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「墨俣一夜城物語」(その三)

21墨俣城・築城
人夫たちの中で指揮している藤吉郎。
藤吉郎、棟梁に向かって、自慢そうに言う。
藤吉郎「一に資材、二に戦闘じゃ!」
棟梁「?」
藤吉郎「三に築城。城はアトでいいんじゃ・・・・城は
ハリボテでかまわん。紙でいいから造れ!」
棟梁「?(さっぱりわからない)」
藤吉郎「恰好だけ造って、川向こうにおる敵の眼を、騙(だ)ましゃあいいんじゃ!」
棟梁「へ、へい!(やっと納得)」
材木を肩に運ぶ人足たち。
その築城の様子をフラッシュ映像で描く。
また、美濃・斎藤家との戦いが、フラッシ
ュ映像でインサートされる。
   駆け回る騎馬・雑兵。

22墨俣城
工事のさなか、信長が来る。
いっせいに道を開ける、人夫たち。
伝七と新吾たち、平伏する。
信長「者ども、三日で城をつくるんじゃ! たわけ! さっさと取りかかれい!」
    藤吉郎、叱咤する。
藤吉郎「城は形だけじゃ! 窓は絵で描きゃあええ!敵をだますだけじゃ!」

22A同・休憩所
千草が飯炊きの手伝いに来ている。
伝七がそれを見つける。
伝七「おお! 千草どの・・・・よう来られたのう」
   と千草に近づく。
千草「半兵衛さまに言われて手伝いに来たの。あん
たたちとは関係ないわ」
伝七「まあ、そう言うなよ」
伝七、千草にさらに近づこうとする。
信長、その伝七の姿を見つける。
伝七「なあ、知らない仲じゃないんだから」
   信長、職場を離れて、女にうつつを抜かしていると見て、伝七の所へつかつかと来る。
   伝七、千草の肩を触ろうとする。
信長「!・・・・」
一刀のもとに、伝七を斬ってしまう。
   血だらけの伝七の首、ドサッと地面に落ちる。
   新吾、駆け付け、伝七の首を見つめる。
信長「者ども、さっさと働け!」
と、さっさと背を向けて行ってしまう。
新吾「!・・・(信長を睨みつける)」

23栗原山・半兵衛の家
    新吾、半兵衛に話す。
新吾「私は、もう厭になりました。信長さまは鬼じゃ」
半兵衛「信長さまより藤吉郎さまの方が上じゃ」
新吾「ええっ?」
半兵衛「私は、藤吉郎の下なら、従おうと思っている」
新吾「ハア?(けげんな顔をする」
半兵衛「岐阜城攻略に・・・そちも・・・・わしについてきて、手伝って貰おうと思っているんだが・・・」
新吾「わ、わたしですか?」
   新吾、よく飲み込めない。
半兵衛「いやかな?」
新吾「・・・・いや・・・・(うつむく)」

24岐阜城
藤吉郎軍、岐阜城を攻め上げる。
新吾、藤吉郎軍について、参加している。
藤吉郎、采配を振って、
藤吉郎「沢から裏山の崖を登れ」
ひょうたんの馬印を持った兵卒が走る。
新吾、その後を走る。
    
25敵の射手、その馬印を狙って撃つ。

25A藤吉郎軍
兵卒、敵の弾に当たって、すっ飛んで死ぬ。
新吾、馬印を拾って走る。

26敵の射手、その新吾を狙って撃つ。

26A藤吉郎軍
銃声!!
新吾「!!」
新吾、敵の弾に当たって、すっ飛んで死ぬ。
藤吉郎、駈け寄り、新吾に目もくれず、馬印を拾い上げる。
藤吉郎「今の弾は、前の敵からか、後の方角からか!」
    藤吉郎、その馬印を持って走る。
 
