京都を感じる日々★古今往来Part2・・京都非観光名所案内

京都を感じる日々★古今往来part1・・京都非観光名所案内のニューバージョンです。

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十輪寺

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西京区大原野小塩町にある十輪寺(じゅうりんじ)は、平安時代の六歌仙の一人で、「伊勢物語」の主人公としても知られる在原業平(ありわらのなりひら)が晩年に隠棲した地と伝えられることから、通称「業平寺(なりひらでら)」と呼ばれる観光寺院です。

しかし、阪急バスの小塩停留所の直ぐ前に位置するというアクセスの良さにもかかわらず、意外と訪れる人は少ない気がします。その理由としては、人気の善峯寺が西(約1.5キロ先)にあるために、ほとんどの観光客が十輪寺の前を素通りしてしまうことにあるようです。
また、十輪寺と善峯寺と合わせて訪問したい時も、どちらを先に訪問すべきか悩む人もいるようです。自動車の場合は、両寺共に駐車場があるために問題は無いのですが、路線バスの場合は、本数が少ないこともあって、先に終点の善峯寺に行く方が良いと感じます。そして、バスの本数が少ないので、善峯寺の後は歩いて十輪寺に行くのも良いと思います。
善峯寺からなだらかな坂道(京都府道二〇八号向日善峰線)を徒歩で十輪寺へと下るのは比較的楽ですが、十輪寺から善峯寺へと登るのは坂がなだらかに見える割に足にきます。
十輪寺を後にすると、最後は十輪寺前から、路線バスに乗ることが出来ます・・但し、秋の観光シーズンは、善峯寺の観光客で路線バスは満員状態です。しかし、一人や二人は押し込んで乗ることができるでしょう。本数が少ないので、置いていかれることは少ないと思われます。




さて、十輪寺は、山号を小塩山(おしおやま)という天台宗寺院で、本尊は伝教大師最澄作と伝わる木造延命地蔵菩薩座像です。
寺伝によると、平安時代初期の嘉祥三年(850)、第五十五代・文徳天皇が女御染殿后((そめどののきさき 藤原明子=ふじわらのめいし ふじわらのあきらけいこ)の安産祈願のために、比叡山延暦寺の恵亮(えりょう)和尚を開山に請じて創建し、伝教大師最澄作の延命地蔵菩薩像を安置したことに始まるとされます。そして、その結果、無事に皇子惟仁親王(後の清和天皇)が生まれたことから、後文徳天皇の勅願所となったということです。
その後は、藤原北家(花山院家)の帰依を受け、花山院家一統の菩提寺となり栄えましたが、応仁の乱の兵火によって堂宇は焼失し、江戸時代の寛文年間(1661〜73)に、左大臣藤原定好(ふじわらのさだよし 花山院定好 1599〜1673)によって再興され、三代後の右大臣藤原常雅(ふじわらのときまさ・つねまさ 花山院常雅 1700〜1771)によって堂宇が整備され現在に至ります。


創建当時の本堂は、応仁の乱によって焼失し、現在の本堂は江戸時代の寛延三年(1750)に再建されたものです。
寺の掲示板によると、この本堂は、密教本堂、神社拝殿、禅宗仏堂の三つの様式を混交した珍しい建物で、屋根は鳳輦形(ほうれんがた)という神輿(みこし)を模った珍しい形をしたもので、強い起り(むくり)破風を施しています。内部・天井の彫刻も神社様式と寺院形式が混在した独特の意匠が施されていて、内部彫刻では、沓脱ぎの柱内部正面の丸柱は、鳥居を型どっていて、丸柱上部の獅子は「あ・うん」を舌で表した独特な表情で作られています。
また、正面、四隅、側廻、梁中央部には、木鼻のような獏(ばく)の姿が彫り廻らされていて、梁側面には蓮華様を浮き彫りしています。透かし彫りの絵様蟇股を含め細部のこれらの彫刻は全体的に微妙な連携を保っているということです。また基壇は亀腹(建物の脚部などを固めて饅頭型に造ったもの)、礎石は自然石です。
全体として建築様式の多様さと、珍奇さ、独創性において類を見ないとして、国指定文化財になっています。また、鐘楼は、寛文六年(1666)十月頃の建立で、同じく文化財指定です。(梵鐘「不迷梵鐘(まよわずのかね)」も同年作です)



本堂には、文徳天皇の女御染殿后の安産祈願に霊験があったと伝わる伝教大師最澄作の本尊・延命地蔵菩薩像(腹帯地蔵)や、花山法皇が西国巡礼の際に背負っていたと伝えられる十一面観音菩薩像(草分観音(くさわけかんのん)、禅衣観音(おいずるかんのん))を安置しています。

