【中編連載小説】
「ちぎれ雲 〜起立編〜」第二十四話
星ひかる著
私はいまこうして、信用取引を使わない株の売買で生活費を得ているが、この方法にも限界が来ていることを感じている。
毎月毎度、今回のH社の売買のように上手く行くとも限らない。
日々相場は動いている。きょうも明日も。
こそこそと行く宛もなく、ただ奈良の町並みや神社仏閣を歩き回る一日が、勿体なくも思えてきた。
毎日の相場で稼げれば、それは安定収入になる。
一日の変動は良くて、七、八%だが、これだけ動けば利益は充分に獲れる。
悪くても二、三%は動く。
二%でも投資額が三百万円あれば、六万円になる。
これも充分だ。
だがそれには、体面営業のABC証券では手数料が高過ぎる。
折角の変動幅も手数料に喰われてしまう。
私は、ネット証券に口座を作ることにした。
先ずは、どのネット証券が手数料が安く、しかも取り引きする上での利点があるかなどの情報を仕入れなければならない。
近鉄線の学園前駅に降り立った私は、家に帰る前に、本屋へ立ち寄った。
株に関するノウハウ本は以前ほどではないものの、いまでもコーナーを仕切って揃えられていた。
最近は株式だけでなく、FX取り引きも盛んになっているようで、株式関連と同等の占拠ぶりである。
チャート論を詠うものから、百万円から一億円を稼ぐと詠っているもの、サイドビジネスに株式取引を推奨するものと、その数挙げれば限りない。
そう簡単なものではない、とわかっているつもりだが、こうもあからさまに本という形で活字にされ、株式を安易に取り上げられると、誰にでも出来てしまうと感じてしまう。
そればかりか、誰もが大金持ちになれるんじゃないか、という気にもなってくるというものだ。
私は、特集で、数多くのネット証券を比較検討している雑誌を手に取り、レジに向かった。
そのとき私の目に飛び込んでくる二つの文字があった。
「起業……」
私は呟いていた。
それは会社設立のための本だった。
そうだ起業しよう。
起業して株式投資をしよう。
私は、もう決めてしまっていた。
いつまでもプラプラしていられない。
私は、会社設立に関する本を二冊、手に取っていた。
支払いを済ませ、家路を急いだ。
いまではすっかり通い馴れた家並が私の前にある。
だがきょうの風景はいつもと違った。
夕焼けが一気に染め抜いていて美しくみえた。
妻はまだ帰っていない。
私は、風呂に入るのも忘れて、会社設立の本に読み耽った。
いますべきこと、用意しなければいけないものなどをところどころメモにも取った。
私は自然と、社長として動き回っている自分の姿を想像していた。
そこには、希望があるように思えた。
私は、はっとした。
私はまた、妻に相談もせずに決めてしまっている。
この性格は、どうやら、一生直らないらしい。
独りの私は、やはり独りで納得した。
〈第二十五話へ続く〉
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