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五 章 * 婚 礼 の 夜
途中までで書けくなっている未完の拙作になります。
婚礼は仁友堂で挙げる設定でいました。具体的には広間に畳を敷いて、仲人は勝先生でみんなから祝福されての結婚式・・時代劇でよく見聞きする「高砂」を吟詠するのは、福田先生の予定にしていました。
5章の最初では婚礼には出ないと言っていた栄さんですが、咲さんから指輪の話しを聞き、最終的には式に出席されるという感じにしていました。
婚礼の夜・・・月の光が明障子に流れて幻想的な初夜にするつもりでいました。
 
六章*最後の晩餐
こちらは横浜に住む野風さんから、安寿ちゃんの一歳の誕生日パーテイの招待を受け、仁先生と咲さんが夫婦となって初めて二人で旅をするお話しでした。
新婚旅行のような感じで、以前訪れた時の話なんかしながら、二人で歩く姿を想像してプロットを作りました。
アイデアとしては、野風さんからのお祝いで頂いたバッスルドレス(色はドラマで野風さんが、タンポポと咲さんを重ねていたシーンがあったので、パステルイエローにグリーンのくるみボタンの付いた可愛らしくそれでいてエレガントな感じのもの)を着た咲さんを先生が言葉もなく見詰めるといった内容で、人前では照れて踊れなかった二人が、部屋に引き上げてから頬を寄せて踊る・・・といったシチュエーションを考えていました。
タイトルが最後の晩餐とあるのは、野風さんが余命幾ばくもないことからつけたもので、先生と咲さん、野風さんの文字通り最後の晩餐となります。
 
七 章 * 冬 の 風
この章は、幼い安寿を残して野風さんが亡くなってしまうお話です。
ルロンさんと野風さんの夫婦愛も描くつもりでいました。
この章の最後は、気丈に安寿を育てるというルロンさんの笑顔で終わるようにと考えていました。
 
八 章 * 掌 中 の 珠
こちらは野風さんが亡くなって一年後のお話になります。
前回、愛妻亡き後忘れ形見である安寿を気丈に育てるというルロンさんでしたが、野風さんを失ったダメージは重く、悲嘆のうちに身を破るという結果になっています。
先生と咲さんはルロンさんの臨終に間に合わずに、知らせを執事(ドラマで郭に入ろうとした野風さんを引き止めた人)からうけ、横浜にいく設定にしていました。
この章ではルロンさんの先妻との子供が出てきます。いろいろあって最終的には先生と咲さんが安寿を引き取ることになりますが、安寿の手元には母の形見の万華鏡と父親からの銀のスプーンが残されることに・・・・
 
九 章 * 絆
この章は安寿を引き取って二年後、安寿が4才の時のお話になります。
安寿の髪や目の色が明るいことから、先生と咲さんは最初から安寿には自分たちが本当の親ではないことを伝えています。もちろん本当の両親がどれほど素晴らしい人で、二人がとても愛し合っていたのかも話しています。が、咲さんが妊娠したことで・・・
タイトルが「絆」なので、上記のあらすじもどきで内容の大体が分かられるかと思います。
先生と咲さんに子供が出来たことで、家族としての絆が一層強まる話になります。
余談ですがこの章では栄さんが活躍する予定でいました。
 
十 章 * 写 真
タイトルを見ていただければ分かるように、2章で先生の母親紀子さんが見た写真のそのシーンになります。
紀子さんが自分を見て微笑んでいるようだと思ったように、先生も母親が見てくれればと思いながら微笑んでいます。
この章で恭太郎さんがフランスから帰って来ます。
作中ではドラマの中で先生が見た恭太郎さん、栄さん、咲さんそして咲さんの膝に抱かれて写っている写真もこの時のもので、4人が写真を撮って居る時に先生がどうして映らなかったかというと、泣き出した紀子をあやしていたからというように考えていました。
 
