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「始祖の……否定?」 「そもそも本当に始祖が存在しないといけないのかって。」 「でも、始祖が存在しないと部族の血筋の者は死んでしまうだろう?」 「そのこと自体がおかしいと皆言うのですわ。」 「どういう事だ?」 「始祖の存在が消えても……誰も、し……、死ぬなんて事は無いと言う事ですわ。」 「どういう事だ?始祖が死んだら部族の血筋の者が皆死んでしまうのは当たり前の話だろう?」 ミリアの言う事がどうにも理解できず、エナは同じ質問をもう一度した。 部族の始祖が死んでしまえばその部族につながる全ての者が死んでしまう。 だからそれぞれの部族は始祖を守るのだ。 死ぬはずのない始祖がどうして死ぬのか、始祖が死んだ場合どうやって他の者が死ぬのか……。 方法や現象がどのようなものか知らないが、知識としてエナは教えられていたし、それが当り前なのだと思っていた。 「それは言われているだけですわ。 本当にそれを目で見た者などいないのですわ。 いえ、居るのかもしれませんわ。 昔私たちと一緒に居た部族が滅びるところを見たもう一方の部族と私のご先祖様達です。」 「だったら。」 「でも、・・・・・・お金を回収するためだけに作った嘘だって外の方は言っていますわ。」 「・・・・・・?」 「外の方はイシスノフレト姉さまに・・・・・・あの家に、学園に寄付という形でお金を出しているそうなのです。 姉さまの存在が不可欠であるからだそうです。 でもその・・・・・・それ自体がそもそも可笑しいのではないかと言っていますわ。」 「・・・・・・。」 「え、エナ兄さまたちの部族がお金を回収するために作ったシステムなんじゃないかって・・・・・・。」 「!」 「わ!私はそんなこと信じていませんわ!」 「ミア・・・・・・。」 叫ぶような声で言い放ったミリアにエナは痛々しさを感じた。 「ほ、本当ですわ!」 「大丈夫だ。ミアがそんなこと思ってないって事はわかっている。」 「・・・・・・。」 言葉を掛けると安心したのか、ミリアの声が少し落ち着くのをエナは感じた。 「砂城さんは何か言ってないのか?」 「・・・・・・砂城は気にしなくていいって言っていました。それに・・・・・・。」 「?」 「砂城・・・・・・最近思う方がいるのではないかと思うのですわ。」 「思う方・・・・・・?・・・・・・あ、好きな人か・・・・・・?」 急な話の方向転換にエナは少し戸惑った。 思う方という言葉自体もあまり慣れ親しんでいなかったせいなのもあったわけだが。 「そうですわ。砂城は私に気付かれないように振舞っているようですけど・・・・・・。 だってずっと一緒にいるのですもの。 気付かないわけがありませんわ。 何だかそわそわして。 電話やメールが来るのを待っているのですわ。 皆には解らないかもしれませんけれど・・・・・・私には解りますわ。 だって砂城は私の家族ですもの。」 「そ、そうなのか。」 「砂城、最近楽しそうなのですわ。」 「そうなのか。」 「私、砂城には幸せになってほしいのですわ。 今まで迷惑をいっぱいかけてきました。 今度は私が砂城や姉さまを守る番なのです。 砂城に好きな方が出来たのなら・・・・・・寂しいですけれどお家を出ていくとしてもしょうがないのですわ。 砂城がお家をちゃんと出て行けるように私はしっかりしないといけないのです。 ですから、エナ兄さまを騎士にしようと思ったのですわ。」 「・・・・・・?ミア?すまない。 どうしてそこで俺を騎士にしようと思ったのか解らないのだが・・・・・・。」 「エナ兄さまを騎士にしたら皆が認めてくれるのですわ。」 「・・・・・・そ、そうだろうか・・・・・・。」 「そうですわ!エナ兄さまの部族と喧嘩してないって皆も解ってくれますわ。」 何の了承もせずに襲った事を考えると喧嘩をしていないと言う証明をするよりも、むしろ喧嘩が勃発するのではないだろうかとエナには思えた。 