延命地蔵菩薩座像は、等身大の木造坐像で、その腹部に巻かれた腹帯で染殿后が安産したことから、「腹帯地蔵尊」と呼ばれ、現在も子授けや安産を願う人たちの信仰を集めています。(尚、この地蔵尊は秘仏で、毎年一回八月二十三日が開帳日です。)
また、「草分観音(くさわけかんのん)」と呼ばれる小さな十一面観音菩薩像は、花山法皇が西国三十三番札所を再興した際に、巡礼を通して背負っていた観音菩薩像を十輪寺に納めたとものといわれ、「禅衣観音(おいずるかんのん)」とも呼ばれています。この像は、西国三十三番霊場詣でに向かう者は、最初に詣でなければならない観音菩薩とされ、法皇の手形を模ったという木製御手判も保管されています。

その他寺宝として、菩薩面(年代不詳、明治初期に重要美術品に指定。京都国立博物館寄託)、スリランカ釈迦仏(幸福の釈迦)等があり、江戸時代に描かれた王朝風襖絵は、明治の廃仏毀釈によって失われましたが、大阪在住の黒田正夕(くろだしょうせき)画伯によって三十二面の豪華な襖絵が復元されています。その他、原在勤作の袋戸棚襖絵「業平と二条后の舞」、「小松曳き」等があります。

また、庭園は、寛廷三年(1750)、右大臣藤原常雅(花山院常雅)が本堂を再興した時に作庭されたもので、高廊下と茶室、業平御殿と名づけられた三つの建物に囲まれた庭園です。
庭園の中央には、樹齢約二百年と伝わる枝垂桜、通称「なりひら桜」があり、見る位置によって人に様々な想いを感じさせることから「三方普感の庭(さんぽうふかん)の庭」とも呼ばれています。



さて、十輪寺といえば、平安時代初期の歌人として知られる在原業平(825〜880)ゆかりの史跡として知られます。
業平は、第五十一代・平城天皇の第一皇子・阿保親王の五男で、古くから「伊勢物語」の主人公と同一視されてきました。「伊勢物語」では、主人公の男(業平)と、二条后(にじょうのきさき 藤原高子 ふじわらのたかこ)や伊勢斎宮の恬子内親王(やすいこないしんのう 文徳天皇皇女)との恋物語が描かれていて、在原業平といえば情熱的な生涯を送った男の典型として後世伝説的に語られることになりました。
業平は、晩年にこの十輪寺に隠棲して、塩焼きの風流を楽しんだとも伝えられていて、この地が「小塩」という地名なのは、この故事に由来しているということです。
そして、境内裏山には、在原業平の墓と伝えられる小さな宝篋印塔(業平塔)があります。(尚、左京区の吉田山にある竹中稲荷神社にも、業平の墓とされる業平塚があります)

また、境内奥の高台には、業平が難波(大阪)の海から潮水を運ばせて塩を焼き、その風情を楽しんだという塩窯の跡があります。
直径五メートル程の窪地の中に石積みの窯跡があり、周囲はしめ縄が張り巡らされていますが、業平はかつての恋人だった二条后が近くの藤原氏の氏神・大原野神社(京の春日大社)に参詣した時に、この地で塩を焼いて紫の煙を立ち上らせて昔日の恋を偲びあったといわれています。

塩竃の側にある「業平朝臣塩竃之由来」によると、中世以降に業平信仰が生まれ「陰陽の神、歌舞の神(謡曲杜若より)」として信仰されるようになったことから、塩竃を清めて煙を上げてそれに当って良縁成就、心願成就、芸事上達等を願うようになったということで、今も恋愛結婚成就のご利益があるということです。
この現在の塩竃跡は、地形は原型のままということですが、塩竃自体は故事に因んで数十年前に復元されたものです。また、飛地境内には汐汲池(潮溜池)があります。
さらに、十輪寺と在原業平に因んだ謡曲として「小塩」があります・・都の人々が大原野の小塩の辺りに花見に出かけて、一人の老翁に姿を変えた業平の霊に出会います。老翁は舞を舞ったり、歌を詠じて昔を懐かしんだりした後、夜明けと共に消え去っていくという話です。

十輪寺では、業平を偲んで、毎年、五月二十八日の業平忌(業平は、元慶四年(880)五月二十八日に、五十六歳で死去しました)、十一月二十三日の塩がま清祭(きよめさい)には、三味線に似た三弦を用いた三弦法要が行われます。


最後に、十輪寺の本堂の前には、樹令八百年という大樟樹(おおくのき)があり、本尊が樟で作られているために、その分身として祀られています。伝説によると、地蔵菩薩の神力で一夜にして大樟樹にならしめたというので「願かけ樟」とも呼ばれる神木です。また、その左には「なりひらもみじ」もあり、境内は紅葉隠れた名所でもあります。


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