27栗原山・半兵衛の家(室内)
稲葉が一人でやってくる。
稲葉「稲葉山は、あっけなく陥落しましたなあ」
半兵衛「・・・・・・」
   半兵衛、自然薯をこねている。
稲葉「わしら三人衆は信長どのに従うことにしたぞ・・・ついては、稲葉山の信長さまの所に、半兵衛どのも拝謁にご同行したいのじゃが・・・」
   半兵衛、自然薯をこねていたが、
半兵衛「これが美味い。一徹どの、食(しょく)されまするか」
稲葉「いただこう。半兵衛どの、この世をこのように上手に、こねて見るのも面白いではないか」
半兵衛「・・・・若者を戦いに出したが・・・・惜しいことに撃たれて、命を落としました・・・・」
半兵衛、自然薯をご飯にかけて、稲葉にさし
だす。
稲葉「(ご飯を食べながら)どうじゃ、稲葉山に一緒に?」
半兵衛「(それには答えず)・・・・この地は、滋養がいいものが沢山とれまする」
    と、自分もごはんを食べる。

28岐阜城
    天守閣で信長が眼下を見ている。
    後ろに、一徹たち(三人衆)が控えている。
    半兵衛も隅に控えている。
信長「半兵衛、きさま、来ないと思っていたぞ。どうだ、この見下ろした美濃が全部わしのものじゃ」
半兵衛「美濃は小さいと思います・・・・・・」
信長「なにい〜!」
半兵衛「お屋方さまの前には、広い日本がありまする」
信長「きさま、わしの元で天下をとらないか」
半兵衛「信長さまの下では荷が重過ぎます。藤吉郎さまの下でなら、私も自信があります」
信長「勝手な奴じゃな・・・おれの下ならいやか!」
半兵衛「いいえ、そういう意味ではございますぬ。わたしは北近江のお寺に住もうと思っています」
信長「訳のわからんな奴じゃ。勝手にせい!」
と部屋を出ようとする。
あわてる藤吉郎たちの郎党。
    藤吉郎が信長を追いかける。
藤吉郎「半兵衛め、ご無礼な奴・・・私が始末しまする」
    信長、ジロッと藤吉郎を見て、
信長「たわけめ!」
    と、部屋を出て行ってしまう。

29栗原山・半兵衛の家
半兵衛が帰ってくる。
迎える千草。
半兵衛「千草、わしは旅にでるぞ」
千草「?」

30岐阜城・天守閣
信長が天守閣から眼下をみている。
藤吉郎が控えている。
信長「あやつ・・・・半兵衛は、なにを考えているか・・・」
藤吉郎「わたしに始末をおまかせくだされ」
信長「たわけ! 猿! あやつを軍師にしろ。おまえの下でもいい。お前に任せる。できなかったら、猿、おまえから始末するぞ」
藤吉郎「ヘ、ヘエ〜ッ!!(床にはいつくばる)」

31峠
半兵衛、峠を越える。
半兵衛、杖をついて歩いている。
   千草がついてくる。
半兵衛「わしに付いて来てもだめだ」
千草「半兵衛さまの体が心配です」
半兵衛「・・・・わしは、藤吉郎さまに付くことに決めたが・・・・とりあえず、近江へ行く。信長さまは近江を近々攻めるはずじゃ。わしは先に行って、近江の様子をさぐる・・・・藤吉郎さまは、すぐ迎えにくるだろう」

