星谷 仁のブログ

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今年もフユシャク(冬尺蛾)の時期がやってきた。フユシャク(総称)は昆虫が少なくなる冬に(成虫が)出現するシャクガ科の蛾で、オスは何の変哲もない蛾なのにメスは翅が退化して飛べない。ペアになっていなければ、とても同じ種類とは思えないユニークな昆虫だが──そんなフユシャクのペアショットを観察&撮りにでかけてみた。
ターゲットはフユシャクの中では早い時期に出現するクロスジフユエダシャク。フユシャクの多くは夜行性だというが、クロスジフユエダシャクは昼行性。狭山丘陵では11月下旬頃から、落ち葉が積もり始めた雑木林の林床をオスが低く舞う姿が見られるようになる。今回の観察舞台はこんなところ↓。
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画像では判らないが、落ち葉が積もり始めた林床のあちこちでクロスジフユエダシャク♂が舞っている。
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落ち葉の上をさまようように舞うオスの姿は多いのだが、その割にメスはなかなか見つからない。以前は、擬木や柵などに(見つけやすい人工物の上に)たまたまとまっているところをみつけるのがやっとで、ナチュラルな状態(自然物背景)のメスを見つけるのが困難だった。
それが2年前に開発した(?)《オスの【婚礼ダンス】に注目する探し方》で、落ち葉の下に隠れたメスを見つけることができるようになった。
今回もこの方法でクロスジフユエダシャクのペアを探し出し観察することができたので、その記録。

【婚礼ダンス】でフユシャク♀探し

【婚礼ダンス】とはメスのフェロモンを察知したオスの「はばたき歩行」と呼ばれる行動。その意味については以前【フユシャクの婚礼ダンス】に(追記の)図解つきで説明しているので、ここでは省略するが……要するに《♂が♀を探しだすための行動》だ。
舞っていたオスが地上に降りて、せわしなく羽ばたきながら歩き回ることがある──これが【婚礼ダンス】だ。はばたき歩行をするオスが落ち葉にもぐっていけば、そこにメスがいる可能性が高い。そこでオスの【婚礼ダンス】に注目することでメスを探しあてようというわけだ。

しかし舞っている♂の数が多いと、どの♂に着目すればよいのか目移りしてターゲットがしぼりにくい。【婚礼ダンス】を始めた♂に着目すれば♀にたどりつける可能性は高いが、問題はどの♂が【婚礼ダンス】を始めるかだ。
2年前はじめて【婚礼ダンス】に着目したメス探しを試してみたところ、意外にあっさりと見つかったが、今回はまだ♀が少ないのか、♀がフェロモンを発する時間帯ではなかったのか(?)、なかなか【婚礼ダンス】が始まらない……。
そこで、【婚礼ダンス】が始まるのを待ちながら、どの♂に注目すべきか……次のように考えてみた。

・高い位置を飛ぶ♂はスルー/低い位置を飛ぶ♂の方に着目
・移動し続ける♂はスルー/同じエリアをくりかえし飛ぶ♂に注目
・複数の♂の軌跡が交錯するエリアに注目
・降りて静止した♂はスルー/降りて羽ばたき続ける♂に大注目

ランタムな軌跡で移動し続けるオスはメスの発するフェロモンがヒットする場所を探しているのだろう。フェロモンを感知すれば発生源をしぼりこむため付近を低く飛び、ニオイのするあたりを丹念に調べる。そしていよいよ発生源に近づくと降りてはばたき歩行をして最後の詰めに入りメスの居所をつきとめる──そんなイメージからの選択判断。降りてもそのまま静止するオスは、メスをみつけられずに翅を休めているだけと判断してスルー。
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特に注目すべき♂が現れず「まだ♀が出ていないのだろうか?」と思い始めた頃、数メートル離れたところで、突然【婚礼ダンス】が始まった。あるコナラの枯葉周辺で、降りては舞い・舞っては降りしつつ、せわしなく翅を振るわせ続けるオスが、しかも2匹! これは確実だなと思い、とりあえず2匹の【婚礼ダンス】を撮る。
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ほどなく1匹がコナラの枯葉の下に潜り込み──これで勝負あったと確信した。一方、タッチの差で問題の枯葉までたどり着いていたもう1匹のオスは突然メスのニオイを見失ったかのように、そこから離れて行った。メスは交尾とともにフェロモンの放出をシャットダウンしてしまうのかもしれない。
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問題の落ち葉の裏をのぞいてみると──果たしてクロスジフユエダシャクのペアが成立していた。
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撮影のため、枯葉をひっくりかえしてみると──、
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しばらく他の場所を散策し戻ってみると、まだペア状態でいたので、追加ショットを撮り始めた。すると突然の風で枯葉がひっくり返り、2匹はつながったまま落下。拾い上げようとしたら、オスは飛び去ってしまった。
残されたメスは死んだフリ(擬死)をしていた↓。
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擬死状態をいいことに、あまり撮ったことがなかった腹面ショットも撮影。
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フユシャクの多くが成虫はエサを摂取せず口吻が退化しているというが、クロスジフユエダシャク♀には短いながら口吻らしきものがあった(機能しているかどうかはわからない)。
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メスはすぐに擬死状態から復活したが、動き出すとこれがけっこう早い。オスとは全く違う姿をおり、知らなければこれが蛾の成虫とは思えない。
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ということで、今シーズン初のフユシャク・ペアショットと♀ショットはクロスジフユエダシャクだった。

