【泣き虫社長の投資日記】☆星ひかる☆

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ちぎれ雲 〜起立編〜

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【中編連載小説】

「ちぎれ雲 〜起立編〜」第十八話

星ひかる著




そもそも株式型投資信託は、その名の如く株式を運用しているのである。

それにもかかわらず、誰が決めたのか、投資信託は「長期保有」というのが、証券界、金融界の決め事になっている。

私は投資信託が長期保有でなければならないなんて、一度たりとも思ったことはない。

まして、いま挙げた株式型投資信託ならば尚のこと、その運用方法は当然、株式を買い付けて保有しているわけで、おまけに、総資産の七割以上を常に株式で持っていないとならない決まりもある。

もし仮に、その運用先である株式自体が、上がることはあっても下がることはないと約束出来るのなら、その投資信託を長期に保有するのを義務付けることも出来るだろうが、そうでない以上、株を直接買ったときと同様、投資信託も上がったら自由に解約することが出来て当たり前にしなければならないし、その方が断然得策に違いないのだ。

株が下がってしまえば当然投資信託だって下がってしまう。

これは投資信託を買った投資家が損をするということでもある。

現に僅か一年足らずの運用で投資信託の基準価格が半分以下になってしまっているものもあるくらいで、半分とまではいかなくとも、七割八割くらいまで値下がりしている投資信託はざらにある。

日本経済新聞には毎日、オープン型といって、いつでも売買が可能な投資信託の基準価格を掲載している。

基準価格とは、いわば株式でいうところの株価みたいなものである。

それをみればわかることだが、大抵の投資信託は、発行時の基準価格一万円を大きく下回っている。

長期保有を前提にされた株式型投資信託の成れの果てでもある。

顧客にも営業員にもそこに、なんの利もない。

こんなもののために、いま神坂は苦しめられている。

勿論、神坂の上司である佐伯も本部からの締め付けが厳しく、心の中では泣いていることだろう。

証券会社が従業員を締め付け、苦しめてまでも投資信託の預り資産を増やしたいのには、からくりがある。

その一つが投資信託の預り資産に応じて発生する信託報酬の確保である。

経営者としては安定した収入は是非とも欲しい、なにがなんでも欲しい収入源に違いない。それがここにあった。

株式売買手数料は、その時々の相場の活況具合によって変動する、いわば水物である。

しかし、信託報酬は水物の売買手数料とは真逆の安定収益だ。

株式型及び債券型投資信託の総資産のおよそ1.5パーセントが収益となるのである。

(厳密にいうと、この信託報酬を証券会社と運用している信託会社で折り半としている。)

投資信託を顧客に買ってもらって一年以上持っていてもらうことで、表の手数料の2パーセントと、この信託報酬とがセットで入るのである。

信託報酬などと名付けされているが、顧客側からみると人を馬鹿にしたようだが、「運用してもらったお礼」と云わんばかりに、それは基準価格より勝手に天引きされる仕組みなのだ。

投資家自身、改めて直接お金を支払うものではないから、この存在を知らない投資家もいることだろう。

おまけに、損をしていようが得をしていようが、この信託報酬は確りと同じ率だけ天引きされてしまう。

成功報酬ならまだしも、抜け目なく編み出された身勝手な仕組みである。

もう一つ、隠された仕組みがある。

株式運用であれば、それは当然株式を買い付けたり売却したりしなければならない。

株式を売買出来るのは証券会社だけだ。

そう、その売買手数料もまた証券会社の収益になるのである。

その投資信託が総て自分のところの証券会社で販売したのなら、その売買は総て信託会社からの注文として頂戴することが出来る。

手数料の総てが自分のところの収益となるのだった。

仮に、五百億円を集めた投資信託があったなら、表の手数料が十億円。

確り七割が運用されれば、その買い付け手数料、ざっくり1パーセントとしても三億五千万円。

一年後には、信託報酬として七億五千万円の半分が入る。

証券会社には、トータル十七億円なにがしが黙っても入るのであった。

会社にとって投資信託は打出の小槌なのだ。

私が考えるに、もう一つ、投資信託本来の懸念が存在する。

最大の懸念といってもいいかもしれない。

それは資産減少に伴うリスクである。

解約には儲かっているから売るのと、下げ相場に投げられて売るのと、二通りあるが、得てして利益あるときはなかなか売らない。

顧客がまだ上がるんじゃないかと観てしまうこともあるが、大半は証券会社が売らないよう誘導してしまうのである。

理由はいままで述べてきた通り、投資信託の保有資産重視の経営方針のためだ。

証券会社から投資信託を売るよう奨めにいくときは、大概が下がって損をしているときで、

「いい銘柄がありますが買いませんか。資金がない、ならば、この損してどうしようもない投資信託を売って、この株買って取り返しましょう」

誠に身勝手な言い分ではあるが、こうする以外に方法はないのだ。

解約イコール、運用株式の売却だから、これを繰り返しやれば、資産はみるみるうちに減ってゆく。

五百億円あった資産が半分になり、三分の一になり、百億円を切り、最後に数億円ともなれば、もうその投資信託は運用どころではなくなる。

株式なら何年か後に買値に戻ることもあろうが、こうなった投資信託は戻るどころか強制的に解約され、それぞれに分配されて終わるのだ。

言い付け通り、長期保有していた投資家は馬鹿を見たことになる。

私もこの投資信託には苦しめられてきた口だ。

証券会社と信託会社のためだけにある、こんな都合のいい商品は、真の必要悪であり、やはりそんな商品を躍起になって販売する証券会社自体も、必要悪な存在にしか、私にはみえなかった。




〈第十九話へ続く〉



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