32藤吉郎の館
    藤吉郎、立ちあがる。
藤吉郎「(部下に)半兵衛の所へ行くぞ。あやつ、わけが分からん奴だからにゃ〜」
    と、虚空を睨みつける。

33峠
    半兵衛と千草。
半兵衛「しかし、藤吉郎どのが迎えに来ても・・・・わしは病いのため、あまり長くはお仕えできんと思う・・・・」
千草「だったら静かに養生されたら・・・・」
半兵衛「それが、美濃でぐずぐずして居(お)れんのだ・・・・信長さまは、次は近江を攻める」
千草「・・・・・」
半兵衛「(峠から見渡して)・・・・しかし、わしの考え方は、民百姓が安心して生活できる国にしたい・・・・それには、力の争いを止め、敵の存在をも認める政治をする事・・・・それができそうなのは、藤吉郎どのしかいない・・・・信長さまは、あまりにも事を急ぎすぎ、民の命をも犯しすぎる・・・・今に大きく転ぶと思う」
千草「半兵衛さまの考えには、私はついていけませぬ」
    半兵衛、峠に立って下界を見降ろす。
鳥が天空を悠々と飛んでいる。
半兵衛、杖で鳥を指して、
半兵衛「わしの思いは『千年おおとり』じゃ。空から大地を見ていたい。ハハハ・・・・わしの考えていることは・・・・やがては天下に実現できる・・・・実現させるのは、わしでなくて、別の人間でも、一向にかまわぬ」
千草、首を振る。
千草「わたしには、さっぱりわかりませぬ」
半兵衛「そちもわしに構っていると嫁にいけぬぞ」
千草「半兵衛さまは・・・・私がいないと、何もできないくせに・・・」
    半兵衛、手にした杖を振って、
半兵衛「勝手にせい」
    と歩き出す。
    千草、ついて行く。
千草「お許しがでたのですね」
半兵衛「勝手にせい」
    千草、にっこり笑う。
    半兵衛、スタスタ背を見せて歩いて行く。
    千草、嬉しそうに後に従う。
    二人、峠を越えていく。
                    (終)

「墨俣一夜城物語」(その二)

15書状のアップ
「千年おおとり」の花押。

15A藤吉郎の館(数日後)
藤吉郎、その花押を指さしている。
藤吉郎、前にいる右筆(代書人)に書状の花押を指さしながら、
藤吉郎「この通りに、花押を書きゃ〜せ」
右筆「こ、これは・・・・千年おおとり・・・・竹中半兵衛どのの花押ではございませんか?・・・・」
藤吉郎「あの仁は・・・・掴(つか)みようがない男じゃ・・・・
さ、さ、かまわん・・・・わしの言う通りに書きゃ〜せ」
   藤吉郎、書状を振り回す。

16半兵衛の手紙
   フラッシュ。
安藤、氏家、稲葉に、飛脚便が走る。
その映像に、半兵衛の顔と手紙がWる。
半兵衛の声。
N「其(そこ)元(もと)、木下どのより話を聞き及び、木下どのの勧めに従う事、やぶさかには存じ申さず候・・・・美濃・斎藤家の滅亡の事、程遠き事に有り申さず候・・・・早急(さっきゅう)に内々にお話したき儀あり・・・・江南の生駒屋敷まで御足労願い度く、よろしくお願い申し上げ候・・・・」
   藤吉郎の顔がWる。
N「その上、木下どのの方法等御覧頂ければ幸甚に存じ奉り候」
という文面が声とともに流れる。

17江南の生駒屋敷・門
安藤、氏家、稲葉の三人の駕籠が到着する。
生駒右太夫が門の前で、招きいれる。
稲葉たち三人、顔を合わせ、半兵衛の手紙を見せ合う。
稲葉「わしらは半兵衛どのの手紙を見て、やってきたのじゃが・・・」
   そこへ藤吉郎が出てくる。
藤吉郎に、安藤が詰め寄る。
安藤「半兵衛はまだ来ないのか?」
藤吉郎「ヘヘヘ・・・・じつは急に信長さまから使いがきて、半兵衛どのは先に清洲へ向かわゃ〜した・・・・御三人も後から清洲へどうぞって、ゆうてござりゃ〜した」

18信長の居城
藤吉郎の案内で、三人、拝謁する。
稲葉、不審な顔で、藤吉郎に聞く。
稲葉「半兵衛どのは?」
藤吉郎「今探しておりや〜す。ささ、信長さまにご拝謁を」
安藤「われら三人だけでござるか?」
藤吉郎「ささ、信長さまがお待ちでござりゃ〜す」
   三人、しかたなく信長の居室に拝謁するため入っていく。

