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恋愛小説 「変身」

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 しかもその超越したレベルが半端ない。それが正直な感想。
「きららさん。俺と付き合うのも悪くない思うで」
 あたいを満足させたという自信の表れなんだろう。
 話し口調が、すっかりくだけていた。
「山ちゃん。あたいやっぱり、外見って気にするんやわ。だからな・・・・・・」
 正直な気持ちをぶつけようとしていた。
 だけどその気持ちをどう伝えていいのか、よく分からない。
 それくらいあたいの気持ちはまったく整理がついていない状態だった。
「だから何? きららさん。外見なんて、3日もすれば飽きるし慣れるって」
「どういうこと? あたい未だに睦男のことは、全然飽きてなんかないけど」
「そんなわけないって。初めて会ったときの感動覚えてる? 今もそのときと同じドキドキって続いてる?」
 そう言われると悔しいけど、彼の言う通りかも知れない。
 睦男のルックスが良いのは間違いない。それは今でもそう思う。
 だけど彼を初めて見たときの衝撃は、さすがに今はない。
 だからといって、それを認めたくない。
 またそれ以上に、山崎に慣れるなんて考えられない。
 それでも今彼に1時間ほどのプレイで、最高の興奮と快感を与えてくれた。
 彼の問いにすらどう答えていいのか、大きなはてなマークがついてしまった。
「よう分からんけど」
「きららさん。人間生きていくのに必要なのは、『衣食住』って言うやん。でも、ほんまは違うんやって」
「ほな、何て言うん?」
「お金と嬉しい言葉、そしてセックス」
 山崎の言っていることに間違いはないような気がする。
 だけど彼の勝手な意見だと思うけど。
「山ちゃん。また来たん?」
「今日はきららさんに大切な話があって来たんです」
 山崎はきっとまた、あたいの気持ちを動かそうとでも思って来たんだろう。
 いくら彼が頑張っても、無駄なこと。
 それに、こんな何回も同じような話をするのもうっとうしくなる。
 今日こそは、はっきりと断ってやろうと思った。
「山ちゃん。この前の話やったら・・・・・・」
「きららさん」
 山崎はあたいの話をさえぎった。
 あたいの口を彼の口が塞いでしまったのだ。
 咄嗟に突き放そうとするが、何しろ相手はゴリラみたいな屈強な体格の男。
 微動だにしなかった。
 あっという間にあたいはベッドに押し倒され、山崎の右手があたいの左胸をわしづかみに
していた。
「山ちゃん。話があるんちゃうの?」
 あたいの話には耳も貸さず、あたいの胸に顔をうずめた。
 それから1時間ほど。
 あたいは、今まで体験したことのない快感に酔いしれた。
 途中何度も頭も体もおかしくなるかと思った。
 今まで、睦男があたいのすべてだった。
 それくらい睦男は、ルックスも身体の相性もあたいにとっては最高だった。
 勿論、ルックスは山崎なんか比べることすら馬鹿らしい。
 でも今正直身体の相性というかこのセックスという行為は、山崎が睦男を凌いだ。
「ですが、申し訳ありません。胡蝶さんとお付き合いするつもりなんかないんです」
「えっ、でも穐田さん・・・・・・」
 まことに言われたとはいえ、睦男と付き合うことを心から期待はしていない。
 それでも今の睦男の発言を聞き、早くも男性の裏切りを体験した。
 同時に、恋愛に対する希望の光が完全に消えてしまったように思えた。
「申し訳ありません。胡蝶さんにプロポーズめいたことをしたのは事実です。でもあれは、実は狂言
というか、芝居だったんです」
 簡単に私を騙すような男の話をまともに信じることはできない。
 だけど彼が今言っていることは、嘘ではないような気がした。
 彼の表情もそう。
 目が泳いだりしていない。すごく落ち着いている。嘘をついていたら、こうはならないはず。
 更に彼がこんな告白で嘘をついても、何のメリットもないはずだし。
「芝居って、なんで? いったい何のため?」
「俺の目的は、胡蝶さんとお付き合いさせていただくことじゃないんです。本当の目的は、きららと別れる
