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現状、毎日のライヴ放送予定をチェック出来ないため、当面はネット音源のご紹介にフォーカスします。

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久しぶりのCDレビュー、しかもまたマーラー関連で恐縮です。しかも、まだ取り上げていない作品が残っているにも関わらず、再び『巨人』を取り上げるとは何事かとお叱りを受けそうですが…

今回ご紹介致します演奏は、近年の演奏を主に取り上げる私には珍しいことですが、往年の名指揮者、ハンス・シュミット・イッセルシュテット北ドイツ放送交響楽団を指揮した、マーラーの交響曲第1番『巨人』の1969年の(放送用?)ライヴ録音で、ターラ・レーベルからの1枚でございます。この録音、1960年代の録音とは思えぬほどに非常に鮮明で立体的な音響空間であることにまず驚かされます。実はこのアイテムには同じ60年代の演奏によるマーラーの4番がカップリングされていますが、そちらと比較すると一聴瞭然。大変聞きやすい録音ですので、私のような歴史的録音が苦手な人間でも非常にとっつきやすいというのが大きな魅力の一つ。

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皆さんはシュミット・イッセルシュテットという名前を聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか?シゲティとのベートーヴェンのコンチェルト、あるいはデッカに録音されたウィーン・フィルとの(ウィーン・フィルにとっての初のステレオ録音によるベートーヴェン全集となった)ベートーヴェンの交響曲全集、バックハウスと入れた同じくベートーヴェンのピアノ協奏曲全集という三つの巨大な金字塔が聳え立っていて、今でも各曲を代表する名盤として知られていますね。すなわち、ベートーヴェン演奏における正統派後継者の一人というイメージが、多くの方が抱かれるシュミット・イッセルシュテット像なのではないかと思います。あるいはヌヴーとの奇跡的なブラームスのコンチェルト。そして、ターラやEMIからの北ドイツ放送のライヴ音源が発掘され出したのはここ10年20年くらいのことだったはず。しかし、実は彼の功績の全貌が現状では正しく把握されていないのではないかという思いが、このマーラーの名演を収めたアルバムを聞くにつけ、強くなって参ります。余談ですが、私も彼の熱心な愛好家ではありませんのでこのマーラーと上述のベートーヴェン、あるいはターラやEMIの放送音源以外では、同じくEMIに録音されたモーツアルトの『イドメネオ』の全曲録音くらいしか知りません。がしかし、また折を見てご紹介したいと思いますが、この豪華キャストによる『イドメネオ』は数あるモーツアルトオペラの録音の中でも十指には入れたいくらいの、極めて優れた名盤であります(オーケストラはシュターツカペレ・ドレスデン!)。かようなわけで、マエストロ・シュミット・イッセルシュテットについては、私も改めて再評価しなければならない指揮者の一人です。

そのハンス・シュミット・イッセルシュテットですが、彼は1900年ベルリンに生まれ、私が生まれた約1ヶ月半後に73歳で没したとのことです。フランツ・シュレーカーに作曲を師事、1923年からヴッパータール歌劇場にてコレペティトゥーアとしてキャリアをスタート。35年にはハンブルク国立歌劇場の首席指揮者、42年にはベルリン・ドイツ・オペラの音楽監督に就任。そして、マエストロ最大の功績は45年に初めて演奏会を開いた北ドイツ放送交響楽団の結成に最大限尽力したことでしょう。首席指揮者就任後、26年もの長きに渡って楽団の発展に尽力したマエストロは、そのポスト退任後も終身名誉指揮者として精力的に活動しました。今回ご紹介致します『巨人』はそのようなマエストロの最円熟期、キャリアの集大成を迎える時期の素晴らしい名演の記録でございます。


