アメリカよもやま話

アメリカ研究・アメリカ史に関する話題を、興味のおもむくままに紹介します。

アメリカはどこへ向かっているのか:大統領選考

 大統領選挙の日には、午前中に3年生のセミナーがありました。アメリカについて生で学ぶ機会だからと思い、学生と共にCNNの選挙速報を見ることにしました。AVセンターのある建物に移動して、ラウンジの大型映像を皆で見ました。3年生の学生たちは前回4年前の大統領選時にはまだ高校生で、意識してアメリカ大統領選挙を見るのは今回がはじめてとのこと。私自身も選挙速報をじっくり見るのは久しぶりでした。

 アメリカの大統領選挙は、建国時にアメリカ合衆国憲法が制定されて以来、間接選挙の形をとっています。4年に一度、11月の第一月曜日の次の火曜日におこなわれる一般投票---これが「大統領選挙」と呼ばれています---で、アメリカ国民は大統領選挙人(electoral college)に票を投じます。大統領選挙人は、あらかじめ支持する候補者を明らかにしていますので、選挙人への投票は実質的に大統領候補者への投票を意味します。形式的には、大統領選挙人が12月の第二水曜日の次の月曜日(2016年では12月19日)に投票をおこない、大統領が決まることになります。

 大統領選挙人の数は、各州選出の上下両院の議員総数です。上院議員は、全米50州すべてに2人ずつ割り当てられています。他方、下院議員は、人口に応じた数が各州に割り当てられます。つまり、各州の大統領選挙人数は、おおむねその州の人口を反映しています。どの州にも所属しない首都ワシントン(Washington DC)には3名の選挙人が割り当てられます。

 今回の選挙で、選挙人数が最多であったのはカリフォルニア州で55人、次いでテキサス州が38人。ほかにはニューヨーク州、フロリダ州が 29人、イリノイ州(大都市シカゴがある)、ペンシルヴェニア州(大都市フィラデルフィアがある)が20人、オハイオ州18名など。このあたりが大票田と言われる州です。

 ほとんどの州では、最多の投票数を集めた大統領候補者が、その州の選挙人票をすべて獲得する方式をとっています。(ただし、メイン州とネブラスカ州は、票を分けることがあるので例外です。)「勝者総取り(winer-takes -all)」と呼ばれる方式です。今回は、大統領選挙人の総数が538名でしたので、過半数の270名を獲得した候補者が勝利することになっていました。

 民主党が青、共和党が赤。選挙速報はテンポ良く、地図を使って結果を伝えていきます。地図を使った報道を見ていて、あらためて実感するのは、共和党トランプ氏の支持基盤が、圧倒的にrural area(都市部以外の地域)であることです。開票結果は、各州をさらに細分化した選挙区ごとに色分けされて映し出されますが、大都市を含む地域は民主党が強く、ほとんどが青色です。こうした地域は人口が多いため、開票結果が出るのが比較的遅くなります。逆に言えば、共和党が強い都市部以外の地域は、開票結果も早く出る傾向にあります。その結果、テレビ画面上の地図は、まず赤で塗りつめられていきます。

 同じ傾向は、州単位にも当てはめることができます。大雑把に言えば、北東部と西部の沿岸地域と中西部の五大湖周辺の都市を抱える州が民主党の支持基盤、中西部、南西部、南部(とくに深南部)が共和党の支持基盤と言えます。今回、共和党トランプ氏が勝利した要因は、ペンシルヴェニア、オハイオ、ウィスコンシン、フロリダなど、4年前の選挙で民主党(オバマ大統領)が勝った州を、いずれも僅差ではありますが、制したことにあります。そのため赤と青の面積は少し変化しましたが、沿岸部と中西部の北部が青、中西部、南西部、南部が赤という全体の傾向に変わりはありません。

 さて、選挙戦です。開票の速報を見て、すぐに接戦であることがわかりました。そのこと自体が、驚きでした。というのも、上院議員や国務長官を務めたクリントン氏の政治的な実績は疑いようもなく、他方トランプ氏は大金持ちで成功した実業家ではあっても、政治についてはまったくの素人で、比較の対象にはならず、行政府の長には当然クリントン氏が選ばれるだろうと思っていたからです。ところが、両者が接戦を重ねるさまを見て、そして、あろうことかトランプ氏がその接戦を制していくさまを見て、アメリカ国民の多くは、私が考えたようにはは考なかったことがわかりました。いっしょに選挙速報を見ていた学生たちも、みな同様の感想を抱いたようです。