十 一章 * そ れ か ら
この章と三章は咲さん視点でのお話でした。
この章は年表で言うと1877年で(明治10年)で西南戦争があった年になります。
西郷さんから呼ばれた先生が行方不明になって・・・
始まりは咲さんが先生が助けを呼ぶ夢を見たことから始まるようにと考えていました。
先生は西郷さんから呼ばれて九州に向かったのですが、実は先生を呼んだのは西郷さんではなかったと・・
胸騒ぎに独り先生を追って熊本へと行こうとする咲さんでしたが、安寿と紀子がそれぞれ11才に6才と幼いので、栄さんは強硬に反対します。
結局は熊本へ行くことが出来る咲さんですが・・・
最終的にこの章で、先生が仁友堂を去ることになります。ですが、色々なプランがあってこの章だけは途中詳細なプロットを立てていませんでした。
 
最 終 章 * 二 人
タイトルは「二人」余り長くなく、先生視点のお話ではありますが、二人の会話中心で物語を進める予定でした。
時期は先生が亡くなられる数日前・・
以前書いていた二次もそうですが、私はどちらかが亡くなるまでのお話を書く癖があるようです。
亡くなったから話が終わるわけじゃなくてそれから始まり・・・のような感じの終わり方が好きで、この「仁」先生の二次でもそうしたいと最初から思っていました。
 
 
 
ブログを更新せず、そして皆さまにお知らせもせず・・・急なお詫び
そして、どのような展開でお話を終わりにするつもりでいたかだけ記事としてUP・・
 
本当にいい加減ですみません。
 
 
お友達の削除依頼お受けします。
 
お詫びと言ってはなんですが、これから書く予定だったあらすじの詳細を上記に書きました。読んで頂けたら嬉しいです。
 
心配してコメント下さった皆さま本当にありがとうございました。個別にコメントに伺うことが出来なくてすみません。
 
ブログのこと、みなさまのことずっと気になっていました。だましだまし続けて行った結果がこれです・・・もう本当に自分でも情けないです。
 
本当に本当にすみませんでした。
 
 
 
 
 
 

婚礼の夜 8

 
陽も傾きかけて、涼しくなり始めた頃、俺は部屋で咲さんと対座していた。
 
互いの息遣いが聞こえてきそうな程の緊張の中。軒先では咲さんが、俺が少しでも涼を感じるようにと、下げてくれた風鈴が青空のした、カラカラと涼やかな音色を奏でている。
 
 
仁友堂の玄関先で、咲さんと鉢合わせしてしまったことは、俺にとって気まずいこと、この上ない出来事だった。
 
あの時俺は、予想外の咲さんの出現に、一瞬何が起きたのか分からず、咲さんにお帰りなさいというべきなのか。それとも俺の方がただいまと言えばいいのか。婚礼とは全く関係の無い、支離滅裂な思考回路に陥っていた。
 
そんな俺を正気に戻したてくれたのは、先生方の機転だった。
 
先生たちも動揺はしていたのだろうが、それでも場を取り繕うように、口々に咲さんに祝の言葉を言って、その場の雰囲気を和ませたものにすると、俺と咲さんが、ゆっくり話が出来るように、セッティングしてくれた後、俺たちの気まずい雰囲気を気にかけながら、広間へ引き上げて行った。
 
先生方の御陰で俺は、こうして時間を置かずに咲さんと、話をする機会が持てた分けだけど、いざ二人きりになってみると、話さなきゃいけないことが、沢山あり過ぎて、正直言って俺は、何をどう話していいか分からずに混乱ていた。
 
