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ベルクのヴァイオリン協奏曲の話題、あまり皆さんのご興味を引かなかったようで、申し訳ありませんでした(苦笑)前回に引き続き、マイナーな話題で申し訳ないんですが…マーラーやショパン、シューマンの陰に隠れて非常に地味ではありますが、実は今年はルイジ・ケルビーニの生誕250年のアニバーサリーイヤーでもあります。今回はこの『名前は知られているけれど、実は作品があまり聞かれることのない』不遇の作曲家の作品の中から、オペラの序曲を2曲、『ロドイスカ』序曲と『メデア』序曲をローレンス・フォスター指揮するバーミンガム市交響楽団による演奏でご紹介したいと思います。CLAVESというマイナーレーベルから出ているものですが、例によって恐らく廃盤だと思いますので、申し訳ない…と書きながら念のため調べたんですが、HMVでは何と『在庫あり』になってましたので、ご興味のある方は是非!
ルイジ・ケルビーニは本名を『マリア・ルイジ・カルロ・ゼノビオ・サルヴァトーレ・ケルビーニ』という、見るのも嫌になるくらいの長ったらしい名前です(苦笑)1760年イタリアのフィレンツェに生まれ、1842年パリに没しました。当時としては大変な長寿ですね。そして、ベートーヴェンよりも10歳年長、モーツアルトより4年だけ後に生まれたということもあって、時代的には古典派から中期ロマン派の辺りに属します。1788年にパリに定住し、いくつかのオペラ作品で一定の評価を収めたとされていますが、非常に華やかで聞き映えのする作品を携えて乗り込んできたロッシーニのパリ進出後は人気が急落してしまい、少し前までは彼の作品が上演されることは殆どありませんでした。しかし、ベートーヴェンからは当時の『最も優れたオペラ作曲家』と見なされていたのをはじめ、ショパンやシューマンには彼の著した対位法の教本が使われたほど、教育者としての評価も大変高かったとされています。1791年に作曲された歌劇『ロドイスカ』は、彼の最初の大きな成功を収めた作品とされ、1797年に作曲された歌劇『メデア』は彼の最も有名な作品として知られています。しかしながら、彼の理想の高さや厳格な性格が災いし、大劇場での作品上演が叶わず、人気作曲家としての軌道に乗ることが出来なかったようです。その後、1805年にはウィーンに招かれて、自演による自作の上演を依頼されます。その際に作曲された『ファニスカ』というオペラが、ハイドンやベートーヴェンの熱烈な支持を受けるに至ったとされています。この作品の音源や映像が市場に出回ったことがあるかは私も存じ上げませんが、このフォスターの序曲集に含まれている『ファニスカ』の序曲を聞く限り、少し単調な印象は否めないものの、確かに興味深い作品であることが容易に想像出来ます。 ケルビーニは劇場での低評価を嘆き、その後は宗教音楽の分野により多くの時間を割くようになります。7つのミサ曲の他、2つの大作レクイエム、その他多くの小品が残されているようです。中でも『荘厳ミサ曲』と2つのレクイエムは、彼の作風を知る上では極めて重要な大作であり、トスカニーニやムーティ等が積極的に取り上げたことで再評価のきっかけとなった作品群です(この『荘厳ミサ曲』とハ短調のレクイエムは後日また取り上げたいと思いますので、詳細は割愛します)。また、1815年にはロンドン・フィルハーモニック協会の委嘱で交響曲、演奏会用序曲等を作曲し、これらをロンドンで演奏したことでようやく国際的な名声を得るに至りました。後は6曲の弦楽四重奏曲が知られているでしょうか。 さて、今回ご紹介するアルバムは私が特に高く評価している『職人指揮者』フォスターによる演奏でありますが、オーケストラがバーミンガム市交響楽団でありまして、なぜこの組み合わせでしかもCLAVESからのリリースなのか、正直申し上げてその経緯は良く分かりません。フォスターと言えばモンテカルロ・フィルやローザンヌ室内管、バルセロナ響の首席や音楽監督を経て、現在ではリスボンのグルベンキアン財団管の音楽監督を務めていて、多分バーミンガムへは客演の形でこの録音が実現したんだと思います。録音年代からすると当然ながらラトル政権の時代になりますけれども、これがバーミンガムか?と思えるほどに実に明るい音色でケルビーニの音楽が持つ躍動感と、厳格な古典派形式を的確に表現した素晴らしい演奏であることに、最初聞いたときは正直驚かされました。金管楽器や打楽器の迫力は恐らくラトルの薫陶の賜物と思いますが、フォスターが非常に優れたオーケストラビルダーの手腕を、当時から遺憾無く発揮していたことを偲ばせる大変素晴らしい録音であり、『作品紹介』の域を優に越えた『隠れ』名盤として高く評価したいと思います。 歌劇『ロドイスカ』序曲さて、まずは歌劇『ロドイスカ』序曲。このオペラの粗筋はごめんなさい、私も知識不足で良く分かりませんが、大変優雅な雰囲気の序奏と軽快な躍動感に溢れる主部、そして祝祭的な雰囲気を締め括る堂々たるコーダを持つ、約10分程度を要するかなり規模の大きな佳作だと思います。私がこの曲に初めて触れたのは、確かムーティがウィーン・フィルの定期で取り上げたのをNHKのFMで放送していたときで、メインにやった曲が何だったのか全く覚えていないんですが(笑)、解説が渡邊学而先生だったということと、この『ロドイスカ』序曲の曲の素晴らしさに圧倒されたことだけは覚えていて(『ロドイスカ』という変わったタイトルも強烈な印象を残したんだと思います)、そのときは何日も録音テープを繰り返し聞きました。