 選挙結果は、すでにご承知のとおり、獲得した選挙人数で見れば、共和党トランプ氏のまちがいない勝利でした。接戦の末、すべての州の開票結果が出る前に、日本時間の午後5時前、ヒラリー・クリントン候補が敗北を認める声明を出しました。この時刻までには午後の会議も終わっていたので、私は再びCNNの前に戻って、同じ場所に居合わせた何人かの同僚や学生とともに、期せずしてドナルド・トランプ次期大統領の勝利演説を聴くことになりました。

 最初から最後まで、まるで狐につままれたような、信じがたい選挙戦でした。帰宅してアメリカ人の友人---みな、トランプ氏を歯牙にもかけていなかった人たちです---にメイルを送りました。すぐに返信が返ってきて、異口同音に「信じられない」「これからどうなるのか不安」の連発でした。日本でもアメリカでも、私の周りにいる人たちは、誰一人としてトランプ氏を支持していませんでした。それだけに、選挙結果から見えてきたのは、このような私たちは「多数派(majority)」ではないということでした。この事実を厳粛に受け止めなければならないと思います。そして民主主義を前提とした社会では、やはり数が物を言うのだということ。もちろん、こう言ったからといって、民主主義の原理に異議を唱えるつもりはありません。

 それでは、アメリカを制した多数派とは誰なのか。そんな疑問にCNNやニューヨークタイムズ紙がオンライン上で提供してくれる統計の数字をもとに平均像で答えるとすれば、次のようになります。45歳以上の男性、人種で言えば圧倒的に白人。都市部以外の地域に居住し、大学教育を受けておらず、年収は5万ドル以上(5万ドル未満の低所得者は民主党支持の傾向)。既婚者で、キリスト教徒(とりわけプロテスタント)。教会に週一回以上通う敬虔な信徒であることが多い、というあたりは、前回の選挙で話題を集めた「ティー・パーティ(Tea Party)」を彷彿させます。そういえば、ティー・パーティの人たちは、神の意にかなった政治を実現させる目的で、敬虔なキリスト教徒を政界に送るために、必ず投票所に足を運ぶことを旨としていました。今回の接戦も、そうした一票の賜だったのだろうと想像します。(トランプ氏がどの程度敬虔かについては不明ですが。)ともあれ、一票は大切です。

 こうした人々にとって、対抗馬であったクリントン氏がいかにも強い女性、できる女性に映ったことは、トランプ氏にとって有利に働いたと思われます。その意味では、クリントン氏が演説で何度も言及していた「ガラスの天井(glass ceiling)」は、まだ厳然と存在していると言えます。女性の大統領を歴史上ひとりも出してこなかったアメリカは、今回もまたその機会を逸しました。フェミニズムの先進国に見えるアメリカですが、政治のトップに女性がひとりも就いていないと言う点では、ヨーロッパ諸国はもとより、親族重用主義(nepotism)ゆえに女性大統領を輩出してきたアジア諸国にも水をあけられているのは、皮肉です。

 仮にバーニー・サンダース氏がトランプ氏の対抗馬であったら、大統領選の結果は違っていたかもしれません。けれども、そもそもバーニー・サンダース氏のような思想や政策の持ち主が大統領候補にならないのもまたアメリカなのだ、と言えます。

 選挙結果が明らかになった後にも全米各地で「反トランプ」が声高に唱えられるという異例の事態を知るにつれ、大統領選を通じて露わになったアメリカの分断は疑いようがない、という思いをあらたにしました。このような状況のアメリカから何を学び、それをどう学生に伝えていくか、アメリカを研究し、講ずる者として考えさせられています。アメリカは、どこへ向かっているのか、しっかりと見据えていかなければなりません。

 目をアメリカの外に転じれば、今年6月には、イギリスの国民投票でEU離脱票が、僅差で残留票を上回りました。グローバル化の流れに抗うような大衆の意向は、移民の流入に否定的なトランプ氏を支持する人々の指向性とも重なります。現代社会において、この傾向は何を意味するのか、見極めていかなければなりません。

 唯一の救いは、総得票数でクリントン氏がトランプ氏を僅かに上回っていたという、選挙翌日の報道でした。勝者総取り方式の落とし穴と言うべきか。私の周りのアメリカ人と日本人と私自身は、まだ真の少数派ではなかったという、ささやかな安堵をもたらしてくれました。無論、そこに安住してはなりますまい。 


.
かえる
かえる
女性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

コンタクトレンズで遠近両用?
「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」
無料モニター募集中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事