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ベルクのヴァイオリン協奏曲の話題、あまり皆さんのご興味を引かなかったようで、申し訳ありませんでした(苦笑)前回に引き続き、マイナーな話題で申し訳ないんですが…マーラーやショパン、シューマンの陰に隠れて非常に地味ではありますが、実は今年はルイジ・ケルビーニの生誕250年のアニバーサリーイヤーでもあります。今回はこの『名前は知られているけれど、実は作品があまり聞かれることのない』不遇の作曲家の作品の中から、オペラの序曲を2曲、『ロドイスカ』序曲と『メデア』序曲をローレンス・フォスター指揮するバーミンガム市交響楽団による演奏でご紹介したいと思います。CLAVESというマイナーレーベルから出ているものですが、例によって恐らく廃盤だと思いますので、申し訳ない…と書きながら念のため調べたんですが、HMVでは何と『在庫あり』になってましたので、ご興味のある方は是非!
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 ルイジ・ケルビーニは本名を『マリア・ルイジ・カルロ・ゼノビオ・サルヴァトーレ・ケルビーニ』という、見るのも嫌になるくらいの長ったらしい名前です(苦笑)1760年イタリアのフィレンツェに生まれ、1842年パリに没しました。当時としては大変な長寿ですね。そして、ベートーヴェンよりも10歳年長、モーツアルトより4年だけ後に生まれたということもあって、時代的には古典派から中期ロマン派の辺りに属します。1788年にパリに定住し、いくつかのオペラ作品で一定の評価を収めたとされていますが、非常に華やかで聞き映えのする作品を携えて乗り込んできたロッシーニのパリ進出後は人気が急落してしまい、少し前までは彼の作品が上演されることは殆どありませんでした。しかし、ベートーヴェンからは当時の『最も優れたオペラ作曲家』と見なされていたのをはじめ、ショパンやシューマンには彼の著した対位法の教本が使われたほど、教育者としての評価も大変高かったとされています。1791年に作曲された歌劇『ロドイスカ』は、彼の最初の大きな成功を収めた作品とされ、1797年に作曲された歌劇『メデア』は彼の最も有名な作品として知られています。しかしながら、彼の理想の高さや厳格な性格が災いし、大劇場での作品上演が叶わず、人気作曲家としての軌道に乗ることが出来なかったようです。その後、1805年にはウィーンに招かれて、自演による自作の上演を依頼されます。その際に作曲された『ファニスカ』というオペラが、ハイドンやベートーヴェンの熱烈な支持を受けるに至ったとされています。この作品の音源や映像が市場に出回ったことがあるかは私も存じ上げませんが、このフォスターの序曲集に含まれている『ファニスカ』の序曲を聞く限り、少し単調な印象は否めないものの、確かに興味深い作品であることが容易に想像出来ます。

ケルビーニは劇場での低評価を嘆き、その後は宗教音楽の分野により多くの時間を割くようになります。7つのミサ曲の他、2つの大作レクイエム、その他多くの小品が残されているようです。中でも『荘厳ミサ曲』と2つのレクイエムは、彼の作風を知る上では極めて重要な大作であり、トスカニーニやムーティ等が積極的に取り上げたことで再評価のきっかけとなった作品群です(この『荘厳ミサ曲』とハ短調のレクイエムは後日また取り上げたいと思いますので、詳細は割愛します)。また、1815年にはロンドン・フィルハーモニック協会の委嘱で交響曲、演奏会用序曲等を作曲し、これらをロンドンで演奏したことでようやく国際的な名声を得るに至りました。後は6曲の弦楽四重奏曲が知られているでしょうか。

さて、今回ご紹介するアルバムは私が特に高く評価している『職人指揮者』フォスターによる演奏でありますが、オーケストラがバーミンガム市交響楽団でありまして、なぜこの組み合わせでしかもCLAVESからのリリースなのか、正直申し上げてその経緯は良く分かりません。フォスターと言えばモンテカルロ・フィルやローザンヌ室内管、バルセロナ響の首席や音楽監督を経て、現在ではリスボンのグルベンキアン財団管の音楽監督を務めていて、多分バーミンガムへは客演の形でこの録音が実現したんだと思います。録音年代からすると当然ながらラトル政権の時代になりますけれども、これがバーミンガムか?と思えるほどに実に明るい音色でケルビーニの音楽が持つ躍動感と、厳格な古典派形式を的確に表現した素晴らしい演奏であることに、最初聞いたときは正直驚かされました。金管楽器や打楽器の迫力は恐らくラトルの薫陶の賜物と思いますが、フォスターが非常に優れたオーケストラビルダーの手腕を、当時から遺憾無く発揮していたことを偲ばせる大変素晴らしい録音であり、『作品紹介』の域を優に越えた『隠れ』名盤として高く評価したいと思います。