第1楽章

それでは、曲の細部を見てみることにしましょう。まず第1楽章冒頭部分を聞いて明らかなのは、通常最弱音で奏されるトレモロをかなり大きめの音量で弾かせており、繊細で情緒的な演奏であるというよりは、かなり豪放磊落、ときには田舎臭ささえいとわないほどのドッシリ構えたそのフォルムの見事さでありましょう。シュミット・イッセルシュテットの人柄が滲み出たかのような柔らかく、素朴な音色を醸し出すホルンのユニゾンとともに、冒頭部分の雰囲気がこれほどまでに『ドイツの森』を感じさせる演奏も稀であり、その大半が弦楽合奏の素晴らしさに起因していると考えます。現在の北ドイツ放送響はテンシュテットやヴァント、エッシェンバッハといった巨匠指揮者に率いられてきましたから当然でしょうが、シュミット・イッセルシュテットの時代から既に弦楽器の美しさには刮目すべきものがあります。3分25秒辺りからチェロによって導入される第一主題は殊更にその躍動感やリズムを強調し過ぎることなく、また妙に歌い込まれ過ぎることなく実に自然体であるのが好感度大。変にアッチェランドやリタルダンドをかけずに極力インテンポが守られているのもこの巨匠の大きな美点の一つですが、人によっては物足りないと思われる場面もなきにしもあらず…が、しっとりとした音色が魅力的なヴァイオリンやクラリネットが素晴らしく、7分前後においてトゥッティで強奏する箇所等においても清涼感すら漂わせる爽やかさが絶品です。さて、7分30秒辺りから始まる展開部においては、上述のような特徴がより一層生かされている印象があり、その上で自然なテンポ設定がなされているせいか、曲の良さが十二分に前面に出て大変瑞々しい表現になっていることを高く評価したいと思います。そして、フィナーレの終盤で非常に重要な役割を担うフレーズが寄せては返す波のように現れる12分過ぎ辺りから帯びてくる熱気も充分なんですが、決して『頑張って鳴らしてるな』という印象を与えることがなく、主役となるヴァイオリンや、ホルン・トランペットを軸とする金管を中心に見事なまでに骨太な分厚い響きを獲得しています。以前、サカリ・オラモの名演を『21世紀を代表するに足る名盤』としてご紹介しましたけれども、それはかなり斬新な解釈を読み尽くされたスコアから新たに掬い取り、新たな解釈の可能性を存分に感じさせる新しいタイプの名演でありましたが、このシュミット・イッセルシュテット盤の安心感といいますか、どこか懐かしさすら感じさせる素朴な演奏は誠にもって見事の一語に尽きます。

第2楽章

実は次の第2楽章及び第3楽章の中間部の箇所こそ、私がこのマエストロの『職人芸』といいますか、芸格の素晴らしさを感じた最も特徴的な箇所であります。この演奏では一聴してお分かりのように、平均的な演奏に比べるとかなり緩やかなテンポ設定になっているのが最大の特徴。事実、平均的には7分〜8分程度で演奏されるところを、シュミット・イッセルシュテットは実に10分以上もかけて丁寧に演奏しています。この楽章は有名なメロディが付点のリズムを基調としているためか、一般的にはこの楽章がスケルツォである点と『力強く運動して』という表記を意識してか、このリズムにものを言わせて一気に捲し立てるような演奏が特に現代の演奏では多いような気がしますが、この音楽は元を質せば『森を散策するような』イメージも内包しているはずですので、このようなアプローチもとても理に敵っていると思いますね。チェロによる冒頭のリズム音型の力強さも比類なく、このテンポであればこそと思わせるに充分な必然性を湛えています。ここで重要な役割を果たす木管群のうち特にクラリネットが時おり『ひっくり返ったような』音を出すのはご愛嬌ですが、それもこの演奏の独自性に比べれば些細な疵に過ぎません。中間部直前の4分過ぎ辺りでのジワジワと立ち上る高揚感も第1楽章のクライマックス同様であり(ラストも同様)、続く4分48秒からの中間部のワルツの落ち着いた雰囲気と見事なコントラストを描き出しているのも印象的。とても落ち着いた『大人の音楽』というイメージで実に魅力的です。

第3楽章

第3楽章は先に述べましたように、葬送行進曲よりもトリオの箇所が特に秀逸の出来映え。その葬送行進曲は殊更に弱音を強調することなく、むしろピアノ程度の強さで演奏されていますので、恐らくマエストロの興味も中間部にあったのだと思いますが、やはり弦楽合奏のハーモニーの美しさが比類ないためか、あるいは2分42秒からのオーボエによる印象的なフレーズや、3分8秒からのクラリネットによるおどけたメロディを支える弦楽器のコルレーニョ等の細かい部分にも決して手を抜かずに豊かな陰影がつけられているせいもあってか、一見(ボリュームバランス的には決してダイナミックレンジが広いとは言えず)淡白に見えるような演奏でありながらも実に魅力的な演奏となっています。金管の素朴な味わいもまたこの演奏の解釈に相応しく、聞けば聞くほどに味が出てくる演奏と申せましょう。そして、5分30秒過ぎからのハープをサインに始まる中間部の美しさが絶品!北ドイツ放送響の、コンサートマスターをはじめとする各パートの首席奏者達の渋いながらも美しい音色を、是非とも堪能して頂きたいものです。