ただ、ミリアにとって結果が大事であってその過程は考慮されていなかったのだろうとエナは考えた。 「ミア・・・・・・良く考えてくれ。始祖がミアを皇族と確認したわけではないだろう?」 「でも、皆が私は皇族として覚醒すると言っていましたわ。」 「・・・・・・皆はそう言っても・・・・・・それは願望であって事実ではないだろう?」 「・・・・・・それは、でも、ですけれど。」 「ミア。」 「だって、私が皇族でなかったら砂城は家を出て行けませんわ!」 「・・・・・・。」 ミリアの言葉にまるであの家は始祖を生かしていくために皇族を閉じ込めておくための檻のようではないかとエナは思った。 元々皆が一緒に暮らせるように作られた家であっただろうにそれは時がたつにつれ部族の絆どころか不幸の象徴のようになってしまっている。 それにミリアの言う外の者たちは始祖事態を否定しながらも皇族の存続を維持しようとしている。 始祖の存在に懐疑的ながらも、事実が解らないからとりあえずは傍観しているのだろう。 しかし子供の望めないらしい砂城と小学生の身で覚醒したミリアでは今後はその2名の家系から皇族が生まれる可能性は限りなく低い。 そうなると外に居る他の者か、始祖であるイシスノフレトが新しく皇族を作り出すことが必要となる。 外の者に皇族を出せる家系が存在するのか解らないが、ミリアの話を聞く限りその可能性は低いようにエナには思われた。 そうしてイシスノフレトがあの状態で新しい皇族を産み出す事が出来るのか、それこそエナには解らなかった。 感想などもお待ちしております。
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12吸血部族物語。7
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「イシス姉さま・・・・・・イシスノフレトが私の、私たちの部族の始祖ですわ。」 「え、ミア・・・・・・。」 「今覚醒者として解っているのは砂城と私だけです。」 「ちょ!ちょっと待つんだミア!始祖の事は軽々しく口に出すものではないだろう!?」 ミリアの発言にエナは慌て声をあらげた。 「・・・・・・エナ兄さま私の味方なのでしょう?」 「え、いや。そうだが・・・・・・。」 ミリアの言葉にエナは言葉を詰まらせた。 味方であると言う発言に間違いは無いしそれを取り消すつもりもエナには無い。 だが、味方であろうが何だろうがエナとミリアの部族は違うのだ。 部族が違うのだから始祖も違う。 部族の最大の秘密であろう始祖の正体を明かすなどあってはならない事だとエナは思ったのだ。 「私が産まれてくるずっと前に私の部族は全滅しかけたそうです。」 「・・・・・・。」 「その時に救いの手を差し伸べてくださったのがエナ兄さまやエリカ姉さまの始祖である方だったと聞いています。 私たちの部族は故郷を離れて・・・・・・つまりは逃げたのだと聞いていますけれども・・・・・・この国に来て。 今、私たちが生活していると言う事になりますわ。」 「・・・・・・。」 制止の声に動じることもなく、不定するでもなくミリアが話を続けるのでエナは判断を考えあぐねた。 「イシスノフレト姉さま・・・・・・私たちの始祖はその時からずっとあの状態だと聞いています。」 「ずっと・・・・・・?」 「そうです。部族の絶滅と関係があるらしいんです。 私たちの部族を窮地に追い込んだのは他の部族なのだそうです。」 「・・・・・・。」 「その部族はまだ存続していますけれど・・・・・・その時もう1つの部族は滅んだと聞きました。」 「滅んだ?」 「そう聞いています。」 吸血種族は元々12部族あってそのうち2部族が滅んだという話はエナも聞いて知っていた。 しかし不死身であるはずの始祖がどうして死ぬのか、その理由をエナは教えてもらえていなかった。 