ことなんです」
 『他人の不幸は蜜の味』―――ふと、そんな言葉を思い出した。
 睦男の話を聞いた瞬間、邪悪な心が顔をのぞかせた。
 きららに対して何の恨みもない。だけど彼女には悪いけど、彼と彼女は幸せになる運命じゃない。そう
思った。
「きららと別れたいから、私を好きになった。そういう風に彼女を思わせようって思ったってこと?」
「実はですね、胡蝶さん。もっと本当の話をしてもいいですか?」
 私からすれば、まったく異星人。
 そう言ってもおかしくないくらい、彼と私は知能レベルが違いすぎる。
 だけどそんな彼が、私でも首を傾げてしまうような不思議な日本語を遣った。
「本当の話って何? まだ何かあるん?」
「実はきららなんですが・・・・・・」
「胡蝶さん。やっぱり戻ってきてくださるって信じてました」
 翌日、私は睦男のマンションをいつも通り訪れることにした。
 昨日家に帰ってから、もう一度自分の気持ちを整理してみた。
 やっぱりまことが言ったみたいに、恋愛に対して完全に絶望している。でも理想が現実に
なるんだったら、恋愛はしてみたい。
 現実的に、そんな理想通りになんていくはずがないと思っている。
 だから、もう恋愛はしないって決めたのだ。
 要するに、傷つきたくない。
 だけどこれもまことに言われて思ったんだけど、期待しなければ傷つくこともない。
 それだったら、ダメモトで試してみよう。そして、まさにまことが言ったようにしてみようと決めた。
「穐田さん。ほんまに私のこと幸せにして。それができるんやったら、ずっとここに来るっていうか、
ずっとここで一緒にいてるから・・・・・・」
「戻ってきてもらって、本当に有難うございます。実は胡蝶さんに聞いていただきたいことがあるんです」
 私の身体に緊張が走った。
 昨日もまことに驚かされ、ショックを覚えたところ。
 睦男もまた同じようなことを言うのかもしれない。
 そう思い、ドキドキしている。
「何、聞いてほしいことって?」
「俺、胡蝶さんは本当に美しい素敵な女性だと思います」
「有難う」
 睦男はすごく神妙な顔をしている。
 とてもじゃないけど、今からプロポーズをするような顔ではない。
 しかしながら、彼の言いたいことはまったく想像がつかなかった。
「2人とも選ばへんこともあるかもよ。そうなったら、どうすんの?」
「そんなことにはなりません。蘭さんは、必ずどちらかを選ぶことになります」
 今度は予言者のような発言だ。
 私の頭では処理できない。
 インテルでも入っていれば、結果は違ったかもしれないけど。
 そんなことを思うかたわら、小学校時代の自分を思い浮かべた。
 今でも忘れない。
 九九のテストを返してもらったときのこと。
 担任の教師の名前は、未だに憎らしくてはっきりと覚えている。
 担任の山城はテストを返す時、「みんなよくできてましたよ。たったひとりを除いては。そう。
みんな百点でした。でも、なんでかしらないですけど、ひとりだけ50点の子がいました」
 馬鹿にしたような言い方で、教師とはおもえないようなことをクラス全員に向かって言ったのだ。
 この瞬間から、私の勉強嫌いが幕を開けたのだった。
 あのとき担任が山城じゃなかったら、今頃インテルが入っていたかもしれないのに。
「えらい自信ありげに言うてるけど、なんで?」
「蘭さんも恋愛が必要だって、もう分かってるはずです。ただまた傷つきたくない。その恐怖が邪魔してる
だけなんです。でもその恐怖は、絶対なくなりますから」
 まことは自信がないなんて言っているけど、自信満々なのに違いない。
 私がまことを選ぶと言う前提で話をしている。
 そう感じた。
「蘭さん。念のために質問します」と言って、まことが話を続けた。
「もしそんな恐怖がないって確信できるんなら、恋愛したいと思いませんか?」
「それは、そう思うよ。そやけど、そんな確信持てるなんて思われへんから。男の人がずっとひとりの
人だけを大切にするなんてありえへんって思ってるから」
 私の思いを素直に彼に伝えた。
 本心は、そんな男性がいてほしい。
 その心の叫びも込められていた。

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