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『ギターと子猫』
美知子の家から、お寺の裏手にある蓮の池まで坂になっていて、一度も自転車のペダルを踏むことなく行くことができる。家を出た美知子は、ブレーキのレバーを、ときおり悲鳴にも似た音を立てながら握り続けていた。
今日、小学校で美知子は、一日中、友達の麻由美から自分の誕生日にプレゼントされた子犬の話しを聞かされた。あげくに、いつもは下校のとき遊ぶ約束をするのに、子犬の散歩をしなければいけないから遊べないといわれたのだ。
美知子は、腹立たしさに、家に帰ってきて自分の部屋に入るなり大事にしているシロクマの大きなぬいぐるみを壁に投げつけた。
私も生きた動物が飼いたい。
そのときいい考えが閃いた。
ときどきお寺に子猫が捨てられていることを思い出したのだ。
もしかして今ごろ捨てられているかもしれない。
誰かに見つけられる前に行かなくてはいけない。
美知子は大慌てで自転車に乗った。
犬より猫のほうが絶対に可愛い!
美知子はブレーキに悲鳴をあげさせながら、何度も呪文のようにつぶやいた。
子猫はお寺のどこにもいなかった。
境内にのぼる階段で美知子は一休みをした。
ふと思いついてその階段の下を覗いて見いてみた。
そこには見慣れないものが置いてあった。
ギターだ。
本物を見るのははじめてだけれど、テレビで見たことがある。
「欲しかったらあげるわよ」
階段の下を覗いている背中にいきなり声をかけられた。
美知子は、慌てて振り向くと、巨大なUFOのような帽子をかぶった女性がいた。
美知子のお母さんぐらいの年齢だろうか。
「そのギターを捨てにきたところだから、好きならあげるわよ」
巨大な帽子の女性は、頭のてっぺんから響くような声を出す。
美知子は、どう答えていいかわからず立ち尽くしていると、
「もって帰りなさいよ!嫌なら捨てればいいんだし」
そう言うと、巨大な帽子をかぶった女性は美知子にギターを押し付けて、走るように立ち去ってしまった。
美知子は自分の部屋に入って、どきどきしながら、とりあえず大きなシロクマの横にギターを立てかけてみた。
「お母さんになんて言おう」とつぶやきながら弦をひとつ弾いた。
部屋中のものたちすべてを響かせるような音に驚いた。
いったいどこからこんな音がするのだろう?
美知子はギターをあらためて手に取り、あちらこちらを叩いたり触ったりした。
弦を一つずつ鳴らしてみる。
あきずに何度も繰り返しているとき、窓からカリカリという音がする。
窓の外を覗いてみると、立ち上がろうとするように子猫が窓をひっかいていた。
知り合いが写した一枚の写真。
子猫がギターを引っかいて、その音にビックリして小さな耳を震わせている写真を見て、ふと思いついた話しを書いてみました。
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