存在する矛盾に気づいてはいたがそれを聞く事は許されなかった。 始祖について話すミリアを見ながらもしかするとミリア自身は始祖の殺し方を知っているのではないかとエナは考えた。 部族が滅びかけた挙句、他の部族がその時滅んだのならそれを回避しようとするのが普通であるはずだ。 それならばその方法を知っていてもおかしくない。 姉であるエリカも多分その方法を知っているのではないかとエナは常々思っている。 そうして始祖の死と皇族の存在は何かしらの関係があるのだろうと言うところまではエナにも予測が出来ていた。 「ちょっとまて。・・・・・・ミアが皇族として目覚めたのだと判断したのは・・・・・・誰だ?」 覚醒したものが皇族か貴族か判断できるのはその部族の始祖だけだとエナは聞いている。 あの状態のイシスノフレトが果たしてそれを判断できるのかエナには疑問に思えた。 何年前からあの状態なのかエナに知る由もないが、ミリアが覚醒したのは先日であるから確実にイシスノフレトが正気の状態でないと言う事はわかる。 「皆が言っていましたもの。」 「皆?」 「そうですわ。皆が私は皇族として覚醒するんだって。 子供をたくさん産んでもらわないと困るって。」 「皆?皆って誰だ?砂城さんか?エリカか?」 「砂城はそんな事言いませんわ。」 「じゃあ・・・・・・。」 砂城でないとしたら姉であるエリカが・・・・・・小学生のミリアにそんな事を言ったのだろうか。 そんな事を姉が言うとはエナには思えなかった。 だが、こと部族の存続の事に関して言うならばどうなのかエナには判断できなかった。 「外の方たちです。」 「外・・・・・・?」 思いつきもしなかった単語にエナは言葉を反芻した。 「お家に一緒に住んでない方々の事を外って砂城は何時も言っています。」 「・・・・・・。」 言葉の意味を理解していない事を感じ取ったのか、ミリアが説明を始めたのでエナは黙って話を促した。 「ご先祖様たちは最初に大きなお家を1つもらったのだそうです。 それが今の場所だそうです。 建物は建て替えたそうなのですけど。 最初は皆で住んでいたのですけれど・・・・・・だんだん皆お外に出て行ったんだそうです。 覚醒するとまた戻ってくるらしいですけど、私は見た事がないんですわ。」 「・・・・・・。」 エナが知る限りで言っても覚醒者としてあの家にいるのはイシスノフレトと砂城だけだ。 その他の関係者が頻繁に出入りしているのをエナは見た事がない。 イシスノフレトが始祖だと言うのなら本当の覚醒者は砂城だけとなるだろう。 もっともエナが訪れる回数など年に数回でしかないのだから隠そうと思えばどうとでもなるわけだが。 「皆、言っていましたわ。私が皇族として覚醒しないと次がいないって。」 「次・・・・・・?」 「始祖が生きていくためには皇族の存在が必須ですわ。 でも、今私たちの部族には砂城しか居ないのです。」 「・・・・・・それは・・・・・・。」 「砂城が居なくなったら始祖は衰えてしまうのですわ。 私の血筋には皇族に覚醒した方が昔居た後、誰も覚醒しなかったと皆が言っていました。」 「・・・・・・。」 「砂城さんは・・・・・・。」 「砂城は子供が産めないんだって皆が言っていましたわ。」 砂城は男であるから子が産めないと言うのは当たり前であるが・・・・・・ミリアが言わんとしている事はそういう事ではないだろうと言う事はエナも解っていた。 先天的なものか後天的なものかエナには解らないが、砂城は子供をもうける事が出来ない身体であるのだろう。 「そうなのか・・・・・・。」 「外の方は砂城の悪口ばかり言うから嫌いですわ。」 「ミア・・・・・・。」 「皆、姉さまや砂城の悪口を言うんですわ。 そうして私に言うんですわ。 お前はするべき事があるんだって。」 「・・・・・・。」 ミリアの言う外の者たちが何を言わんとしているか・・・・・・そうして何を望んでいるのかエナにもだんだん話が見えてきた。 だが小学生のミリアにその話をする外の者たちの存在をエナは許容できそうになかった。 部族間の問題に他の部族であるエナが口出しするのは問題であろうし、始祖に関する存続の問題となればなおさらだ。 だが、事実であれ願望であれミリアを苦しめていた原因の1つであるのだと判断するのは容易な事であった。 「でも、私知っているんですわ!外の方たちは始祖事態を否定しているんですわ。」 感想などもお待ちしております。
