読書のあしあと

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不平等条約を追体験する──現代の「万国公法」と「文明世界」


最近読書も停滞気味なので、一つ最近感じたことを。

現在の私の職場は、非常にグローバルな仕事をしています。取引先は欧米はもちろん、中韓など東アジア、インド・パキスタン・バングラデシュなど南アジア、サウジアラビアやエジプト、さらには南アフリカやケニア、はたまたアルゼンチンやメキシコに及びます。文字通り地球中が顧客です。

発展途上国相手の仕事で一番驚いたのは、その国で優秀な企業と言われる会社でも、世界の一般的なビジネスルールやマナーを守るとは限らないということです。
打ち合わせの日をすっぽかされて放置なんぞ優しい方で、何かといちゃもんをつけてきて契約通りの金額を払わない、なんてことも日常茶飯事。そんなことにいちいち文句をつけていたら手間も時間もかかってたまらないので、大目に見ることも多いのです。ところが、現地であちらの社員が交通事故を起こし、こちらの社員が怪我をしたが知らんぷりという事件があった時は、さすがに問題になりました。


そんな仕事に携わる中で思い起こされるのが、近代日本が苦闘した「不平等条約」の問題です。

日本政治思想史の坂本多加雄に、昨年書評した「『万国公法』と『文明世界』」という名論文があります。
これは19〜20世紀世界において「文明」がどのようなものだと観念され、それに対し日本がどのように対応したかを跡付けた、国際政治思想史の記念碑的論文です。詳細は書評に譲りますが、その前半では日本の思想家や政治家が欧米の「文明」観念の中核にある「万国公法」に注目し、それを身につけることによって日本が「野蛮」ではなく「文明」の一員であると認めてもらおうとした努力が描かれています。

日本が開国当初「野蛮」まではいかなくとも「半文明」と位置づけられていたことは、不平等条約を押し付けられたことに表れていました。それが不当な評価かというとそうでもありません。事実外国人を「天誅」の名の下に殺傷した生麦事件は、外から見れば「野蛮」と見えても仕方のないものだったでしょう。
法もルールもわからず、外国人を見れば斬りかかる半文明人には自国民を裁かせるわけにはいかない、という論理から生まれたのが領事裁判権です。それは「文明」を自称する帝国主義国の側から途上国を裁く不公平なものだったかもしれません。それを植民地化のステップにしていたことも事実です。しかし、欧米の一般経済人の感覚とすれば「歩くだけで殺される」危険な国で安全を確保する手段だったのでしょう。


今の仕事をしていて、私は逆の立場からこの歴史を追体験しているのかもしれない、と思いました。
もちろん世界中の人々がそれぞれの価値観で仕事をしているのはいいことです。ただ、こちらの社員を怪我させておいて知らんぷりというのはあまりにもひどい。私たちが悩んでいる類の悩みは、かつて不平等条約を主張した欧米人にも共通するところがあったのではないでしょうか。

「文明」は欧米社会だけが担うものではありません。それぞれの文化から共通のマナーとなるものを現場で発見し、定式化していくような地道な作業が現代の「文明」に寄与する一助かと思います。

閉じる コメント(8)

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これは本当にありますね。まあ、私の場合はほとんど中国だけですが、会社のネームとその行動が一致しないケースはままありますね。怪我をさせておいて謝らないのは、日本人にとっては論外な話ですが、自分の非は決して認めない国は、結構多いのではないですかね。それが国際ルールあるいはマナーといわれると、どうかと思いますし、ネットの世界では共通のルール(単なる無秩序とも言いますが)が支配しているだけですから、リアルの世界では多少のローカルルールがあってもいいのではないでしょうか。

2007/11/4(日) 午前 9:27 [ gak*1*66* ]

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考えさせられる記事でした。当時の日本の屈辱感たるは〜、なんて歴史の授業で何度も何度も教わるところですが、視点を変えるとなるほどなあです。ところで、大三元さん、とってもグローバルなお仕事をしていらっしゃるのですね。

2007/11/4(日) 午後 1:55 miffy_toe

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>gakiさん:gakiさんのお仕事上でも経験がおありですか。最近はかなり中国もよくなってきましたが、まだまだ内陸の方に行けば闇の中ですね。しかしこれは伝統的習慣や価値観の問題も入ってくることだけに、難しいです。それが会社や社会の責任になるだけに、プレッシャーは重いですね。

2007/11/6(火) 午後 11:18 大三元

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>すてさん:仕事をしていると、こうやって自分の専門と仕事をつなげて考える機会が少ないものですから、思いもかけずつながった時には色々と考えてしまいますね。目下の問題意識は、近代日本と同じく「文明世界」にキャッチアップしようとする現代の途上国が、どうすればそれに成功するかです。
ところで、仕事とは裏腹に私自身は全くグローバルな人間ではありません(笑)。

2007/11/6(火) 午後 11:26 大三元

こころに響く記事を読まさせて頂きました!
ありがとうございます。

2010/3/3(水) 午前 9:59 凛さ

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>しぐれさん:ポチありがとうございました!

2010/3/4(木) 午前 6:51 大三元

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"1931.9.18"_当時、近衛陛下ノ大政翼賛体制デ日本軍ハ"空砲ヲ撃ッテ喧嘩ヲ仕掛ケタ"、柳条湖事件(関東軍ノ謀略ト言ワレテイマス、、、)__「戦争責任」ニ依リ
「竹島譲渡」、「尖閣ハ "中国内日本県"ノ外交カードニ 「バルチツク艦隊ノ件モ 有ル事ダシ、北方領土ハ 二島返還デ合意スベキデショウ(海洋資源ノ独占ハ止メルベキデショウ、一巻 1,200\モ スル鮨ヲ食ベナケレバ行ケナイ?) 「直接民主制ノ世界同時共産化条約」、「mycomprogのブログ」を宜シク

2013/5/15(水) 午後 10:48 [ mycomprog ]

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>mycomprogさん:ご訪問ありがとうございました。

2013/5/16(木) 午後 10:33 大三元


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