本当にこのときのムーティの演奏は実に素晴らしかった。私をここまで感動させるとは、誠に奇跡的な名演であったとしか言いようがありません(笑)話が逸れてしまいましたが、このフォスターの演奏もムーティ程の奇跡的な印象を与えることはないものの、安心して身を委ねることの出来る素晴らしい演奏です。冒頭の弦楽器の和音から清潔感と気品に溢れた実に魅力的な響きに魅了されます。2分25秒辺りから、ヴァイオリンに少し動きのある音型が出てきますが、ここではそのチャーミングと言いますか、可愛らしい、野に咲く可憐な花のような柔らかい音色がまたより一層魅力的。また、この序奏部分で忘れてはならないのが、特に終盤のホルンと木管群の掛け合いの部分。取り立てて技術的にもメロディ的にも何ということはないフレーズですが、バーミンガムの管楽器群がまるでドレスデンやチェコ・フィルのアンサンブルを聞いているかと錯覚するような、実にマイルドで素晴らしい対話が実現しています。少し間を置いて、3分26秒からは主部に入り(スミマセン、スコアがないのと解説にも出てないので速度指定が分からないのですが…)、ヴァイオリンにスラーを多用した動きのある第一主題が音量を抑えて現れます。これが徐々にクレッシェンドして3連符等を盛り込みながら、躍動感と愉悦に満ちた中で展開していきますが、どこかモーツアルトの『プラハ交響曲』の第1楽章を思わせる作風が所々顔を覗かせるのも微笑ましいもの(『プラハ』が1786年完成なので、もしかしたら何気にパクりかも?)。4分43秒からは短調に転じて、同じくヴァイオリンに第二主題が現れます。ここでも弦楽器の流麗なアンサンブルは聞き物です。時折挟まれる木管の音色が何ともチャーミングなのも上述の通り。そして、この第二主題が長調に転じて、この演奏では5分48秒辺りでしょうか、裏でティンパニが力強い拍を刻む箇所があるんですが、この1発目の強打がかなり強烈で、全体の響きを引き締めると同時に即興的な雰囲気を高めることに、非常に大きな効果を発揮していることも決して見逃してはなりません。私はこの曲の演奏を多く聞いているわけではないので、全体的な印象でしかありませんが、フォスターが設定したテンポは決して速いわけではないですけれども、キリッと引き締まった、要所のツボを押さえた棒であり、リズムの感覚も素晴らしく躍動感と推進力を見事に内に秘めながら進んでいくため、非常に充実した曲であり、演奏であるように聞こえます。そして、展開部の後、大きなフェルマータとパウゼを置いて9分1秒からは冒頭の序奏部分が回帰し、エネルギーを溜めてコーダの歓喜の爆発へと繋がっていくんですが、この、作曲技法的に取り立てて何ということもない平凡な序奏部分を再現させることにより全体の厳格な骨組みを作り、ケルビーニがこの作品に込めた気高い志を現すのに、非常に大きな効果を上げているように思います。ここでもクラリネットを中心とした木管が大活躍。もう少しゆったりとしたテンポでも良いかな?と思いますが、コーダ直前のリタルダンドの効果を上げるためには、これくらいの入り方が良いのかも知れませんね。こんな細かい部分にもフォスターの慧眼が光ります。10分20秒からは非常に短いですが、マーチ調のコーダに突入し、大きく高揚して幕を閉じます。歌劇『メデア』序曲一方、まだまだ数は多くないですが、単独で演奏されることも珍しくはなくなってきた、歌劇『メデア』序曲。こちらは、冒頭から短調で力強い、強烈な主題が提示されることからも分かるように、どことなくハイドンの『疾風怒涛期』の交響曲を思わせる作風が魅力的な佳作。このフォスターの演奏では、『ロドイスカ』でも強烈な印象を残したティンパニが活躍します。24秒からの比較的音量を抑えた静かな第二主題では、弦楽器同士のアンサンブルと、その弦楽器と木管が細かい対話を見せるのも聞き所。提示部の反復を経て3分10秒過ぎから展開部に入りますが、ここでは弦楽器の艶やかな響きがより一層瑞々しい輝きを増して、前へ前へグイグイと進んでいく感じが魅力的ですね。そして5分33秒からの第一主題の再現を経て、この曲にも短いコーダがついています(6分11秒〜)。このコーダはどことなくメンデルスゾーンの『スコットランド』を思わせるようでいて、短調のメロディで畳み掛けるようにグイグイ押すような感じが独特であり、フォスターの解釈も力感やシンフォニックな響きの量感も充分で、理想的と言える見事なもの。総括以前、シューマンの交響曲全集やサ・チェンとのショパンのピアノ協奏曲(こちらもご参照下さい)、ズナイダーとのブルッフのヴァイオリン協奏曲で絶賛したフォスターですが、こんなところで意外な隠れた名盤を残してくれたことに感謝する以外にありませんけれども、やはりベースとなる音楽性は非常に高い玄人受けするものを秘めているのは間違いなく、これからも1枚でも多く、『伴奏指揮者』ではない名演を聞かせて欲しいところです。なお、このアルバムには『アリババ』、『アナクレオン』、『ポルトガルのホテル』といった、ここでご紹介した2曲にも負けない魅力的な作品が収められており、是非、一人でも多くの方にケルビーニの魅力に触れて頂くことを願います。 |

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