第4楽章

さて、ここまで聞いてきてお分かりのように、この演奏を端的に表すキーワードとしては『自然体』、『素朴』といった辺りが思い浮かぶのですが、続くフィナーレはそれにアルファが加わって少し様相が異なります。第1楽章でもその特徴として挙げましたけれども、ここではそれに加えて『豪放磊落』というキーワードが強烈な光を放ちます。すなわち、一歩間違えると単調に陥ってしまうような『力づく』のオーケストラドライブが加わり、この劇的なフィナーレを起伏豊かに描き切っているのです。バーンスタインやテンシュテットに代表されるように自らの命を賭して身を削ってまで感情移入する演奏とは全く異なりますが、各パートがコツコツと、一つ一つ丁寧に積み上げられ、見事なまでに『そこにあるべき姿』で鳴る様は圧巻で、これぞ正に『ドイツ音楽の本流、正統だ』と思わせるに充分な、凄まじいエネルギーパッションを内包した名演になっています。一つだけ例を挙げるとするならばやはり16分45秒のシンバルを含めたトゥッティによるフォルティッシモの和音から、ラストのクライマックスにかけてでしょうね。決して小細工を弄することなく速めのインテンポで突き進む解釈は、恐らくこの巨匠に抱かれている一面に過ぎないイメージを木っ端微塵に打ち砕くこと請け合いと思います。そして、最も重要な役割を果たす金管が登場する場面ではかなり大きくテンポを落として高らかに歌わせるバランス感覚が絶妙であり、その勇壮かつ荘厳なメロディを支える弦楽器が実に雄弁に語っているのも大きな特徴。ラストの和音が鳴り響く瞬間のパワーの解放も、聞き手に充分な満足感を与えてくれることでしょう。大変優れた熱演です。


総括

現代の演奏にもこれを凌駕するテクニックやアンサンブルを誇るオーケストラはいくらでもありますし、そういった意味での名演も数多く存在していますけれども、音楽の演奏行為がとことんまで『デジタル化』してしまうことに対しては私は危惧を抱いています。とにかくそんな時代の流れからするとこのシュミット・イッセルシュテットの名演のアナログ的効果の大きさは計り知れません。

※殿堂入りにすべきか非常に迷いましたが、もうちょっとという意味で一点減点させて頂きました

詳細タイミング

マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』
第1楽章:15分6秒
第2楽章:9分38秒
第3楽章:10分21秒
第4楽章:19分21秒
合計:約54分

オススメ度

解釈:★★★★★
オーケストラの技量:★★★☆☆
アンサンブル:★★★☆☆
ライヴ度:★★★★☆
総合:★★★★☆

録音データ

ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団
1969年1月6日ハンブルク、ムジーク・ハレ(ライヴ)


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さて、今回はスヴェトラーノフのマーラーをご紹介しましょう。本来であれば『悲劇的』とかをご紹介したかったんですが、いかんせん音を言葉に翻訳するのに異常に難儀な曲なので、取り敢えずスヴェトラーノフのマーラーはどんなもんなんだ?という『入門編』ということで(苦笑)とは言え、『巨人』も充分に難儀な曲なんですが…

こうやって改めて聞き直してみても、かなり『変態な』演奏であります(笑)皆さんが『スヴェトラーノフのマーラー』と聞いてイメージされるものよりも数倍!(笑)