歌劇『ロドイスカ』序曲

さて、まずは歌劇『ロドイスカ』序曲。このオペラの粗筋はごめんなさい、私も知識不足で良く分かりませんが、大変優雅な雰囲気の序奏と軽快な躍動感に溢れる主部、そして祝祭的な雰囲気を締め括る堂々たるコーダを持つ、約10分程度を要するかなり規模の大きな佳作だと思います。私がこの曲に初めて触れたのは、確かムーティがウィーン・フィルの定期で取り上げたのをNHKのFMで放送していたときで、メインにやった曲が何だったのか全く覚えていないんですが(笑)、解説が渡邊学而先生だったということと、この『ロドイスカ』序曲の曲の素晴らしさに圧倒されたことだけは覚えていて(『ロドイスカ』という変わったタイトルも強烈な印象を残したんだと思います)、そのときは何日も録音テープを繰り返し聞きました。本当にこのときのムーティの演奏は実に素晴らしかった。私をここまで感動させるとは、誠に奇跡的な名演であったとしか言いようがありません(笑)話が逸れてしまいましたが、このフォスターの演奏もムーティ程の奇跡的な印象を与えることはないものの、安心して身を委ねることの出来る素晴らしい演奏です。冒頭の弦楽器の和音から清潔感と気品に溢れた実に魅力的な響きに魅了されます。2分25秒辺りから、ヴァイオリンに少し動きのある音型が出てきますが、ここではそのチャーミングと言いますか、可愛らしい、野に咲く可憐な花のような柔らかい音色がまたより一層魅力的。また、この序奏部分で忘れてはならないのが、特に終盤のホルンと木管群の掛け合いの部分。取り立てて技術的にもメロディ的にも何ということはないフレーズですが、バーミンガムの管楽器群がまるでドレスデンやチェコ・フィルのアンサンブルを聞いているかと錯覚するような、実にマイルドで素晴らしい対話が実現しています。少し間を置いて、3分26秒からは主部に入り(スミマセン、スコアがないのと解説にも出てないので速度指定が分からないのですが…)、ヴァイオリンにスラーを多用した動きのある第一主題が音量を抑えて現れます。これが徐々にクレッシェンドして3連符等を盛り込みながら、躍動感と愉悦に満ちた中で展開していきますが、どこかモーツアルトの『プラハ交響曲』の第1楽章を思わせる作風が所々顔を覗かせるのも微笑ましいもの(『プラハ』が1786年完成なので、もしかしたら何気にパクりかも?)。4分43秒からは短調に転じて、同じくヴァイオリンに第二主題が現れます。ここでも弦楽器の流麗なアンサンブルは聞き物です。時折挟まれる木管の音色が何ともチャーミングなのも上述の通り。そして、この第二主題が長調に転じて、この演奏では5分48秒辺りでしょうか、裏でティンパニが力強い拍を刻む箇所があるんですが、この1発目の強打がかなり強烈で、全体の響きを引き締めると同時に即興的な雰囲気を高めることに、非常に大きな効果を発揮していることも決して見逃してはなりません。私はこの曲の演奏を多く聞いているわけではないので、全体的な印象でしかありませんが、フォスターが設定したテンポは決して速いわけではないですけれども、キリッと引き締まった、要所のツボを押さえた棒であり、リズムの感覚も素晴らしく躍動感と推進力を見事に内に秘めながら進んでいくため、非常に充実した曲であり、演奏であるように聞こえます。そして、展開部の後、大きなフェルマータとパウゼを置いて9分1秒からは冒頭の序奏部分が回帰し、エネルギーを溜めてコーダの歓喜の爆発へと繋がっていくんですが、この、作曲技法的に取り立てて何ということもない平凡な序奏部分を再現させることにより全体の厳格な骨組みを作り、ケルビーニがこの作品に込めた気高い志を現すのに、非常に大きな効果を上げているように思います。ここでもクラリネットを中心とした木管が大活躍。もう少しゆったりとしたテンポでも良いかな?と思いますが、コーダ直前のリタルダンドの効果を上げるためには、これくらいの入り方が良いのかも知れませんね。こんな細かい部分にもフォスターの慧眼が光ります。10分20秒からは非常に短いですが、マーチ調のコーダに突入し、大きく高揚して幕を閉じます。

歌劇『メデア』序曲

一方、まだまだ数は多くないですが、単独で演奏されることも珍しくはなくなってきた、歌劇『メデア』序曲。こちらは、冒頭から短調で力強い、強烈な主題が提示されることからも分かるように、どことなくハイドンの『疾風怒涛期』の交響曲を思わせる作風が魅力的な佳作。このフォスターの演奏では、『ロドイスカ』でも強烈な印象を残したティンパニが活躍します。24秒からの比較的音量を抑えた静かな第二主題では、弦楽器同士のアンサンブルと、その弦楽器と木管が細かい対話を見せるのも聞き所。提示部の反復を経て3分10秒過ぎから展開部に入りますが、ここでは弦楽器の艶やかな響きがより一層瑞々しい輝きを増して、前へ前へグイグイと進んでいく感じが魅力的ですね。そして5分33秒からの第一主題の再現を経て、この曲にも短いコーダがついています(6分11秒〜)。このコーダはどことなくメンデルスゾーンの『スコットランド』を思わせるようでいて、短調のメロディで畳み掛けるようにグイグイ押すような感じが独特であり、フォスターの解釈も力感やシンフォニックな響きの量感も充分で、理想的と言える見事なもの。