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「・・・・・・。」 「どうしてそんな事を聞くのですか?」 「どうして・・・・・・。」 どうして本当にそんな質問をしてくるのか心底わからないと言う風に訪ねてくるミリアにエナの方が言葉を詰まらせた。 「私がエナ兄さまや、ミリアちゃんを嫌いになるなんてありえませんわ。」 「・・・・・・そうなのか・・・・・・。」 「そうですわ。」 「・・・・・・。」 当たり前のことを何故聞くのかと言う顔でミリアが答えたのでエナは何も答えられなかった。 ミリアが襲ってきた時にエナは誰かに彼女が操作されているのだと最初は判断した。 だがそれはどうも違うらしかった。 全ての行動はミリア自身が自分で決めて、それを行った可能性が高いとエナは最終的に判断した。 その判断をした時にこの後どうすればいいのか判断がつかず、エナは行動に移せなかった。 ・・・・・・そうしてエリカに連絡をする事もなく家に帰ってきた。 けれども・・・・・・それはエナ自身すら気付けていない建前でしかなかった。 ミリアに嫌われたのだと。 殺したいと、殺そうと思うくらい・・・・・・それを行動に移せるくらいに・・・・・・。 小学生のミリアにそう思わせるような何かを自分はしたのだとエナ自身解りたくなかったのだ。 そもそも殺されそうになるほど恨まれるような体験をした事がないエナにはその事実こそが衝撃であったのだと。 やっとエナは理解した。 ミリアの今後よりもその事よりも、自分に起こった事と向けられた感情が信じられなくて、その事実から目をそむけていたのだ。 どうしてミリアに恨まれたのか知りたくなかった・・・・・・理解したくなかったのだと・・・・・・エナはそこまで気づいて何故だか無償に泣きたいような、笑いだしたいような複雑な心境になった。 「・・・・・・ミア。」 「・・・・・・エナ兄さま?」 「その、すまない」 「?」 「ミアはたくさん考えたんだよな?独りで抱え過ぎたんだ。 ・・・・・・・俺もミアの事は大好きだから・・・・・・だから一緒に考えるから。 俺に相談してくれないか?」 「!」 ミリアが驚いた顔をして、それから泣きながら笑ったのを見てエナは自分の不甲斐なさを感じた。 ただ自分が傷つきたくなくて、現実から目を反らしてその場をやり過ごそうとしていて、でもそれを知られたくなくて今さらながら力になるなどと言う自分に。 それでも、ミリアに嫌われていたわけではないと言う事実はエナをひどく安心させた。 「・・・・・・そ、それでだな・・・・・・。」 「?」 「その、どうして小刀なんてもの・・・・・・持っていたんだ。」 エナは一番気になっていた事を遠回しに聞いた。 本当はどうして自分を襲ったのか、その理由を聞きたかったのだがそれは直球過ぎて流石に聞く事が出来なかった。 「あれは学校の図画工作の授業で使っている物ですわ。」 「・・・・・・え、そ、そうなのか・・・・・・。」 「あ、先ほどのお怪我は大丈夫ですか?」 「え、あ、ああ。」 傷の具合を見ようとするミリアを制して、エナは手を隠した。 「すみませんでした。」 「・・・・・・。」 「騎士の儀式なんて私には無理でした。」 「は?」 思いもよらない単語にエナは間抜けな声を上げた。 「エナ兄さまを騎士にすれば・・・・・・皆が認めてくれると思ったんです。」 「え・・・・・・。