種明かしをする前に、ちょっと『巨人』やマーラーに関する私のエピソードを。元々、私はマーラーは5番から入門したクチなんですが、今は亡きサー・ゲオルグ・ショルティ&シカゴ交響楽団による演奏でした。当時は『カラヤンなんか死んでも聞くもんか!』みたいな横柄な態度をとってましたから(カラヤンファンの皆さん申し訳ない!)、最初は硬派なショルティにどっぷりのめり込みました。『巨人』の一番最初のディスクは何だったか、今ひとつ明確な記憶がないんですが、恐らく若杉弘さんがシュターツカペレ・ドレスデンを振ったものだったように記憶しています。これは大変素晴らしい録音と相俟って、今でも充分通用する優秀なディスクだと思います。この若杉さんの演奏との出会いが恐らく幸福な出会いだったんだと思いますが、シノーポリやバーンスタイン、ワルター、テンシュテット、インバル、アバド、ハイティンク、デ・ワールト、ティルソン・トーマスといった辺りを聞き漁りました(残念なことに、マーラーの演奏でも重要な位置を占めるベルティーニ盤やシャイー盤は未聴です。話題のゲルギエフ盤はあまり聞く気が起きません(苦笑))。終楽章の金管のファンファーレもカッコよくてもちろん大好きなんですが、曲想がめまぐるしく変わり、特に弦楽器のトレモロ等が物凄く静かな静寂の中に微かに聞こえてくる辺りや、オーボエのソロがソリスティックにテクニックを披露したりと、特にその室内楽的な魅力に取り付かれたものです。第一楽章の出だしの部分や、第三楽章、あるいはフィナーレの中間部等。そういう意味ではこの巨人なんかは、シノーポリやアバド、あとは恐らくベルティーニ辺りのような演奏が私の好みには合っているのかも知れませんね。近年のものでは、デ・ワールトとティルソン・トーマスのものに大きな感銘を受けました。

最近ではケーゲル&ドレスデン・フィルのものも評判が良いみたいですね。あとクーベリックやノイマン、ラトルなんかも未聴なんです、残念ながら。最近のラトルもあんまり積極的に聞きたいクチではありませんけどね(苦笑)ともかく、ブルックナーやマーラーを本気で聞こうとすると全集で聞きたくなりますから、お金がいくらあっても足りません(苦笑)とは言いながら、未だに私の『巨人』には決定打を欠く状況が続いており、皆さんからの熱い情報をお待ちしております。やはり、皆さんワルターとかバーンスタインなんですかねぇ?

※以前はテンシュテット&シカゴ響のライヴ(EMI)と言い続けていたんですが、改めて聞いてみると確かに名演ではあるものの、決定打として考えるには今ひとつ。頭が抜けているようには感じられなかった。私が年を重ねた証拠?(苦笑)


というわけで、完全に前置きが長くなり過ぎましたが(笑)、本題のスヴェトラーノフの『巨人』に移りたいと思います。この演奏、先程『変態な』と申し上げましたが、少なくともラストに向かってひたすら突っ走る系の『爆演』ではありません。1時間に迫ろうかという、非常にゆったりとしたテンポ設定によって大変丁寧に(箇所によっては丁寧過ぎるくらいに)描き込まれていて、先日記載させて頂いた『惑星』の項でも書きましたけど、とにかく美しさがまず第一に感じ取れる演奏になっています。とは言いながら、やはりスヴェトラーノフ、ただでは済ませてくれないんですね(笑)ロシア国立交響楽団の打楽器・金管部隊が大変な大迫力で我々の眼前に現れるので、ピアニッシモを聞いていたかと思ったらいきなり大音量、みたいなしっぺ返しを食らいます。第一楽章から、とにかくシンバル、大太鼓、ホルン、トランペット、テューバが物凄い迫力です(笑)逆に言うと、室内楽的な部分の静謐な表情と丁寧な極上のアンサンブルが徹底されているからこそ、こういった部分の迫力が対比されて際立つんでしょうね。

