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ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。
僕の手紙とも云えぬ長文の書に思いもよらぬ友子からの手紙が届いた。
それはあの高名なる詩人萩原朔太郎の「旅上」という詩だった。
その詩を幾度も読みかえすうちに友子の言葉が其処にある・・そんな気がして行った。
その手紙には他の言葉一切無かった。
唯その手紙の字は友子の姿とは少しかけ離れたかのような綺麗な字ではなかった。
それは乱雑な僕の字を思ってなのか?
そう思うことにした。
でもやはり嬉しかった。
彼女がこんな詩を載せてきてくれたことを考えると案外の文学少女だったのだと今更に思えた。
彼女と二人きりで語り合ったことは本当に無かった。
何時も誰かと一緒だった、
特にハルミと行動を共にしていたから、常にハルミがその場に居た。
だから、そんな方面の話も一度もしないまま別れ行ったのだったが、
その頃にこっちの話もしていたなら・・キット話も弾んだのかも・・とも思った。
何しろ小説文学なら殆ど僕は読みまくっていたから、知識は豊富という自信はあったが、
周りに集う連中でそんな話をしてもあう奴などは何処にも見えなかった。
キッと友子の目にも僕がそんなタイプとは映っていなかったのだとも思った。
僕等は何時も誰かを意識しながらの会話だった。
だから踏み込んで話は出来なかった。
それは最後の別れの時まで本当の事は何にも云えずにサヨナラ・・、
今も最初にハルミに連れ立って僕の家を訪れた時の友子の姿は浮かんでいる・・。
淡い蛍光灯の明かりの中に二人は突然僕の前に現れた。
一人は何処となく大人の雰囲気のある肉体の持ち主ハルミ、そしてもう一人は本当に清楚で可憐な少女友子・・、
僕は当然のように絵の中の少女を想ったものだった。
でも、彼女は何故か何時も控え目で、ハルミの後をついていた。
何時か彼女が市場の近くで買い物をして帰るところで出会い其処でハルミなしの会話をした時に意外に明るく話すのを知った。
そしてまた場面は最後の別れの時僕の前から消える時「いいのよ・・・此処から近いから走って帰るわ・・」と小さく手を振るあの後姿が浮かんだ。
(今こうして僕は奈落の底に沈んでいる・・でも、友チャンありがとう・・この手紙は君の声と思って頑張ってみる・・よ)
僕はそういって現実の世界の容子との苦悩の世界からの脱出に血からを得た。
その戦いは苦しい戦いだった。
来る日も来る日もわざとの様に僕を挑発嘲笑して己を崩していく少女容子の姿、
それを耐え忍べたのは矢張り心のどこかに友子の声が「滝川さん、頑張ってね・・、何時か容子さんも貴方を許せるときが来るはずよ・・」
通り抜けるこの道は苦悩しか僕には無かったが、それはまた、若くして死の世界を二度も試みた僕への神が罰を与えたもの・・そう思った。
何時しか時が流れて最早全てが幻と思える時にふと友子のことを思い出した。
懐かしくって当時友子親子が住んでいた工場当たりを訪れた。
だがその場には最早その建物は姿を消して後はコンクリーのミキサー車が一杯停まっていた。
これで最早探すあても無いと思ったが、念のため彼女の姓を
頼りに電話長を探し片っ端らから掛けて見た。
すると偶然か、友子の兄と云う一家にたどり着いたが、
何故かその義姉と名乗る人物は物凄く冷たく取りつくしま無い位無愛想だった。
唯、彼女は元の住まいの近くで元気に居るという事だけは教えてくれた。
何でこんなに無愛想なのか?
それは分からなかったが旦那が病気だと言っていたからなのか?
それしか思えなかった。
一度家にでも・・と思って住所を調べたら・・・、
其処は一般には部落という人たちが住んでいる住宅だった。
一瞬!まさか!
そう思ったが矢張り其処に住むにはそんな人でなければ住めない筈だから・・そうだったのか!
僕にはそんなことはどうでも良いことでも、彼女や彼女一家に取っては矢張り何らかのコンプレックスがわいて当然だったのかも・・そうおもった。
遠い日の彼女が常に控え目だったのもそんな事が原因だったのかも・・、
あんな詩にも知識があったのは矢張りそんな環境からだったのかも・・、
それでも僕にとっては忘れられない思い出の人・・、
友チャンありがとう・・ね。
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