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 かつて航海カヌー「ペサウ」でヤップ島から小笠原父島までの航海に参加された、故・大内青琥画伯の残された、航海カヌーやヤップ島関係の資料・手記などが、国立民族学博物館に収蔵されたとのことです。もともと私がご遺族に提案して始まった話ですが、なかなか作業が進まないので気を揉んでおりましたけれども、これで一安心。ミクロネシアの航海カヌー文化復興運動勃興期の貴重極まりない資料が後世に伝えられるわけです。

 民博で「オセアニア大航海展」のディレクターをされている方から連絡がありました。「オセアニア大航海展」の展示のキャプションの日本語訳については時間不足で見切り発車してしまったけれども、問題の存在は民博としても当初から認識しておられたそうで、現在修正作業を行っておられるそうです。

 というわけですから、近い将来には妙な訳の部分もきちんと修正されることでしょう。まだまだ12月まで日にちはたっぷりあります。皆さんも是非、民博へ!!

 24日に民博で開催されたシンポジウムの内容を伝える毎日新聞の記事です。

http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/portal/osaka_event/news/20070928ddf014040041000c.html

 ここに書いてあるように、展観ではポリネシアのネズミのDNA分析やリモート・オセアニア各地の男女のDNA分析から、リモート・オセアニアの人類拡散のプロセスが従来より精密に解析出来てきたという話も解説されています。ビデオプログラムなので、少し時間をかけて見る必要がありますけど。

 南米の鶏のDNA分析の話は以前にこのウェブログでも紹介しましたが、最近になってポリネシア航海協会のウェブログでも紹介されてましたね。

 この記事の中にもあるように、ヘイエルダールさんは南米からの漂流実験でフレンチ・ポリネシアまで到達しました。漂流ね。つまりヘイエルダールさんは「意図的な航海ではなく漂流によって」「南米からポリネシアに」到着出来ることを示そうとした。

 ここ重要なとこなんですが、え〜〜〜〜〜〜っと・・・・・すいません、展観の訳文だとヘイエルダールさんは「航海」したことになっていたよぅ。原文はdraftedですから「漂流した」だし、この違いはポリネシア植民史研究の文脈では相当にデカイんっす。意図的な航海説を証明することも、ホクレアの最初の航海の目的の一つでしたから。

 民博版の図録の目次です。

・ごあいさつ
・地図

第1部「オセアニアの航海術」(合計14ページ)
・オセアニア航海術の伝統と現在(須藤健一)
・コラム:クラ交易(小林繁樹)
・ミクロネシアの伝統的航海術(秋道智弥)
・現代に生きる伝統、ホクレア号の航跡と未来(内田正洋)

第2部「海の人類大移動」(合計24ページ)
・大海原への植民:考古学から見たオセアニア文化(印東道子)
・オーストロネシア語族の広がり:言語学から見たオセアニア文化(菊池律子)
・植物の移動経路をたどる:植物学から見たオセアニア文化(ピーター・マシウス)
・コラム:パンダナス(印東道子)
・小さな島々の巨人たち:自然人類学から見たオセアニア文化(片山一道)

図版「オークランド博物館、国立民族学博物館資料から」(合計14ページ)

第3部「島々の暮らしと現代の移動」(合計46ページ)
・ミクロネシアの伝統的交易(印東道子)
・東南アジア、海洋民たちの国境交易(小野林太郎)
・オセアニアを出で行く人びとと出で来る人びと:現代の出稼ぎと観光(石森秀三)
・パプアニューギニアの「人喰い旅行」(豊田由貴夫)
・「楽園」と「未開」の狭間で:ヴァヌアツ共和国、アネイチュム島の観光(福井栄二郎)
・タヒチのタトゥー(桑原牧子)
・コラム:ポリネシアのタトゥー(桑原牧子)
・イースター島の光と影(槇原美紀)
・コラム:モアイ(槇原美紀)
・マダガスカルのハープ奏者(飯田卓)

参考文献(合計1ページ)

 ページ数を見ていただくと解りますが、航海術を取り上げた章がやたらと短いですし、逆に(印東さんの文章を除くと)リモート・オセアニアの航海カヌー文化と関係無い文章が並ぶ3部がやたらに長い。私だったらこういう編集はしませんねえ。失礼ですが小野さん以降の文章は全体の1/4か1/5で良いと思います。

 逆に私だったらまずミクロネシアの航海カヌー文化の現在を林和代さんに書いてもらいますし、ヤップの航海カヌーの話を拓海さんに頼みますね。それからモダン・ハワイアン・ウェイファインディングの歴史と概要を解説する章が絶対に欲しい。これは内野加奈子さんにお願いすれば良いでしょう。

 それから、今回は翻訳者に支払うコストをカットするためだと思いますけども、日本語話者以外の書き手が一人も居ない。これがこの奇妙な執筆者のバランスの理由ではないかと勘ぐってしまう私ですが(言い方は悪いですが、仲間内でオセアニアについて書いてもらえる人を無理矢理集めたような印象です)、展観であれだけタウマコの話が出ているんだから、タウマコについての文章は必須でしょう。ミミ姐にタウマコの航海術についての文章を頼んで私が翻訳すれば良いと思います。だって、展観のメインテーマは航海。航海なんですから。もっと航海について書くべきなんですよ。

