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書評48 長谷部恭男

『憲法とは何か』

(岩波新書、2006年)


書評21・見田宗介『社会学入門──人間と社会の未来』と同じく、今年4月に新装した岩波新書の目玉として刊行された。長谷部はちくま新書の『憲法と平和を問いなおす』で有名になった憲法学者である。


【著者紹介】
はせべ・やすお (1956年─) 憲法学者。現在東京大学大学院法学政治学研究科教授。
1979年東京大学法学部卒。政治思想史、法哲学、経済学、社会学などを通じての幅広い学識を駆使して憲法学を全く新しい角度から構築しようとするその学風は、特に若手の憲法学者に大きな影響を与えている。
著書に『権力への懐疑――憲法学のメタ理論』(日本評論社、1991年)、『比較不能な価値の迷路――リベラル・デモクラシーの憲法理論』(東京大学出版会、2000年)、『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書、2004年)、『憲法〔第3版〕』(新世社、2004年)など多数。


【目次】
第1章 立憲主義の成立
第2章 冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利
第3章 立憲主義と民主主義
第4章 新しい権力分立?
第5章 憲法典の変化と憲法の変化
第6章 憲法改正の手続
終章 国境はなぜあるのか


【本書の内容】
憲法は何のためにあるのか。立憲主義とはどういう考えか。ときに憲法は人々の生活や生命をも左右する「危険」な存在になりうる。改憲論議が高まりつつある現在、その本質について冷静な考察をうながす「憲法再入門」。(岩波新書紹介より)


お薦め度:★★★☆☆

【本書の感想】

<全体の感想>
見田宗介『社会学入門』(書評21)と同じような感想を持った。つまり、入門書としてはいいけれど、統一性はないし、いかんせん内容が薄すぎないかと思うのだ。

上に述べたように著者は二年前に『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書)で一般にも名前を知られた憲法学者で、政治思想や法哲学、社会学などの成果を吸収しながら憲法の本質をわかりやすく説明する著述が魅力である。それは本書でもいかんなく発揮されており、その点は評価したい。
以下、立憲主義の考え方について述べた部分を紹介して思うところを記す。


<立憲主義の本質>
本書は雑誌などに寄稿した論文の寄せ集めであるため、『憲法とは何か』というタイトルに応えられる内容にはなっていないのが残念なところだが、逆に言うと「立憲主義」について様々な角度から考えることができる。特に憲法の真髄を述べている箇所は、昨今話題になる憲法改正論議を語る大前提になるべきものである。

長谷部の立場は一言で言えば英米系の穏健リベラリズムである。「近代立憲主義」と言い直してもよい。
長谷部によれば、「立憲主義」には広義と狭義二つの意味がある。広義には「人の支配」と対置されるところの「法の支配」であり、狭義には近代国家の権力を制約する思想あるいは仕組みを指す(68─69項)。
改憲論議がタブー視されてきた戦後日本においては、意外なほどこの立憲主義の概念が浸透していなかった。平和憲法が神聖視される中で「憲法とは何か」という問いさえもおざなりにされてきたのである。

「法律は国家から国民への命令であり、憲法は国民から国家への命令である」。これはつい数年前まで宮台真治や宮崎哲弥が口をすっぱくして啓蒙してきた憲法の基本原理だが、やっとこの原理をまともに展開する憲法学者が出てきたという感じだ。

昨今改憲論議が盛んであるが、国の歴史を憲法に書き込むだの、環境権を憲法に明記するだの、憲法の本質を踏まえない議論が多すぎる。これらの議論は、憲法を「一般法より少し偉い法律」としてしか捉えていないから出てくるのではないだろうか。
近代立憲主義の前提に立てば、憲法にその国独自の歴史や文化が反映されることはあっても書き込む必要はないし、環境権やプライヴァシー権などは「新しい権利」であっても憲法に明記する必要はないことになる。もちろん立憲主義を拒否するのも一つの立場だろうけど、それならそれでどういう政治思想的原理に拠って社会を構想し、その中に憲法をどう位置づけるのかを明らかにすべきだろう。


<おわりに>
『社会学入門』もそうだったが、本書も既発表論文の寄せ集めという感は否めない。岩波新書の新装に合わせるためにやむをえず手を加えられなかったのかもしれないが、新装版であればこそ、もう少し力を入れて欲しかった。入門書としてはそこそこの出来だと思うが、『憲法と平和を問いなおす』とどちらかを持っていれば十分かなとも思った。各章末尾に加えられた文献解題は門外漢には役に立つ。

ということで、長谷部のもう少し深い議論を読むために、いずれ『比較不能な価値の迷路──リベラル・デモクラシーの憲法理論』(東京大学出版会、2000年)を取り上げることになると思う。

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この手の本を全く読みもしない私が言うことは大変僭越ですが、現在の日本国憲法の成り立ちを考えれば、国民が憲法の本来のあり方を理解しにくいことは仕方のないことなのではないでしょうか。そういう意味では、改憲論が出てきたことで、皆に考える機会が生まれたことは悪いことではないのかもしれません。

2006/10/26(木) 午前 0:56 [ gak*1*66* ]

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>gakiさん:コメントありがとうございます。確かに、立憲主義を理解しにくいのには制定過程の問題もあるかもしれませんね。またおっしゃる通り、立憲主義が日の目を浴びるには改憲論議が起爆剤になった側面もあると思います。以前記事に書いた核保有論の話ではありませんが、議論しないよりした方がいい。そういう意味では、こういう著書が新書という体裁で出版されるのも有意義ですね。

2006/10/26(木) 午前 2:54 大三元


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