総括

以前、シューマンの交響曲全集やサ・チェンとのショパンのピアノ協奏曲こちらもご参照下さい)、ズナイダーとのブルッフのヴァイオリン協奏曲で絶賛したフォスターですが、こんなところで意外な隠れた名盤を残してくれたことに感謝する以外にありませんけれども、やはりベースとなる音楽性は非常に高い玄人受けするものを秘めているのは間違いなく、これからも1枚でも多く、『伴奏指揮者』ではない名演を聞かせて欲しいところです。なお、このアルバムには『アリババ』、『アナクレオン』、『ポルトガルのホテル』といった、ここでご紹介した2曲にも負けない魅力的な作品が収められており、是非、一人でも多くの方にケルビーニの魅力に触れて頂くことを願います。
今回は私のレパートリーとしては大変珍しいんですが、アルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲を聞いてみたいと思います。演奏は期待の俊英同士の共演で、アラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリン、アンドリス・ネルソンズ指揮する(ケルン)WDR交響楽団によるものです。去年発売されたばかりの、ほぼ新譜と申し上げても良いと思いますが、オルフェオレーベルからのリリースです。
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 近頃、このアルバムにハマってます。実を言いますと、このアルバムはカップリングのベートーヴェンのコンチェルトが目当てで購入したものなんですが、そちらも見るべきものが大変多い名演なんですが、ベルクの方により一層シュタインバッハーの魅力が現れているような気がします。シュタインバッハーは同じオルフェオから、既にハチャトゥリァンとショスタコーヴィチ、ミヨーのコンチェルトをリリースしており、特にハチャトゥリァンは彼女のデビュー盤となったもの。それから、フォーレ、プーランク、ラヴェルの作品集等も出しているようです。かようなわけで、どうやら彼女の目下の興味は近現代物にあるようですが、自信をもってリリースしてきただけのことはあり、大変素晴らしい演奏に仕上がっています。

さて、今年はマーラーの生誕150年記念ということですが、このベルクのヴァイオリン協奏曲はそのマーラーと無関係ではありません。と申しますのも、この曲の献辞には『ある天使の思い出のために』と書かれていて、この『天使』というのはアルマ・マーラーがマーラーの死後、ヴァルター・グロピウスとの間に授かった娘マノンのことであり、ベルクが大変可愛がっていたと言われる彼女が19歳の若さ(1935年)で他界してしまったことに対する、追悼の意を込めて作曲したためです。元々はヴァイオリニストのルイス・クラスナーからヴァイオリン協奏曲の作曲を依頼されていたものの手付かずであったのが、マノンの死を機に作曲に取り掛かったそうです。そして更に興味深いことに、この曲を作曲中のベルクは敗血症を起こし、この曲が自身のレクイエムとなること、同時に手掛けていた歌劇『ルル』が完成出来ないことを悟ります。そのような経緯もあり、この作品はベルク『最後の完成された作品』として知られているのは周知の通り。恐らく、ベルクの作品の中で最も演奏機会が多く、有名な作品の1つであると思われます。

独奏ヴァイオリンの他にフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ティンパニ、弦五部といった一般的な楽器編成をベースに、ピッコロ、コールアングレ、アルトサックス、バス・クラリネット、コントラファゴット、バス・テューバ、大太鼓、小太鼓、シンバル、タムタム、ゴング、トライアングル、ハープという、かなり大きな編成のオーケストラを必要としています。しかし、全体的に追悼の色彩が濃いレクイエムなので、全体的に緩やかな速度の中を静かな対話をベースに室内楽的な雰囲気で曲が進められていきますが、一部(第2楽章第1部を中心に)トゥッティによる最強奏の部分があって、ここではヴァイオリン協奏曲のジャンルでは珍しく、殆ど『暴力的』とも言えるような非常に大きな音響空間が作り出されており、指揮者とオーケストラにとっても大変大きな聞かせ所の一つです。この箇所はマノンの闘病生活を描写しているとのこと。曲は全体で約25〜30分程度、ヴァイオリン協奏曲としては標準的な長さですが、2楽章構成になっているのも特徴です。しかし、良く見るとサン・サーンスの『オルガン交響曲』のように更に2つの部分に分かれ、全体で見ると緩(アンダンテ)−急(アレグレット)−急(アレグロ)−緩(アダージョ)という4部構成と見る見方も出来るでしょう。また、ベルクの作風からして12音技法がベースとなっているのはもちろんなんですが、どことなく調性を感じさせるのもユニークな点です。これは民謡やバッハのカンタータ第60番からの引用が出てきて、調性音楽と少なからぬ関係があるためだと言えましょう。

さて、アラベラ・美歩・シュタインバッハーは1981年、ドイツ人の父と日本人の母の間に、ミュンヘンで生まれました。アリス・紗良・オットと並び、日本人の血が流れるアーティストとして近年注目を浴びていますが、彼女達の共通点は確かな技巧だけではなく、その類い稀なる美貌とも無関係ではないでしょう。正に『才色兼備』とは彼女達のためにある言葉です。3歳時よりヴァイオリンを習い始め、9歳のときには既に、ミュンヘン音楽大学でチュマチェンコに師事していたそうです。他にドロシー・ディレイやイヴリー・ギトリスにも師事。コンクールの優勝歴はないものの、2000年のヨアヒム・コンクールで入賞。2004年にはチョン・キョンファのキャンセルにより急遽、パリでネヴィル・マリナー指揮するフランス国立放送フィルへのデビューが決まり、そこで演奏したベートーヴェンのコンチェルトの名演により一躍、広く注目を集めるようになります。なお、彼女の名前のアラベラはバイエルン国立歌劇場でヴァイオリニストをしている父親が、R.シュトラウスの同名オペラからとって名付けられたのだと、彼女自身が以前レコ芸のインタビューで答えていました。また、ムターとの付き合いにも浅からぬものがあり、彼女の財団からの奨学金はもちろんのこと、シュタインバッハーが弾く弓はムターから個人的に贈与されたものとのことです。ヴァイオリンは日本音楽財団より貸与されている、1716年製ストラディヴァリウス『ブース』を使用。