クロスジフユエダシャクはなぜ隠れて交尾するのか

フユシャクという風変わりな蛾のことを初めて知った時には驚きがあった。
外温性(変温動物)である昆虫なのに、わざわざ気温の低い冬に出現し繁殖活動をするという生態にも驚いたし、蛾なのに♀は飛ぶことをやめ翅を退化させて、♂とは全くちがう姿になってしまったということにも驚いた。
ちょっと考えると、昆虫が活動するには不向きな冬にわざわざ活動するなんて非合理的な気がする。しかし、じっさいそうして生存しているのだから、合理的な理由があるはずだ。
昆虫の活動に不利な冬には、天敵となる昆虫もまた少ないはずだ。補食圧の低い冬に出現し繁殖することで生存率を高める戦略をとってのことだろう──そう想像して納得した。低温の冬に♀が卵のつまった体で飛ぶのは大変だろうが、天敵がいなければ飛んで逃げる必要もない。だから♀の翅は不要になったのかもしれない。とりあえず身軽な♂に飛翔能力を残しておけば、♀との出会いは何とかなる。
《意外性と合理性をそなえた生態》だと感心した。

しかし、フユシャクを色々見ているうちに、色々な発見や疑問がでてきて、当初想像したほど単純ではなさそうだと考えるようになった。

そのきっかけの一つを作ったのが、クロスジフユエダシャクだった。
このフユシャクは昼行性なので、発生期には日中、飛んでいる♂はたくさん見かけるが、その割に♀の姿が少ない。フユシャクに興味を感じて撮り始めてしばらくは、クロスジフユエダシャク♀は、たまたま見つけやすい擬木や柵などの人工物のにとまっているシーンしか見ることができなかった。昼行性なので、簡単に見つかりそうなものだが……自然の状態でいる♀はナゼかなかなか見つからない……。
それが、2年前に♂の【婚礼ダンス(はばたき歩行)】を追って♀を探し当てる方法を導入したところ、ナチュラルな状態の♀が次々に見つかるようになった。そうして解ったことは、♂を追って見つけた♀は、たいてい落ち葉の下にひそんでおり、♂も♀の元へもくりこんで交尾をする──ということだ。

視覚的には見えない位置にいる♀をみつけだす【婚礼ダンス】の威力にも驚いたが(♂の翅は飛翔のためだけでなく♀のフェロモンを感知するために役立っていた*)、♀が「見えないところに隠れている」ことも意外だった。隠れているのが通常のスタイルならば、なかなかナチュラルな♀が見つからなかったのも無理はない。僕はそれまで♀は葉の上に出てフェロモンを放出するイメージを思い描いていた。

しかし、そこで疑問が浮かぶ。「天敵がいない冬」に活動しているのだとしたら、なぜ♀は隠れており、♂は落ち葉にもぐって交尾をするのだろう?
落ち葉の上に出ていた方が♂に見つけてもらいやすい(ペアになりやすい=繁殖に有利)はずだ。にもかかわらず「見えないところに隠れる」のは《天敵──鳥などから身を守るため》なのではないだろうか?
活動している天敵昆虫・天敵爬虫類が少ない冬でも、鳥などの補食圧はそれなりにあって、昼行性のクロスジフユエダシャクでは「目立ちかつ無防備な交尾」を隠れて行なう習性を獲得あるいは保持し続けているのではないか?
そもそもフユシャクの多くが夜行性だというのも、冬でも昼は鳥などの補食圧がかかるためだからかもしれない。冬に天敵が全くいなかったとしたら、気温の高い昼間に活動する種類がもっといてもいいような気がする。

《フユシャクでも昼行性のクロスジフユエダシャクは隠れて交尾し、フユシャクの多くが夜行性なのは、鳥の補食圧があるからではないか》
【婚礼ダンス】でクロスジフユエダシャクのペアを見つけられるようになったことで、そんなふうに考えるようになった。
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