読書のあしあと

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連結書評第三弾は、エッセイ部門。久しぶりに登場の小川洋子と、電池切れさんに紹介していただいたブリューゲルをめぐるエッセイである。


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書評88:小川洋子『深き心の底より』(PHP文庫、2006年)

お薦め度:★★★☆☆
好きな作家のエッセイを読む楽しみは色々あると思うが、中でも私が楽しみにしているのは作家自身のストレートな言葉である。作品を通すよりも直接的にその考え方を表明している文章に出会ったり、大好きな作品を作者自身が批評していたりするのである。

方々に書き散らした5〜10ページのエッセイを寄せ集めた本書も、その例に漏れない。平易な言葉で淡々と綴られる文章はいつもの小川洋子のものだが、小説よりも直接的にその感性に触れることができるのが本書の魅力だろう。中でも最も小川洋子らしい感性が表れていると思う「人間の哀しさ」、家族の本質を鋭くも静かに綴った「子育てとは偉大なる矛盾である」などは非常に魅力的なエッセイだ。

興味のあるところだけでも拾い読みしてもいいと思うが、特に小川洋子ファンの方にはお薦めしたい。



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書評89:中野孝次『ブリューゲルへの旅』(文春文庫、2004年)

お薦め度:★★☆☆☆
先日書いたブリューゲルについての記事で、ブリューゲルについて書いてある本としてNONAJUNさんから野間宏『暗い絵』を、ちいらばさんから安野光雅『絵のある人生』を、電池切れさんから本書を紹介していただいた。『暗い絵』と『絵のある人生』は残念ながら手に入らなかったが、本書は書店で見つかったので早速読んでみた。

が、しかし、少々肩透かしをくらったような内容だった。Amazonのレヴューには「ブリューゲルは話のダシ」だと書いてあるが全くその通り。本書はブリューゲルの作品について論じるのではなく、それを媒介にした著者の西洋体験、葛藤の記録だからである。ブリューゲル自体について論じている部分も「面白い!」というほどでもなかった。
もともと著者のファンなら面白く読めたのかもしれないが、ブリューゲル目当てで買った私にとっては、陰鬱な文体に馴染むことができず、あまり楽しい読書にはならなかった。改めて、読書には需給バランスも重要なのだと痛感した本であった。

ただ、収穫が全くなかったわけでもない。ブリューゲルの絵の魅力の一端をわりと的確に表現している箇所もある。

画家はほとんどこう言っているように見える、絵画芸術は現実のあるがままの人間の生を正しく描きさえすればいいのだ、絵の価値を決めるのはそこに描かれたものの真実性だ、それは描かれたものが決めるだろう、愚かな者も、醜い者も、ずるい者も、狂った女も、存在はすべてあるがままに全肯定されているではないか。……事実ブリューゲルは、いわゆる美のための美を追求する絵など一枚も描かなかった。(65─66項)

ブリューゲルがいかに近代的精神を先取りしていたか、そして彼がどんなに力強い民衆の生を捉えたか、私たちはその絵に見ることができる。

閉じる コメント(5)

確かにエッセイは、作品よりも「作家自身のストレートな言葉」や、「考え方」を知ることができますねぇ。

2007/8/13(月) 午後 5:56 Mine 返信する

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>Mineさん:小説もいいですけれど、エッセイなどでその人の考え方を知ると、もっと小説を深く味わえることがありますよね。私はたまにしかエッセイは読みませんが、小説や学術書の合間に休憩がてら読むと結構面白かったりします。

2007/8/14(火) 午後 11:57 大三元 返信する

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この記事を読んで、文庫本で読み返しているところです。おっしゃるとおりで、著者の精神世界の描出になっていますね。当時の現代詩の主流であった「荒地」派の作品のように、明るさをあえて拒否するような文章ですね。それは当時の時代精神がある程度影響しているのではないかと個人的には思います。「暗い絵」は、一度読んでみたいです。

2007/8/15(水) 午前 6:57 [ アズライト ] 返信する

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>電池切れさん:お薦めいただいたのに、酷評になってしまって申し訳ありません…。おそらく、著者の文体に慣れているかどうかという問題だと思います。中野孝次は1925年生まれですが、私は1923年生まれの遠藤周作の文章が大好きですし、この世代(戦中に青春を送った世代)に特有の暗さというのも理解できます。ただ、ブリューゲル目当てで読んだ私としてはいまいち…というところでした。他の中野作品を読んでからまた読み返したいですね。

2007/8/15(水) 午後 10:40 大三元 返信する

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>内緒さん:古い記事にコメントありがとうございます。古い記事にもらうコメントはほんとに嬉しいですね。
小川洋子は最近遠ざかってるので、そろそろ読もうかな?
中野孝次のこの本は、ブリューゲルについて読みたい人間が手に取るべき本ではありませんでしたね。中野孝次の文章を楽しもう、という気持ちで読めば少しは違ったかもしれません。

2008/10/2(木) 午後 11:40 大三元 返信する

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