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救急車の音がし、俺は玄関を開けて手を振った。
救急隊を階段に案内し、いくつか質問されたと思う。
俺は喉がカラカラなことに気付き、水道水を飲んだ。
救急隊はAEDをしたりしてくれたが、変化は無さそうだった。
もう一度おふくろに電話してみると、やっと電話がつながった。
「おふくろ、今誰かといる?少し離れてもらっていい?落ち着いて聞いてくれるか?俺が帰ったらオヤジが倒れていた。」
俺が言うと、おふくろは悲鳴を上げた。
「悪いんだけど、すぐ帰ってきてもらえるかな」
おふくろはすでに取り乱している様子だった。
俺は妹が死んだ時、おふくろが一番苦しんだのを知っている。
俺は半分パニックになりながらも、半分落ち着きながら最悪な気分だった。
その後、救急車に乗って病院に行った。
病院につくとオヤジはそのまま救急治療室に入り、俺は親父の年齢や生年月日を聞かれたが、答えられなかった。
救急隊が俺のもとに来て、鍵を貸してくれといった。
鍵を閉めて、向かいのうちの人に預けておくと言われた。
どれくらいたったか、医師が俺のところに来た。
「やるだけやっていますが、時間がたってしまっているので厳しい。もう少し粘らせてください。」
そう説明して、また救急治療室に戻った。
俺はひとり、病院のソファーに座って待った。
首が寝違えたみたいに痛い事に気づいた。
しばらくすると叔父さんといとこが来た。
軽く状況を説明した気がする。
おふくろから電話があった。
「どういうことなの?」
取り乱すおふくろに、俺は言葉を濁し、病院に直接来てくれと言った。
おふくろは電車に乗るからと、電話を切った。
すぐにおふくろから「大丈夫なの!?」とメールが来たが、「わからない」と返した。
助かる見込みが低いことはわかっていた。
おふくろは病院につくと、すでに泣いていた。
俺はおふくろと座って、待った。
医師が出てきて、「残念ですが」というよく聞く言葉を言った。
オヤジと対面した時、おふくろは泣き崩れた。
俺は泣いていなかった。
オヤジは霊安室に移され、俺とおふくろと叔父さんといとこは待合室に通された。
警察が来て、状況を詳しく聞かれた。
ひと通り説明すると、家に帰って着替えを持ってくるよう言われた。
俺とおふくろは歩いて家に帰った。
警察は先回りして家の方に来ていた。
おふくろが警察と家に入ると、現場確認の作業が始まった。
俺はお向かいに鍵を受け取りに行かなければと思っていたが、警察の相手をしていた。
その最中にお向かいが鍵を持ってきてしまい、おふくろが受け取ったようだ。
警察は現場に案内するよう言ってきた。
俺が階段を登ると「足怪我してるの?」と聞かれたが、「いえ、生まれつきで両方悪いです」と答えた。
警察は現場の写真をとり、どういう状況だったのか再び聞いた。
使われたベルトは誰のベルトか聞かれ、よく見てみたが俺のベルトではなかった。
ベルトはオヤジが失禁していたせいで、濡れていた。
俺は「おふくろが上がってきてしまう前に、綺麗にしてしまっていいですか」と聞き、その段を拭いた。
警察はオヤジとおふくろの寝室も確認した。
クローゼットの大量のベルトを見つけると、気を使っているのか、綺麗に整理してますねと言っていた。
手すりに結び付けられたベルトも、早く外してもらうようお願いした。
次に妹の部屋に入った。
警察に「この部屋は?」と聞かれ、「7年前に死んだ妹の部屋です」と答えた。
警察は聞いて悪いけどと前置きした上で、妹の死因を聞かれた。
それから今日は妹の死と何か関係ある日か聞かれた。
「関係ないと思います」と答えた。
それから間取りを聞かれ、1階へ降りた。
居間にあったオヤジの手帳を確認していた。
土曜が、オヤジのイニシャルにBと書かれていて、それが何か聞かれた。
おふくろが「自分のイニシャルに、病院のBだと思います」と答えた。
オヤジは病院に行っていることを知られたくなかったんだなと、改めて思った。
俺にはもっと状況を教えて欲しかったと思った。
警察が帰り、おふくろとオヤジの着替えを出そうとした。
おふくろはベットに突っ伏して、「なんで」と泣いた。
着替えは何を持っていけばいいのかわからなかったが、シャツ、ネクタイ、ジェケット、スラックスを出した。
もう11時を回っていたと思うが、車で病院へ戻った。
病院の駐車場はすべて閉まっており、向かいの有料駐車場に入った。
待合室に戻ると、また1時間ほど待った。
オヤジの着替えが終わり、霊安室に移された。
オヤジはジャケットにネクタでキマっていた。
でもシャツのボタンが一番上までは閉められていなかった。
オヤジは死んだんだな、と思った。
オヤジは葬祭センターの方へ運んでもらうようにお願いした。
家に運んであげたい気持ちもあったが、近所におおっぴらにしたくなかったからそうした。
葬儀業者を見送り、俺とおふくろは車で家に帰った。
家につくと、オヤジと食うつもりだった牛丼を半分ほどおふくろと食った。
テーブルには、「気にすんな」とマーカーで書かれた新聞紙が置いてあった。
少しずつ飲んでた日本酒のパックが空になってた。
それから風呂に入って、3時頃に寝た。
おふくろの泣き声は聞こえなかった。
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