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グリーンランドで滅亡したノルウェー人社会のことです。
(どろの日記さんのブログ転載)
とてもいい話と思いましたので、そっくり転載します。
◇ ◇ ◇
西暦984年にグリーンランドに入植したノルウェー人は、15世紀のある時期に滅亡しました。
土地の肥えた北欧式の牧畜・農業を地力のないグリーンランドで行ったため、環境を破壊してしまい、食糧不足に陥ったのが大きな原因です。
しかしそれだけではありません。
彼らの驚くべき保守性と差別性、そして暴力性が自らを滅ぼしたとも言えるのです。
彼らの最後は餓死でした。
暴力的争乱による社会秩序の破壊と、その結果もたらされた生産の途絶によるものです。
当時グリーンランドには二つの社会勢力がすんでいました。
ノルウェー人と、イヌイット人です。
イヌイット人は西暦1200年代のいつか、グリーンランドに入植したと思われます。
彼らはたちまちその地に適応した新しい生産様式を産みだし、ノルウェー人を飢餓に陥らせたのと同じ土地と気候条件の下で、充分に食料を得て繁栄しました。
ふたつの社会を簡単に比較してみましょう。
◇ ◇ ◇
ノルウェー人はあたたかな住居を建てるのに大量の木材を必要としました。木材を切り尽くすにつれて、彼らの住居は実にみすぼらしいものに退化しています。
イヌイット人は雪を材料にしたイグルーと呼ばれるドーム状の簡便な保温性の良い家を、同じ極北の民族ドーセット人からすぐに学んだので木材は不要でした。
ノルウェー人は暖房と照明用にも樹木を必要としました。
イヌイットはクジラとアザラシの獣脂を燃料や照明に用いました。
ノルウェー人は船にも木材を用いました。これは冷たくて凍った北洋では重くてもろい代物でした。
イヌイットは骨組みにアザラシの皮をはった小型のカヤックや、クジラ漁につかう大型のウミアクを開発しました。軽量で扱いやすく、防水性に優れています。
ノルウェー人は狩りに弓矢とナイフを用いましたが、デザインは北欧風です。
イヌイット人はアザラシ用や鳥用に開発した特殊なモリや矢じりを用い、効率的に食料を確保できました。またノルウェー人やドーセット人にできなかったクジラ漁とワモンアザラシ漁に成功しています。
ノルウェー人が書いた記録によれば、彼らが最初にイヌイット人に出会ったときの態度は単純でした。出会った者は殺す。そのためイヌイットから有益な情報を友好的に伝授してもらう道を自ら閉ざしてしまいました。
イヌイット人はドーセット人から学んでいるのを見ても分かるように、外来文化に好意的でした。
ノルウェー人は鉄文明の子どもでした。鉄があってこそ建築も武器も装飾品もすぐれたものが作れるのですが、小氷河期の影響で北海が凍ってヨーロッパとの連絡が長期に渡って絶たれると、鉄を失いました。その結果、イヌイットとの戦闘が徐々に不利になり、最後の頃にはイヌイット地域に漁に出た男達が、骨の武器しか持たないイヌイットに逆に全滅させられるという事態に見舞われています。
◇ ◇ ◇
ノルウェー人の最後は悲惨だったようです。
社会が資源を失って貧しくなるにつれて、社会秩序を維持するために厳しい階級社会に変貌していきました。
資源のほとんどを独占する領主階級と、ほとんど何も持たず、それ故に領主に隷属するしか生きる手段のない市民階級です。
秩序を維持するために苛烈な暴力支配が行われていました。
けれどもある年、例年にもまして厳しい気候に見まわれ、農産物は実らず、狩りもできず、翌年の春にはすべての食料を食べ尽くしてしまいました。
飢えた市民は領主の牧場に襲いかかり、備蓄食糧を奪って食べました。
無秩序が支配し、もう統制が効きません。
寒冷で貧しい社会が存続できたのは、厳しい統制とシェアのおかげです。
暴力的な統制と、我慢を強制するシェアのシステムが壊れると、あとは奪い合いしかありません。
誰もが自分だけは助かろうとして相歯向かったあげく、誰も助からなかったのです。
遺跡からはネズミの骨や、貴重な家畜の食べガラが見つかっています。
一匹のネズミを奪いあい、先のこともかまわず家畜を殺して、かかとまで食べ尽くしたのでした。
トイレ遺跡から発見された蛆虫は、すべて寒冷に適した種類のものだったそうです。
これは暖房を失ったことを示しています。
数百年かけて燃料となる木材を失ったノルウェー人は、最後には暖房もとれずに寒くてみすぼらしい芝土葺きの小屋で、凍えながら全員が飢えて死んでいったのです。
イヌイット人に過剰な敵愾心を抱かず、協力関係を築けていれば、ノルウェー人は生き残れたかも知れません。
しかし現実には共存を拒んだあげく、自らの生きる道を閉ざしてしまったのでした。
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さてここから私たちが教訓に出来ることは数多くあります。
環境破壊・経済の衰退・格差社会・異民族差別・暴力・好戦性・保守性・・・これらが複合して社会を衰退させていったグリーンランドのノルウェー人社会に、現代日本をなぞらえるのはあまりに事柄を単純にしすぎるのかもしれません。
しかし本質をつかむには単純化はよい手法です。
私たちはここからどんな教訓を導けばよいのでしょうかねえ。
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