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「墨俣一夜城物語」シナリオ090909
登場人物
竹中半兵衛(24)
安藤 守就(60)
氏家 ト全(55)
稲葉 一徹(58)
木下藤吉郎(27)
蜂須賀伝七(22)
前野 新吾(22)
お手伝い・千草(19)
生駒右太夫(50)
織田 信長(29)
信長奥女中A・B・C
半兵衛の母・楓(45)
1 テロップ
T「『美濃を制する者は天下を制する』
といわれた戦国の世―
永禄八年(1563)、
織田信長は、いよいよ天下取りのため、
美濃攻略を開始した―」
2 北方城・遠望
T「西美濃・北方城」
2A同・城内の一室
西美濃三人衆といわれる男たちが相対している。
北方城主の安藤守就と大垣城主の氏家ト全、
そして曽根城主の稲葉一徹。
安藤が口火を切る。
安藤「バカ殿には愛想がつきた! このままじゃ、美濃の斉藤家は信長に滅ぼ されてしまう。信長が明日にも、美濃へ攻め入って来るというのに」
稲葉「どうされたのじゃ、安藤どの」
安藤「一度は竜興(たつおき)さまに言わねばと思い・・・・まだ若いのに女色ばか りで日を過ごさず、国の行く末について、われらの言葉を聞いてほしいと進 言したのじゃ・・・・」
氏家「いつもの、暖簾に腕押しの答えでござろう」
安藤「まったく困った事に、取り巻き連中の甘い言葉しか耳に入らぬ殿・・・・若 さまじゃなくて、まさにバカさまじゃ」
氏家と稲葉の二人は大きく頷く。
氏家「(稲葉をみて)全く稲葉どのもわしも、同じ気持ちでござる・・・・ところ で、ここだけの話じゃが、信長方から調略の誘いが、内々我らに来ておる」
稲葉「わしにも尾張から使者が来たよ・・・・とりあえず会わなかったが・・・・われ らは道三どのの時代より斎藤家に仕えてきた身・・・・ところで、生前に道三ど のは、信長をえらく気に入っておられたが・・・・」
氏家「だから娘御の帰蝶さまを、信長の嫁にされたのじゃ・・・・」
稲葉「・・・・ところが、次に家督を継いだ竜興さまは、美濃の行く末をとても任 せられる殿ではない・・・・われらは斉藤家代々の重臣・・・・美濃の国が荒らされ るのが困る・・・・われら三人の身の振り方一つで、この地を守る事ができ る・・・・各々方と充分、話し合いをしてからと思ってのう」
安藤「それもあって、きょうは集まって貰ったのだが・・・・」
と膝を進める。
安藤「ところで各々方に、ちと引き会わせたい御仁を、隣りに控えさせておりまするが・・・・」
氏家「?」
稲葉「?」
安藤が隣の部屋に向かって呼びかける。
「半兵衛どの、こちらに入られよ」
ふすまが開くと、竹中半兵衛が一礼する。
氏家・稲葉「おお竹中どのか・・・・」
二人に一礼する半兵衛。
安藤「わしが見込んだ婿殿じゃ。なかなかの知恵者でな。勝手ながら、話し合 いに入って貰いたいと存じてのう」
氏家「知恵者という事は先刻から聞いておるが・・・・」
安藤「ご存知の通り・・・・先年、わずか十七人の手勢で、稲葉山城を占拠した男 じゃ」
3 稲葉山城内(回想)
半兵衛たち、城内の階段を、抜き身を振りかざして、駆け上がる。
迎えた斉藤竜興の部下たち、抜刀しながら後づさりする。
4 北方城・一室
半兵衛は苦渋の顔をしている。
稲葉「しかしわれらが解せぬのは・・・・竹中どのは、あのバカ殿に、折角占拠し た城をすぐ返してしまった事じゃ」
氏家「さらに解せぬのは、なぜか年寄りみたいに、垂井の栗原山に隠居してし まった事じゃ?」
安藤「そ、それは・・・・わしより、今、本人に直接・・・・」
半兵衛、思い口を開く。
半兵衛「・・・・不束ながら私は・・・・もともと体が弱く、あまり大それたことは考 えておりませぬ・・・・」
稲葉「男なら、一国一城の主(あるじ)を夢見るのは、当たり前じゃがのう」
半兵衛「あの時は、竜興どのを諌(いさ)めるために立ち上がっただけです。周 りの取り巻き諸侯を、成敗するのが目的でした」
4A稲葉山城外(回想)
半兵衛たちの一隊、城に目礼している。
半兵衛「われらの行動は、ここまでじゃ」
半兵衛、一隊を促して、山を降りて行く。
4B北方城・一室
半兵衛「もともと、城は竜興どのに返すつもりでした・・・・私は、山に篭ってい る方が性に合いまする」
稲葉・氏家「・・・・(渋い顔で見合す)」
安藤「ハハハ、半兵衛どのは控え目な方でのう・・・婿ながら、わしにも未だ に、解りかねる御仁でござる。ハハハ」
と苦笑する。
稲葉「それじゃ困る!」
安藤「・・・・」
稲葉「それじゃ、折角一枚加わって貰ってもセンカタないではないか・・・・それ じゃ、信長からの調略の話に、巻き込まれて仕舞うだけではないか。のう、 氏家どの」
稲葉と氏家、顔を見合せて頷き合う。
安藤、苦渋の顔で半兵衛を見る。
半兵衛、顔を伏せている。
5 垂井栗原山・遠景
