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今日、紹介するのは、病理学者の難波絋二著『誰がアレクサンドロスを殺したのか?』です。
タイトル通り、この本は東征からの帰還中に死んだアレクサンドロス大王の死の原因を専門家である作者が当時の文献や、現代に至るまでの各説を検証していったものです。
アレクサンドロスはご存知の通り、バビロンでの急な熱病により33歳の生涯を閉じました。
それによって、広大なマケドニア王国…いや、アレクサンドロス王国は瞬く間に瓦解し、後継者と呼ばれた将軍たちのおぞましい争いによって、アレクサンドロスと血の繋がる者は母や姉までも根絶やしにされたのでした。
本書はアレクサンドロスの死から始まります。
何によってこの世界地図を塗り替えた若き大王が死に至ったのか―まさに謎解きの面白さからグイグイ引き込まれます。
そして、アレクサンドロスが出来るまで。
マケドニア王フィリッポスに至るまでのギリシアの歴史…政治史をなぞり、ギリシア哲学の歴史を辿ります。
この哲学者たちは共和制では尊敬と、迫害を行き来しながら、現代に繋がる哲学を極めて行くのです。
しかし、哲学者=知識人というワケではありません。
彼らは、自分たちギリシア人の優越性(これは幻想なのだけど)に浸るあまりに、偏狭な考えを持った人たちが多くいたのです。
そういう者たちが、三流の哲学者であればまだ救いではありますが、ソクラテスなどの一流の哲学者こそがその最も偏った思考の持ち主だったのです。
そして、彼らこそがアレクサンドロスの大きな世界観に立ちはだかる敵であったのでした。
この本のスゴイのは「アレクサンドロスの死因」という問題に細部に至る検証を用いながら、古代ギリシア世界の政治と哲学について自然に分るようになっていることです。(文量多いけど)
ただの「ギリシア政治史」としても「ギリシア哲学史」としても充分に通じます。
アレクサンドロスが肌身離さず持っていた『イリアス』の主人公―アレクサンドロスが憧れ、我が身に置き換えた―アキレウス。
アキレウスを養育した賢者ケイローンとの黄金の師弟を彷彿とさせるアレクサンドロスとアリストテレスという師弟が決して、伝説の二人のようではなかったという事実があまりにも悲しいです。
これは、ひとつの考察に過ぎませんが、これほど政治史・哲学史を分かり易く纏めた本はないと思います。
それだけでも読む価値のある一冊です。
あまり関係ありませんが、明日の教育テレビの「芸術劇場」で、舞台『イリアス〜怒りと戦争と運命についての叙事詩』が放映されます。
私が以前に観たものです。
ナカナカ盛り上がるいい出来なので、是非ご覧ください。
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2010年12月09日
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