|
京都市左京区の岩倉には、国指定史跡の「岩倉具視幽棲旧宅」があります。
幕末・明治に活躍した岩倉具視が、幕末の文久ニ年(1862)から慶応三年(1867)までの約5年、隠れるように住んでいた旧邸の跡です。
岩倉具視は公家の堀河家に次男として生まれ、幼少期に下級公家の岩倉家に入り養子となります。
岩倉家は公家中でも最も家柄低く、石高僅かに150石という貧乏な家でした。平和な時代なら歴史に名を残す事など無かったでしょう。
しかし、ペリー来航以来の騒動の中で、徐々に、頭角を現してきます。まず、時の関白鷹司政通に接近し、孝明天皇の近習になることに成功。安政5年(1858)老中堀田正睦の日米修好通商条約締結には、反対派公卿として名を連ね、和宮を将軍家に降嫁する問題では、朝廷の権威回復の為に、孝明天皇を動かして実現させました。
しかしこのときのやり方が、反対派を押し切って断行したため、尊攘派を激怒させます。
朝廷内の反発を受けた岩倉は、文久二年(1862)菩提寺の霊源寺(京都市北区西賀茂北)で落飾剃髪の上、洛外追放という厳しい処分を受けたのです。
さらに尊攘派の刺客に命を狙われる危険もあり、各地を転々とした末、岩倉村実相院近くの乳親という関係だった百姓三四郎という農家に身を托し、同じ村の大工の藤屋藤五郎所有の古家を借り受けて移ったのです。
現在は周辺に病院が立ち並んでいますが、当時のこの邸付近は、田畑に囲まれて人家の少ない寂しい場所だったようです。
古家は、わずかに風雨を避けられる程度で、屋根は破れ柱は傾いて、狸や狐の棲家と変らない状態だったようです。具視は日記に「1日中掃除をしたが、余りのひどさに住居に出来そうに無く、思わず涙がこぼれた・・」と書いているそうです。
こうして何とか家を直して、隣雲軒と名付けました。
これが現在の岩倉具視幽棲旧宅で、現在の建物は、明治三十五年に改築されたものですが、当初の状態を維持しているようです。
しかし、蟄居中でも岩倉の活動は止みませんでした。密かに政治活動を行い、倒幕急進派と接近します。
薩摩の大久保利通、西郷隆盛、土佐の坂本龍馬、中岡慎太郎らがこの宅を出入りし王政復古の密議を行っていたのです。
やがて孝明天皇が死去し、幼少の明治天皇が即位すると復職に成功。
その後の活躍は目覚しく、密かに倒幕の密勅を薩長に降す一方、王政復古の大号令を主導して、朝廷中心の政治体制を樹立することに成功します。
政権を失った徳川家の扱いに関しては、徳川慶喜の辞任と徳川家領地の返上を主張し決定させます。こうして徳川家は新政府から排除され、朝敵とされることになっていくのです・・その後の明治時代の活躍に関しては省略させていただきます。
岩倉具視は、明治政府の中心人物となってからも、常に岩倉村の思い出を大切にして、東京から京都に行けば、必ず村で馴染みの人たちと懐かしい思い出を語り合ったそうです。
その態度は隠棲していた当時と変らない親しげな様子で、また村の殖産にと寄付をしています。
これに感謝した村の人達は、具視の思い出の遺蹟を永遠に保存しようと考え今日まで守ってきたのでした。
さて、岩倉具視幽棲旧宅の印象です。
正面の正門は閉められていて、その右のある受付から入ることになります。
それ程広い敷地では無いですが、立派な松の木が茂り、木々で覆われて見えませんが小さな池もあるようです。
建物は、簡素な雰囲気で、茅・瓦葺きの木造平屋建て2棟で、部屋数は4〜5つ程でしょうか。縁側と座敷とはガラスの入った障子で仕切られていて、座敷には有名な岩倉公の肖像画が置かれています。
座敷に上がらせてもらいましたが、明治に改築されたとはいえ、畳も襖はかなり時代が経ってボロボロな箇所もあります。(写真)
幕末の英雄達が、当時は人家の少ない岩倉村の田舎道を歩いて、この小さな部屋に密かに集まっていたと思うと感慨深いものもありました。
敷地内には、岩倉具視の遺髪塚をはじめ、子の宮内大臣具定等の遺髪塚があり、また、岩倉具視の雅号「対岳」(岩倉村から対峙する雄大な比叡山に因んだ)からとられた「対岳文庫」と名付けられる昭和三年建造の資料館があり、岩倉具視の書簡や資料が展示されています。
所蔵品の内1000点以上が重文に指定されているそうで、私たちがこれまでに本やその他で見たことがある岩倉具視の数々の写真や文章等が間近で見られるので、幕末明治に関心のある方は必見の場所だと思います。
よくぞ残っていたというような、具視が履いていた崩れかけた下駄等も展示されているのですが、一番印象的なのは、入り口付近にある破れた衣類や刀等です。これは、明治七年に不平士族によって襲われた赤坂喰違事件の際に身につけていたもので、岩倉は重傷を負いながら一命をとりとめた大事件でした。
今でも静かな岩倉の雰囲気と共に、幕末・明治の激動の時代を身近に感じられる歴史ファン必見の史跡としてお勧めです。
|