「あの、突然お祝の言葉なんてかけられたら・・驚いちゃいますよね」
 
「・・・・」
 
「びっくりしたでしょう?」
 
「・・・・」
 
「咲さん。・・・・驚かせて・・すみません」
 
「いえ・・あの。・・せんせい?」
 
「は、はい」
 
「橘の家に、わたくしとの婚礼の許しを得に、行かれていたのでございますか」
 
「はい」
 
「なにゆえ、仰っては下さらなかったのでしょうか?」
 
「・・それは」
 
「先ほど結納金というお言葉が、聞こえたのですが」
 
何から話していいか迷っていた俺は、咲さんの言葉に、袂に入れていた結納金の入った袱紗を取り出していた。
 
「これは?」
 
「あの、結納金です。持っていったんですけど、栄さんに受け取って貰えなくて・・。あっ、でも結婚は許して貰えたんですよ」
 
「このような大金、一体どうされたのでございますか?」
 
「こ、これは、決してへんなお金じゃないです。私が今まで医学館と医学所への講義の対価として受け取った、ちゃんとしたお金です」 
 
「講義の対価?」
 
「はい」
 
「そんな、今までは医療の発展の為になれば良いと、お受け取りにならなかったではございませぬか」
 
「それは・・・」
 
「なにゆえ、なにゆえに意思を曲げられたのでございますか!」
 
俺の言葉に身を乗り出した咲さんの表情は困惑し、その目は驚きと悲しみに見開かれていた。
 
 
 

婚礼の夜 7

 
大吉屋で喜市と別れてから、仁友堂へと足早に歩いていた俺は、途中聞こえて来た時鐘の鐘の音に足を止めた。
 
「・・八つか・・・まだ、早いんだな」
 
鳴り渡る鐘の音が、八つで止まった事に、出かけている咲さんが、戻って来るまでには、まだ一時(いっとき)以上の時間があると、止めていた歩みをゆっくりとしたものに変える。
 
皆んなが待っていて、早く帰らなくちゃいけない事は、分かっていたけれど、俺は栄さんの許しも得、あれほど緊張していたのが、嘘のように浮き立つ気持ちに、もう少し浸っていたかった。
 
気持ちの余韻を楽しむように空を見上げる俺の眼に、頬をなでる風が、爽々と木々を揺らし夏の陽射しを遮っているのが見えた。
 
俺は木々の合間から、きらきらと輝く木漏れ日の美しさに、この時の全てを記憶に刻むように、時間をかけ仁友堂へと戻った。 
 
 
               ******************************
 
 
仁友堂の門は夜明けと共に開かれ、日が暮れるまで、誰でもが訪れやすいようにと、開け放たれている。
 
仁友堂に着いた俺は、その大きく開け放たれた門の上に、掲げられている『仁友堂』の文字を清しい気持ちで見上げたあと、門と同様に開け放たれた玄関を前に、大きく息を吸い込んだ。
 
「・・・ただいま戻りましたっ!!」
 
俺が声を上げた瞬間、それまで静まり返っていた奥から、どよめきが聞こえ、走り出す足音と共に、広間の方から佐分利先生、山田先生、八木先生、福田先生、横松先生が、転がるようにして出てきた。
 
玄関先に立つ俺の手を佐分利先生と山田先生が握り、後ろからその肩を掴むように他の先生が顔を出す。
 
「南方先生っ!!お帰りなさいませ」
 
「今か今かと、皆でお待ちしておりました」
 
「私、お待ちしている間、やはりご一緒すべきだったと、反省しきりでございました」
 
「で?どうでございましたか?」
 
「栄さんから、お許しは頂けたのでございましょう?」
 
皆んなの口から、怒涛のように発せられる言葉と、予想以上の出迎えに、咄嗟に言葉が出ずに、ただ笑顔で頷くだけの俺の姿に、固唾をのむようにしていた皆んなの表情がゆっくりと変わる。
 
「ぅおお―――― っ!!!」
 
湧き上がる歓声と歓喜の声。
 
それは仁友堂を揺るがせるほど大きなもので、俺の気持ちを更に高揚させた。
 
「栄さん、恭太郎さん、喜ばれたでしょうなぁ」
 
「結納金に、驚かはったんちゃいますか?」
 
「安堵いたしました。お一人で行かれたこと、お怒りには成られなかったのですね」
 
「いやぁ、良かった。本当に良かった」
 
「先生。おめでとうございます!!」
 
 
「あ、ありがとうございますっ!!・・ありがとう。これも先生方の御陰です」
 
次々と発せられる祝の言葉に俺は、皆んなの手を握り返し、何度も何度も礼を言っていた。 
 
大袈裟かもしれないけど、この時の俺たちは、一つの大事を成し終えた喜びを共に、かみしめるように称え合っていた。

 
 