第1楽章

それでは曲の細部を見てみたいと思います。第1楽章は『アンダンテ』の前半と『アレグレット』の後半部分から成り、生前のマノンを表す音楽になっています。冒頭、まずはハープの大変ひそやかな弱音でベースとなる音階が奏でられ、独奏ヴァイオリンが開放弦でその『ソレラミ↑、ミラレソ↓』というヴァイオリンの基礎とも言うべき上昇・下降音型を繰り返しなぞりながら発展していきます。最初は開放弦なので当然ながらボウイングの『一本勝負』ですが、シュタインバッハーのボウイングは大変滑らかで柔らかく、気品溢れる音色であることが印象的です。他の音が現れるようになると、比較的幅の広いヴィヴラートがたっぷりとかけられ、更に彼女の美音が俄然表情の豊かさを増してきます。ネルソンズ指揮するケルンのオーケストラも、特に木管を基調とするふんわりと柔らかい曲調に見事にマッチした響きで、シュタインバッハーのソロにピッタリと寄り添う素晴らしいサポート。他の演奏と比べても比較的ゆったりとしたテンポが採られているのは恐らくシュタインバッハーの意向だと思いますが、オーケストラとの切迫した緊張感溢れる息の長い美しい対話の魅力を、最大限に引き出した理想的なテンポ感と言えるでしょう。次に、4分36秒から民謡から引用したと言われるクラリネットの、舞曲風の印象的なフレーズを境に『アレグレット』へと場面転換し、独奏ヴァイオリンにも動きのあるフレーズが頻繁に出てきます。ここでの特徴はシュタインバッハーの重音の美しさ。複数の弦が重なる重音において非常にフラットな音量バランスが保たれており、強奏箇所においても常に美しいハーモニーが実現され、この辺りからも『分かりにくい』無調音楽でありながら調性を感じさせるという、見事なテクニックが披露されています。そして、当然のことながらこの作品ではリズム感が薄れ、小節間の切れ目やフレーズの受け渡し、フェルマータや強弱の変化、リタルダンド等を表現する上でオーケストラとの困難極まりないコミュニケーションを伴う難解な曲でありますが、シュタインバッハーは抜群の耳と表現力でもってそれを軽々と克服しており、その表現力の豊かさは圧巻の一言。11分過ぎくらいからラストに至るまでの金管との掛け合いでは、持ち前の美音を多少なりとも犠牲にしながら松ヤニが飛び散らんばかりの強奏を見せ、金管の厚みある響きと堂々と渡り合っているのも見事です。

第2楽章

第1楽章も実に見事な名演と言えますが、単なるテクニックに留まらない、シュタインバッハーのヴァイオリニストとしてのあらゆる才能をまざまざと見せ付けられるのが、次の第2楽章であるのは間違いないでしょう。前半部分の『アレグロ』では、通常の演奏では冒頭から金管の咆哮を伴うオーケストラの不協和音の響きが強烈な印象を残しますが、シュタインバッハーの美しいヴァイオリンに合わせてでしょうか、暴力的なまでの、汚く濁るような烈しさは幾分影を潜めていて、この部分すら透明度の高い美しさを湛えた音楽になっているのが大変印象的です。オーケストラがフェルマータでフレーズの最後の音を伸ばしているところにシュタインバッハーのソロが入ってくる部分では、真にいつ入ってきたか分からないくらいにオーケストラと同化しているのも驚異的です。この『アレグロ』の部分はこの曲でも珍しくリズミカルな音楽と言えますが、全編に渡ってヴァイオリンソロにカデンツァ風の極めて難易度の高いテクニックを要し、シュタインバッハーはそれをまた軽々と弾きこなしているので非常に聞き応えがあります。細かい音符を速いテンポの中でバリバリ弾かねばならないのは当然ですが、ピッツィカートを弾きながら別の弦で重音を弾いたり、はたまたオーケストラの大音響の中を埋没しないように対等に渡り合わねばならなかったり、ともかく技のオンパレード。特に私が大きな感銘を受けたのが、5分過ぎ辺りで第1楽章冒頭の開放弦のテーマが再現し、クラリネットとの静謐な対話もそこそこに、巨大な管弦楽が覆い被さってくる辺りですね。弦楽器群と金管群、打楽器群がそれぞれのグループに分かれて混沌とした状況が渦巻き、シュタインバッハーのソロがオーケストラの強奏に負けない強い音量で登場する辺りです。ここから先は正にオーケストラとの『手に汗握る』丁々発止のやり取りが聞き物。緊迫感と高揚感が大変な名演を生み出しました。そして、音量と速度が急速に弱まって7分50秒からのクラリネットによる、バッハのカンタータの引用へと繋がっていきます。この部分はマノンの死の『浄化』を表していると言われる、この曲全体から見ても傑出した美しい部分であり、実に感動的なシーン。無調と調性のあるメロディとの奇跡の融合が、不思議な感銘を与える瞬間。このクラリネットのコラールを受け継いで静かな独白を始めるシュタインバッハーの、大変素晴らしい感性が聞き所です。その後はオーケストラも弦楽器の弱音を中心とした室内楽の響きに移行し、時折差し挟まれるトライアングルや金管が不思議と崇高で気高い雰囲気を醸し出し、マノンの魂の昇天がヴァイオリン独奏によって再現されていきますが、ここでは特にフラジョレットを用いたシュタインバッハーの、実に透明なラストの最高音の美しさに圧倒されるでしょう。


総括

アルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲。この20世紀を代表する既に古典となった名曲に、実に爽やかで柔らかい不思議な魅力を持った名演が加わったことを大いに歓迎したいと思います。私にとってはクリスティアン・フェラスの演奏とともに愛聴盤になりました。このアラベラ・シュタインバッハーというヴァイオリニスト、単なる美人ではありません。実に懐の深い、可能性溢れる大器です。