18A信長の居室
   上機嫌の信長。
信長「よく来られた。半兵衛も大事だが、三人衆が本命である。ささ、お楽になされい・・・多少の馳走を用意させましたぞ」
   きれいなお女中たちが、膳を運んでくる。
   三人衆、観念したように、平伏する。
信長「ハハハ、そこもと達は先が読める方々とわしは思っていたぞ。ささ、清須の料理も美味でござる。各々方、ゆるりとされるがいい」

19同・一室
   数日後。
   信長と藤吉郎。
信長「美濃攻めには、墨俣に砦がどうしても要るのじゃ。サル、だれか任せる奴がいないか?」
藤吉郎「わたしめにお任せ下され」
信長「なに? きさま足軽頭の分際で? なにか策でもあるのか?」
藤吉郎「ごぜえます」
信長「言ってみろ」
藤吉郎「言うたら、任せて下されますか?」
信長「三日で作ることができるか!」
藤吉郎「任せて下されますね」
信長「くどい! 出来るのか、出来ないのか?」
藤吉郎「で、で、出来まする」
   と床に頭をこすりつける。

19栗原山
   藤吉郎は、稲葉一徹と一緒に、半兵衛の寓居を再訪する。
伝七と新吾、お供についている。
藤吉郎「先般はご無礼いたした・・・・半兵衛どのに無断で策を弄して・・・・」
半兵衛「私は何とも思っておりませぬ・・・・藤吉郎どのの策略にはとても及びませぬ」
稲葉「わしらは、単純だからのう。一杯食わされたよ」
藤吉郎「ハハハ、言や〜すな、言や〜すな、そんなに褒められちゃ、わしは困ってしまうでよ〜」
 藤吉郎、急に真顔になって、城の図面を広げる。
藤吉郎「ところで・・・・墨俣に城を築くには、一に資材、二に築城、三に戦さと、わしゃ〜思うんじゃが」
半兵衛「さすが、藤吉郎さま。眼の付け所が違いますな」
稲葉「そういうもんかな・・・・わしは命じられたら、あと先考えずに、城を作るだけで精一杯になってしまうんじゃが・・・・」
藤吉郎「(上目使いに)いや・・・半兵衛どのは、わしとは違う案を持ってとるらしいにゃ〜?」
    藤吉郎の眼がキラリと光る。
    半兵衛、藤吉郎を見つめる。
半兵衛の声「この男についていった方がいいか・・・・この男ならば、自分の意見を取り入れる料簡をもっている」
    半兵衛が藤吉郎に言う。
半兵衛「さすが、藤吉郎どのには、ウソはつけないですね」
藤吉郎「(ジロリと見て)その別の意見とはなんじゃい?」
半兵衛「・・・・(黙って立ちあがる)」
稲葉「ハハハ。半兵衛どのの考えは、この稲葉一徹の頑固頭では、さっぱりわからぬわ!」
    半兵衛、古文書を出してくる。
    半兵衛、静かに語り出す。
半兵衛「孫子曰く・・・・凡そ兵を用うるの法」
    神妙な顔でそれを聞く藤吉郎と稲葉。
半兵衛「・・・・戦さを巧みに行う者は、敵の謀りごとを防ぎ、未然に屈服させるが上策である」
    藤吉郎、身を乗り出す。
半兵衛「兵を挙げて戦う事は、味方も損傷して下策である・・・・敵の国を破るが、長い戦いはしない・・・・従ってわが軍は破れる事がなく、得るところの利は完全である・・・・これが計略を持って敵を攻める時の法則である・・・・」
稲葉「さすが知恵者!・・・・わしらの軍師じゃ、ハハハハ」
半兵衛「一に資材、二に築城、三に戦闘と藤吉郎ど
のは言われたが、築城は目的にあらず」
藤吉郎「!(目をむく)」
半兵衛「・・・・目的は敵との戦闘に勝つことである・・・・ゆえに、一に資材、二に戦闘、三に築城・・・・築城は形だけ見せて、本物は後々(あとあと)の事でいい」
    半兵衛、城の図面を押しやる。
    藤吉郎、立ちあがって、
藤吉郎「わかった!わかった! 一に資材、二に戦闘じゃ! 伝六、新吾! 蜂須賀小六に、心強い軍師が見つかったと、すぐ伝えろ!」
    伝七、新吾、平伏する。