「さ、咲さんっ!!」
 
興奮冷めやらぬ中、福田先生の裏返った調子外れの声に、その場が静まる。
 
振り返った俺の視界に、風呂敷包を抱えた咲さんが映った。
 
「咲・・さん・・」
 
「せんせい・・・そのお姿は・・?」
 
「さ、咲さん、産婆のお光さんと乳の指導に行かはったじゃ・・」
 
俺の格好に言葉もない様子の咲さんに、佐分利先生が上ずったように声をかけた。
 
「ゎ、わたくし、町のみなさまからお祝いの言葉をかけられて・・それで驚いて戻って来たのでございます」
 
咲さんが戸惑ったように応える言葉に、その場が一層静まる。 

 
咲さんは一体何時からそこに居るんだろうか・・・?
 
玄関先で歓声を上げ、喜ぶ俺たちを咲さんが、呆然と見ている姿に、俺たちはその場に立ち尽くした。
 
 
 

婚礼の夜 6

 
恭太郎さんと別れた俺は、橘家からの帰り、直ぐには仁友堂に戻らずに、その足で大吉屋へと向かった。

極度の緊張から、急に甘いものを食べたくなったのもあったけど、俺は現代で江戸に戻ったら、直ぐにでもするつもりで、それでいて延ばし延ばしにしていた事をしようと思っていた。
 
雑木林から竹林を抜け、顔なじみになった江戸の人たちと挨拶を交わしながら、以前の賑わいとは違って、どこか閑散とした通りを大吉屋へ急ぐ。
  
 

「先生!どうしたんだ?その格好。茜ねえちゃんから、先生が紋付着て安道名津買いに来たって聞いたけど、ホントだったんだな!」

通りから姿が見えたのか、俺が声を掛ける前に、盆に子安道名津と湯呑を用意した喜市が、店の中から出てきた。
 
「大事な用があって、恭太郎さんの所に行ってたんだ」

「大事な用?先生やっと咲様を嫁にもらう気になったのか」

俺の格好に目を丸くしていた喜市が茶化すように言う。
 
「ははは・・。それより喜市。この間頼んでたこと、おていさんに、聞いてもらえたかな?」
 
「えっ?ああ。二つ返事で良いよって。喜んでたぜおばちゃん。先生や咲さまには、世話になってるんだから、早く言ってくれりゃあいいのに、みずくさいって言ってたよ」
 
「そうか、良かった」
 
俺は以前から咲さんが留守をするときや、緑膿菌で寝込んでいたときに、善意で仁友堂の賄いを引き受けてくれていた、本所相生町の長屋に住むおかみさんに、仁友堂に住み込みで来てもらえないかと打診していた。
 
「だけど、住み込みって・・・。もしかして咲さん、また何処か具合でも悪くなったのか」

子安道名津を差し出しながら、喜市が心配そうに聞く。
 
「いや。咲さんは何処か悪いわけじゃないんだ。今まで咲さんに頼りっきりで苦労かけてばかりいたから、それじゃいけないって・・・。結婚もすることだし、ちゃんと医者としての時間をとれるように、少しでも負担を減らしてあげたいと思って、それで声をかけてもらったんだ」
 
