読書のあしあと

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書評40 小川洋子

『偶然の祝福』

(角川文庫、2004年)


久しぶりに取り上げる小説。『博士の愛した数式』以来小川洋子を読み直していたが、そのうちの一冊の短編集である。


【著者紹介】
おがわ・ようこ 1962年生まれ。小説家。
早稲田大学第一文学部文芸科卒業。兵庫県芦屋市在住。2006年1月、本屋大賞を受賞した『博士の愛した数式』が映画化され話題を呼ぶ。『薬指の標本』がフランスで映画化されるなど海外での評価も高い。阪神タイガースのファンとしても有名。
1988年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞、1991年「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞・本屋大賞、同年「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。他の著書に『密やかな結晶』(講談社文庫)、『薬指の標本』(新潮文庫)、『貴婦人Aの蘇生』(朝日新聞社)など多数。
本ブログで過去に取り上げた著書に書評35・『博士の愛した数式』がある。


【目次】
失踪者たちの王国
盗作
キリコさんの失敗
エーデルワイス
涙腺水晶結石症
時計工場
蘇生


【本書のあらすじ】
お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと──。伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。前ぶれもなく理由もなくきっぱりと──。リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人──失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。(角川文庫版紹介より)


お薦め度:★★☆☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
小説家でありシングルマザーである「私」とその息子、そして愛犬アポロを中心に、彼女らの周りを通り過ぎていく出来事や人物を描く連作短編集。

小川洋子の作品は確固としたコンセプトや明確なメッセージがあるわけではない。もっと断片的、感覚的な世界である。『博士の愛した数式』で小川洋子を初めて知った人には、本書は殊更にそう感じられることだろう。本書に収められたそれぞれの物語は文庫本にして30〜40ページだが、静かに始まってすうっと消えるように終わっていく。『博士』は比較的万人受けする作品だと思うが、本書のような作品が気に入れば、本物の小川洋子中毒なのだと思う。


<失われたもの──小川洋子的世界>
小川洋子の作品は、いつも幻想的である。川上弘美は小川洋子ワールドを「失われたものたちの世界」と呼ぶが(川上「解説」200項)、たしかに小川洋子の著作ではいつも何かが失われていく。『密やかな結晶』では記憶狩りが行われ、『博士の愛した数式』でも博士の記憶は80分経つと失われる。しかし、地に足がついていないわけではない。記憶が失われたり、モノや体の一部が消えていったり、人が失踪したりするが、それらが淡々と違和感もなく綴られるのである。

この短編集でも、伯母さんが失踪し、弟が死に、万年筆はなくなって、声を失う。しかし、どれも現実離れしていながら、突飛なストーリー展開に感じられないのがさすが小川洋子、といったところか。


<失われないもの、取り戻されるもの>
ところが、失われたものもあれば失われないものもある。解説を書く川上弘美は「失われないもの」を「キリコさんの失敗」という小品に見るが、本書を通読してみれば明らかなように、その欠片はどの作品にも少しずつ見え隠れする。「盗作」で弟の話をしてくれる女性、「涙腺水晶結石症」でアポロを治してくれる獣医、「蘇生」で言葉を取り戻すための干からびた二つの袋。さらに言えば、それは「失われないもの」として存在するのではなく、一回喪失したものを「取り戻してくれる」人(やモノ)たちである。

これが小川洋子ワールドにとって何を意味するのか、どういう位置を占めるのか、私は正直、まだ完全には理解しかねている。
何が失われ、何が失われず、何が取り戻されるのか。それは今後の小川洋子の作品で、さらに追求されていく主題であろう。私自身も、それを考えながら彼女の作品を読んでいきたい。


<おわりに>
何か「小川洋子論」みたいになってしまって作品自体にはあまり触れられなかったが、本書は小川洋子の雰囲気を知るにはいい一冊である。上述のように『博士』は比較的万人受けするので、それ以外に小川の本を読んでみたいという人には、読み易い連作短篇集である本書を試金石にしてみるといいかもしれない。

閉じる コメント(6)

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小川洋子は映画化されたときに「博士の愛した数式」を読んだっきりで,この短編集はまだ読んでいませんが,「失われたものたちの世界」っていうフレーズにちょっと惹かれるものがあります。

2006/9/25(月) 午前 0:24 NONAJUN 返信する

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NONAJUNさん、コメントありがとうございます。小川洋子の作品の中ではやはり『博士の愛した数式』がダントツで大衆受けする作品ですね。『博士』で小川を知った人がこの短編集などを読むと「よくわからない」と切り捨てられる可能性もあると思います。ハマる人はハマるのでしょうけれど。作風柄、やはり女性読者が多いようですね。

2006/9/25(月) 午前 1:02 大三元 返信する

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ご訪問ありがとうございます。私も一応『日本本楽家協会』の会員です。今度一度、小川洋子論を話し合ってみたいですね。私は、どうもはまりすぎで、これほど冷静な分析は出来ません。

2006/9/25(月) 午前 3:18 [ gak*1*66* ] 返信する

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gaki16666さん、コメント&お気に入り登録ありがとうございます。是非是非「小川洋子」論をやりましょう(笑)。本物の小川洋子フリークの方に、彼女の世界の魅力をじっくり聞いてみたいものです。

2006/9/25(月) 午前 8:05 大三元 返信する

装丁はほのぼのした感じでしたが、小川さんの温かさと冷たさを両方味わえる短編集でしたね。私からもトラバさせてくださいね。

2007/11/25(日) 午前 11:39 zo_no_mimi 返信する

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>ぞうの耳さん:トラバありがとうございました。そうですね、小川作品の中ではこれといった特徴がない方の作品かもしれませんが、それだけに小川洋子入門としてはいいと思います。

2007/11/25(日) 午後 10:14 大三元 返信する

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