読書のあしあと

訳あってしばらく閉店します。

全体表示

[ リスト ]

ブログを休止中に読みためていた本を、今日から何回か二冊ずつ取り上げていきたい。
今日は哲学・思想系で二冊。


イメージ 1

書評84:菅野覚明『武士道の逆襲』(講談社現代新書、2004年)

お薦め度:★★★★☆
昨年の記事「My Best Books 2006 哲学・思想部門」で、第5位に挙げた本書。書評用に再読していて、書こうと思った日にパソコンが壊れた…という、何とも書評に縁のなかった本。しかし、昨年の記事でも述べたように、本書は近年の新書に稀に見る好著である。
本書の狙いを簡単にまとめると、「武士道」という概念を「明治武士道」のイメージ、さらには「儒教的士道」から解放する試み、となる。

はっきりいえば、今日流布している武士道論の大半は、明治武士道の断片や焼き直しである。それらは、武士の武士らしさを追究した本来の武士道とは異なり、国家や国民性(明治武士道では、しばしば「武士道」と「大和魂」が同一視される)を問うところの、近代思想の1つなのである。(講談社現代新書カバーより)

「公」のイメージが強い武士道だが、真の武士道は完全に「私」に拠って立つ観念だった、など目からウロコの叙述がたくさんある。
日本思想史に全く無知な私にとって、それはとても刺激的な問題設定であり、叙述方法も実証的かつ誠実で好感が持てた。それとともに記しておきたいのは、新書の割に内容が濃く、かつ新書の読み易さを失っていないところだ。

昨今の武士道ブームが、いかに誤った武士道のイメージ──それは当然新渡戸稲造らの「明治武士道」の延長線上にある──を描いているか。そして本来の、歴史上存在した武士道とはどのようなものか。そこから私たちが学べるものは何なのか。
「武士道」に興味のある人すべてに読んでもらいたい。



イメージ 2

書評85:多木浩二『天皇の肖像』(岩波現代文庫、2002年)

お薦め度:★★★☆☆
最近天皇の研究が盛んであるが、本書は直接の天皇研究ではない。明治維新後の近代国家体制確立に向けて、天皇をどう見せるか──権力の視覚化──という課題に明治政府はいかなる対処をしたのか、を明らかにする著作である。

「見えない」天皇を「見える」ものにしようと全国巡幸した時代から、やがて御神影の下付によるあらゆる空間の「不在支配」の時代へ。しかも御神影は当初上から「下付」されるものであったが、やがて下から希求されるものになっていき、「下付─希求」の関係をあらゆる社会階層で反復する手段となった。そしてそれは「下からの天皇制」という戦前日本の政治社会体制と密接に結びついていたとされる。

少々実証が雑で、最後の結論が家父長制的天皇制に結び付けられる点などは「お約束」な感じでおなかいっぱい、という感じもなきにしもあらず。しかし面白い記述も多い。こういう研究は今でこそ珍しくないが、そのはしりとなった一冊。

閉じる コメント(12)

顔アイコン

『武士道の逆襲』が気になりますね。メモしておくことにします。

2007/7/29(日) 午前 9:33 [ gak*1*66* ]

顔アイコン

>gakiさん:『武士道の逆襲』は実に面白い本でした。既成の武士道概念がいとも簡単に崩され、その後の実証も興奮すること間違いなしです。

2007/7/29(日) 午後 10:00 大三元

「武士道の逆襲」おもしろそうですね〜♪宮本武蔵の「五輪書」(漢字を忘れました〜><)を前に読んだことがあるのですが、明治の武士道と何が違うのかがきになります♪

2007/8/3(金) 午後 2:48 ビール大好きあつぴ

顔アイコン

新渡戸稲造の『武士道』を読まなくっちゃあ、と十数年前に買ってお蔵入り。「武士道の逆襲」、新渡戸稲造のものと一緒に読んでみたくなりました。

2007/8/3(金) 午後 10:55 miffy_toe

顔アイコン

>あつぴさん:かなり骨のある本で読み通すのに苦労するかもしれませんが、その分面白い本でした。時間のある時に読んでみて下さい〜!

2007/8/4(土) 午前 1:16 大三元

顔アイコン

>すてさん:『武士道の逆襲』の狙いは、武士道を新渡戸稲造の呪縛から解放することにあります。
が、かと言って新渡戸の武士道論が日本文化を欧米諸国に紹介する役割を担い、近代日本の躍進に貢献したことは歴史的な事実であり、大きな功績として評価せねばなりません。
そのあたりのねじれ具合も歴史の妙として面白いですね。

2007/8/4(土) 午前 1:20 大三元

顔アイコン

天皇の肖像は、学生時代に『思想』に掲載されたのを面白がって読みました。 絵を写真に撮った・・・それども写真から絵を描いたんでしたっけ・・・ という二つのメディアをミックスしたのが、ずっと不思議でした。 このあいだ、イギリスの画家のホックニーが、ある絵の遠近法を調べようと思ったときに、その画集をコピーして調べてみたって書いていて、ん?これかも・・・ と思いましたね。

2007/8/6(月) 午前 8:06 [ - ]

顔アイコン

>akihitoさん:そうですね、『天皇の肖像』はもともと『思想』に掲載されたものでした。「御神影」の場合、写真を撮ってからそれを絵に写していますね。現実をそのまま絵にするよりも写真から絵にする方が簡単なんでしょうか?

2007/8/7(火) 午前 7:42 大三元

顔アイコン

たまたま、いま書評している本が、戦後の日本の科学者たちの行動モデルは武士道だったという主張でした。 書評のポイントは、『武士道の逆襲』いただきです〜 サンクスでした〜〜

2007/8/23(木) 午前 8:50 [ - ]

顔アイコン

>akihitoさん:そうなんですか?早速伺います!

2007/8/25(土) 午前 0:45 大三元

顔アイコン

あ、ごめんなさい。 書評というのは、イギリスのある学術誌のために書いているもので、ブログの記事ではありません。 その英語の本は、記事にしました。 『武士道の逆襲』、いい本でしたね。 教えられなければ決して読まない本でした。 これも記事にさせていただきます。

2007/8/26(日) 午後 5:36 [ - ]

顔アイコン

>akihitoさん:そうだったんですか。勘違いしてしまってすみません。akihitoさんのご専門とはかけ離れた内容ですが、気に入っていただいてとても嬉しいです。今後ともここの記事が何かの参考になればと思います。

2007/8/26(日) 午後 6:57 大三元


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事