【中編連載小説】
「ちぎれ雲 〜起立編〜」第十四話
星ひかる著
証券界には一種、魔物が棲んでいる。
そうなのだ。
証券界には、魔物が縦横無尽に存在し、誰に取り憑こうか黒い影に光る視線を向けて待ち構えているのだ。
魔物は時にお金そのものであったり、欲となって姿を変えたりもした。
私は、この魔物と十四年もの間、戦い続けてきた人間だ。
この魔物に蝕まれ身を滅ぼす者も数多い。
金と欲に取り憑かれ、消えていった人間も幾人となくみてきた。
この世界にしか生きて行けない人間もいる。
私は、何故証券会社に入ったのか。
教授のいうことも聞かずに、何故。
そうだ。私は、この世界で成功して社長にまで登り詰めようという、野望があったはずだ。
いいや、あったのだ。
しかし、大企業という組織の中では、それを果たすことは出来なかった。
それは、私の持つ性質によるものだということはわかっている。
いまでは自覚もある。
私は元来より、人の意見を聞かない人間だった。
他人からあれやこれや指図されるのが嫌いだった。それはたとえ親であっても。
他人に相談するときには、大抵のことは自分の中で解決していた。
私が相談するということは、ただ同意を求めるものでしかなかった。
いつの時代もどこでもリーダー格を張っていることだけに満足し、なんの進歩もなく過ごしていたのだ。
要は、我が儘で身体だけ大きな子供だったのだ。
面倒見だけはよかったから、人もそれなりに着いて来てはくれた。
多くの仲間もいたが、私を嫌う人間も同じだけいた。
尖るだけ尖って、触るもの総て、傷付ける勢いを持っていた。
そんな自分が嫌になり、自暴自棄にもなった。
いつしか私は、生きることにも疲れるようになっていた。
これだけの材料があれば、私なぞ小さな人間が、日本の企業組織の中に居られなくなるのは当然の結果であったのかもしれない。
これら総ての自分の性格を自覚することで、いよいよ私は己の居場所も見付けられないでいた。
そして遂には、探そうとさえもしなくなった。
私は、自分自身を変えるために会社を辞めたのだ。
少なからず、それが動機としてあったことは確かだ。
組織から、はぐれ、ちぎれ雲となった私は、決して、そのまま散り散りになんかなりたくはない。
あの憎たらしいくらいに青い空に掻き消されてしまうちぎれ雲なんかになりたくはない。
私の中で、なにかが弾けたような気がした。
私の全身の毛という毛が逆立っている。
獣にも似た感覚が、私の脳を支配していた。
自分がなにをすべきなのか、やりたいのか、朧気ながら、わかったような気がした。
その晩私は、深く静かな眠りに就いた。
〈第十五話へ続く〉
|