|
『薔薇十字団』マッキントッシュ(ちくま学芸文庫2003)
全13章に渡って編年的網羅的に社会運動としての薔薇十字運動の輪郭を文献に基づいて跡付けている為に、記述は抑制されていて表現は簡潔である。壮大な未知なる古代以前の文明への視線、近代科学の揺籃期に玉石混淆していた錬金術、ローマ教会からルーテル運動まで神そのものよりは現実に実体のある宗教社会、宗教組織を当たり前の前提として依存しきってしまった既存の表側の宗教意識、宗教精神に反発して裏面で興る別の壮烈な社会潮流であるテンプル騎士団、フリーメイソン、イルミナティ、シオニズム、等々との関係。又思想潮流としてのグノースチツィスムス、ヘルメティシズム、プラトニズム、ピュタゴラシズム、カバリズム、等々の諸潮流を引き継ぐもの一つとして薔薇十字をつまびらかに解明することが如何に困難な作業か、他の諸潮流の実態も明白でないのにそれらとの関係を問うたところで、薔薇十字団自身の実態すらも危ういことが判る。
古代以前の謎、錬金術の実態も今尚謎であるが、この薔薇十字団運動の実質的な創始者は、『名声』『告白』『化学の結婚』を書いた17世紀震源地チュービンゲンの新教学者アンドレーエであり彼こそがファウスト博士以前の博識者ローゼンクロイツをこの友愛団の始祖に見立てた物語を掘り当てたのだった。17世紀ドイツ、意識が肥大化し社会が変動し始めつつも半ば自覚的であれば見出されるであろう神秘主義の別の在り方が博学の人物主義という形で展望され成就されようとしていた時代。そしてそれは、この謎の数々の一つとして象徴としての薔薇、十字架としての薔薇の起源を加えなお一層厚みを増すことになったのである。
|