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遠い日の俺は幾つかの幻を見ていたのかも知れない・・・。
その一つが母の幻・・・。遠く離れ行った母は何時しか俺には優しくって、美しくって、温かい女性と偶像化されていったのだろ・・・。
だから女性にもその全てを求めていたようだった。
その幻の母が千恵子の母と遭遇した時にこれこそ我が幻の母、そう思ったものだ。
正に綺麗で上品で優しくって・・・、あれが千恵子とその母の違いだったのかも知れない、無論あの時の千恵子の本当の心は俺にはわからない・・・でも、現実に夢を見れた事には感謝するしかない・・・・。
そうしてもう一つが人間に夢を見たこと、本ばかり読んでいた遠い日の俺には何時しか本当の人間を探していたのかも知れない・・・。(この人こそ!)そう思える人を探し続けていたのかも知れない・・・。
あの中1担任の何処か漱石のぼっちやんを思わせるような情熱的な、そして俺を見守ってくれていた筈のF教師も、俺がひろ子との別れを決意して後、(あれは卒業して2年経っていたかどうかの頃だった。)薬飲みまくりボロホロになった姿で一度夜に母校を訪れた事があった。
それはかって俺が中2から3になるとき「君の前途は洋々・・・」とあのK先生が一枚の書類を手渡してくれていたから・・・。
俺は「先生!この俺の何処が前途洋々なのか!」それを聞きたかった。だから訪ねていったのだが、
俺が大声を出して「K先生は居ませんか!」と幾度か怒鳴ると其処に現れたのがF先生、
彼は一目見て俺だと分かった筈・・・、でも呆気にとられているのか、黙ってなんにも云わなかった。
それは夜目にもこの俺の異常な様が手に取るように分かったからなのかも知れない・・が。
俺はふらつく足で黙ってその場を去っていたが、心の奥には深い失望感が流れていた。
たった一言でも良いから「滝川!何だそのざま・・・わ」と叱ってくれたら・・・。
この時俺の心からK教師に次Fも消えて行った。
まだ若くって、それだけの人生経験もしていなかったFにそれを臨むのは無理だったのかも知れないが・・・。
そして我が叔父、彼は働きもしない兄(父)にずっと給料として生活を最低限出来るだけのものを与えてくれていた。
だから、中2の頃にK教師のHRの時間、「何故?」と生徒間で討論をさせていた。その時俺は何時もその叔父を引き合いに出しては、「自分は何時か大人になったら、困っている人間を助けられる、叔父のような人間になりたい!」そんな夢を語ったていたものだが・・・。
ひろ子と決別、それは俺の人生への決別、でも生き残った俺が叔父の元で働き、その時に見た叔父の姿、それはまさしく典型的な中小企業のワンマン社長。
その姿には俺の理想など木っ端微塵に吹き飛ぶのにも十分、会社には週に一度顔出す程度で、後は同じように若くして成功した連れ達と、ゴルフに旅にと、そして女も噂は当然のように俺の耳にも伝わっていた。 その中でも特に嫌だと思ったのが、得意先に見せる顔と俺等社員に見せる顔の違い、片方には揉み手で愛想し、片一方ではまるで虫けらをみるような目で見る・・・。
当然俺は叔父には一切口をきかない、いつも無視していた。 それは叔父にも良くわかっているのか、俺には優しい声一つも掛ける事はなかっように思えた。
どんなに世話になっているのか、なっていたのか、それは痛いほど分かっていたが、俺は永遠に叔父を許す気にはなれなかった。
俺の理想を消してしまった叔父、空しい・・それが何時もあった。
俺は自分で勝手に人間に理想を求めて、勝手に判断しては消して行っていたのだ。
だから、正に愚者の楽園・・・そのものの人生だったのだろろろ。
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