 それと・・・・図版部分、つまり展示物の写真集や海上の航海カヌーの写真ですが、「解像度が低い!!!」。あんまし綺麗じゃないんすよ。もうね、あんまり文句ばかり言いたく無いんですけど、折角のカラー写真なのに粒子が気になるレベルの印刷なんです。週刊誌のグラビアくらいの解像度しか無い。例のTarzan別冊と見比べてみると、はっきり解ります。他にも手持ちの美術館や博物館の特別展カタログを幾つか出してきて見てみましたけど、露骨に違う。同じ国立の東京国立博物館で今年やった「マーオリ:楽園の神々」展の図録と較べてもやはり明確に安い印刷です。

 もちろんこの展観を呼んでくれた民博には本当に感謝しているんですが・・・・予算無かったんですかねえ・・・民博の皆さんも忸怩たる思いを持ちながらの展観であると信じます。

イメージ 1

 今回の展観に合わせて図録、のようなもの、が発売されています。もちろん私も資料として買って来ました。2000円弱の代物です。

 内容ですが、そうですねえ、註や参考文献の弱い新書みたいなものというのが一番正しいでしょうか。もちろん新書にも色々あって、ただのエッセイから本格的な学術書の体裁を持つものまで幅広いのですが、その中でも入門書とか学部学生用の概論の教科書レベルのものに近いと思います。

 書いておられるのは須藤健一さん、秋道智彌さん、石森秀三さんという70年代にサタワル島で長期のフィールド調査を行った文化人類学の大御所三人衆にオセアニア生活考古学で手堅い研究をしている印東道子さん、内田正洋さんもエッセイを寄せてましたね。他にもオセアニア各地をフィールドにしている日本人研究者の文章が色々と。註は無いです。参考文献というか読書案内みたいな簡単なものが巻末にありますが、典拠という形にはなっていないですね。

 さて、須藤さんはリモート・オセアニアの航海カヌー文化復興運動の概要紹介、秋道さんはサタワルの航法術のうちエタックの概要紹介という感じです。内田さんはホクレアのミクロネシア・日本航海の簡単な紹介。その他、私が読んだ事の無い方の文章も幾つかありましたけれども、全体に共通するのは、これまでに他の場所で発表した内容の流用に終始しているということ。教科書を作る時には比較的良くあるやり方なので、それはそれで問題無いですけどね(わざわざ20年前の論文まで全部コピーして読んでいるようなマニアは日本でも私くらいだと思うし)。

 殆どの読者にとっては、手頃な価格でリモート・オセアニアの文化の概要について簡易に知ることが出来る、なかなか便利な入門書になっていると思います。

 ただ、例によってマニア的な視点から言えば難点は色々ある。

 冒頭の須藤さんの文章はサタワルとハワイくらいしか言及していない上にマカリイを木造船とするなど基本的な間違いもあります(ハワイにある木造の遠洋航海カヌーはイオセパとハヴァイロア)。秋道さんの書かれている話も何十年も前にご自身が調査されてきたことと1970年に出た本の内容だけで、最新の研究動向や研究成果が全く参照されていない。ポゥについて書くならエリック・メッツガーさんの論文は目を通すべきだし、マニー・シカウさんの論文も言及して然るべきかと。こう言っては何ですが、お二人とも確かにかつてサタワル島についての素晴らしい研究をされた方ですけれども、既にこの分野からは離れられた方なんだなあ・・・・と感じましたね。

 それと、リモート・オセアニアの航海カヌー文化と全く関係無いテーマをやっている研究者が、リモート・オセアニアというだけで呼ばれて書いたような文章も3割くらい入っているんです。観光人類学とかね。確かに私は観光を重視していますし、このブログでも折に触れて観光を論じて来ましたよ。ですが、観光が航海カヌー文化とどのように関わっているのか、関わりうるのかという意識は常に持って書いてきました。ですが、残念ながらこの本においては航海カヌー文化とはほぼ無関係な、例えばパプアニューギニアのジャングルクルーズを取り上げたエッセイといった文章が、ポッと載っていたりする。

 そのエッセイそのものは興味深いですよ、確かにね。でももう少し「オセアニア大航海展」という場に相応しい体裁に仕上げることは出来たと思う。TPOというものがあるんだから。

 一言で言えばね、内田さん以外の書き手からは航海カヌー文化に対する愛が全く伝わって来ないんです。後藤明先生や国立科学博物館の海部さんが書いていればまた話は違ったんでしょうが・・・。本国でやった時に出た巨大な図録(ミュージアムショップに2冊ほど置いてありました)の力の入りかたと較べると、落差が大きすぎます。本国版図録は価格もサイズも日本版の4倍くらいありますけど、航海カヌー文化研究の専門家たち(ケリー・ハウ、ジェフリー・アーウィン、サム・ロウ、ベン・フィニーなど)が気合いの入った概説を書いているし、図版の充実度も比較するのがおこがましいくらいに違っています。何より愛がある。情熱がある。そこが一番違う。そもそも日本版は図録のはずなのに、展示品の写真はちょこっと載っているだけで説明もおざなりなんですよ。

 というわけで私の結論。日本版図録は現代のオセアニアの多様なトピックを手軽に概観出来るという点では、それなりの価値があります。ただ値段がそれでも2000円弱であることと、航海カヌー文化との関連性が薄い文章も多いこと、註や参考文献などのリファレンス機能が乏しいことを考えると、正直お薦めは出来ません。購入を考えられている方は、まず内容を精査した上で判断されるとよろしいかと思います。

 バリューフォーマネーという点では本国版図録の方が遙かに高いです。お金に余裕があったらむしろそちらをお薦めします。

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