20道
伝七と新吾、伝令として走る。

「墨俣一夜城物語」シナリオ090909

登場人物
竹中半兵衛(24)
安藤 守就(60)
氏家 ト全(55)
稲葉 一徹(58)
木下藤吉郎(27)
蜂須賀伝七(22)
前野 新吾(22)
お手伝い・千草(19)
生駒右太夫(50)
織田 信長(29)
信長奥女中A・B・C
半兵衛の母・楓(45)
 
1 テロップ
T「『美濃を制する者は天下を制する』
 といわれた戦国の世―
 永禄八年(1563)、
 織田信長は、いよいよ天下取りのため、
 美濃攻略を開始した―」

2 北方城・遠望
 T「西美濃・北方城」

2A同・城内の一室
   西美濃三人衆といわれる男たちが相対している。
 北方城主の安藤守就と大垣城主の氏家ト全、
 そして曽根城主の稲葉一徹。
 安藤が口火を切る。
安藤「バカ殿には愛想がつきた! このままじゃ、美濃の斉藤家は信長に滅ぼ されてしまう。信長が明日にも、美濃へ攻め入って来るというのに」
稲葉「どうされたのじゃ、安藤どの」
安藤「一度は竜興(たつおき)さまに言わねばと思い・・・・まだ若いのに女色ばか りで日を過ごさず、国の行く末について、われらの言葉を聞いてほしいと進 言したのじゃ・・・・」
氏家「いつもの、暖簾に腕押しの答えでござろう」
安藤「まったく困った事に、取り巻き連中の甘い言葉しか耳に入らぬ殿・・・・若 さまじゃなくて、まさにバカさまじゃ」
氏家と稲葉の二人は大きく頷く。
氏家「(稲葉をみて)全く稲葉どのもわしも、同じ気持ちでござる・・・・ところ で、ここだけの話じゃが、信長方から調略の誘いが、内々我らに来ておる」
稲葉「わしにも尾張から使者が来たよ・・・・とりあえず会わなかったが・・・・われ らは道三どのの時代より斎藤家に仕えてきた身・・・・ところで、生前に道三ど のは、信長をえらく気に入っておられたが・・・・」
氏家「だから娘御の帰蝶さまを、信長の嫁にされたのじゃ・・・・」
稲葉「・・・・ところが、次に家督を継いだ竜興さまは、美濃の行く末をとても任 せられる殿ではない・・・・われらは斉藤家代々の重臣・・・・美濃の国が荒らされ るのが困る・・・・われら三人の身の振り方一つで、この地を守る事ができ   る・・・・各々方と充分、話し合いをしてからと思ってのう」
安藤「それもあって、きょうは集まって貰ったのだが・・・・」
   と膝を進める。
安藤「ところで各々方に、ちと引き会わせたい御仁を、隣りに控えさせておりまするが・・・・」
氏家「?」
稲葉「?」
 安藤が隣の部屋に向かって呼びかける。
「半兵衛どの、こちらに入られよ」
 ふすまが開くと、竹中半兵衛が一礼する。
氏家・稲葉「おお竹中どのか・・・・」
    二人に一礼する半兵衛。
安藤「わしが見込んだ婿殿じゃ。なかなかの知恵者でな。勝手ながら、話し合 いに入って貰いたいと存じてのう」
氏家「知恵者という事は先刻から聞いておるが・・・・」
安藤「ご存知の通り・・・・先年、わずか十七人の手勢で、稲葉山城を占拠した男 じゃ」

