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鉄は熱いうちに打てとは良く言ったものだ。
主に若いうちの苦労は買ってでもしろ、に近いものがある。 確かに、若いうちの吸収力は尋常ではない。 バリバリと吸収し、自分のものとして定着させ、さらに進化させる。 そんな力を人間は秘めているように思う。 だからと言って、人間の可能性は無限大だ!なんて呑気なことを言うつもりは毛頭ない。 確かに可能性はある。 しかしそれはそこらへんを這っているミミズだって、数億年のちに高等生物に進化する可能性が皆無だと言うわけではないのと同じだ。 だが、可能性は可能性であって、ラプラスの神をもってしても未来を確定させることは無理だ。 鉄は熱いうちに打つからこそ、いろいろな形に変化させることができる。 人間だって同じじゃないか? 早めに叩き上げることが重要だ。 一昔まえのゆとり教育の反動だろうか。ことさらに「厳しく」といった口調が目立つ。 人間とはかくもいい加減なものか。 会社でも「反ゆとり」への動きが止まらない。 ゆとりはダメだとか、無駄を省けとか、とにかく「怠けるな!」と号令をかける。 よほど悪意をもった人間で無い限り、自分の職務を全うし、少しでも良い仕事をしたいと願っている。 特にソフトウェア開発に携わるエンジニアには、独立独歩の気風が強く、他人にとやかく言われる前に、自分で仕事を片付けたいと考えている者が多い。 よほどの新人で無い限り、与えられた仕事はそつなくこなす。 すでに彼らは「熱い時代に打たれてきた」人間なのだ。 しかし、それを理解しない管理者はどこの世の中にも居る。私の会社にも居る。 猛烈な納期プレッシャーと、技術的というよりも政治的な判断によって歪められた仕様、宝くじに当たらない限り無理なコスト。 それから、顧客だってそこまで言わないだろう品質要求。 管理者は 「とにかく、いじめ抜くことが大事だ。甘やかしてはいけない。ゆとり教育を見ろ。だからダメに成ったんだ。 少々スパルタだって良いじゃないか。俺だってそうやって強くなったんだ」 と。 試練とは未来永劫つづく責め苦のようなものだと勘違いしている管理者も多い。 そんな試練は地獄の罪人でさえ勘弁してもらいたいだろう。 私の同僚が納期を20%と、予算も20%削られた。 それでも彼はなんとか頑張って、スケジュールを調整した。 すると上司は言うのである。 「なんだ、やっぱり余裕があったんじゃないか」 と。 それからまた納期と予算を剥奪していった。これは盗賊のやることではないか? 可哀想な同僚は身ぐるみ剥がれてしまった。 こんなことがあったら、この上司には二度と正直な納期と予算を申請しない。 時々嘘をつくと、それは上司にバレてしまうから、彼のやる行動はひとつになる。 そう。いつも”嘘をつき続ける”ことである。 嘘を100回言い続ければ、どこかの国のプロパガンダよろしく、それは周知の事実となる。 もちろん嘘なんだが、周りが嘘ばかりなら、その環境では真実になる。 そうやって、職場が嘘の塊に汚染され、じわじわとがん細胞が広がって死に至るように、組織は死んでいく。 私はかつて、ひとつの地獄の環境で仕事をしていた。 一週間はかかるだろう仕事を、一時間でこなすように指示された。 必要な調べ物をしていたら罵倒された。 「馬鹿野郎!そんなものは家でやれ!家で!」 家に帰っても、風呂+食事+睡眠で6時間も無い状態ですら、それを強制された。 高熱で意識不明一歩手前の状態で寝込んでいたら、会社に呼び出しを食らった。 10回のうち1回でもうまく行けば、次にはそのコストを半分にするように言われた。 まだ若かったから、社会とは地獄のような場所だと嘆きつつも必死で働いたものだ。 どんなに罵倒されようが、どんなに苦しくても、ひたすら耐えた。 それが「社会人」だと信じていたから。 そして、完成していないものを「完成しました」と言っている自分を発見した。 もう、自尊心なんてどうでも良かった。 いま、死んだら、その後は確実に天国しかないとさえ思えた。 家に帰るためなら、どんな嘘でも言うようになった。 同僚たちも同じだった。 ある同僚は、突然音信不通になり、半年後に地方で発見された。貯金はなく、生活費は親に連絡して送金してもらっていたようだ。 別な同僚は内蔵を壊して入院した。ほどなくして会社を辞めた。 先輩は、メンタルを壊して、知らないうちに会社を辞めていた。 そう、今で言うブラック企業だ。 恐ろしいのは「それが普通だ」と思っていた自分だった。 時代は変わったが、人間の本質はそんなに変わっていないのかもしれない。 無理をさせることが人間の成長に必要だという風潮はまだ現存している。 ある一定レベルまでは、実際にはその通りなんだろう。 だが、人間も生物であり、健康と食料と睡眠と、一握りの幸せが無いと生命を維持できない。 最下層にいる人々にはマズローの欲求5段階説なんて糞食らえ!なのだ。 鉄は硬い。人も「鋼の肉体、鋼鉄の精神」を持てるかもしれない。 鉄は熱いうちに打て。それは条件付きで真実なのでしょう、、、限度を守った場合にだけ。 |
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