※ネルソンズは今年、サロネンとともにVPOの来日公演を振りますね!
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ドラティを取り上げるのは珍しいと思われるかも知れませんが(苦笑)実を言うと彼のディスクは殆ど持ってなかったのですが、少し前に近所を徘徊していたらこのCDが1000円だったので買ってしまいました(苦笑)ついでに言うと、デトロイト響との『春の祭典』&『火の鳥』も…もちろん、フィルハーモニア・フンガリカを指揮してのハイドンの交響曲全集も聞きたいんですけどね。あまりにも値が張りますので(苦笑)そう言えば、最近のタワーレコードの復刻シリーズの中に彼の『幻の』ベートーヴェン交響曲全集が入るみたいですね。聞かねば…

ドラティはオーケストラビルダー、『鳴らすことにかけては天下一品』というイメージがありましたが、上記2枚を聞いて噂以上の素晴らしさに感銘を受けた次第。これらの曲は偉そうなことが言えるほど音源を持ってませんし、多分実演に接したことがあるのも確かデュトワ&N響の『春の祭典』だけだと思いますが、この2枚を聞いただけで、大変な名演であることが感じ取れます。明快な棒による、いわゆる『見通しの良さ』とでも言うのか、これは録音技術と切り離せませんけど、フォルティッシモにおいても全体に濁りがなく、大変透明度の高い仕上がりになっていることに、驚嘆を禁じ得ません。

さて、この録音当時はまだ『アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団』と称されていた現在の『ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団』でありますが、やはりドラティの手にかかるとヨーロッパ一『美しい』と言われるオーケストラから、渋い表情やパワフルな表現を引き出すのですから大したものです。打楽器と金管楽器の『捩じ伏せるような』強奏。静寂な部分での透明感。あの名匠ゲオルグ・ショルティのパワーと、ジョージ・セルの『室内楽的な繊細さ』を併せ持ったのが、ドラティという指揮者じゃないのかと思いますね。一部では『情緒やロマンに不足する』と言われることもありますが、私はそう思いません。細部は後に譲りますが、ロマンティックな表現にも事欠かないですし、爆発的な情熱にも不足なし。確かに、これが『スラヴ的な土臭さ』や『スメタナそのもの』を感じさせるか?と問われると、やはりノイマン、クーベリック、アンチェル、コシュラー、ペシェク、マーツァル、ビエロフラーヴェク、そして先日N響で大変な名演を聞かせたエリシュカ等に敵うとは思いませんが、それでもドラティだって隣国ハンガリーの人です、これはこれで『我が祖国』の演奏の一つの方向性を示していると思います。ちなみに、この録音は元々フィリップスから他にもう1曲(曲目は失念してしまいました…同じスメタナだったか、あるいはドヴォルザークの序曲か何かだったと思います)と組み合わせで出ていた2枚組で、再発時にカットされて1枚で出たものです。

第一曲『ヴィシェフラド(高い城)』冒頭は、ハープ独奏による主題提示とカデンツァ風のメロディによって開始されますが、この部分からして既にドラティの特徴、すなわち音符を極力純音楽的に音化する、というものが良く現れていますね。すなわち、過度な感情を排することを基調としながらも、奏者の自主性に委ねるべきところは委ね、それを的確に交通整理していくという。美しいハープの音色です。続く木管とのアンサンブルにおいてはそれがより顕著になり、速めのテンポの変化は最小限に、それでいて美しいハーモニーで聞かせます。2分23秒から第一ヴァイオリンが合流しますが、この部分の室内楽的な静けさの中に湛えられた美しい『歌心』。こんなところにドラティのロマンを感じることが出来る気がします。その後、いわゆる主部(5分4秒)に至るまで淡々と、やや速めのテンポで進んでいきますが、さすがにコンセルトヘボウの木管は綺麗ですね。主部に入ると弦楽器が冒頭主題の変形をフーガのような掛け合いによって導入しますが、この部分の室内楽的な見通しの良さは格別。また、5分57秒付近のトゥッティによる強奏は透明感を保ち、決して響きを濁すことがありません。ティンパニやシンバル、金管等の扱いが抜群に上手く、何でもかんでも大きな音量を出させるのではなくて、出すべきところと抑えるべきところのバランス感覚が絶妙であり、立体的な響きの層を作り出す。響きの陰影・コントラストというか、凹凸というか、彫りの深さは比類がない。こういうところがドラティの一般的なイメージに繋がっているのでしょう。6分9秒からの勇壮ながら濁らない金管と、要所をビシッと引き締める打楽器の効果も素晴らしい!6分29秒からのオーボエ、クラリネット、ファゴットを裏で支える弦楽器やフルート、トランペット等のふとしたフレーズを疎かにしない辺りにも、ドラティの人柄が偲ばれて思わず微笑んでしまいそう。7分59秒からのトゥッティによるテーマの総奏はややテンポを緩め、シンバルやトライアングル、金管が前面に出てきて頂点を担い、艶やかで張りのある弦楽器がテーマを高らかに歌い上げます。一段落して(8分45秒前後の金管のフレーズは懐が深いですねぇ…)9分5秒辺り、クラリネットが重奏で静かに悲しげな表情で歌うメロディから低弦がザワザワとざわめくフレーズがありますが、この辺りも絶品の美しさ!10分10秒からは冒頭再現、そしてフルートから弦楽器の美しいフレーズを経て長いクレッシェンドから徐々に音量を増し、11分24秒でフォルティッシモのクライマックスに至りますが、この過程が実に鮮やかで洗練された響きが構築されており、ドラティ・マジックの最たるものと言えましょう。