3 稲葉山城内(回想)
   半兵衛たち、城内の階段を、抜き身を振りかざして、駆け上がる。
   迎えた斉藤竜興の部下たち、抜刀しながら後づさりする。

4 北方城・一室
   半兵衛は苦渋の顔をしている。
稲葉「しかしわれらが解せぬのは・・・・竹中どのは、あのバカ殿に、折角占拠し た城をすぐ返してしまった事じゃ」
氏家「さらに解せぬのは、なぜか年寄りみたいに、垂井の栗原山に隠居してし まった事じゃ?」
安藤「そ、それは・・・・わしより、今、本人に直接・・・・」  
   半兵衛、思い口を開く。
半兵衛「・・・・不束ながら私は・・・・もともと体が弱く、あまり大それたことは考 えておりませぬ・・・・」
稲葉「男なら、一国一城の主(あるじ)を夢見るのは、当たり前じゃがのう」
半兵衛「あの時は、竜興どのを諌(いさ)めるために立ち上がっただけです。周 りの取り巻き諸侯を、成敗するのが目的でした」

4A稲葉山城外(回想)
    半兵衛たちの一隊、城に目礼している。
半兵衛「われらの行動は、ここまでじゃ」
    半兵衛、一隊を促して、山を降りて行く。

4B北方城・一室
半兵衛「もともと、城は竜興どのに返すつもりでした・・・・私は、山に篭ってい る方が性に合いまする」
稲葉・氏家「・・・・(渋い顔で見合す)」
安藤「ハハハ、半兵衛どのは控え目な方でのう・・・婿ながら、わしにも未だ  に、解りかねる御仁でござる。ハハハ」
   と苦笑する。
稲葉「それじゃ困る!」
安藤「・・・・」
稲葉「それじゃ、折角一枚加わって貰ってもセンカタないではないか・・・・それ じゃ、信長からの調略の話に、巻き込まれて仕舞うだけではないか。のう、 氏家どの」
  稲葉と氏家、顔を見合せて頷き合う。
  安藤、苦渋の顔で半兵衛を見る。
  半兵衛、顔を伏せている。

5 垂井栗原山・遠景

5Aそのふもと・半兵衛の寓居
   その一室。
   半兵衛、書物を読んでいる。
   身内の子女・千草(19歳)が、お茶を持って入って来る。
千草「(茶を出しながら)少しお話していいですか?」
半兵衛「・・・・うむ」
千草「(勝気な口調で)殿は、大人し過ぎます」
半兵衛「・・・・大人しい男は嫌いか」
千草「この戦乱の世では、頼りになりませぬ」
半兵衛「そうか・・・・わしは、斬り合いで血を見るのを好かないのだ・・・・わしの 父・重元は、戦さの好きな無骨者で一生を送った男でな・・・・わしは、その父 に仕えた母御が可哀相でたまらぬ・・・・母御は父の死後・・・・あろうことか、自 分の喉に刀を・・・・」

6 回想
 半兵衛の母・楓、自刃する。
 鮮血にまみれる。

7 栗原山・寓居
半兵衛「できたらわしは、菩提を弔う生活をしたい」
千草「あなたは竹中家の頭領です。弟君の久作どのに家督を任せて隠居するな んて・・・・身内の私さえ、納得できませぬ」
半兵衛「わしは戦乱の世が、早く終わればいいと思っている」
千草「私も女です。戦さは嫌いです・・・・しかし、殿は知恵者と言われていま  す・・・・それこそ知恵でもって、早く戦さの無い世にして下さい」
半兵衛「(少したじろぐ)そちは・・・・何やら、わしの母に似てるのう」

8 同・前庭
   三人の男が現れる。
   木下藤吉郎(24歳)と、お供の蜂須賀村の伝七(22歳)と前野村の   新吾(22歳)。
   伝七と新六、藤吉郎を案内している。
伝七「木下どの、入り口はこちらです」