ミア・・・・・・覚醒したのか!?」 「はい。」 「そ、そうか・・・・・・その。お、おめでとう・・・・・・。」 一族的に考えて覚醒することは喜ばしい事だ。 人としての生活などにはたくさんの支障が出てくる事が考えられるが、それでも覚醒者は大抵の場合喜ばれる。 騎士の単語から察するにミリアは皇族に覚醒したのだろうとエナは判断した。 皇族の覚醒者となれば尚更普通の一族は喜ぶとエナは認識している。 だから自然とエナは祝福の言葉を口にした。 しかし祝福されたミリアの方を見れば複雑そうな顔をしていて、エナはその後の言葉に詰まった。 「・・・・・・私・・・・・・皇族に覚醒するのが自分の役目だとずっと思っていました。」 「・・・・・・。」 「皆がずっとそう言っていましたし。私もずっとそうだと思ってきました。 あの、エナ兄さまは、私の事・・・・・・。」 「え、ああ。俺はミアの味方だ。」 「・・・・・・。」 「ミア?」 「・・・・・・エナ兄さま・・・・・・。」 「?」 「私の始祖は姉さまです。」 「は?」 ミリアの言った事が一瞬理解できず、エナは再び間抜けな声をあげた。 感想などもお待ちしております。
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病院職員にタオルをもらって簡単に身体を拭いた後、バスで帰るのは大変でしょうからと言われ、エナはそれもそうだと思い車で家まで送ってもらった。 病院での事をエリカに話すべきか判断がつかないまま自宅に着いた時、エリカが帰ってきていない事にエナはひどく安堵した。 エナよりも力が強いものがミリアの意識を操作しているのならもしかしたらエリカにならそれを解く事が出来るのかもしれない。 しかし、もしもミリアが彼女の意思でエナを傷つけようとしたのならエリカは多分許さないだろうとエナには簡単に想像できた。 ミリアがどのような理由でああいう行為を行ったのか知りたい半面、それを聞いてしまって言いわけが出来ないような内容であった場合はどうすればいいのか全く解からずエナはミリアに声をかけられずにいた。 エリカが帰ってきていないため替えの服もないのでとりあえずエナは自分の寝巻を渡した。 何か言うかと思ったミリアが無いも言わずに服を脱ぎだしたのでエナはクロ太にミリアと一緒に居てほしい事を伝えて部屋を出た。 それからこの後どうすればいいか考えながら服を着替え、部屋に戻った。 エナが部屋に戻ればミリアがソファにうつむいて座っていた。 ミリアの手は寝巻の裾を掴んでいたが相当力を込めているのだろう、手が赤くなっていて見ていて痛々しいとエナは思った。 「ミア・・・・・・。」 声をかければミリアの肩がびくりと揺れ、余計にそれが痛々しいとエナは感じた。 襲われたのはエナだと言うのにその事実に傷付いているのはむしろミリアの方だという事が余計に先ほどの行動がミリアの意思での行動だと告げられているようでエナはどうすればいいのか迷った。 「ミア・・・・・・その・・・・・・何か・・・・・・の、飲むか?」 「・・・・・・。」 「あ、いや、何か食べても・・・・・・。」 「・・・・・・。」 どうすればいいのか解らなくてエナはとりあえずミリアに話しかけた。 沈黙がとにかく辛かったのだが、この場合は相手が話すまで待つべきなのではないのだろうかだとか、そもそもここでこんな事をしている場合では無くてエリカに連絡すべきではないのかだとか・・・・・・まとまらない考えとともにエナは手をまごつかせた。 だいたい自分の寝巻を提供したけれど、一番サイズが近いのはリリアの服だろうにどうしてそれを渡さなかったのだとか、そもそも先ほど独りにしたところから判断が間違っていないかだとか・・・・・・・そんな事をエナは考え始めた。 「あ、お腹は空いていないか?ええと・・・・・・あ、寒く・・・・・・。」 「エナ兄さまっ!」 