そして第二曲『ヴルタヴァ』。言わずと知れた『モルダウ』でありますが、私はこの曲を聞いてドラティのロマン性を存分に見せ付けられたような気がします。テンポは中庸、基本的にインテンポで淡々と進んでいくように『見え』ますので、表面的にはあまり話題に上ることのない演奏かも知れません。しかし、前半が一段落してポルカが始まる『中間部』に入った辺り(4分3秒)を詳細に聞いてみますと、この曲に聞き慣れた人ほど『おやっ?』こんなんだったっけ?と感じられるでしょう。そう、あまりにも自然にスッとポルカの部分に入り込んでいくのです。従来の我々が知る演奏の大半が何らかの『仕掛け』を施していることに他なりません。リズムのウェイトを変えたり、アクセントをつけたり、スタッカートを強調したり。それをドラティは敢えてやらなかったのかどうか知る由もありませんが、何しろ『隣国人』でありますから、やろうと思えばいくらでも出来たわけで、恐らく強い信念に基づく解釈と推察します。そういう手法を用いないことによって、逆説的にこの曲から新鮮な音を引き出してみせるという…この辺りにドラティが単なる『オーケストラビルダー』ではなかったと言える鍵がありそうです。このポルカの中間部は、この演奏の中でも出色の部分と思います。そして、静寂の中に川のせせらぎが聞こえてくる部分(5分42秒付近から)、このフルートはもちろんのこと、ハープとヴァイオリンが奏でる極上のサウンドが、またコンセルトヘボウの夢のような美しいな響きによって、素晴らしい名場面に仕上がりました。ロマンティスト・ドラティの面目躍如でしょう。嵐のようなトゥッティからコーダに至るまでのシンフォニックな、たっぷりとした厚い響きも素晴らしく、熱く高揚していく様が感じ取れます。ラストのテーマを長調で高らかに歌い上げる第一ヴァイオリンも実に感動的。

第三曲『シャールカ』は冒頭の推進力の強い勇壮な主題と、何か懐かしさというか暖かさを感じさせる第二主題との対比が変化に富んだ曲想の中で展開され、中間に登場する屈指の名旋律とともにラストは大変盛り上がる素晴らしい名曲だと確信していますが、ドラティは他のチェコ系の名匠達とは少し異なり、弦楽器の音量をあまり厚くせずに、スッキリした響きで颯爽と第一主題を扱っていますね。逆に1分14秒からのヴァイオリンによる第二主題はグッとテンポを落として、全体の音量を上げ過ぎることなく、優しく大切に提示していきます。そこに何とも言えない柔らかいクラリネットの音色が乗ってくる辺り等、大変美しいですね。3分26秒辺りから、これもまた暖かい音色が魅力のチェロによるレチタティーヴォ風のパッセージを経て、3分46秒からはヴァイオリンにシャールカのテーマが出てきます。このテーマは『運命の力』の『レオノーラのテーマ』を思わせるような大変美しくて柔らかく、しかしながら決然たる信念を感じさせる名旋律だと思いますが、コンセルトヘボウのヴァイオリンセクションが大変柔らかく、ドラティのイメージからは意外とも思える情熱的なカンタービレを聞かせて感動的。5分36秒からは一転、トゥッティによる強奏に場面転換しますが、この最初のフォルティッシモの一撃がドラティの面目躍如。カッチリとしたリズムと鋭いアクセント、しかしながら変わらず透明な響きを保って聞かせます。ラストは圧倒的なパワーで捩じ伏せるようなドラマティックな盛り上がりを見せ、復讐のシーンが見事に描かれています。

第四曲『ボヘミアの森と草原から』は、冒頭の混沌としたトゥッティによる主題が印象に残りますが、この演奏では大変見通しが良く、また1分26秒くらいから速度を落として、冒頭主題をクラリネットが寂しげに吹くところから、コンセルトヘボウ管の木管セクションによる素晴らしい室内楽のオンパレード。チャーミングなフルートの音色が絶妙な彩りを添えています。2分53秒からヴァイオリンに現れて弦楽合奏に発展する新しいメロディが、またガラス細工のように、極めて繊細でクリスタルな美しいアンサンブルを聞かせてくれます。そして4分7秒から、この『我が祖国』という作品の性格を決定付けると言っても過言ではない名旋律がクラリネットに現れます。私は『フィンランディア』は間違いなくこの部分を模しているような気がしてならないのですが…波打つような弦楽器の伴奏に乗って徐々に音量を増し、トゥッティによって歌われる部分はドラティのドラマティックな棒に導かれて実に感動的。タイトルはもっと美しい曲をイメージさせますが(笑)チェコの人々には確実に国歌同様、身に染み込んでいるのだと感じさせられる瞬間です。

大変申し訳ありませんが字数が残り少なくなりました。第五曲『タボール』と第六曲『ブラーニク』については手短に(苦笑)前者冒頭の奥行きのある弦楽合奏の響きが生み出す不気味な暗い雰囲気、特徴あるリズムがこれでもかと反復される中、充分にたっぷり取られたテンポで豪快に鳴らされる金管とティンパニ。6分くらいからようやく顔を覗かせるこの曲のメインテーマ。8分15秒くらいに出てくる弦楽器の切れ味鋭く荒々しいアクセントにも注目。後者の、曲そのものが発する高揚感その他、ドラティは実に的確に曲の性格を捉えた上で非常にドラマティックかつ、精緻にオーケストラを鳴らし切った名演。ラストのトゥッティの和音とティンパニのロールに込められた高揚感は実にお見事!