5Aそのふもと・半兵衛の寓居
その一室。
半兵衛、書物を読んでいる。
身内の子女・千草(19歳)が、お茶を持って入って来る。
千草「(茶を出しながら)少しお話していいですか?」
半兵衛「・・・・うむ」
千草「(勝気な口調で)殿は、大人し過ぎます」
半兵衛「・・・・大人しい男は嫌いか」
千草「この戦乱の世では、頼りになりませぬ」
半兵衛「そうか・・・・わしは、斬り合いで血を見るのを好かないのだ・・・・わしの 父・重元は、戦さの好きな無骨者で一生を送った男でな・・・・わしは、その父 に仕えた母御が可哀相でたまらぬ・・・・母御は父の死後・・・・あろうことか、自 分の喉に刀を・・・・」
6 回想
半兵衛の母・楓、自刃する。
鮮血にまみれる。
7 栗原山・寓居
半兵衛「できたらわしは、菩提を弔う生活をしたい」
千草「あなたは竹中家の頭領です。弟君の久作どのに家督を任せて隠居するな んて・・・・身内の私さえ、納得できませぬ」
半兵衛「わしは戦乱の世が、早く終わればいいと思っている」
千草「私も女です。戦さは嫌いです・・・・しかし、殿は知恵者と言われていま す・・・・それこそ知恵でもって、早く戦さの無い世にして下さい」
半兵衛「(少したじろぐ)そちは・・・・何やら、わしの母に似てるのう」
8 同・前庭
三人の男が現れる。
木下藤吉郎(24歳)と、お供の蜂須賀村の伝七(22歳)と前野村の 新吾(22歳)。
伝七と新六、藤吉郎を案内している。
伝七「木下どの、入り口はこちらです」
9 同・一室
半兵衛の前に、藤吉郎、伝七、新吾がいる。
藤吉郎がペコリと頭を下げ、口火を切る。
藤吉郎「木下藤吉郎でござりゃーす。いきなり来て、申し訳にゃ〜。わしが仕 えている信長さまがのう・・・貴公ほどの人物は、尾張や美濃には居(お)らん と、大そう褒めておられる・・・・(ズケッと)ところで、今日の要件じゃ が・・・・信長さまが軍師になってほしい・・・・との、ジキジキのご沙汰でござ る」
と、深々と一礼する。
半兵衛、それを手で制して、
半兵衛「お待ちください・・・・いきなり、そう言われても・・・・私は体が弱いの で、ここで養生している身でして・・・・」
藤吉郎「しかし、貴公はまだまだお若いし、だれもが認める才覚をお持ちじ ゃ」
半兵衛「い、いや・・・・私は戦さには向いておりませぬ・・・・信長さまは気性の激 しいお方と聞いております。とても私などにはテキパキと応じることができ ませぬ」
藤吉郎「ハハハ、そのようにハッキリとものを言うところが、返って信長さま が気に入ると思うがのう・・・・ま、半兵衛殿、今日の所は帰るが・・・・まあ〜い っぺん、考えてくだされ(と立ち上がって)ご無礼いたした。また来るでよ う〜」
藤吉郎、後に控える伝七と新六を促して、出て行く。
10同・寓居の前庭(数日後)
伝七と新吾、前庭に現れる。
千草の姿が入り口の所に見える。
新吾「伝七、早く・・・・(辺りを見回す)」
伝七「(千草を見ながら)新吾、お前(めえ)の目当ては、あの娘(こ)にあるん じゃねえのきゃ〜?」
新吾「バカこけ!」
千草が二人に気づいて、招き入れるが、その表情は二人の視線を無視して いる。
11同・一室
半兵衛の前に伝七と新吾。
伝七、話を切り出す。
伝七「半兵衛どの・・・・信長さまは日の出の勢いです・・・・わしら蜂須賀の郎党 は、小六さまを頭に、藤吉郎さまに組することになりました。美濃は風前の 灯し火です・・・・藤吉郎さまも、きょうはわしらを寄越したが、熱心に竹中ど のを軍師に乞われておられる・・・・考え直されてはいかがですか?」
半兵衛「この前にも言ったが、わしは信長どのには従うつもりはない。もう人 殺しを繰返しても、世の中は良くならない・・・・」
12稲葉山城内(回想)
半兵衛、竜興の部下を一刀の下に斬り捨てる。
返り血を浴びる半兵衛の顔。
半兵衛「殿を甘やかす輩(やから)が多いと、国が滅んでしまうぞ〜!」
13半兵衛の寓居
半兵衛、宙を見つめてつぶやく。
半兵衛「・・・・あの時はわしも若かった」
新吾、何かを感じたのか、ひざを進める。
新吾「私も、むやみに人殺しをするのは、厭です」
半兵衛「・・・・(目を伏せる)」
伝七、新吾の袖を引っ張って、
「新吾、何言っていりゃ〜す! そんなこと言うてたら、この戦国の世は渡っ ていけんぞ!」
半兵衛「(手で制して)わしは、もう隠居の身になっ
たのでな・・・・失敬する・・・・」
と立ち上がって、奥へ去る。
新吾、半兵衛の姿をジッと見つめている。
伝七、ヤレヤレと肩を落とす。
14藤吉郎の館
新吾と伝七を前にして、藤吉郎が猿面を歪
める。
藤吉郎「半兵衛が断った? やっぱ、お前(めえ)ら若造じゃ、ラチがあかんに ゃ〜」
藤吉郎腕組みして、セカセカと歩きまわる。(つづく)
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