では、早速細部を見てみることにしましょう。まず第一楽章。ことによると、『巨人』の中でも一番構成が難しい楽章かも知れませんね。他の楽章はある程度、音楽そのものに『雰囲気』みたいなものが感じられますけど、第一楽章だけは漫然と進められるとどうにも逆にしまりがなくなってしまうような気がしてなりません。まず、冒頭の序奏、すなわち弦楽器の最弱音によるフラジョレット奏法が生み出す透明度と緊張感、木管の絡み、そしてアルペンホルンを模した牧歌的なホルンのパッセージ、そしてチェロのテーマが現れる辺りまでが、いきなりこの楽章の最大の聞かせ所と言っても過言ではないでしょう。ここは充分注意深く、とにかくこちらの注意力と集中力を最大限に引き出すような演奏であって欲しい。その点、スヴェトラーノフの演奏は万全。期待以上です。この序奏における木管の主役であるカッコウを模したクラリネットと小鳥のさえずりを模したフルートは極めてチャーミングであり、弦楽器のトレモロの導入が若干、聞こえ過ぎの嫌いはありますが、とても丁寧で充分に美しい序奏になっています。アルペンホルンを模した旋律も羽毛布団のように極めて柔らかい音色。こうしてグッと、聞き手の注意を引き付けたスヴェトラーノフ(移行部分のパッセージ処理も絶品!)、主部(4分付近)に入ってもいたずらにテンポを速めることなく、実に着実に歩みを進めて行きます。主部に入ってからも弦楽セクションは艶やかな音色を保ち、随所に聞こえる金管を含めた管楽セクションはチャーミングの極み!トライアングルの合いの手も実に良く聞こえています。強奏部においても決して全体が濁ることなく極めて高い純度を保っているのは、スヴェトラーノフの新たな一面を知るに相応しい聞き所と言えましょう。録音も非常に生々しい臨場感に溢れ、同じ90年代の録音と比べても極めて優秀なもの。後半の、例のフィナーレでも繰り返し出てくるフレーズ、すなわちこの演奏の13分15秒辺りからですかね、弦楽器の引きずるような音型に木管と金管が折り重なってクレッシェンドし、シンバルがガッシャーンと来る箇所、打楽器と金管が束になったときのあの重量感、これはさすがにスヴェトラーノフがピカイチだと思いますね。コーダにおけるティンパニの轟音を含めて凄まじい迫力!

通常のシンフォニーにおけるスケルツォに該当する第二楽章においても、スヴェトラーノフのゆったりとした足取りは相変わらず、第一楽章が繊細に美しさをより追求したためか、第二楽章は第一楽章以上に楽器が良く『鳴っている』ように聞こえます。…が、良く良く考えてみるとそれだけマーラーの音楽が、非常に分厚く書かれているのだ、ということが分かります。すなわち、金管と打楽器群が重なるとスヴェトラーノフの『必殺技』が炸裂する、という(笑)その証拠に、トリオの木管と金管が極めてデリケートに歌われており、弦楽器のルバートやポルタメントも頻出。非常にロマンティックな解釈が展開されているからです。トリオに比してスケルツォの部分に目を向けると、冒頭の低弦によるテーマは非常に勇壮かつ堂々とした風格を備えながら提示されており、フィナーレのラストともどもスヴェトラーノフ『らしさ』を感じさせてくれます。

さて、次の第三楽章において『ビックリ仰天』の仕掛けが待っています(笑)この楽章、例の『フレール・ジャック』のメロディーが移調されて葬送行進曲とされたパロディですけれども、この楽章を初めて聞いたときは本当に驚きましたね。コントラバスにソロを弾かせるのはもちろんのこと、フレール・ジャックが短調に移行されちゃうんだ、という二重の驚き(笑)終演後に必ず、指揮者がコントラバス奏者を讃えますからね。今回、私がスヴェトラーノフの演奏で『ビックリ仰天の仕掛け』と申し上げたのはもちろんそれに関してではありません(笑)ティンパニの重々しい響きに導かれ、コントラバスソロは極めて『真っ当な』名演を繰り広げています。さて、まず第一の『仕掛け』はこのコントラバスソロがスピーカー左から聞こえてくる点です。そう、両翼+コントラバス左奥配置なんですね。それから、第二主題をオーボエが奏でる際の『溜め』。このルバートをロシアのメンバーが作り出すのですから、考えようによってはかなり『仰天』(笑)そして、これが最大の驚きなんですが、弱音器をつけたトランペットの奇妙な『揺れ』を感じさせるヴィブラート!これは『嫌だ!』という人がいてもおかしくありません(笑)これは凄いですよ。こんな演奏、ちょっと他では聞けませんね。この音の魅力に気づいてしまうと、弦楽器から管楽器、打楽器に至るまで全てが『なまめかしく』聞こえてくるからいけません(笑)そう言えば、スヴェトラーノフにはスクリャービンの圧倒的な名演がありましたね。長調に転ずる部分における弦楽器では、禁断のポルタメントが続出します。ビギナーは絶対聞いてはならぬ、こんな濃厚な『巨人』は!(笑)