『本場物』に比べると非常にユニークな演奏ではありますが、性格が全く異なる6曲から純粋な音楽性を掬い取り、シンフォニックに聞かせるドラティの手腕。皆さんも是非ご堪能下さい。それにしても、この曲をこんなに何度も通して真剣に聞いたのは何年ぶりでしょう(笑)

【詳細タイミング】
スメタナ:連作交響詩『我が祖国』
 第一曲『ヴィシェフラド』:13分32秒
 第二曲『ヴルタヴァ』:13分4秒
 第三曲『シャールカ』:10分37秒
 第四曲『ボヘミアの牧場と草原から』:12分18秒
 第五曲『ターボル』:13分57秒
 第六曲『ブラニーク』:15分23秒
合計:約78分
【オススメ度】
解釈:★★★☆☆
オーケストラの技量:★★★★★
アンサンブル:★★★★☆
ライヴ度:★★★☆☆
総合:★★★★☆

アンタル・ドラティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1986年10月6〜10日アムステルダム、コンセルトヘボウ

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今回は大変珍しいアイテムをご紹介しましょう。ホルストの惑星は大変人気のある『カッコいい』オーケストラピースですけれども、これをスヴェトラーノフが振ったらどうなる?という、マニアにはたまらない企画です(笑)

冗談に聞こえるかも知れませんが、これ、ホントに発売されてるんですよ。イギリスのコリンズというマイナーなレーベルから。もうレーベル自体は存在しないかも知れませんので、当然ながら廃盤のはずです(苦笑)もしご興味を持たれましたら、地道に中古市場を当たられることをオススメ致します。

皆さんはスヴェトラーノフと言えば、恐らくロシア物、特にチャイコフスキーやラフマニノフのスペシャリストとして、重厚、過激な表現の多い爆演アーティスト、というイメージをお持ちのことだと思います。事実、キャニオンから発売されたチャイコフスキー、ラフマニノフの交響曲全集は大変高い評価を受けていますし、私もこれらの曲を代表する圧倒的な名演揃いだと思います。

そのスヴェトラーノフが、マーラーを除いた(マーラーの交響曲全集は非常に素晴らしい出来映え。またの機会に触れます)、しかも得意のロシア物以外の作品で、惑星という大スペクタクルな作品をロシア以外のオーケストラと演奏する、というのは意外を通り越して、唖然としてしまうくらいの驚愕です(笑)

私は幸運にもスヴェトラーノフの実演には二回ほど接しています。残念なことに手兵(ロシア国立響)ではないのですが、二回ともN響の定期公演で。一度目はマーラーの『悲劇的』、二度目はチャイコフスキーの三大バレエ組曲でした。いずれも、スヴェトラーノフならではの大変重厚な、当時としてもあまり聞けなくなってしまったスケールの大きな演奏に感銘を受けたものです。余談ですが、既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、例の『扇風機』と椅子、タオルという『三点セット』も健在(笑)知らない人のために軽く説明しますと、彼、スヴェトラーノフ氏は非常に太った肥満体でして、汗をかく量が尋常ではなく、演奏中に扇風機で風を送りながら、楽章の合間に椅子に腰掛けてタオルでその汗を拭うわけです(笑)もちろん、私もその光景は目にしました。

そんなお茶目なスヴェトラーノフなんですが、指揮棒を持たずに必要最低限の小さな動作で、楽譜をめくりながら丁寧にキューを出す(出す、というか『置いていく』イメージに近い)姿に、真摯に音楽に取り組む姿勢が垣間見えて感銘を受けると同時に、あの重厚なサウンドが単に『重戦車』のように振る舞うのではなくて、響きを構成する各パーツを繊細かつ緻密に振り分けて積み上げた結果なのだ、ということが分かり更に感無量。そうなんですよ、私がN響の定期公演で聞いた音楽は、実に繊細な表現に溢れていて『悲劇的』のアンダンテ等、本当に目を疑うばかりの美しさでありました。

それからというもの、私のスヴェトラーノフに対する評価は全く180度変わり、非常に繊細で美しい響きを作り出す『魔術師』として、心に刻まれています。そこで、改めてこのホルストの惑星を、蔵を整理していたら見つけたので久しぶりに取り出し、今回ご紹介する運びとなりました。実はこのディスク、何で買ったのか全く覚えていないのです(笑)何かの本に紹介されていたのか?いずれにしても、どんな演奏か思い出せないんですから、人間のイメージと記憶なんていい加減なもんです(苦笑)この演奏ではスヴェトラーノフがフィルハーモニア管を振ってホルストを入れた、という二大『ビックリ』もさることながら、コーラスにイギリスの名門、ザ・シックスティーンの女性合唱を起用しているという点も非常に注目すべきですね。なぜフィルハーモニアのコーラスではなくて、シックスティーンなのか?非常に興味深いですけれども、ホントになぜだか分からない(苦笑)


ということもありまして、スヴェトラーノフの繊細な曲作りと融合し、終曲の『海王星』が大変な名演!これほど美しい演奏は本当に稀ですね。

冒頭の『火星』からして異様なまでにテンポが重く、引きずるような推進力の薄さ。しかしながら、彼のトレードマークである『重戦車』ぶりは影を潜め、弦楽器コルレーニョなんかたたき付けるというより、表面を傷つけないように撫でるような感じ(笑)まさしく、『戦争の神はどこへやら?』という趣ですね。これほどまでに惑星という曲に対する、『どうだ、凄いもん聞かせたる!』的な力みがない演奏も珍しいものです。先日拝見したデュトワ&N響の何と熱い演奏であったことか?金管もあたかもロボットが寸分の狂いもなく正確にメロディーを吹いているようなイメージで、逆に聞いていて恐ろしくなります(苦笑)コーダの和音の『たたき付け』も重いんですが軽さを内包しているという表現であったり、コーダ直前の木管と弦楽器が細かいパッセージをジャカジャカやるところなんかも、何か虫がウジャウジャ密集しているような感じですし、火星でこんなに気持ち悪くなったのは初めてですな(笑)スヴェトラーノフの芸風からイメージすれば、間違いなくこの火星が一番合っていそうなのに、調子狂っちゃいますよ(苦笑)

