【中編連載小説】
「ちぎれ雲 〜起立編〜」第十三話
星ひかる著
顧客のために尽くさなければならないのが証券マンだと信じていた。
だが実際にはそうではなく、なにをおいても会社のために尽くさなければならない。
証券会社とは、そういうところだった。
勿論、営利を目的とする株式会社である以上、会社のために尽くすことは極めて当たり前だとは思うが、個人の資産を預かる立場の証券会社は、違うと思っていた。
顧客が儲かるのか損するのか、資産を増やすのか減らすのか、それは、あくまで結果であり、儲かれば、それは相場が良かったということで、損すれば、それは相場が悪かったということ、
要は会社が無くなっては元も子もなくなる、自分たちの給料すらなくなる、だから手数料を会社の収入としている以上、そして自分たちの給料が顧客から頂く手数料から出ている以上、その手数料を稼がなくてはならない。
証券会社とは、そういうところだった。
相場の結果など気にする前に、上のいうことが多少理不尽に聞こえようとも、まず大事なのが営業目標の達成だ、四の五のいう前に、会社の収益のために働いていさえすれば良いのだ、と上司と名の付く者は皆、口を揃えていう。
こうして独り酒を飲み、寒空の中、夜風に刺激を受けて、証券時代のことを思い返してみると、かつて、エレベータの中で社長にいわれた、「バカになれ」の言葉がふたたび甦ってくる。
証券会社を辞めたいま、その意味はわかるが、やはり私にはなれない。
「顧客は出世のための道具」と、言い切る者もいたが、私には出来ない。
「自分はそうして、いまの支店長の地位を得たんだ」
と得意になって話していたが、私には出来ない。
私はそんな上司を哀れに思っていた。
そして、とことん反発もしたが、そういう上司ほど出世してゆく。
証券会社とは、こういう世界なのだ、と諦めるしかなかった。
いいや、自分が変えてみせる、と片意地張った時代もなくはなかった。
侃々諤々の精神を貫けるだけ貫こうと、仲間も集め組合の委員長にまでなって、張れるだけの片意地を張ってきた。
経営者側からの風当たりは強くなった。
平社員も同然の私が、戦々恐々と時代を生き抜いてきた大役員様に盾を付くのだから、彼らにしてみれば、そんな私の存在は、胡散臭いの一言だったろう。
私たちの取った行動に対して、組合員からの支持は日に日に増えてゆく。
「もっとやれ、ボーナスもっと増やせ」
激励なのか、ただの傍観者のヤジなのか、賞与の交渉時期には毎度の盛り上がりをみせていた。
だが、その反動で、私たち組合に対する上からの風当たりは、その強さを増すばかりだった。
遂には、突然、地方への転勤を命じられる者も出た。
その中には、ローンを組んで家を買ったばかりの組合委員もいた。
「ごめん、辞めることにした」
こうして、組合の委員として私を助けてくれた多くの仲間は、ひとり二人と減ってゆく。
散り散りにされた。
辞めてゆく彼らを責められない。
総ては私のせいに違いなかった。
彼らには詫びを入れた。
けれど、彼らには、恨み節も悲しい顔もない。
私は寂しかったし、悲しかったが、何故か彼らは誰も皆、清々しい顔をして去っていった。
そんな彼らをみるにつけ、うちの会社は、こうも人の心を苦しめていたのだろうか、とやはり悲しかった。
彼らがみせた清々しい感情の表れの意味は、自分が辞めてみて初めて知ることとなったが、
結局、ちぎれ雲となったのは、私だけだったのかもしれない。
ならば、そう、最後に散り散りにだけはなるまい、と改めて、この寒空に思い誓うのだった。
〈第十四話へ続く〉
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わたしも組合を立ち上げたうちのひとりです。
どんどん切り崩されて、最後は3人になってしまいました。
一年も遅れて一時金を手にしたことも2回はありましたよ。
でも、そういう社風は許せなかったのです。
最後は和解できたので、一応の終止符は打てたと思います。
和解=会社側の敗北 でした。
2015/11/3(火) 午後 4:43 [ ねずみ ]
ねずみさん、こんばんは。
うちは、いわゆる御用組合でしたのを私が少し主張する組合に変えてしまった、
という経緯があります。
議事録も碌になかった御用組合。
それをこと細かく解説つきで組合員に配付していました♪
案外、経営側と組合とでチャンチャンとやってた伏があって、
そこに透明性を出しただけなんですが、これが凄かったです。
横槍や風当たりが……( ̄▽ ̄;)
なんでもかんでもばらすな!
とお怒りを買いましたね(笑)。
いつもありがとうございます。
2015/11/3(火) 午後 6:17 [ ホシヒカル ]