9 同・一室
   半兵衛の前に、藤吉郎、伝七、新吾がいる。
   藤吉郎がペコリと頭を下げ、口火を切る。
藤吉郎「木下藤吉郎でござりゃーす。いきなり来て、申し訳にゃ〜。わしが仕 えている信長さまがのう・・・貴公ほどの人物は、尾張や美濃には居(お)らん と、大そう褒めておられる・・・・(ズケッと)ところで、今日の要件じゃ   が・・・・信長さまが軍師になってほしい・・・・との、ジキジキのご沙汰でござ  る」
   と、深々と一礼する。
   半兵衛、それを手で制して、
半兵衛「お待ちください・・・・いきなり、そう言われても・・・・私は体が弱いの  で、ここで養生している身でして・・・・」
藤吉郎「しかし、貴公はまだまだお若いし、だれもが認める才覚をお持ちじ  ゃ」
半兵衛「い、いや・・・・私は戦さには向いておりませぬ・・・・信長さまは気性の激 しいお方と聞いております。とても私などにはテキパキと応じることができ ませぬ」
藤吉郎「ハハハ、そのようにハッキリとものを言うところが、返って信長さま が気に入ると思うがのう・・・・ま、半兵衛殿、今日の所は帰るが・・・・まあ〜い っぺん、考えてくだされ(と立ち上がって)ご無礼いたした。また来るでよ う〜」
  藤吉郎、後に控える伝七と新六を促して、出て行く。

10同・寓居の前庭(数日後)
  伝七と新吾、前庭に現れる。
  千草の姿が入り口の所に見える。
新吾「伝七、早く・・・・(辺りを見回す)」
伝七「(千草を見ながら)新吾、お前(めえ)の目当ては、あの娘(こ)にあるん じゃねえのきゃ〜?」
新吾「バカこけ!」
  千草が二人に気づいて、招き入れるが、その表情は二人の視線を無視して  いる。

11同・一室
   半兵衛の前に伝七と新吾。
   伝七、話を切り出す。
伝七「半兵衛どの・・・・信長さまは日の出の勢いです・・・・わしら蜂須賀の郎党  は、小六さまを頭に、藤吉郎さまに組することになりました。美濃は風前の 灯し火です・・・・藤吉郎さまも、きょうはわしらを寄越したが、熱心に竹中ど のを軍師に乞われておられる・・・・考え直されてはいかがですか?」
半兵衛「この前にも言ったが、わしは信長どのには従うつもりはない。もう人 殺しを繰返しても、世の中は良くならない・・・・」

12稲葉山城内(回想)
   半兵衛、竜興の部下を一刀の下に斬り捨てる。
   返り血を浴びる半兵衛の顔。
半兵衛「殿を甘やかす輩(やから)が多いと、国が滅んでしまうぞ〜!」

13半兵衛の寓居
   半兵衛、宙を見つめてつぶやく。
半兵衛「・・・・あの時はわしも若かった」
   新吾、何かを感じたのか、ひざを進める。
新吾「私も、むやみに人殺しをするのは、厭です」
半兵衛「・・・・(目を伏せる)」
伝七、新吾の袖を引っ張って、
「新吾、何言っていりゃ〜す! そんなこと言うてたら、この戦国の世は渡っ ていけんぞ!」
半兵衛「(手で制して)わしは、もう隠居の身になっ
 たのでな・・・・失敬する・・・・」
   と立ち上がって、奥へ去る。
   新吾、半兵衛の姿をジッと見つめている。
   伝七、ヤレヤレと肩を落とす。

14藤吉郎の館
    新吾と伝七を前にして、藤吉郎が猿面を歪
    める。
藤吉郎「半兵衛が断った? やっぱ、お前(めえ)ら若造じゃ、ラチがあかんに ゃ〜」
    藤吉郎腕組みして、セカセカと歩きまわる。(つづく)

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