とコンピュータによる演奏とのコラボレーション!これには驚きました。録音であれば二重で出来ますが、まさかこれを実演で実現してしまうとは。確かではありませんが、もしかしたら既に来日時にこの方法で実演している?一方、ルツェルンとプロムスに登場を予定しているアムランですが、リサイタルではいずれもリストの作品を取り上げます。特に全て
リストの作品で固めたプロムスは必聴の演目でしょう。ルツェルンで
ハイドンのソナタとシューマンの謝肉祭を聞かせてくれるのもファンには嬉しい限りです。そして、プロムスではシンフォニープログラムにも登場。ヴァン・スティーン&BBC響との共演で
ラフマニノフの超名作、『
パガニーニの主題による狂詩曲』はこの曲の近年屈指の名演が展開されそうな予感ですね。
2.注目のヴァイオリニストによる演奏会
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ナイジェル・ケネディ
ナイジェル・ケネディについては、実は私のクラシック音楽のキャリアの最初期に出たヴィヴァルディの『四季』の強烈な名演が深く印象に残り(イギリスのトップチャートにもランキングされた名盤)、一時期彼の録音を買い漁ったことがありました。ご存知の方も多いと思いますが、彼はクラシックに留まらない活躍を続けていて、一時期完全にジャズに傾倒してしまった時期もあるくらいです。というような破天荒なケネディについては、また後日取り上げたいと思いますけれども、ともかく彼をプロムスで聞けるというのは望外の喜び。しかも詳細は未定ながら、
バッハの作品ですよ!期待するなと言われても無理です。どんなバッハになるのか想像もつきませんが、年輪を重ねて意外と深い感動的なパフォーマンスになるかも知れません。
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パトリシア・コパチンスカヤ
さて、多くの方にとってコパチンスカヤとヘレヴェッヘの演奏による
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の名演には度肝を抜かれたと思いますが、私もこの演奏は近年稀に見る名演であると思います。というわけでそのコパチンスカヤ嬢、美歩・シュタインバッハーとともに私が現在最も注目している若手女流ヴァイオリニストです。ホントにまだあどけない表情を湛えた少女のような実に愛らしい風貌に似合わず、女流という括りが全く馬鹿げていると思えるほど、見事なテクニックと力強さを備え、『悪魔的』とも言える程に飄々・軽々と難曲を乗り越えてしまうその音楽性と解釈の確かさに、いつ聞いても唖然とさせられてしまいます。最近はBBC等を聞いていると、ちょこちょこ室内楽演奏に顔を出しているようで、今夏はザルツブルクでタメスティトやロンクィヒ等の名手とともに
マーラーやシュトラウスといった作曲家の珍しい室内楽作品に挑みます。あと、シンフォニープログラムにおいても、マイスター指揮するウィーン放送響との共演で
ベルクの
コンチェルトを披露!超名演を期待!
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ヤニーヌ・ヤンセン
今や世界のトップ・ヴァイオリニストの仲間入りを果たしたヤンセン。私は彼女がまだ無名の頃、ゲルギエフ&ロッテルダム・フィルの来日公演でブルッフのコンチェルトの物凄い名演奏を披露した際に聞いていますが、あのときよりも更に一層表現の幅が広がり、スケールが大きくなりました。今、また彼女のブルッフをデュトワの指揮辺りで聞いてみたいですね。という前振りはさておき、N響定期で圧倒的な名演を披露した
チャイコフスキーを、何とそのデュトワの指揮で、バックはフィラデルフィアという超豪華な共演で弾いてくれます。これ、何が何でも聞きたいところですが、イギリスは遠いですね(苦笑)そして、彼女もまたコパチンスカヤ同様、現在は室内楽にも力を入れているようですが、今夏はザルツブルク音楽祭で若手の実力派達と共演します。中では
コルンゴルトの名クインテットに注目でしょうか。
3.クヮルテット等の演奏団体
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ハーゲン弦楽四重奏団
今や世界を代表する名クヮルテットの一つであるハーゲン弦楽四重奏団ですが、ルツェルンの目玉ともいうべき圧倒的な存在感を見せつけていますね。以前の幾分鋭角的な表現の角が緩やかになり、円やかな表現を増した彼等の素晴らしさを疑う余地はありませんけれども、そもそもクヮルテットが三度登場するというだけで驚きですが、
シューベルトの
14&15番、
ベートーヴェンの
14&16番というクヮルテットにとっての不滅の金字塔を中心に、
ヤナーチェクと
バルトーク、
ハースの作品を散りばめた見事なプログラミングの妙!いずれも必聴の3プログラムですが、強いて挙げるとすればやはりベートーヴェンとバルトークの回ですかね。
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マンデルリンク弦楽四重奏団
もう少し触れておきたい団体がいくつかありますが、字数の関係でもう一つだけ。ザルツブルクで
ショスタコーヴィチの
弦楽四重奏曲を全曲演奏するマンデルリンク弦楽四重奏団について。彼等は2005年から2009年にかけて、この音楽史上ベートーヴェンと並んで最も重要な弦楽四重奏曲全曲をauditeレーベルに録音しているとのことで、今回のツィクルスにも非常に大きな期待がかかりますね。1983年に結成されたということで、ル・ゲとのシューマンの五重奏、シューベルトやヤナーチェクの四重奏等がリリースされている模様。
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