何を言っているのだろうと思いながらも思いつく限りの言葉を口からエナが発していればミリアが顔をあげて名前を呼んだ。 声に驚いてエナは肩を震わせた。 「ミア・・・・・・。」 目を合わせてくれた事に安堵して、声が聞けた事に安堵して、それからこれからどうすればいいのかエナが不安になっているとミリアが手を伸ばしてきた。 ミリアの伸ばしてきた手を目で追えばその手はエナのほっぺたを掴み、ひっぱった。 「?」 「どうしてエナ兄さまが泣くんですか・・・・・・。」 「え。」 「なんで、泣くんですか・・・・・・。」 「え、泣いて、え。」 ミリアに言われ、エナは慌てた。 泣いている自覚など全くないし、そもそも頬に涙も流れてきてはいない。 ミリアがなにを言わんとしているのかエナには皆目見当がつかなかった。 「次・・・・・・瞬きしたら、エナ兄さまきっと涙があふれます。」 「!」 言われた言葉にエナが慌てて目じりを拭えばミリアの言うとおり手を涙が濡らした。 「ミア・・・・・・。」 「・・・・・・エナ兄さまを悲しませるつもりではなかったんです。 こうするのが一番良いと思ったんです。 でもだめで・・・・・・っ。」 嗚咽をあげだしたミリアの背を慌ててさすってあげれば瞳にたくさんの涙を浮かべたミリアがエナに抱きついてきた。 「!」 「う、うまくいくと思ったんです。できると。 できないといけないって・・・・・・しなくちゃいけないって。」 「・・・・・・。」 「リリアちゃんとも、エナ兄さまとも・・・・・・ひっく。 エリカ姉さまとも離れたくなかったんです。 ずっと一緒に居たいと思ったんです。」 「・・・・・・。」 ずっと一緒に居たいと言うミリアの言葉にエナは驚いた。 「ミアは・・・・・・俺・・・・・・ええと、俺たちの事を嫌いでは……無いよな?」 「!もちろんです!」 抱きついていたミリアがエナの服を引っ張りながら懸命に訴えてくるのを見てエナはひどく安堵した。 感想などもお待ちしております。
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「エナ兄さま・・・・・。」 「?」 「・・・・・・手を洗いたいのですけど・・・・・・手が届かないのです。」 「あ。ああ。」 女子トイレの中から声が聞こえて手が届かないと言われて、外で待っていたエナは納得した。 よくよく考えてみると洗面台というのは少々高い位置にある。 ショッピングモールなどの場所であれば子供用の高さの手洗い場があったりするし、身障者用トイレでも低い場所に設置されている場合がある。 しかし現在エナ達が来ている職員用トイレにはそのような設備は無かった。 もちろん病院内なのだから色々な配慮がされたトイレもあるのだが・・・・・・。 「・・・・・・エナ兄さま・・・・・・あの、他に誰もいないので・・・・・・その・・・・・・。」 ミリアの他に誰もいないという言葉にエナはため息をつきそうになった。 誰か他にいればその相手が見かねて手を貸してくれたかもしれないだろう。 誰もいないから、その・・・というのは、ミリア的には手伝ってほしいという事だとエナでなくともすぐに解る。 「ミア、その、男子トイレのほうでは駄目・・・・・・だろうか。」 いくら他に人がいないと言っても女子トイレに入るというのは流石に気が引けるためエナは代替え案をミアに提供した。 「・・・・・・わかりましたわ。」 ミアの返事が聞こえ、そのあと女子トイレの扉が開いた。 背中で扉を器用に開けているミアを見てエナは苦笑した。 洗っていない手で扉を触ってはいけないと思ったのだろうか、そんな事を考えながらエナは男子トイレの扉を開けた。 扉を開けるとミリアが申し訳なさそうに会釈をしてきた。 トイレの中に入ってミリアに声をかけて後ろから持ち上げてあげると彼女は手を洗いはじめた。 しばらくするとおろしてもらって大丈夫だと言われエナはミリアを下した。 「エナ兄さま、髪にゴミが付いていますわ。」 