「結婚?咲さん、所帯を持つのか?・・・一体誰と?」
 
「誰とって・・私とに決まってるじゃないか」
 
「先生と!!」

それまで心配そうに眉を寄せていた喜市が、すっとんきょうな声を上げて、開いた口もそのままに、まじまじと俺を見た。
 
「おかしいか?」
 
「おかしかないよ!!でも、ビックリして。実は町のみんなで、先生の目は節穴じゃないかって噂してたんだ。先生、早く咲さまを嫁さんにもらわなきゃ、逃げられるぞって」
 
喜市が大人びた口調で言う言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
 
「みんなの言うとおりだ。私の目は長いこと節穴だったみたいだ。よかったよ、咲さんに逃げられる前に気づけて」
 
「あははは・・なんか先生、崖から落ちて変わったよな」
 
「まぁな。此処に骨を埋める気でいるからな。いろんなことが見えるようになったのさ。それで喜市?おまえ何か心配事があるんじゃないのか?」

それまで笑顔だった喜市が、ハッとして辺を見回すと、俺の耳に口を寄せた。
 
「わかるのか?先生」
 
「判るさ、言っただろう。色んなことが見えるようになったって」
 
盆を持ったままの喜市が、俺の言葉に小声で話し始めた。

「茜ねえちゃんや、大吉屋の旦那さんは何も言わないけど、このご時世だろ?客も以前より少なくなって、大変そうなんだ。何か手助けしたいと思っても、オイラがいるだけで迷惑になっちまってると思うと・・・」
 
俺は、皿の上にある残りの子安道名津を心配顔の喜市に差し出していた。

「喜市、仁友堂に来ないか?」
 
「えっ?オイラが?そりゃ無理ってもんだよ先生。オイラもう15だぜ。今さら医者なんてなれないよ」

俺の提案に、喜市が子安道名津も受け取らず、両手を横に振る。

「そうか?喜市なら医者も無理じゃ無いと思うけどな」
 
「無理だって、第一オイラは商売がしたいんだ。先生にもおっかさんを助けてもらった払いもまだ残ってるし、稼がなくちゃ!!そうだろう?先生」 
 
「そうだな・・でも私が言ってるのは、医者になれっていう意味じゃないんだ」
 
「えっ?」
 
「喜市。仁友堂を切り盛りしてみないか?」
 
「仁友堂を?」
 
「ああ。咲さんの負担を減らしてあげたいことが第一だけど、餅は餅屋って言葉があるだろう。医は仁術って言って商売の場じゃないけど、それでも流通はある。ちゃんとした仕組みを作ることが出来たら、今まで具合が悪くても来れなかった人が、医者にかかろうって、思ってくれるんじゃないかと思ってるんだ」
 
「先生・・・」 
 
「喜市はずっと、商売の勉強をしてきただろう?だから・・・」
 
「先生!嬉しいよ。でも、オイラでいいのか?」
 
「ああ。喜市がいいんだ。喜市は、おっかさんの治療費。私がいいって言っても未だに届けてくれるじゃないか。そんな律儀なところがいいんだ。だけど、仁友堂の経営は難しいぞ、それでもやってくれるか?」

「オイラ頑張るよ」

「喜市ありがとう。咲さん聞いたら喜んでくれると思うよ」
   
「えっ、咲さん知らないのか?もしかして、おていさんのことも?」
 
「今まで苦労かけてばかりだったから・・・言えなくて」
 
呆れ顔の喜市の視線に、俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。
 
「先生らしいや。先生、早く帰って知らせてあげないと」
 
「そうだな。それに皆んなどうなったか、やきもきしてるだろうし。じゃ、喜市。茜さんや旦那さんには、私の方から話しておくから」
 
「うん、先生。ありがとう。オイラ本当に嬉しいよ」
 
「私も嬉しいよ」
 
俺は笑顔の喜市に別れを告げると、仁友堂へと急いだ。
 
 
 

