12吸血部族物語。 + ミニバラ奮闘記。

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 「エナ!」

 「うわ!」

 後ろから大声で名前を呼ばれてお昼ご飯を食べていたエナは慌てた。
エナが声のした方を振り返れば、ビニール袋の中から嬉々として中身を取り出して机の上に並べていく龍司が目に入った。
よくよく見れば龍司の手にはビニール袋が3袋もあった。昼ご飯と、部活の合間に食べるパンを買いに行ったにしても量が何時もより多いなとエナは思った。

 「これ!これ!すごいだろ!見てみろよ!」

 「・・・・・・・は?」

 「イカスミパンだってさ!」

 「へえ・・・・・・。いかすみ・・・・・・。」

 イカスミと言えばイタリア料理に使われる事が多い。
イカから墨袋をとって料理する事も出来るが、家庭でならイカスミパウダーや冷凍イカスミ辺りが簡単だろう。
兄であるバジルと共に以前イカスミを使用して料理をした事があるが最近は使用していないな、などとエナはふと思った。

 「これもさ、豚まんなんだけどさ。黒いんだよ!」

 「・・・・・・へえ。だが・・・・・・こんなに買って食べられるのか・・・・・・?」

 「えーそれはさーまあ、豚まんは今から食べるとして。後のは・・・・・・日持ちするのもあるし。」

 「へー。でもなんで黒いのばかりなの?」

 「・・・・・・さあ?なんでかなー。何か書いてあったんだよ。みてねーけど。」

 良樹の質問に答えを返せないでいる龍司にエナは呆れた。

 「・・・・・・ブラックデーだからだろう?」

 「ブラックデー?」

 「ああ、ブラックデー。」

 ブラックデーと聞いても龍司の方は何も思い浮かばなかったようだが、良樹の方は思い当たるものがあったようで、袋の中身を漁り始めた。

 「何、ブラックデーって?」

 「バレンタインデーだとか、ホワイトデーと一緒で記念日の1つだな。」

 「へー。って、あ、こら、良樹待てよ!俺が買ってきたんだぞー!」

 「うわ、何これ。竹輪!?」

 「これは・・・・・・すごいな。」

 「あーそれすごいだろ!?」

 良樹が袋から取り出した黒い竹輪にエナは驚いた。買ってきた龍司の方は得意そうだが、購買に竹輪が売っていたという事実をエナとしては初めて知った。
黒い竹輪は今回の企画のためにわざわざ取り寄せたのであろうが、何時も竹輪自体は売っているのだろうか、誰が食べるのだろうか、そんな事をエナは考えた。

 ブラックデーはそもそも日本の行事では無い。
3月14日に恋人がいない者同士が集まって黒い食べ物を食べる日と企画された記念日。
自ら恋人がいないと宣言して、いない者同士集まってお互いを慰めあう日・・・・・・らしい。

 実は今朝がたエナの自宅である鈴木家でもちょっとしたブラックデー企画が行われたのである。
別に恋人がいないと宣言するためではない。
ただ単にネット通販でエリカが見つけた黒い豚まんがきっかけだった。
見た目が可愛かったのでエリカが気に行ったらしく、それならと今日にかこつけてお取り寄せをして、朝から皆で食してきたのだ。
ちなみにエリカは他にもネットで見つけてきたらしく本日のブラックデーとは全く関係のない可愛らしい形のまんじゅうもお取り寄せしていた。
豚だったり、パンダだったり、桃の形をしていたりと、色も形も様々だ。
そのため只今鈴木家の冷凍庫は様々な種類の饅頭でいっぱいになっている。
お取り寄せ物は冷凍で結構もつものが多いので便利だが、加減というものは知っていてほしいとエナとしては思った。

 「ブラックデーかー。そんなものがあるんだなー。黒い食べ物食べる日?」

 「恋人がいない人たちが黒い食べ物を食べる日だよ。」

 「・・・・・・え。」

 「らしいな。」

 質問に良樹が答え、エナが同意を示すと先ほどまで自信満々だった龍司の動きが止まった。

 「え、恋人がいる人は食べないの?」

 「まあ、そういう行事だよね。」

 「が、学食で本日限定ジャージャー麺定食ってのがあったんだけど。」

 「ジャージャー麺を食べる日でもあるらしいからね。」

 「・・・・・・うわぁ。何かテンション下がった。何かよくわかんねーけどテンション下がった。」

 良樹の答えにテンションが下がったとブツブツと言いながら机に覆いかぶさった龍司が机をバタバタと叩いた。
龍司のよく解らない行動にエナは首をかしげながらも良樹が袋の中から取り出していくブラックデー商品を眺めた。
出てくる商品に書いてある原材料名を見ればイカスミだったり黒ゴマだったり、炭であったりするのが中々面白いなどとエナは考えた。

 「・・・・・・龍司別に彼女いないじゃない。」

 「それとこれとは違うんだよ!」

 龍司に彼女がいないのはエナとて知っている。彼女がいないのは皆が知っている事実なので今さら別に公言しようがしまいがかまわないのではないかとエナは思う。
かくいうエナとて彼女はいない。

 「別に美味しいなら良いじゃないか。」

 「良くない!美味しければいいってもんじゃあないの!」

 「でも美味しい方がいいだろ?」

 「・・・・・・。」

 エナが違うのか?と聞けば龍司がうーだとかあーだとか曖昧な返事を返してきた。

 何だって食べるのなら美味しい方がいいとエナは常々思っている。
作った食べ物でまずいと言われるより、美味しいと言われた方が嬉しいし、そもそも食さなくてもいい身体の者と住んでいるから余計にそう感じるのかもしれない。
食事をした方が血液の摂取量は減るらしいがそれでも食事は絶対ではない。
生命活動として絶対ではない食事を疎かにしないためにも美味しいものを用意してあげたいのは普通の感情だろう。
そもそも聞くところによると姉であるエリカに関して言えば本当に昔は食事を蔑にしていたらしい。

 「・・・・・・まあ、そりゃあさー。・・・・・・なに、エナ。竹輪食べたいの?」

 「・・・・・・食べて良いか?」

 エナとしては彼女がいるだとかいないだとか、ジャージャー麺がどうだとか・・・・・・そんな事よりも初めて見た黒い竹輪が食べてみたくてそればかりが気になっていた。





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