ちょっと考古学

一介のアマチュアがやっている気軽な考古学です

考古学との出会い

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’71年から72年にかけて、まだ学園紛争の余韻が残り、多くの

学生が政治に関心がありました。考古学の専攻生の中にも平安博物館

事件などもあり、政治的なことと自分が学んでいる考古学とをどのよ

うに結びつければよいのか、というバランスに悩んでいました。黙々

と考古学を学んでいる人もいましたが。

ある時、史的唯物論の学習会を大学の合宿施設で行いました。まだ寒

い時期であったことを覚えています。そこに専攻生のIさんが参加して

来ました。いろいろと論議が進むうちに、寡黙なIさんがおもむろに

口を開いて、「『経哲手稿』によれば、上部構造と・・・」と話し出し

ました。私はあっけにとられて、自分のやっている考古学のことで話し

出すと思っていましたので、あまりにも現実離れした、それも『手稿』

という断片の中のさらに一部を取り上げるので、そのような取り上げ方

は間違いですと思わず言いました。その後、二三の応答がありましたが、

その日の学習会は終わり、みんな眠りました。

そのことがきっかけで、Iさんとはよく話すようになりました。奈良県の

梅林で有名なIさんは、ぬいぐるみの熊さんのような風貌で、おっとりと

した誰からも好かれる人でした。岡本俊郎さんとは、よく行動をともにし

ていました。Iさんの下宿も京山の近くでしたので、何度か下宿に訪ね、

話しをしたものです。私が『吉備』に書いた「保久良」を読んでいて、

「西さんは、高地性集落を追っかけているのですね。」と話しかけてこら

れ、私はあわてて「Iさんは先輩なのですから、西と呼んで下さい。」と

言っても最後まで、さん付けでした。

ある日Iさんの下宿を訪ねると、一生懸命に土器の実測図をトランプ大の

カードに切っています。それで「Iさん、何をしているのですか?」と訊

ねると、暗い顔をしたIさんが「この土器の順番を覚えんと、あかんねん

」と悲壮な顔で言います。そして「西さんはすぐに土器を覚えるけど、僕は

あかんねん」とさらに落ち込んだ表情になります。どう励ましてよいかも

わからず、その日はトランプの土器の各部の特徴を話しながら、別れました。

そのころ私は研究部に行かず、別のことをやれとの指示があり、やむなく授

業が終わって、かなりたってから考古学研究室に行くことが多くなっていました。

廊下の電灯も消え、中ほどの扉を開いた演習室からの明かりが廊下の一部を

明るく照らし出していました。誰かいるので演習室に行き、入りました。

何人かの専攻生とIさんが長机の周りに座って、土器の実測をしています。

入っていくと、Iさんが横に座れと言うので横に座って、実測を見ていました。

すると、すっとK先生が入ってきました。一人一人と話しをしながら、最後に

大きな声で、「これでI君もはれて卒業だね」と少し皮肉の入った口調で言い

ました。Iさんは固まったように何も言わず、ただ黙々と実測をしています。

私も仕方がないので、その手伝いをします。K先生が去った後には、何とも

いえない安堵感、脱力感が漂います。もう8時になろうとしている時間です。

こんな時間まで出てくる先生が文系にいるとは、思いもよりませんでした。

それから数日して、また演習室を訪ねると、相変わらずIさんが実測をして

います。顔を見て安心したのか、Iさんは途端に饒舌になりました。そして

入り口の気配を探りながら、大きな声で「おーい、K、聞いてんのか、何で

こんなことせなあかんねん!」と何度か叫びます。

他の専攻生は笑っていましたが、私はその様子を見て、何か悲しい思いにな

りました。その後、すぐにIさんは故郷の奈良へと帰られました。

当時の学生は、自分がよって立つ基盤をがむしゃらに模索していました。そ

れは、ある信条であったり、マルクスの片言節句であったりなどでした。

自分がよって立つ基盤が、それ以外の離れた世界にあると考えるのは空想

であることに気づかなかったのです。考古学を自分なりに学ぶ中でこそ、

自分があるということを、ともすれば忘れがちでした。

その最たるものが私ですが。

数年前、K先生はIさんを含む何人かの教え子を関西に訪ね、会ったようです。

私も久しぶりに心から好きなIさんに会ってみたいと思うようになっています。


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