しかし、『金星』になると一変、遅めのテンポと相俟ってヴァイオリンのヴィブラートを利かせたカンタービレが実に美しく、ヴァイオリンやチェロのソロなんかも、速過ぎないおおらかなヴィブラートでしっとりと歌い上げています。ハープや金管のハーモニー、弱音器をつけたヴァイオリンパートの純度の高さ等も繊細さの極限、ここは海王星と並んで名演と評価します。

続く『水星』は通常の交響曲でいうとスケルツォに該当する、諧謔的な軽めの音楽ですけれども、ここの前半部分はスヴェトラーノフの室内楽的なアプローチが功を奏していてなかなか良い感じの出来に仕上がっています。チェレスタとかハープの絡みが実に神秘的であります。

そして、最も有名な『木星』。これは前半・後半部分と中間部分のテンポをガラッと変えて、例の民謡調のメロディーを深々と歌い上げる演奏が主流ですけど、スヴェトラーノフの演奏では始めから遅いテンポを設定しており、例の金管のモティーフを支えるヴァイオリンの細かい伴奏音型が異様な雰囲気を醸し出しているのが印象的。そして『ジュピターのテーマ』ですが、一本通った『太い芯』がないというか、そういう弦楽器の裏でティンパニが芯を持った音色を聞かせるので、そのアンバランスさが極めて異常。マゼールの惑星なんかかわいいもんですよ、この演奏に比べたら(笑)『はい、君達弾いてみて。俺はここで見てるから。まず君達自身の演奏を聞かせてもらおうか』的な、非常に客観的な視点で演奏されているのが耳に残ります。この部分だけを取り出しても、スヴェトラーノフという指揮者の神髄が、重戦車や爆演にあるのではないことは明白です。コーダ直前の雰囲気も飽くまでも異様。

それだけに、次のグロテスクな『土星』の邪悪な雰囲気に拍車がかかります。この曲は作曲者自身が一番気に入っていたそうなんですが、こんな曲を好きだなんてホルストの精神状況もどうかしてますね(苦笑)冒頭の木管の不協和音とヴァイオリンの入りからして怪しさ満点。ティンパニと金管の轟音を伴って徐々にクレッシェンドする部分は、無造作に鳴らされる鐘の音色がさながら『死刑執行』を告げる警鐘のようでもあり、それだけに、後半部分の消え入るまで持ち込まれる息の長いディミヌエンドが、美しさを際立てています。

『天王星』も異様な音楽。冒頭金管とティンパニの重たい音色。そして、直後に始まるマーラーのスケルツォのような音楽において、非常に鋭い立ち上がりの音の粒、極めて重たいテューバ等の響きと、ティンパニの固い『突き刺さるような』音色との対比を聞かせるスヴェトラーノフ。木琴を際立たせた後半の迫力あるトゥッティの部分はさすがに彼の面目躍如たるものがあり、素晴らしい出来映えになっていますね。

そして、この曲の中でも極めて美しい音楽が書かれており、私自身が火星についで好きな音楽とも言える『海王星』。冒頭の静謐な弦楽器のハーモニーからして極めて室内楽的であり、こういう部分にこそスヴェトラーノフの神髄があるのだということを、この演奏は明確に教えてくれています。また、ザ・シックスティーンの女声合唱の濁りのない、どこまでも透明な歌声はやはりこの演奏の中でも際立っており、このスヴェトラーノフの異彩を放つ惑星に、得難い付加価値をプラスしていると言って良いでしょう。


このような、極めて特異なアプローチであるにも関わらず、この演奏は非常に魅力的な部分も持っていて、スヴェトラーノフの新たな一面を垣間見ることが出来るという点において、是非耳にして頂きたいものであります。また、惑星という作品がスペクタクルなだけではなく、その極めて美しい旋律美においても着目すべきであるという、今まで過小評価され過ぎた嫌いのあるこの名曲に、別の光を与えた演奏とも言えるでしょう。

【詳細タイミング】
ホルスト:組曲『惑星』作品32
第一曲『火星〜戦争をもたらす者』:8分43秒
第二曲『金星〜平和をもたらす者』:8分49秒
第三曲『水星〜翼を持つ使者』:4分11秒
第四曲『木星〜快楽をもたらす者』:5分46秒
第五曲『土星〜老いをもたらす者』:9分52秒
第六曲『天王星〜魔術師』:8分39秒
第七曲『海王星〜神秘の者』:9分12秒
合計:約55分
リムスキー・コルサコフ:『ムラーダ』組曲
第一曲:3分21秒
第二曲:4分
第三曲:2分28秒
第四曲:4分9秒
第五曲:5分12秒
合計:約19分
【オススメ度】
(惑星のみ)
解釈:★★★☆☆
オーケストラの技量:★★★☆☆
アンサンブル:★★★★☆
ライヴ度:★★☆☆☆
総合:★★★☆☆

ザ・シックスティーン(女声合唱)
エフゲーニ・スヴェトラーノフ指揮フィルハーモニア管弦楽団
1991年11月ロンドン、ブラックヒース・コンサートホール

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