「え。」 ミリアに言われてエナは鏡に目を向けた。 鏡越しにミリアがポシェットを探っているのがエナの目に入った。 ハンカチを探しているのだろうとエナは思いながら再びミリアから自分の頭に目をやった。 「なあ、ミア・・・・・・。」 頭にゴミがついているとは言われたが、何処についているのか解らずエナは後ろに居るミリアに振り返りながら尋ねた。 「っ!」 エナが後ろを振り向けば、ミリアが小刀を振りおろしているところであった。 突然の出来事にエナがなにも出来ずに動けずにいると、トイレの扉がものすごい音を立てた。 扉のバキッっと割れるような音でエナは慌ててミリアの小刀を奪いに動いた。 音に気をとられたのだろう、ミリアの反応が少し遅れた。 「っ!」 ミリアの小刀を奪おうとした手に小刀の刃が当たり、エナは小さく声をあげた。 刃が当たったところから赤い血がでて、壁に飛んだ。 ミリアの目線が傷口に向き、見る見るうちにおびえだしたのをエナは見逃さなかった。 無理やりミリアの手を開かせて小刀を落とさせ、エナは大声で叫んだ。 「ミリア!」 びくりと肩を震わせたミリアの顔をエナは掴んで瞳を覗き込んだ。 「誰に言われた!」 「・・・・・・だれにも。」 「・・・・・・。」 力を行使した問いへのミリアの答えにエナは言葉を詰まらせた。 力が効いていないのかもしれないとエナはいぶかしんだが、ミリアを見る限りその様子は窺われなかった。 「・・・・・・誰かに・・・・・・言われたんだろう・・・・・・?」 「・・・・・・わたくしが、私の意思で・・・・・・。」 「・・・・・・っえ。・・・・・・いや、だが・・・・・・。」 「どうかされましたか!?」 「!」 「大丈夫です!あの!水で濡れたので!替えの服をお願いします!」 声とともにトイレの扉が開けられそうになったのでエナは慌てて叫んだ。 扉を開けられないように取っ手を持ってエナが叫べば相手が扉を開けるのをやめて走り去って行ったのが解った。 人気がいなくなったのを確認してからエナはミリアが持っていた小刀を回収してミリアのポシェットにそれをしまい込んだ。 そうしてそのままミリアからポシェットを取り上げ、それを肩にかけた。 エナの一連の動作の間、ミリアは何の抵抗も示さなかった。 「ミア・・・・・・。」 「・・・・・・。」 エナがミリアの肩に手を掛ければ彼女の肩が大きく震えた。 しかしミリアが頭をあげ、しっかりと瞳を見つめてきた事にエナは狼狽した。 エナ達一族は瞳を見なければ力の行使ができない。 意図的なのかどうなのかわからないが、しっかりと見つめてくるミリアの瞳が怖くなりエナの方が瞳を反らした。 先ほどは勢いで力をミリアに行使したが、それは誰かが彼女を操っているからだとエナは判断したからだ。 ミリアを助けるために使った力が反対に彼女を窮地に陥れることになった事に、そうして何の疑問も抱かずに力を行使した自分自身にエナは動揺していた。 「っ!」 「!」 聞こえた小さな悲鳴に視線をミリアにエナが戻せば、クロ太が彼女の足にしがみついていた。 「!止めろっ!クロ太」 クロ太が何をしようとしているのか気付いたエナは、慌ててクロ太を掴んだ。 「あっ!」 ミリアの悲鳴にクロ太を掴む手に力を込めれば、エナの手の中でクロ太が手をばたつかせた。 手をばたつかせたおかげでミリアからクロ太が離れたが、エナは熱さのあまりクロ太を落としそうになった。 「クロ太!大丈夫だ!俺は何ともない!」 エナが叫ぶように言えばクロ太が途端に大人しくなった。 大人しくなったクロ太を洗面台の上に置き、エナは手洗いの蛇口を思いっきりひねった。 そうして一息ついてからエナは蛇口に手を添えた。 エナの手で行き場を失った水がエナ自信を濡らし、そうしてそばに居たミリアを濡らした。 感想などもお待ちしております。
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