さて、スヴェトラーノフファンの皆様、大変長らくお待たせ致しました。ついに、というか『今までの(室内楽的なまでに繊細な美しさ)は何だったのか?』と思わせる爆演が展開されます。冒頭の主題提示は『嵐のように』というマーラーの指定を遥かに上回り、暴君ネロの悪行を思わせるような恐怖感。あるいは核兵器によって全世界が破壊される絶望感、そう、まるで6番のシンフォニーのような…本当に何もかもが吹っ飛んで後に何も残らない、そういった類の恐怖です。私は『巨人』で恐怖を感じたのは後にも先にもこのスヴェトラーノフ盤のみ(苦笑)もしかしたら、マーラーなんか二度と聞きたくなくなるかも。いや、冗談抜きで。このフィナーレではいきなりハイ・テンポで導入されます。とにかく、全ての物を薙ぎ倒してしまうかのような圧倒的な迫力で進みますが、3分過ぎからの第二主題の部分は一気にテンポを落として、例のロマンティックなスヴェトラーノフにシフトします。ヴァイオリンは憧憬に満ちた音色で歌い尽くされ、そこに至る過程の迫力との対比でこの部分は非常に感動的。そしてまた嵐の部分に突入すると一気にギアが上がり、金管・打楽器群の彷徨が炸裂(特にティンパニのロールにおける最終拍のアクセント!)!そして、9分30秒辺りの『一度目の』勝利のテーマから既に入れ込みが激しくて思わず微笑んでしまいますね(笑)あと、14分18秒のティンパニの一撃から、その周辺のティンパニのロールには是非とも注目して欲しいところ。こんな強打は滅多に聞けないですよ。私もさすがにこれは今までのどの演奏でも聞き得なかった迫力です。いよいよフィナーレの『最終仕上げ段階』に入ります。やはりここはラストのホルンの最強奏に着目すべきでしょう。とても迫力ある勇壮で巨大な『巨人』のラストに相応しい、素晴らしい名演が展開されています。

【詳細タイミング】
マーラー:交響曲第1番ニ長調『巨人』
第一楽章:16分24秒
第二楽章:8分27秒
第三楽章:12分50秒
第四楽章:19分18秒
合計:約56分
【オススメ度】
解釈:★★★★★
オーケストラの技量:★★★★☆
アンサンブル:★★★☆☆
ライヴ度:★★★☆☆
総合:★★★★☆

エフゲーニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団
1992年モスクワ(ロシア語表記のため、詳細読み取れなくてスミマセン)

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毎年恒例のレコードアカデミー賞。今年は大賞に二年連続でブーレーズのアルバム(バルトークのコンチェルト集)が選ばれました。交響曲部門(兼銀賞)においては、近年再評価の機運が著しいジョルジュ・プレートル&ウィーン交響楽団によるマーラーの5番が選ばれています。皆さんはお聞きになられました?

この曲、マーラーの交響曲の中でも後期作品群の入口に位置付けられ、それまでの2〜4番という声楽を伴う作品から180度転換し、また再びオーケストラのみの作品となったという意味において、マーラーの交響曲の中でも重要な位置を占めています。また、巨人や復活と並び、ベートーヴェンの運命に似た構成、すなわち暗から明へ、苦悩から勝利へという起承転結のハッキリした曲ということもあってか、マーラーを聞き始める方々にとっての入門編的な位置付けも与えられています。実際、私はこの曲からマーラーに入りました。当時はショルティ&シカゴ響全盛期で、この後から続々とベルティーニやテンシュテット、インバル、シノーポリが出てきて、またバースタインのマーラー(新全集)が世に出てきたこともあり、マーラーブームと言っても過言ではない風潮がありました。

そんな世代で育った私なので、正直申し上げると個々の曲の名盤は枚挙に暇がなく、この5番もテンシュテット&ロンドン・フィルのライヴ(EMI)、バースタインの新全集という二大巨頭が首位の座に君臨しているため、よほどのことがない限りこれらを凌駕するものは今後は現れないと信じています。そういうわけで、今回のプレートルのマラ5はレコードアカデミー賞を受賞したものの、選者自らが告白しているように『今年の録音の中では最上位』ではあるけれども、上記2盤を凌駕するものではない、ということを最初に考慮しなければならないでしょう。

