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( 1 )
「さすがに寒いな」
黒田は信州の街道沿いの宿場街の視察に来ていた。
この宿場町は県から景観保存地区に指定されたところである。
彼は関西地方の景観保全に携わったことがあるので、この町の役場から
保存の仕方を考える委員のひとりに選ばれたのである。
こちらに着いたのが昼頃。
役場で担当者から簡単に概要を聞いて、現場であるこの宿場を見て廻って
いるのである。
古い宿場町では似たようなものなのだが、
傷んで傾いている家が少なくない。
何年もひとが住んでいないのであろう。
逆に壁をモルタル塗りにして今風の看板を掲げているところもある。
これも元の形態に改修しなくてはならない。
外観はそうするとして。
内部は今の生活がしやすいように改修して、誰かに住んでもらう、
地元の名産品の店舗として使えるならなおよい。
往時の間取りがよく残っているものは、一,二軒改修して公開することも
出来たらいい。
そうしているうちにまたたく陽が傾いて来た。
さて、この宿場に泊まれるところはあるのだろうか。
開いている雑貨屋で聞くと、一軒だけ民宿をしているという。
雑貨屋の店主が電話を入れて、今夜泊まれるように都合をつけてくれた。
その民宿『吉沢』という。
女将が「いらっしゃいませ、どうぞどうぞ」
「遅い時間に押しかけて済まんね」
「いえいえ、この宿場の保存の先生だとか」
「先生じゃない、町役場に頼まれただけのものです」
「まあ、お上がりください」
と、通された部屋は、
何の変哲もない八畳の和室。
テレビもない、床の間には若い女の絵が一枚掛かっている。
晩秋で、もう炬燵が出ている。
「身体が冷えた、何か熱いものは作れんかね、うどんか蕎麦か何か」
「では蕎麦を作って参ります」
「おお、助かる」
しばらくして女将は月見蕎麦と宿帳を持って来た。
「信州といえば蕎麦だな、たしかにうどんはないわな、ははは」
「そうですわね、ふふ」
関西と違って出汁の色が濃い、しかし啜ってみるとこれが美味い。
さすが本場である。
(2)
http://blogs.yahoo.co.jp/holahola_123/62876702.html
につづく
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