【中編連載小説】
「ちぎれ雲 〜起立編〜」第二十五話
星ひかる著
会社を設立するのに必要なもの、それは、会社の印鑑、定款の作成、会社の名前も考えないといけない。
そしてなにより、資金がいる。
私は、一体、どれほどの資金を用意できるのだろうか。
私自身の預貯金は殆どない。
妻は妻できちんと預金をしていることは知っているが、その妻に黙って会社を興すわけだから、それを当てには出来ないし、するつもりもない。
となると、私には、現在ABC証券に預けている株式三百万円くらいと、幾ばくかの退職金がある程度だ。
一流企業でないだけに、その退職金は雀の涙といってもよく、十四年以上勤めて二百数十万円しかなかった。
そのうちの数十万は、奈良への引っ越しで既に使ってしまっている。
「五百万円か」
私は、呟いていた。
五百万円あればなんとかなりそうな気もするが、そう甘くもないとも感じる。
試しに、会社を作るまでにどのくらいの費用が掛かるのか計算してみる。
なにをおいても事務所となるマンションは借りなければならない。
生活の拠点である自宅を仕事場にすればコストを抑えられるのはいうまでもないことだが、それをするには、妻に、私の置かれている状況を総て話さなければならなくなるわけで、いまは当然、無理だ。
多少のコストは仕方ない、とはいえ、ざっと見積もっても、敷金礼金保証金やらなにやらで、五十万円は必要だろう。
事務所には机やパソコンも新たに買う必要がある。
細かくいえば、電気ガス水道も通さねばならないし、電話機もいる。
これだけでも三十万円は掛かるだろう。
会社を設立するということは、定款の承認費や登記申請の際の印紙代も必要になる。
会社印の作成費等を合わせると、やはりこれも二十万円くらい掛かる。
それら総てを合算すると、会社設立までに、およそ百万円がいる。
咄嗟に会社を立ち上げようなどと思った私は、こんなにも費用が掛かるなど想定に入れていなかった。
当面の生活費も取って置かなくてはならないから、株式を運用出来る資金としては、三百万円程度になってしまう。
五百万円といえば大金であるが、こうして事を興そうとすると少ない金額だった。
人間が生活をし、その生活を守るということが、こんなにもお金の掛かることだということすら私は忘れていた。
こんなことなら、いまのままひっそりと騙し騙し過ごすことの方が楽なのではないか、とすら思えてきた。
いいや、このまま終わってはいけない、私は、新たなるプレッシャーと戦わなければならない。
そのためにここ奈良に来たんじゃないのか。
大それたことを考えてしまったのか、と自分の思い付きに嫌気もさすというものだが、もう私の気持ちは動き出している。
そうだ、独りきりでもいい、私の会社を作るのだ。
ちぎれ雲の私は、どこまでもちぎれ雲らしく生きて行く運命にあるのだ。
私は、しばらく目を瞑り、自分のこれから取ろうとする行動を想像してみた。
私自身のこの決意は本物なのか、揺らぐことはないのか、問うてみた。
「やるだけやって失敗し、会社を潰すようなら、それも運命だ」
ひとつ切りのちぎれ雲が、散り散りにされたに過ぎない。
青い空に掻き消されたと思えばいいだけのことだ。
ひとつ切りのちぎれ雲が、たくさんの雲を呼び込んで、雨を降らせることとなれば、その大地は潤い多くの実りを生む。
私は、そんな実りを多くの人に授けるちぎれ雲であり続けるのだ。
そして生きるのだ。
〈第二十六話へ続く〉
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…そんな実りを多くの人に授けるちぎれ雲であり続ける…そして生きる…。
ちまちましているように見えて、これは壮大な夢・希望ですね。
2015/11/30(月) 午後 5:09 [ ねずみ ]
ねずみさん、こんばんは。
やはり主人公ちまちましてる風ですかね(笑)。
なよなよしてるかもなあ(爆)!
でも夢だけは大きいんです。
いつもありがとうございます。
2015/11/30(月) 午後 9:36 [ ホシヒカル ]