しかしながら、この録音は間違いなくマラ5の第一級の名演です。一言で言うなら、テンポと音量を自由自在に動かした爆演。バレンボイムやカラヤンなんかよりは数段面白い。プレートルの過去の録音に比しても、かなり出来映えの良い部類に入ると思います。そうなんですよ、プレートルの演奏は実にムラがあり、『粗削り』と言えば聞こえは良いが、雑でアンサンブルの崩壊を招くことも少なくない。逆に言うと、細部に殆どこだわらないので、ハマったときの爆発力は並大抵のものではありません。第九のレビューでも書きましたが、そういう意味でも『集中力の高さ』は尋常ではなく、特に激しい第2楽章と、甘く切ない、それでいていかにも妖艶な第4楽章が過去の名盤に比肩する、いや凌駕すると言っても良い圧倒的な名演と言いたいです。これでもう少し録音が良ければ評価も違ったのかも知れませんが…そうなんです、分離も左右の拡がり感も指揮台で聞いているかのような臨場感で申し分ないんですが、サーッという感じの微妙なノイズが終始入ってるのと、フォルティッシモの強奏で音が割れるというか、ダイナミックレンジが広くないんですね。ライヴなので仕方ないと言えばそれまでですが、客席のノイズも気になる人はいるでしょう。とても残念…

というわけで、早速細部を見てみたいと思います(プレートルの演奏は、ホントは細部を見るよりも全体で見た方がいいのですが…)。第一楽章は葬送行進曲、マーラーの作品の中でも特に有名なメロディ、トランペットのファンファーレで始まりますが、このタタタターッ、タタタターッ、タタタターン、というフレーズ、前半の三連符が崩れて団子になってしまう演奏が、特にライヴ録音に多いですけれども、この録音は決してそんなことはありません。見事に大役を果たしていますね。音量はいきなり大きめなので、徐々にクレシェンドするという感じではありません。19秒からのシンバルは録音のせいなのか、私の環境ではドンシャリに聞こえますね。残念…1分5秒からは低弦に第一テーマが現れますが、ここはプレートルの深い共感が込められていて、非常に粘りがあって、しかしながら静かにゆったりと心の底から悲しみの情が歌い上げられています。この部分だけに限らず、この演奏でのウィーン響は弦楽器が驚異的な粘着力と合奏力を見せており、それが近年にはない往年の名演を今に甦らせたような感すら覚えます。3分5秒からのVnで第一テーマが繰り返される部分も同様。5分38秒からの、トランペットをサインに始まる嵐の部分は意外と大人しいというかまともなので、どうせなら第二楽章のように大暴れして欲しかったな、という不満も。10分14秒からのティンパニのソロによる葬送のリズムから弦楽合奏に展開される箇所においても、もう少しうねっても良いような気がしますが、ポルタメント気味の旋律の扱い等はさすが。11分46秒からのトゥッティの一撃と、トレモロに乗って奏されるトランペットのソロは非常に柔らかい音色で名演。コーダの最後でのフルートのフレーズは独特なリタルダンドをかけ、最後のピッツィカートは大きめのボリュームで終わります。
第二楽章については、上述のように大変な名演だと思います。後ろ髪を引かれるような粘り気味のリードが推進力こそ生み出さないものの、プレートルにしては珍しく細部まで磨き上げられ歌い上げられているので、千変万化する色彩を楽しむことが出来るでしょう。冒頭から30秒ほど聞いて頂くとお分かりの通りとにかく激しさ満載で、うなりを上げる弦楽器、絶叫する木管、容赦なく迫る嵐の恐怖を浮き彫りにする金管、その恐怖をより一層煽るティンパニとシンバル。30秒からのテーマの振幅の激しさについても尋常ではないですね。嵐が静まり、フルートのサインが木管に受け継がれ(1分19秒付近)、チェロが第二主題を奏する辺りのギアチェンジも上手いですね。ここは冒頭の激しさが嘘のように美しい。そして、ここでも粘りのあるポルタメントが生きています。3分37秒からは再び嵐。ここでは特にティンパニの轟音が救いようのない苦悩をあぶり出しているようです。また静寂が訪れ、4分24秒からのチェロの独白との対比も極めて効果的。ここは5分35秒くらいまで、すなわちコンサートマスターのソロが入ってくるまで続きますが、この美しさは特筆に値するでしょう。7分1秒からはいきなり第一楽章のテーマが長調に移調された形で現れますが、ここでも弦楽器のポルタメントが抜群。8分30秒付近から、3度目の冒頭テーマ。ここは激しさよりも、悲しみの表情がより強く込められているように感じますね。明らかに前2回とはアプローチが違います。11分35秒から、金管による突然のファンファーレ(第五楽章のテーマと同じ)はティンパニの轟音を伴って物凄い迫力です。この演奏を聞いて思ったのが、幻想交響曲との共通点。場面転換が目まぐるしく、各楽器が音量と技巧の限りを尽くし、テンポは自在に変化、そして阿鼻叫喚の世界を描き出す。余談ですが、第二楽章の後にチューニングが入ります。