婚礼の夜 5

 
白壁に反射する夏の陽射しが、少し和らいだ頃、俺は橘家の門の前で、恭太郎さんと二人、雲ひとつない真っ青な空を見上げていた。
 
橘家を訪れてから半刻が過ぎていた。
 
「母は、ああは申しましても、先生に感謝しているのでございます」
 
眩しいほどの空に視線を置いたまま、恭太郎さんがポツリと呟く。
 
「そうでしょうか・・・。私のせいで肩身の狭い思いも随分されたでしょうに・・」
 
俺の言葉に恭太郎さんが、徐に視線を向け、にこりと微笑んだ。
 
「そのようなことはありません。徳川の世が終わりを迎えた今、旗本である我らがこのように希望を持てるのは、先生に出会ったおかげに、ほかございませぬ。先生には命だけでなく、心も救うて頂いたと私は思うております」
 
「心?」
 
「はい。私や咲は言わずもながでございますが、上野から戻って来ましたおり、あの母が『恥を晒そうが生きることこそ是。これからはそのような世になるのです』と言った言葉に、母もまた先生に心を救っていただいたのだと思いました」
 
「恭太郎さん」
 
「母は蒲生殿の手前、婚礼に出ることはありますまいが、それまでの間、咲と共に過ごせること、心から喜んでおるようでした。しかしながら先生?一つお伺いしたいことがあるのですが、よろしゅうございますか」
 
「はい。何でも聞いてください」
 
「・・・母は用意もあるゆえ、明日からと申しておりましたが、実は不思議に思うてもおるとも思うのです」
 
「何をですか?」
 
「咲が嫁ぐ日までとはいえ、仁友堂に通うことをよく承知いたしたと・・」
 
「そ、それは・・。あの・・まだ、言ってないから、咲さん知らないんです」
 
「はっ?」
 
驚いたように目を見開く恭太郎さんの姿に、俺は自分の顔が赤くなるのを感じた。
 
「今日私が此処に来てることも・・・実は言ってなくて」
 
「なにゆえ其のような大事を?」
 
「・・・・・」
 
「察するにそれは、結納金のことで?」
 
「咲さんに余計な心配をかけちゃいますから・・・。だけど誤解しないでください。この結納金は、ちゃんとしたもので、報酬として受け取ったものなんです」
 
「報酬?」
 
「はい。でも、話してないから咲さん怒るでしょうね。また情けないっていわれるかなぁ・・。他にもまだ話せてないこともあって。結婚前にどうしても、しておかなきゃいけない事だから・・・。あっ、でも、今だけですよ黙ってるのは、結婚したら何でも話すつもりです」
 
図星とも言える恭太郎さんの言葉に、しどろもどろになって答えた俺だったけど、恭太郎さんは何故か、嬉しそうな顔を俺に向けた。
 
「咲の為なのでございましょう?」
 
「え?・・あっ、はい」
 
「では、婚礼を9月にと望まれたのも?」
 
「そ、それはどちらかというと自分の為で・・。本当はもう少し後、恭太郎さんが、フランスに行かれる直前の方が、いいかもとは思ったですけど。だけど私の方が、これ以上は待てなくて」
 
「・・・・」
 
「どうしたんです?」
 
「いえ。これ以上待てないとは・・。南方先生から、そのような言葉をお聞きするとは、正直思っておりませんでしたので・・」
 
恭太郎さんの言葉に、赤くなったまま照れ笑いを浮かべた俺だったけど、俺には9月に婚礼を挙げることに、こだわりがあった。
 
待てないことは、もちろん一番の理由には違いない。だけど、慶応4年の9月に元号が慶応から明治に変わることを俺は知っていた。
 
明治が始まる前、俺は俺を受け入れてくれたこの江戸で、咲さんとどうしても一緒になりたいと思っていた。
 
「南方先生」
 
「はい?」
 
「咲は先生を情けなく思うたりは、いたさぬと私は思います」
 
「恭太郎さん・・・」
 
「咲は幸せ者です。このように思われて・・・。先生。あらためて妹を・・咲をよろしくお願いいたします」
 
「は、はい」
 
気恥しさに、どうして良いか分からなくなっていた俺は、礼儀正しく頭を下げる恭太郎さんの姿に、つられるように深々と頭を下げた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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