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原題『METAMORPHOSES』(メタモルフォーセス)。『転身物語』と訳されることが多いです。
原文はラテン語で「ギリシア神話」を題材にした「世界の始まり」から「カエサルの神化とアウグストゥス」までの変身にまつわる神話が書かれています。
カエサル?アウグストゥス?とお思いの方もおられましょう。
作者オウィディウスはローマ時代の詩人でBC43年にローマから140km離れたスルモーという町に生まれました。
思春期にローマに出て、学問を勉強しますがいつの間にか詩篇に捕らわれて詩人として生活します。
古代ローマはギリシア世界を併合したときに、ギリシア文化の殆どを取り入れました。
彫刻などの美術品がギリシアの模倣だということもよく知られていますが、学問も彼らはアテネで身につけたようです。
そして、神話に至っては完全にギリシア神話に取り込まれて、ゼウスをユピテル、ヘラをユノー、アレスをマルス、アテナをミネルヴァ、アフロディテをウェヌスといったローマの神と同化させました。
多少はローマ独特の神も残りましたが、殆どが吸収されてしまいました。
しかし、ギリシア語の傑作『イーリアス』『オデュッセイア』に並ぶ作品を書こうという意気込みで、ウェルギリウスの『アエネイス』(トロイア戦争のトロイア王家の生き残り、のちのローマの祖となる英雄)がラテン語で書かれ、それに挑戦するカタチでオウィディウスは『変身物語』を書いたと言われています。
内容は、カオスから始まる天地創造から始まって、ギリシアのおなじみの神話を「変身」をモチーフに書いています。
元々『ギリシア神話』でも「アポロンとダフネー」や「ヒュアキュントス」など変身する(あるいはさせられる)神話がありますが、よく知っている神話のサイドストーリーみたいな変身エピソードが殆どです。
そして、変身の遠因が大体、色恋沙汰にありますから、とてもロマンチックに描かれています。
それから、トロイア戦争のところは当然トロイア目線で書かれています。
アキレウスを憎んで憎んで、という感じです。
そして終盤、ローマ建国の英雄たちの話になります。
ギリシア神話も英雄談があって正しくは「半神」と約すべき神の血筋の英雄が多く出てきます。
彼ら(彼女ら)は元々は神格で、いつの間にか取り込まれたときに人間になってしまったようです。
そして、ヘラクレスが天に昇ったようにヘレネーが神になったように、ローマの英雄も死んで神に昇格したように描かれていますが、実際は彼らこそローマに元々いた神格だったのです。
それは、北欧神話やインド神話、そして日本神話にも通じる三機能神の神話でした。(深く知りたい方は『デュメジル・コレクション』をお勧めします…)
ローマ人は享楽的なイメージですが、ギリシアの神々とローマの神々を大変敬っていました。
それぞれ神に対しての祭日を設け、一年のうちの多くを禁忌の中で生きていたのです。
そして、本書の中にあるようにピュタゴラスの思想が広がり、今度は輪廻転生を考えました。まあ、これが『変身物語』のベースなワケです。
イエスが誕生したのはまさにそんな時代でした。
オウィディウスはAD8年に時の皇帝アウグストゥスによって黒海西岸のトミス(ルーマニアのコンスタンツァ)へ追放となります。
今でも理由はよく分かりませんが、作品のひとつ『色道教本』が理由と言われています。
『変身物語』の最終章ではアウグストゥスの神化をほのめかしていますが、そんなおべっかも通用しなかったようです。
約10年後オウィディウスはそこで死にました。
甘やかなラテン文学に触れる一冊です。(写り悪くてごめんなさい)
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