第三楽章はスケルツォということなんですが、私はどちらかというとワルツに近いようなイメージで捉えています。冒頭のホルンは近年、ライヴ等で『立たせて』演奏されたり、場合によっては指揮者の横に『わざわざ』来てコンチェルト風に演奏されたりと、様々な演奏がありますけど、このプレートルの実演はどうだったんでしょうね?この演奏、耳で聞いた限りですと今ひとつプレートルの美感が生きていないような気もするんですよね。音楽が合わないのかも知れませんが。弦のポルタメントも多発してますが、ちょっと空回りしているような感じ。それよりも2分22秒からの『トリオ』の方が、グッとテンポを緩めて段々速めていく、みたいなプレートルの芸が見えるのとポルタメントが生きていて素敵に感じました。ただし、6分54秒からの弦楽器によるピッツィカートの悲しい音色はあまり聞いたことがありませんね。この部分は素晴らしいと思います。
さて、私はこの演奏のクライマックスは第四楽章にあるような気がしてならないのですが、今まで散々書いてきた弦楽器のポルタメントがこれほどまでに生きた例をあまり知りません。やり過ぎのようなところもありますが、私はこのチャレンジというか、プレートルが感じたように自由に振る舞った結果を非常に高く評価したいと思います。一つ一つのフレーズが大切に慈しむように奏でられ、必ず音量の大きな頂点とそれに向けたクレッシェンドを築き、ゆったりと引いていく…妖艶な世界でありながら、どこか純白あるいは透明とも言えるような美しさを湛えている。最初の頂点は3分27秒、フォルティッシモかつ最大限のレガートでVnが乗っかってくるところ。グラマーなボリュームが圧倒的です。そして、段々と第五楽章のフレーズが姿を現しつつ、行き場の定まらない浮遊感が良く現れており、ようやく元に戻ってくる7分47秒の辺りからは、冒頭とは少しニュアンスが変わっていて啜り泣くような表情を見せるのが感動的ですね。最後の未練を残すような繊細なピアニッシモも絶妙。
第五楽章は第四楽章に続くクライマックスと言いたいところですが、ウィーン響が若干プレートルの棒についてこられない嫌いがあり、アンサンブルに微妙な綻びを感じるのが残念なところ。冒頭ホルンと木管、それに加わる低弦の掛け合い及び弦楽器群のフーガ辺りまでは良いのですが、2分31秒辺りからのテーマが戻ってくる辺りから微妙ではありますが、アインザッツが合わなくなる箇所が出てくる。しかしながら熱気は相当なものです。コーダの迫力はライヴならではですが、私は今ひとつ煮え切らない思いを拭い去れませんでしたね…

昨日、レコード芸術の2月号が発売され、昨年のリーダーズチョイスが掲載されていました。あの結果の有効票数ってどこかに書いてありましたっけ?全体でどれくらいのうち、何ポイント獲得したのか?という基礎情報が分からず。あの結果を見ると、少なくとも読者はこのプレートルのマラ5を第一位には評価しておらず、全体でも七位に留まっていることを考えても、レコードアカデミー賞との乖離がお分かり頂けるでしょう。2008年という『横軸』で見たなら確かに分からないでもないですが、マラ5という『縦軸』で見た場合に、果たして相応しい受賞だったのかどうか?

【詳細タイミング】
マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調
第一楽章:13分32秒
第二楽章:15分24秒
第三楽章:18分2秒
第四楽章:11分21秒
第五楽章:14分27秒
合計:約73分
【オススメ度】
解釈:★★★☆☆
オーケストラの技量:★★★☆☆
アンサンブル:★★☆☆☆
ライヴ度:★★★★☆
総合:★★★☆☆

ジョルジュ・プレートル指揮ウィーン交響楽団
1991年5月19日ウィーン、コンツェルトハウス大ホール

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